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鍵屋の憂鬱  作者: 坂門
召喚の間

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勇者の間

 紫色の空が夜明けを告げる。モンスターの討伐を無難にこなし、一同は帰路に着く。城からそう離れていない森の脅威は取り払われた。馬車の軌道は城へと向かい、口数少ない勇者達を運んで行く。


「疲れたな」


 誰に言うでもなくジョンが呟く。心の中はアーウィンの所在ばかりが気になっていた。

 こんなものは茶番でしかない、本番はこれからだ。


「そうね」


 特に考えもせず、キリエは相槌を打つ。考えている事は同じだった。

 

 ガラガラと鳴る車輪の音が止まると、騒がしい城内の喧騒が届いてくる。その喧騒にジョン、キリエ、ミヒャ、コウタは安堵が表情に出ないよう、厳しい顔を繕った。


「何を騒いでいる?」


 ジョンがバタバタと駆けまわる衛兵を捕まえた。衛兵は一瞬怪訝な顔を見せたが、ジョンの顔を確認すると直立不動で答える。


「捕らえていた、重要参考人が脱獄しました。只今、総力を挙げて跡を追っている所であります」

「何だと。何としても捕まえろ」

「はい!」


 衛兵が再び捜索へと戻って行った。


「何としても捕まえろだって⋯⋯」


 コウタが笑いを噛み殺しながら呟いた。キリエも笑いを噛み殺しながらコウタを睨む。


「止めなさい」

「キリエだって笑っているじゃん」

「おふざけはそこまでだ。行くぞ」


 ジョンの声にユウとリアーナが待つ勇者の間へと足を向ける。『ひと芝居うつぞ』と言葉にせずとも皆が同じ気持ちだった。モンスター狩りなどただの余興だ、これから対峙するやつらの方がどれだけ難しいか。些細な穴も見せられない。ジョンは大きく深呼吸して気合を入れ直した。


「帰って早々慌ただしいな」


 豪奢な勇者の間に入るなりジョンが声を掛ける。ゆっくりと座っていたユウが顔を上げ、嘆息して見せた。


「全くね。結局彼から何も引き出せない内に今回の失態だ。逃げ出したという事はやはり事件に関わっていたという事で間違いないのかな。しかし、城に忍び込んで何をしようとしていたのかさっぱり分からない? わざわざ危ない橋を渡るタイプには見えなかったのだけど」

「ユウの言う通りだ。自分からわざわざ捕まりに来たようなものだ、解せない」


 ジョンは適当に話を合わせる。捕まえた場所に言及しないのだな、あそこが何か知っているとか? いや、それはないか。

 軽いノックの音と共に、衛兵が顔を覗かせる。


「連れてきました」

「入ってくれ」


 ユウの号令に、衛兵に連れられたふたりの男が入って来た。俯きながら肩を落とす二人組、彼らが逃がしてしまったのか。


「君達が、昨夜の番をしていたのだね。彼を最後に見たのは?」

「は、はい。昨夜遅く、ベッドで寝ていました」

「おかしな点は?」

「いや、全く。静かに横たわっておりました」

「鍵は開けていないのか?」

「私どもは鍵に触っておりません。ですので、確認したかと言われると⋯⋯」

「開いていた可能性もあると」

「そこは何とも」


 ユウはその答えを聞き、逡巡の素振りを見せた。鍵を調べなかったのは怠慢か? いや、最初に閉めたのを確認していれば、確認しなくとも開いていた可能性は低い。では、彼はどうやって鍵を開けた。

 ジョン達は黙って、そのやり取りを見守った。下手な事を言って勘ぐられても困る。ジョンは目を閉じやり取りに聞き入った。


「なぜ、彼が出て行くのに気がつかなかった? 出入口は一か所だ、見張るのは難しくない」

「はい⋯⋯、あ⋯⋯、その⋯⋯」

「どうした?」


 言い淀む衛兵は、リアーナを見た。リアーナはわざとらしく視線を逸らす。その姿にユウは溜め息をつきながら肩を落とした。


「リアーナか? いいから、言ってみなさい」

「あ、はい。リアーナさんが、外せとおっしゃったので、私どもはその場をあとにしました。しばらくするとモンスターが湧いたと大騒ぎになり、私どももそちらへと狩り出されました」

「なるほど。それでリアーナ、君はあそこで何をしていた?」


 ユウの矛先がリアーナに向けられる。リアーナは苦い顔を見せユウから視線を外した。


「何って、ちょっとお話しをしに行っただけよ。いけない?」

「はぁ、君は全く⋯⋯。それで、鍵は開けたのかい?」

「開けたわよ。ちょっと生意気な態度見せたから、分からせてやろうかと思ってね」


 ミヒャの奥歯がギリっと鳴った。今にも飛び掛かりそうな鋭い目つきでリアーナを睨んだ。隣に座るキリエがその姿に気が付くと、テーブルの下、ミヒャの膝にそっと手を置き軽く笑みを見せる。その姿にミヒャは嘆息すると肩の力を抜いて見せた。


「それで、鍵は閉めたのかい?」

「あれれ? どうだったっけ? いい所で衛兵が飛び込んで来たのよ。そのまま呼び出されて⋯⋯閉めてないかも! でもでも、衛兵のやつが最後閉めなくちゃいけないでしょう。この場合」

「リアーナ⋯⋯この場合はそんな夜更けに重要参考人に会いに行くのが、どうかしているのだよ」


 ユウは盛大な溜め息と共に首を左右に何度も振った。爆弾女のお目付け役も大変な事で。ジョンは少しばかりの同情と、リアーナの突飛な行動に救われたと感じる。大方の空気はリアーナのやらかしで片付きそうだ。ジョンは黙って行方を見守る。

 静かに見守っていたコウタが、大きな溜め息と共に口を開いた。


「とりあえず、僕はもう行くよ。この件から下りているし、そもそもはリアーナの軽率な行動でしょう。付き合いきれないよ」

「何よ、その言い草。随分とトゲがあるわね」

「そういうのは分かるんだ。なら、もっと賢くやりなよ。バカっぽいよ」

「何それ? ⋯⋯やる気? いいわよ、別に。バカ呼ばわりされて黙っているほど、いい子じゃないよ」

「そういう所を言っているんだよ」

「止めるんだ、ふたりとも!」


 ユウが、渋い顔で仲裁に入る。コウタは涼しい顔で肩をすくめて見せたが、リアーナは怒りが収まらず険しい表情でコウタを睨みつけていた。


「コウタも言い過ぎだ」

「そう? みんなの代弁したつもりだったけど」


 ニッコリと言い放ち席を立つ。コウタはそのまま部屋をあとにした。緊迫した空気が漂う、事情知らない衛兵や、ユウ達のパーティーが一瞬ざわめく。勇者同士の仲違い。今までなかった光景が目の前で繰り広げられた。

 もう、修復は不可能だ。まぁ、する気もないがね。ジョンは変わらず黙って行方を見守った。

 ユウがふと首を傾げ逡巡の素振りを見せた。何かが引っ掛かったのかジッと考えている。


「ユウ、どうした? 何か気になるのか?」

「ジョン、リアーナに声を掛けた衛兵って誰だ?」


 やはり来たか。

 相変わらず、細かい所に目が行く。相手に回すとその観察眼は厄介でしかないな。

 どうする?


「⋯⋯そもそも、彼を捕まえた場所ってどこだ?」


 ミヒャが目先を変えようとユウに問いかける。ユウは再び、思考を巡らすがしばらくも経たず首を横に振った。


「言われてみれば、聞いた事のない場所だ。何の為の地下室なのだろう?」

「⋯⋯ユウでも知らないのか。勇者にすら言わぬ何か⋯⋯ちょっと調べてみるか? もしかしたら潜入した理由と関係があるかも知れないぞ」

「確かに。頼めるか」

「⋯⋯分かった」


 やるなぁ。これでミヒャは堂々とあそこに出入り出来る。少なくとも鍵をいじらない間は、開かずの間と化す。その確認を、大手を振って出来るのはデカイ。それと、王族の出方も分かるはずだ。【召喚の間】に勇者が絡むのをどう捌くのか、拒むのか受け入れるのか⋯⋯。

 調べた結果をユウに伝えどう反応するかで、ユウへの対応が決まる。こんな試す事をしたくはないが、何かが引っ掛かるのもまた事実だ。


「彼はどうやってここから出たのかな? 素人の為せる業とは思えないほど見事にやられた。どう思う、ジョン?」


 ユウの突然の問い掛けに一瞬詰まる。どうと言われても、玄人が噛んでいるなんて簡単には言えない。腕を組んで考え込むフリをした。


「正直、分からん。モンスターの襲来で城は混乱していて、鍵も開いたままだったのかも知れない、これだけ条件が揃ったら素人でも逃げおおせるのかもしれんしな」

「そうなのかな⋯⋯」


 腑に落ちない答えにユウはまた静かに逡巡する。

 ジョンはその姿から視線を逸らした。呼びに来た衛兵が、ここに存在しない事に気が付くのは時間の問題だ。だが、それがカタだとは思うまい。そこまで辿り着く可能性は低い。大丈夫だ。まだしばらくは混乱していてくれよ。


「やはり手引きした人間がいるのではないか? それが一番しっくりくる。怪しいのは見つからないリアーナを呼びに来たという衛兵。彼の仲間⋯⋯カルガとかいう男が衛兵に化けたのではないだろうか」

「なるほどね。それだと筋を通る。さらに混乱が彼らに味方した。そんな感じか?」


 少し近づいたな、この辺が落としどころだ。納得してくれよ。


「どうやってなんて、どうでもいいわ。また、捕まえて今度こそ全部吐かせてやる。二、三人借りるわよ。探しに行って来る」

「リアーナ、どこを探すんだ?」

「そんなもの適当よ。行くわよ」


 パーティーに声を掛け、リアーナは出て行った。ユウは再び盛大な溜め息をつき、天を仰ぐ。

 あれには同情する。あんなやつのお守りは本当に勘弁だ。


「ユウ、オレ達も行く。何か分かったら連絡する」

「宜しく頼む」


 乗り切ったな。【召喚の間】を潰すまではアーウィンとの繋がりは絶対にバレてはいけない。ユウ達に対する対応は慎重に慎重を重ねないと。

 勇者の間の扉を後ろでに閉まるのを確認し、ジョンは大きく息を吐き出す。自分が思っていた以上に緊張を強いられたようで思わず苦笑いしてしまった。


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