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鍵屋の憂鬱  作者: 坂門
不穏の種、不協の種

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18/95

割れていく

「キリエ、それで話って?」


 治療院の外で、キリエとジョンが並んでいた。気分の重くなる秘密の間を後にして、また気分の晴れそうにもない話をしなくてはならない。キリエは、キョロキョロと辺りを見渡し、口を開く。


「ジョン。私とコウタは、マリアンヌの被害者に会ったわ。もちろん、年端もいかぬ少年よ。左目を抉られて、ぽっかりと穴が開いていた。私達がさっきまで片づけていた中に、その子の左目がきっとあったはず」

「それって⋯⋯やっぱりそうだったか」


 予想はある程度していたのかもしれない。ジョンは大きな動揺は見せず静かに天を仰いで見せた。


「それで、なんでオレには話そうとなった?」

「私とコウタで相談して、まずミヒャに相談して冷静な判断をして貰おうと。私もコウタも動揺が激しかったので、まずは落ち着きたかったの。それでミヒャがすぐにジョンにも相談しようと、私達も異論はなかったしね。ただ、リアーナはあれだし、ユウはちょっと読めない感じで二の足を踏んだって感じ。どう思う? ミヒャからもユウの名前は出なかったのよね」


 ジョンは腕を組んで唸った。険しい表情で逡巡を続ける。


「ミヒャはなんて?」

「あっちとは別に襲撃犯を探しましょうって。捕まえるとかではなく、話を聞きたいって言っていたわ」

「なるほど。その意見には賛成だ。ただ、オレとキリエは、犯人捜しを続けよう。何かしらの情報が入るかもしれないし、もしかしたらもう当たりが付いているのかもしれない」


 キリエは頷いた。勇者が割れていく。

 その感じがキリエを憂鬱な気分にさせていった。かといって、他の手立ては思いつかない。ゆるゆると手の平から何かが零れ落ちて行く。晴れない表情のキリエの背中をジョンはひとつ軽く叩き笑顔を見せた。


「そうしょぼくれるな。悪い事をしている訳じゃないんだからさ」

「そうよね」

「被害者の子に会えるか?」

「ミヒャを連れて、ここを発つ前に会いに行くつもりなの。ジョンももちろん行くでしょう」

「もちろん」

「ただ、勇者ってだけで警戒をするのであまり深追いはしないであげて」

「分かった。とりあえず戻ろう。今日明日にでもここを発つに違いない、折を見て会いに行こう」

「そうね」


 互いに頷き合い残務処理へと戻って行く。勇者同士、互いに秘密を抱え接する事になる。

 割れるな。

 ジョンもキリエと同じく一枚岩ではなくなる覚悟を決め秘密の間へと向かった。


◇◇◇◇


 平穏な一日が通り過ぎる。お客の少ない日だった。おかげで溜まっていた作業が進んだけど。

 細かい作業に集中出来ている時は余計な事が頭から消えるからちょうど良かった。考える時間が出来てしまうと、いろいろ余計な考えが頭を過ぎる。きっと昨日の今日でここに辿り着きはしない。でも、ジョゼフが口を割ってしまうかもしれない。それは仕方のない事。そうなって、どこまでしらを切れるかなあ⋯⋯。あまり自信がない。

 カウンターに頬杖をつきながら、今日何度目かの思いに耽る。同じ所をグルグルと回っているだけで、答えが見つかるわけではなかった。

 落ち着かない心持ちを抱えたまま過ごす。明日も平穏である事を祈るだけだった。

 憂鬱の足音がまた近づいている事に、僕はまだ気が付いていない。

 自分が激流に飲み込まれている自覚もこの時はまだなく、ただただ日常に従事していた。


◇◇◇◇


「ここよ。ごめん下さい」


 キリエが、扉をノックした。ふくよかな女性が顔を出し、キリエの顔に安堵の笑みを零す。

 しかし、キリエの後ろに控える見知らぬ顔を見て、少し警戒の素振りを見せた。


「味方を連れて来たの。みんなあなた方の味方なので心配しないで」


 キリエは笑顔のまま、後ろに視線を向けた。頭を下げるミヒャと、手を上げて軽やかに挨拶するジョンに、母親は諦めたように嘆息し、笑みを見せる。


「どうぞ」


 この間と同じ居間に通される。椅子を準備しようとする母親を制し、キリエとコウタはジョンとミヒャを座らせその後ろへ立った。広くない居間に勇者が四人、母親もこんな事が起こるなんて夢にも思わなかっただろうし、あの悪夢も起こるとは思っていなかったに違いない。


「ジョゼフ!」


 母親が呼ぶ。現れた少年は勇者の姿に明らかな警戒を見せた。キリエとコウタは予想していた通りだが、ジョンとミヒャは想像以上の警戒に少しだけ困惑の色を見せた。


「初めましてジョゼフ。オレはジョンだ。こっちはミヒャ」


 にこやかに挨拶を交わすが、顔を隠すミヒャに対して警戒を強めた。ミヒャはその姿にスルスルとマスクとバンダナを外す。

 赤く大きな瞳に見慣れない浅黒い肌、薄い唇に大きめの口が印象的な美しい女性が現れた。明るいブラウンの短髪(ショートカット)が利発な雰囲気を後押しし、かすれ気味のハスキーないつもの声で微笑みながら挨拶をした。


「ごめんなさい。怖がらせてしまって。この肌なので普段は隠しているのよ」


 コウタは初めて顔を出すミヒャに遭遇し、思わず前に出て顔を拝見しようとすると、キリエに止められた。コウタは止められた事に声を出さず抗議すると、キリエも大人しくしてなさいと無言で圧を掛けた。

 キリエはミヒャの後ろ姿から感じる。こんな柔和な雰囲気を醸し出すミヒャは珍しい、初めてかもしれない。それだけ前回のアサトの事、今回の事と思う所があるに違いない。


「ジョゼフもお母様も突然大勢で押しかけて申し訳ありません。ここを発つ前にもう一度お会いしたかったのと、おふたりの味方である人間を紹介しておきたかったのでお伺い致しました。ジョゼフもいきなりでごめんね。この人達は大丈夫、あなたの味方よ」


 キリエの言葉に少しだけ、警戒を解いた。その姿にキリエは笑みを漏らす。


「ジョゼフ、ごめんな。びっくりさせて。体は大丈夫か? その、何だ、目は大変だったな。本当はオレ達がもっと早く気が付いて止めなくてはいけなかった。申し訳ない」


 ジョンが頭を下げる。ミヒャもならって頭を下げた。


「⋯⋯お母様も、申し訳ありませんでした。私達が不甲斐ないばかりに辛い思いをさせてしまって」


 ミヒャも改めて謝罪した。母親は嘆息しながら微笑んだ。


「あなた方に襲われた訳ではありません。気持ちは充分に頂きました。この子も普段は元気です、悪さばっかり。もう大丈夫です。襲われる心配もなくなりましたから」


 勇者達は母親の言葉に安堵する。元気を取り戻してくれたのが何より嬉しかった。

 ミヒャの瞳は優しくジョゼフに向けられる。慈愛に満ちたその瞳とジョゼフの瞳が絡むと、ジョゼフは照れ臭そうに俯いた。聞きたい事は山ほどある。ただ、詰問するような事はしたくない。ジョゼフがどこまで答えてくれるか⋯⋯。期待はかなり薄かった。


「キリエから聞いていると思いますが、何かあったらオレ達に声を掛けて下さい。他の勇者には、こちらがいいと言うまではこの件は黙っていて下さい」


 ジョンが改めて釘を刺す。秘密が生まれた事で勇者は一枚岩じゃなくなった。


「⋯⋯ジョゼフ、逃げる時に鍵を閉めたでしょう? 鍵はどうしたの?」


 思いもよらぬミヒャの質問に、ジョゼフはおかしな挙動を見せた。何をどう答えれば正解なのかが分からない。


「し、知らない」

「そう。ありがとう、鍵は持っていないのね」

「鍵? 持ってない」

「そう。じゃあ、誰かがジョゼフが逃げた後に魔女をやっつけてくれたのね。ジョゼフが知っていたらお礼を言っておいて貰おうと思ったの。本当だったら私達がやっつけないといけなかった⋯⋯意外そうな顔ね。でも、今日だって勇者は全員揃っていない。別に仲良しじゃないのよ。これは内緒。ジョゼフは口が堅いでしょう、ここだけの秘密」


 そう言ってミヒャは、微笑みを向ける。警戒を見せていたジョゼフの表情はいつの間にか困惑へと変わっていた。ミヒャはその表情を見つめ続けた。


「ジョゼフも一緒に考えてくれない? ジョゼフが逃げた後、私達の代わりに誰かが魔女を退治してくれた。そして鍵を閉めて逃げた。でも、鍵は部屋の中にあった。どうやったら鍵を閉められると思う?」

「し、知らない」

「そっか。不思議ね」


 優しい瞳から、ジョゼフは視線を逸らした。

 知らない。

 分からないではなく、知らないという答え。

 ミヒャの中でひとつ確信に近い答えが導き出された。


◇◇


「⋯⋯間違いなく、あの子は誰かといた。大方予想はつく、ジョンもそうだろう」

「え? オレ? オレはさっぱりだぞ」


 帰還に向けて、集合場所へと移動していた。情報らしい情報は聞き出せなかったと思っていたがミヒャは収穫があったようだ。活気のある街路を抜け、治療院へと続く道、人々の生活の音が薄れていく。


「ミヒャ、戻っちゃった。さっきの優しいお姉さん風も良かったのに」

「コウタ、ふざけないで」

「ふざけてないよ。なんかあっちの方が本当の姿っぽかったよ」

「⋯⋯コウタ⋯⋯」

「ミヒャ⋯⋯怖いよ」


 睨みつける鋭いルビー色の瞳に、コウタが震えあがった。ジョンとキリエがその姿に笑っていると、ミヒャが驚愕の表情を見せ立ち止まる。


「そんなバカな⋯⋯」

「どしたの??」


 コウタがミヒャを覗き込む。目を見開きその表情からただならぬ事が起きているのが分かった。

 ジョンはすぐにアサトとマリアンヌの死を想起する。


「おい、まさかまた誰かが⋯⋯」

「⋯⋯いや⋯⋯まさか⋯⋯そんな⋯⋯」

「どうした?」


 驚愕の表情を浮かべるミヒャは、信じられない物を見たかのように茫然とジョンに顔を向けた。


「アサトの気魂(プシケ)の反応がある⋯⋯」

「はぁ?」

「え?!」

「どういう事??」

 

 三人の表情も困惑を深め、ミヒャの言葉をすぐには理解出来なかった。


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