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果てのない世界で選んだ選択肢  作者: よしたろう
新たな出会い
9/52

追いかけた先の光景

走って外にまで出ていくゆづき。まるで疾風のように速かった。

説明をまだ聞き終わってない。まだまだ気になることは山ほどあるのに。

そう思いながら、追いかけると対面の家の屋根の上に彼女は軽く跳躍して上った。


「ちょっと待ってくれ!」


しかし、こちらを振り返ることなく家の奥へ飛び降りて行った。


夕暮れの中に消えていった。


どうしようもなくなり、家の玄関で佇む。

何か彼女の気に当たることがあったか。

いや、そんな様子では無かった気がする。

追いかけようにも、家の上を渡られでもしたら追いつくことはできない。

考えろ。考えるんだ俺。



まず、書斎に戻ることにした。

そして、さっきの状況を思い出す。


先ほどまでゆづきが説明していた場所に移る。ここからは・・・窓の先が見える・・・。

よく見ると、煙のようなものが上がっているように見えた。

「これは・・・。」

壁に貼られているマップを見る。

窓から見える煙が上がっていた方向とマップの三角のマークの方向が一緒のように思える。

あの煙は一体・・・。火事が起きているとなると、明らかに人がいるということになるが・・・。


もう夕暮れだ。今から外に出るのはかなり危険だが、ひとりここで待っているわけにもいかない。


行ってみる価値はあるが、なんにせよ危険がついてくる。

家でゆづきが帰ってくるのを待つほうが賢明かもしれない。

だが、危険を承知で助けてくれた彼女に恩返しも何もできていない。

こんな世界で出会えた大事な一人だ失うわけにはいかない。

しかし、日が落ちた街を歩き回るのは非常に危険だ。また生き残れるとは到底思わない。


多くの考えが頭の中を巡る。時刻は刻々と過ぎてゆく。


覚悟を決めて、煙の元へ行くことにした。


何か使えるものはないかと、キッチンを探すとライターとサバイバルナイフがあった。

それらをつかみ取り、走って家から出ていく。


ただひたすらに煙の元に向かう。かなり距離があるようで、一向につかない。

入り組んでいる家によって、帰り道も分からなくなってしまった。

もうただ前に進むしかない。


日が沈み始めてきた。残された猶予はあまりない。

風に煙の臭いが混じってきた。



街の影からぽつぽつと肉塊達が現れ始めたが気にせず走る。



煙の臭いがかなり濃い。

かなり近づいてきた気がする。

「畜生!どこから湧いて出てきやがった!」


そんな怒気の混じった声が向かい側から聞こえる。生存者だ。

周囲が燃えている。

回り込むようにして声の方向へ向かう。

道中破壊された家や燃えている家がいくつかあった。煙を吸わないように袖で口を覆う。

なんでこんな事に・・・。

声の元にたどり着くと、角材のようなものを肉塊に振り回すタンクトップを着た20代くらいの筋肉質な男がいた。

必死に肉塊達に抗っているが、じりじりと距離を詰められている。


くそっ。今俺がナイフを使っても援護しても肉塊にただやられるだけだ。

なにか使えるものは・・・。そういえば、ゆづきが異形は火に弱いって言っていた。

建物の影からそこにいる筋肉質の男に声をかける。


「おい!そこの人!火を跨いで移動しろ!」


「なんだって!?焼け死ねってことか!?」


「違う!そいつらは火に弱いんだ!」


それを聞いた男は熱がりながらもなるべく燃え広がっていない火の上を渡って移動した。

幸い、服に燃え移ることはなかったみたいだ。


「おい!あんたの方に奴らが迫ってるぞ!」


そう言われて前を見ると、さっきの肉塊が迫ってきていた。

火で明るく照らされている影響で、肉塊の様子がはっきり分かる。

それは、かつて人だったものようだ。

よく見ると、手のような、足のようなそんなものがついている気がする。

はっきり見えた事によって気持ち悪さが増した。

なんでこんなひどいことに。


抗うすべもなく、逃げ始めるしかなかった。火事で燃えている家、蔓延る肉塊達。

こんなものにただの一般人が挑んで勝算があるはずがない。


必死で逃げる。さっきまでの覚悟はどこかに吹き飛んでしまった。

恐怖。絶望。そんな負の感情ばかり湧き上がる。

やっぱり、俺には無理だったのかもしれない。

転がり込むようにして、目に付いた家に入った。そこに息を潜めて隠れる。


さっきのタンクトップの人は逃げ切れたのだろうか。

誰かの悲鳴が聞こえるが、耳を塞いで聞こえないふりをした。

その悲鳴も数秒で途切れた。



しばらくこもり続けていると炎が燃え上がる音しか聞こえてこなくなった。

近くにあいつらはいないみたいだが、火がこの家を襲うのも時間の問題だ。


窓から外を見ると地獄のようだった。真っ暗な空に燃え上がる家たち。

倒れた人が見えるが助けに行く余裕はない。


家から出て、なるべく狭い道を通らないように移動した。

自分がいる場所が分からず、闇雲に逃げる。


「おい。こっちだ。」


声がかけられた。その声の方向に振り返る。

そこにいたのはさっきのタンクトップの人だった。

その人についていくことにした。


「俺は氷室陸人(ひむろりくと)。さっきは助かった。あんたの名前を聞いていいか?」


「俺は日和まもるだ。

そういえば、さっきからどこへ向かっているんだ?」


「この近くにある俺の隠れ家だ。そこなら今日の夜くらいはしのげるはずだ。。」


そう言って、周りを確認しながら注意深く進む氷室。

俺も同じように続く。


「なぁ、銀髪の子を見かけなかったか?」


「銀髪の子?あの褐色の?」


「知ってるのか。」


「ああ、もちろん。何度かマーケットにきていたが今日は見かけてないな。」


「・・・。」


何とも言えない空気になり、しばらく沈黙が続いた。




その隠れ家という場所に着いた。

ギィと音を鳴らし、扉が唸る。


「さっ、入れ。」


「お邪魔します。」


真っ暗だ。明かりは付いていない。全然見えない。

足元が見えないため、ライターを取り出す。


「明かりをつけてもいいか?」


「構わないが・・・あいつらは寄ってこないのか?」


「肉塊はなぜか火には寄ってこないらしい。」


そう言うとライターをつける。

明かりに照らされて床まで良く見える。空の缶詰めが散乱していた。


「少し汚れているが、気にしないでくれ。」


氷室は散乱している缶詰めに目もくれず、家を案内する。



「この部屋は使っていい。物置だが隠れる分にはちょうど良いだろう。

もう真っ暗だから朝まではそこで休むといい。」


「ありがとう。」


「俺は隣の部屋にいるからな。何かあれば知らせる。」


そう言って、扉が閉められた。




動かずにじっとしていると眠気が襲ってきた。もう真夜中くらいだろう。

朝までここで休むとしよう。昨日も今日も散々だったと思いながら座る。







朝になっていた。壁に寄りかかって寝ていたため、体が痛い。

物置から出て、氷室の部屋に向かおうとした。


「・・・。」

空の缶詰めが片付けられずに廊下に放置されている。

足の踏み場に困る。


なんとか隣の部屋まで辿り着きノックするが反応はない。

いびきが聞こえるため、まだ寝ているようだ。

今どんな状況なのか。氷室なら知っているはずだと思う。

寝ているところ悪いが、無理やり起こして話を聞くことにした。


無理やり起こしたため、少し不機嫌だった。しかし、何とかなだめて説明をさせた。


氷室曰く

あの一帯はマーケットと呼ばれる交換所だったらしい。水や食料と引き換えに、街で見つかる貴重な物と交換できる。そういう場所だったが、昨日の時点で何者かの襲撃があり、マーケット一帯を火の海にされたようだ。


「話は変わるがまもるは、いつここに来たんだ?」


「2日前だ。」


「そうなのか…。災難だったな。」


「陸人はいつからだ?」


「俺は2か月ほど前にこの街に来た。最初に訪れたのがこのマーケットで良かった。先人たちに生き延びる術を教わったしな。構造がほぼ同じ家の事や、異形という名の化け物、カマキリ、そして白狼が警戒すべきやつだと言っていた。」


「その、異形は分かるんだが、カマキリと白狼ってなんだ?」


「俺も遭遇したことはないが、カマキリは名前の通りカマキリみたいな見た目をしている2mくらいのバケモンだ。異形よりは数が少ないが、めちゃくちゃ速いらしい。つまり、遭遇すれば隠れるしかないってことだ。音にも敏感で、でかい音を出すと寄ってくるって聞いたな。」


ゆづきの言っていた、音に敏感な異形=カマキリってことか。


「それで、白狼についてだがこいつは一回り大きい狼のようだが俊敏で力が強い。カマキリより速いって噂だ。まあ、出会って生き残った人が少なすぎてこいつについては情報が足りてないとのことだ。」


「なるほどな。とりあえず、そいつらに遭遇したら隠れるしかないってわけだ。」


「日和、お前も隠れ家の1つや2つ作っておいた方がいい。」


そんな会話を通じて、生きるために必要な手段や情報を共有していく。


朝食は、もらった缶詰めと少量の水だった。

1日1食しか食べていないが、贅沢は出来ないと悟り、我慢することにした。



外出の準備を済ませた氷室が俺に声をかける。


「さて、そろそろマーケットの様子を見に行くか。」



氷室が言った事に頷き、再びマーケットに向かうことにした。

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