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鍵屋の憂鬱  作者: 坂門
不穏の種、不協の種

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不穏の種

 木製の扉が開き、顔を見せた女性の顔は少しだけ困惑の表情を見せた。その姿にキリエはすぐに笑顔を向け、頭を下げた。


「突然、申し訳ありません。そちらの息子さん? の事で少しお話が聞ければと思いまして。私はキリエ・ルジンスカ、こちらはコウタ・ミハラと申します」


 ふたりはもう一度頭を下げる。女性の顔は相変わらず、理解の出来ない状況に困惑を見せているが、どうぞと中へ案内してくれた。

 通された居間は、こぢんまりとしていながらも綺麗に片付いていた。身なりからして只者ではないふたりにどう接すればいいのか困りながらもお茶をもてなしてくれた。


「それで、ウチの息子が何か?」


 首を傾げながら、母親が問いかけた。キリエはどう説明すればいいのか少し考える。眼鏡を直し、単刀直入に切り込んだ。


「私達は勇者と呼ばれている者です。この村に滞在しているマリアンヌのもとに伺ったのですが⋯⋯息子さんが私達を睨んで来たのです。あ、いえ、それがどうこうという話ではありません。ただ、その姿がとても気になったもので⋯⋯どうしてか理由を聞かせて頂けないかと。お母さまは何か思い当たる節はありますか?」


 “勇者”という単語に母親はピクリと反応を見せる。表情は一気に強張りを見せ、俯いてしまった。その姿にキリエとコウタは戸惑う。何か恐れているようにも見える。

 恐怖の対象⋯⋯まさか、私達?


「お母さま。大丈夫です、私達は決して危害を加える事はしません。なぜ? 恐れるのですか?」


 ガタっと音がすると、居間の入口に眼帯の少年が立っていた。その瞳は怒りを湛え、鋭くふたりを睨んでいる。


「出て行け! 母さん逃げろ! こいつら魔女の仲間だ!」

「⋯⋯魔女? どういう事?」


 コウタが困惑の表情を深め、視線を泳がした。母親は、俯いたまま震えている。

 これは本当に私達に怯えている。キリエは軽く両手を上げ、攻撃の意志がない事を改めて見せると、コウタも慌ててキリエにならった。


「大丈夫です。本当に何もしません。信じて下さい。坊やも話を聞かせて、お願い。魔女って⋯⋯」


 キリエはそう言いながら、最悪のシナリオが頭を過ぎった。自分達が先ほど見た光景がフラッシュバックし、全ての線が繋がっていく。キリエの瞳も困惑と驚愕を見せ、思考が一瞬停止した。


「魔女って⋯⋯マリアンヌね。そうなのね⋯⋯」


 コウタもキリエから零れ落ちた言葉に、線が繋がっていった。


「そういう事⋯⋯なの??」


 コウタも言葉を失い、居間に沈黙が訪れる。少年はふたりを睨み続け、最大限の警戒を見せる。


「坊や、ごめんなさい。きっと謝るくらいじゃ許されないわね。お母さまも本当に申し訳ありません。さぞやご心配したでしょう。ただ、これだけは信じて下さい。私達はあなた方の味方です。最大限尽力します。ですので、話せる範囲で構いません。お話をきかせては頂けないでしょうか」


 ふたりは改めてこうべを垂れた。長い時間頭を下げ、最大限の誠意を見せる。これだけしか出来ない自分と何も知らなかった自分に不甲斐なさを感じた。


「頭を上げて下さい。ジョゼフおいで。この人達は大丈夫だよ」


 睨んだまま、母親の隣にジョゼフは立った。母親は大きく溜め息をつき、左目の眼帯をずらした。そこに現れたのは目を抉られ、ぽっかりと空いた空洞。キリエもコウタもその姿に言葉を失う、そしてあの部屋に飾られた小瓶の意味を改めて理解し、キリエの頬に涙が伝った。


「ひどい⋯⋯」

「これはダメだね。許せない」


 珍しくコウタも怒りの形相を見せた。

 あの小瓶の数だけジョゼフと同じ事をしていたって事だ。ふたりは怒りとやるせなさをさらに募らせる。


「あ、あの⋯⋯。目を取られて解放されたのですか? ジョゼフ良かったら教えてくれない?」


 キリエは真剣な眼差しを親子に向け、静かに問い掛けた。ジョゼフと母親は目配せするとジョゼフが睨みながら口を開く。


「⋯⋯隙をついて逃げた」

「そう。頑張ったのね」


 逃げたとういう事は、マリアンヌは目だけで返すつもりは無かったのが分かる。確かにあそこにあった小瓶は目だけではなかった。ふたりの表情は冴えない。


「あの、私達は大丈夫なのでしょうか⋯⋯。その⋯⋯勇者様の裏の顔というか⋯⋯秘密を知ってしまって⋯⋯その⋯⋯」


 言いづらそうに口を開く母親、キリエはすぐにテーブルの上に置かれた母親の手をきつく握り締めた。真っ直ぐ前を向き何度も頷いて見せた。


「大丈夫です。私とコウタで絶対守ります。何か必要な物、困った事があればいつでもおっしゃって下さい。必ず力になります。取り急ぎ何か気になる事はありますか?」


 母親はキリエの力強い言葉に少しばかりの安堵を見せ、ジョゼフの頭に手を置き、一礼して見せた。


「ありがとうございます。あの⋯⋯、もうジョゼフがこんな目に遭う事はありませんか?」

「大丈夫。ないよ。お母さん、安心して。マリアンヌは死んだから」

「コウタ⋯⋯」


 キリエを遮り、コウタはジョゼフを真っ直ぐ見つめ続ける。


「だからもう大丈夫。ジョゼフ、君を傷つける者はもういないよ」


 コウタは、ジョゼフに少年のような笑みを向けた。ジョゼフの表情から強張りが少し消えたように感じる。この親子が勇者を恐怖の対象にしているのがよく分かった。

 キリエはコウタの曝露に苦笑して見せたが、コウタのまっすぐな思いに共感してみせる。


「マリアンヌが死んだって事は、公表されないので黙っていて下さい。それこそ漏らすのは危険かもしれないので。残念ながら勇者も一枚岩ではなくなると思いますので重々気を付けて下さい」

「ジョゼフ、お母さんを守る為にもマリアンヌが死んだ事は、ここだけの秘密だ。分かるよな」


 コウタの言葉にジョゼフは厳しい眼差しのまま頷いてみせる。


「イヤな、お話をさせてしまってすみませんでした。これは、私専用の便箋です。何かあればこれに書いて送って下さい。他の者の目に留まる事はありませんので」


 キリエはポーチから、キリエの紋章がスタンプされている便箋を数枚手渡した。

 ふたりは最後に頭を下げ、家を後にした。後味の悪いなんとも言えない気持ちに包まれる。


「キリエ、どうする?」


 コウタの問い掛けにキリエは苦い顔を見せる。全員にする話ではないと自身にストップを掛けた。勇者の顔をひとりひとり思い出し、誰にすべきか慎重に考える。普通に考えればユウにすべきなのだが、何か引っかかる。リアーナは論外だ。ジョン、ミヒャ⋯⋯。


「とりあえず、ミヒャに話してみましょう。冷静に判断してくれると思うわ」

「いいと思うよ。とりあえずリアーナは、なしだ。あいつの頭ぶっ壊れてるよ」

「まあねぇ⋯⋯」


 何か噛み合わない、キリエの心に霞がかかりスッキリしなかった。今までこんな思いになる事は無かった。ふたつの襲撃が勇者をバラバラにして行く。

 まさか、これを狙って? 

 犯人の狙いは単純な正義感からなのか、勇者を狙ってなのかが分からない。もし、勇者を狙ってなら、次の標的ターゲットは私か。


「次狙われるとしたら私かな?」

「え? キリエも何かやらかしているの?」

「やってないわよ。単純に肉弾戦に弱い勇者が狙われているって可能性もあるでしょう」

「うーん」


 コウタは腕を組んで逡巡する。治療院に向かう道すがら、ふたりは答えの出ない思考を巡らす。コウタが唸りながら、口を開いた。


「何とか、襲撃した人間をこっちで見つけられないかな? 本人に話聞くのが早いよね」

「そうね、難しいとは思うけど。ミヒャもいろいろと参考人との接触あるからその辺も相談してみましょう」


 治療院が見えてくると、ふたりは口を閉じ見たくない現場へと向かって行く。ふたりともひとつ息を吐きだし、腹を括った。


◇◇◇◇


 目を開くと、光の全く届いていない剥き出しの石壁に囲まれた部屋。

 四隅に置かれた燭台の蝋燭の火が揺れていた。激しい吐き気が襲う。気持ちが悪い。

 ここはどこだ? どうなっている? 

 すぐれない気分を無理やり押し込み、頭を上げた。


「おおお! 成功だ! 皆の者! 勇者召喚だ!」


 周りに人がいたのか、暗闇に目が慣れると白装束に身を包む神官らしき人々が、キラキラした瞳をこちらに向けていた。

 何だこいつら。

 ああ、そうか。そういう事か。


「フフフフ、ハハハハハハ!」


 部屋の真ん中に描かれている魔法陣の上で、その少年は突然、大声で笑い始めた。周りの神官達がその姿に少し戸惑いを見せるが、召喚に成功した熱気が上回っていた。


「おい、おっさん。ここはどこだ?」

「ここは、帝国ラムザだ! ようこそ勇者殿」

「ラムザ⋯⋯ククク」

「勇者殿、お名前は?」

「ああん? ああ、そうか⋯⋯。アサ⋯⋯、いや、アラタ・シドウだ。ハハ」


 少年は頭をガシガシと掻きむしった。薄い笑みを浮かべ、粘着質な視線で見渡して行く。

 まさかのゲームリスタートだ。ついているな。少年は笑みを深めていった。


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