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鍵屋の憂鬱  作者: 坂門
不穏の種、不協の種

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21/95

始まる真実

 王都を出てそう遠くない所。みんなを乗せた馬車は森の中へと逸れて進んでいった。奥にひっそりと佇む大きなログハウスが見えて来る。勇者の隠れ家と聞いていたが、少年のような勇者は初めてなのか、物珍しそうに眺めていた。僕は言われるがまま、ここまで運ばれる。僕の隣にはしっかりと縛られているカルガ。僕はカルガから視線を外し、外へと向ける。先ほど打ち付けた背中がギシギシと痛んだ。


「随分立派ですね」


 僕が上げた感嘆の声に、ジョンはまんざらでもない顔をして見せた。

 全て木で作った家。誰かが見つけたとしても、勇者の家とはきっと思わない。狩人か木こりの家だと思うだろう。

 勇者の隠れ家と考えればかなり質素だが、ログハウスと見ればかなり立派だ。


「お帰りなさい」


 扉が開くと、眼鏡を掛けた可愛らしい女性が出迎えてくれた。ミヒャの姿を見ると盛大に顔をしかめた。中から木の香りが立ち込めて清々しい。暖炉のある広い居間がすぐにあり、いくつかの部屋の扉が見える。パーティーのメンバーとおぼしき獣人とヒューマンが忙しそうに行き来していた。テーブルも椅子も全て木で作られ、勇者の豪奢なイメージとは程遠い作りに僕は少し安心する。


「ミヒャ、早くこっちいらっしゃい。あなたも怪我しているのね。あなたはあちらね」

「あ、はい」


 僕は言われた扉を開くと、微笑む青髪のエルフがベッドを指差した。


「リックルだ。宜しく。名前は?」

「アーウィンです⋯⋯」

「どこが痛む?」

「背中が」

「じゃ、うつ伏せにここに寝て」


 部屋の真ん中にベッドが鎮座し、身動きを取るのがやっとな程狭い部屋。考える間もなく、あれよ、あれよとベッドでうつ伏せになっていた。


「【癒光(レフェクト)】」


 リックルの(うた)で、僕の背中に心地良い熱を感じる。痛みがスッと取れていった。あまりの気持ち良さにほっこりとしていたが、すぐに我に返る。


「リックルさん、もしかして治療師(ヒーラー)さんですか?! 僕、お金持っていないのですけど!」


 治療師(ヒーラー)に治療を頼むと、一週間の稼ぎが飛ぶと言われている。確かにこれは一週間分の価値を感じる程心地良く、しかも即効性の高い治療。お金があったらいつも受けたいと思えた。


「アハハハ、君はここまで来ておいて変な事を気にするね。大丈夫。今日はサービスだよ。ほら、終わった」

「あ、ありがとうございます」


 僕は頭を下げて、部屋を後にした。居間に戻ると、ジョンと少年のような勇者、そして小さな眼鏡の女性が木で出来た大きなテーブルで、お茶を飲んでいた。


「あの、すいません。ありがとうございました」


 僕は頭を深々と下げる。三人はニコニコとその様子を眺めていた。


「痛みは取れたかい?」

「はい、おかげ様ですっかり」

「そいつは良かった。仲間を紹介しよう。こちらの小さいのがキリエ、こっちの眼鏡じゃないのがコウタだ」

「もう少し、ちゃんと紹介して下さい。初めまして、キリエ・ルジンスカです」

「初めまして、アーウィン・ブルックスです」

「眼鏡じゃない方、コウタ・ミハラです」

「宜しくお願いします」


 パレードで見かけている勇者とは、だいぶ雰囲気が違う。いい意味でとても普通だ。先ほどの戦いの動きを見れば勇者である事は一目瞭然だが、ここでお茶をすする姿は普段接している人達と何ら変わらないと感じた。


「あ、すいません」


 お茶が置かれたので頭を下げると、ジョンは苦笑を漏らした。僕は何か変だったのか考える。特段おかしな事はしていないよね。


「なんか、変でしたか?」

「あ、いやいや。あんたと接してみて思うのは、あんな大胆な事をする人間には全く見えないんだよな。お、ミヒャも戻ってきた。それじゃ、アーウィン。あんたの話を聞かせてくれ。これは尋問じゃない、ここにいる者にあんたを捕まえる気のある奴はいない。ただ、知りたいんだ」


 治療を終えたミヒャも空いている席へと腰を下ろした。

 僕はひと口お茶を含み、子供の時まで巻き戻し話し始める。助けて貰った恩もあるし、捕まえる気がないというのは本当だと思えた。信頼に値する人達だと自分の判断を信じる。昔おじいによく言われた、言葉より行動を見ろ。その人が何を言ったかではなく、何をしたかを見なさい。と、事あるごとに言われたのをふいに思い出した。

 彼らは、口を挟む事もなく僕の話を聞き入っている。その真剣な眼差しに、僕の話の熱量は上がっていった。


「⋯⋯最後はマリアンヌ自身に選択をまかせて、僕達はジョゼフを家に送り、家に帰りました。ジョゼフが皆さんに話したのですか?」

「いや。彼は話さなかったよ」

「そうですか。男同士の約束を守ったのですね。さすが男の子」


 僕はジョゼフの頑張りを想像して、笑みを漏らした。


「アーウィンの話を聞く限り、カルガって男の情報網というか情報収集能力が凄いな」

「⋯⋯武器の扱いにも慣れている。素人では無い」

「話を聞きたいけど、話してくれるかな? 勇者への反発が凄いからな」


 ジョンは天を仰ぐ。

 短い時間だがカルガと接して感じたのは、ぶっきらぼうで言葉足らずな所はあるが、ジョゼフや子供達に見せたあの温和な表情は本物だった。性根の部分では優しい人間だと思うのだが、ジョンの言う通り勇者というだけで食って掛かる姿勢。何かが、スッキリしない。


「アーウィン、考え込んでどうしたの?」


 コウタが頬杖をつきながら、逡巡していた僕に声を掛けて来た。


「あ、その⋯⋯なんでカルガは皆さんに剣を向けたのかと。理不尽に怒りを向けるタイプとは思えないので⋯⋯といって、これといった理由も見つからないですが⋯⋯」


 僕の言葉は尻切れになってしまう。そう、矛先を向ける理由が見えない。


「起きました!」


 狼人(ウエアウルフ)の男が、テーブルに声を掛けた。


「アッカ、連れて来てくれ」


 ジョンが声を掛けると、縛られたままのカルガが扉から現れた。逃げ出せないと諦めているのか、不機嫌な表情を浮かべてはいるが素直に席に着く。カルガはテーブルに着いている勇者を見渡し、床に唾を吐いた。


「カルガ⋯⋯」


 僕はその反抗しか見せない態度に辟易しつつ、声を掛けた。


「アーウィン。てめえはそっち側か」

「そっちとかではないよ。この人達は少なくとも悪い人達ではない。僕達を捕まえるどころか、匿ってくれているんだよ」

「はっ! 知るか。勇者なんざぁ、この世から消えちまえばいい。どうせ、捕まれば終わりだ。さっさと殺せ」

「カルガ!」


 勇者達は、僕達のやり取りに苦笑いを零すだけだった。

 ジョンが、頭を掻きながら口を開く。


「ここにいる人間は、おたくら二人をリスペクトしている。アサトにしても、マリアンヌにしても、胸糞悪い話が掘れば掘るほど出てくる。その流れを止めたふたりだ、捕まえる気なんて全く無い。ただ、全容を教えて欲しい。どうやって情報を集めた? そもそもあんた素人じゃないよな? 何者だ?」

「言うか。バカか」


 カルガは口元に薄い笑みを見せる。


「⋯⋯言えない。何者か言えないって事は一般人では無いって事だな。あなたの口から教えて欲しい。私達の知らない真実を」


 ミヒャはカルガに頭を下げた。剣を向けられ、罵ってきた人間に対して頭を下げる。その光景に僕は驚き、駄々っ子のように口をつぐむカルガを睨んだ。

 カルガはさらに笑みを深める。


「ぶわっはははははは! 勇者が頭下げたぜ。こいつは愉快だ」

「カルガ!!」


 僕は椅子を倒しながら勢いよく立ち上がった。カルガに対する怒りを覚える。


「誠意を持って接する相手にその態度はないだろ!」


 僕はその姿に怒りを覚え、カルガを睨んだ。カルガは嘆息しながら、視線を外す。


「まぁまぁ、アーウィン。落ち着け。何もオレ達だって万人に好かれているわけじゃない。ただ、毛嫌いする理由くらい吐き出してくれてもいいんじゃないか? カルガ、どうだ?」


 ジョンの言葉に、カルガは蔑んだ笑みを向ける。


「ジョン・レーベンか。そんなに聞きたいのか?」

「聞きたいね」

「他のやつらも聞きてえのか? ミヒャ・ラグー、キリエ・ルジンスカ、コウタ・ミハラ。聞いて後悔しても知らねえぞ」


 三人も、(いぶか)しげにしながらも首を縦に振った。


「後ろのパーティーのやつらもいいのか? そこに突っ立っているのがイヤになるかも知れんぞ」


 カルガの言葉にパーティーのメンバー達は困惑の表情を浮かべる。居間全体を包む困惑の空気。カルガから笑みは消え、ブラウンの瞳は剣呑な雰囲気を湛える。


「そんじゃあ、まず勇者ってヤツらはどうやって生まれてくる? この場に知っているヤツはいるか?」


 カルガは不敵な笑みを浮かべながら話し始めた。

 視線を交わし合い、みんなが様子を窺う。


「おいおい、誰も知らねえのか?」

「召喚の間で、神官達が召喚するんだろう?」


 狼人(ウエアウルフ)が答えると、カルガは視線を勇者に向けたまま言う。


「具体的に言ってみな」

「⋯⋯いや、詳しくは」

「ハハハ、だよな。ここにいるヤツ誰ひとり詳しく言えねえよな。勇者自身だって答えられねえ。内緒も内緒、秘密も秘密。バラそうものなら本格的に首が飛ぶから、知っていても口にチャックして、泣き寝入りだ」


 カルガは、全く笑みを見せず自嘲気味に言葉を吐いた。

 僕は泣き寝入りという言葉に、なぜか引っ掛かりを感じる。言いたくても言えないって事か? カルガの行動を思い起こし、吐き出されたその言葉に重みを感じた。


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