覚醒
少し唸る声が聞こえ、その声の主に目をやると上体を起こして、こちらを見ていた。
見る限り、少しばかり平静になっているようだった。
「さっきはごめん。」
「ああ。落ち着いたか?」
「うん。」
そこで会話が途切れ、沈黙が続く。
何か言おうと思うが、ゆづきの悲しげな表情を見ると言い出せなくなる。
「ねえ、少しだけ聞いて欲しいことがあるの。」
ゆづきが沈黙を破る。そして、手を握りしめて決意した表情で目の前に座る。
「思い出したんだ。」
「・・・。」
「私が目を覚ました時にはもうすでにこの施設の中だった。それ以前の事は覚えてないけど、ここでの生活は地獄だった。変な薬を注入されて、手を切断されたり、足を切られたりもした。痛い痛いって叫ぶけどやめてくれなかった。薬の影響で傷はすぐに治ったんだ。意識が無くなっても痛みで目を覚まして、それが何日も何日も・・・。」
彼女が言葉を話すたびに声音が震えて、かすれていく。どう反応してよいのか模索する間も話を続けていく。
「痛みや苦痛で何も分からなくなったある日、『はいきする』って聞こえたんだ。それから、首に何かが刺された感覚があって、それから自分が分からなくなって、気が付いたら街で目覚めたんだ。そして、それまでの記憶が無かったんだ。今、ようやく思い出したよ。」
「・・・辛かったんだな。」
その言葉以外かける言葉を見つける事ができなかった。謎の薬漬けにされ、人体実験をされた彼女の気持ちは計り知れない。だが、何の目的があったとしてもこんな事をしたやつは許せない。
「ねえ、もう一つ大事な話があるんだ。聞いてくれる?」
どうしたのだろうか。先ほどとは違った声音で返してくる。少しだけ嬉しそうに感じるのは気のせいだろうか。
「私はゆづきじゃないの。まもるが覚えてるか分からないけど私の名前は・・・ゆうりだよ。」
その瞬間、頭が真っ白になり、感慨無量で何も言えなくなってしまう。ずっと探していたゆうりが見つかったのだ。視界が滲んで目の前の彼女が滲む。
自分の周囲だけが8年前と同じ状況に戻ったような気がして、様々な感情が押し寄せてくるのを感じたが、一番強かったのは罪悪感だった。
「あのとき…逃げてごめんなさい…。ごめんなさい。」
思わず口に出していた。どんな事を言われるか怖かったが、言わずにはいられなかった。
謝り続ける僕に零れかける涙を彼女が拭ってくれる。
「まもるが助かったんならそれでいいんだよ。」
これまで抑えてきたものが壊れ、感情を抑えることができなかった。だから、思いっきり涙を流すことにした。




