不安と可能性
家から出た後、“何か”に見られているような気がした。
急いで、さっきまでいた場所から離れ、他の家に入り、クローゼットに隠れて息を潜める。
今にも心臓が飛び出しそうな気分だったが、呼吸が荒くなるのを必死になって抑える。どれくらいそうしていただろうか。
ようやく落ち着いた。
「ふぅ…。」
ため息が出た。
周囲から物音が聞こえないことを確認してクローゼットから出た。
ここも見張られている可能性もある。窓からの脱出も試みたが、固く閉ざされていて開けることができなかったため断念した。
家の玄関に張り付き、外を確認するが何もいなかった。やはり杞憂だったのかもしれない。
とりあえず、その場所から離れることにした。
しばらく歩き続けて疲労が溜まってくると、家に入って休むことにした。
幸いその家には、ベットと寝具がちゃんとそろっていた。埃っぽいが、そんなことが気にならないくらい疲れていた。ごろんとベットに寝転がり、目を瞑る。
自分の身に起こったことを振り返ってみた。自分が行方不明になった人と同じ境遇であること。誰かが居たという痕跡…。
そこまで考えて電撃がはしったように閃く。
少し考えると分かる事だった。やはり冷静ではなかったみたいだ。
ガバッと上半身を起こして思わず声に出す。
「もし行方不明者が俺と同じような状況ならこの街のどこかにいるはずだ‼大声で呼べばいつか見つかるはず…!」
大きく息を吸ったせいで、埃が口に入り咽る。
だが、そのおかげで突発的な行動は止められた。
また、横になり考えを纏める。そして一つの疑問が浮かぶ。
もし、生存者がいるのならば、何故こんなにも静かなのか。
俺以外にも思いつく人がいるはずだが…。その理由を考えると、いくつか考えられる可能性があった。
1つ目はこの街で生存者は自分一人という可能性。
次に、2つ目は大声で自分の場所を伝えても他の人に伝わる前に”何か”によって声の出せない状況にされた可能性。
3つ目はこの街があまりにも広すぎるために声が届かない可能性。
1つ目はかなり可能性が低いと考えられる。
まず、先ほどの食料がなくなっていた家があった時点で、可能性がぐんと下がった。
これまでの探索から、すべての家に食料があると推測できる。その食料を持ち出した者がいるということが分かる。
2つ目は十分ありえる。俺が遭遇してきた”何か”は様子見しているだけかもしれない。行動を起こすと襲いかかってくるかもしれない。
これはただの推測にすぎないため何とも言えない。
3つ目は可能性が低いと思える。もし広大な街なら資材や食料の数が膨大なことになる。それだけの量をどうやって調達するのだろうか。
それに、まだ半日しか経っていないが”何か”と食料を持ち出した者の痕跡を見つけられたため、広大過ぎることはないだろうと信じる。いや、信じたい。
まだ十分な情報がないため、大胆な行動はしない方が身のためだろうと思う。
だが、最悪のパターンは”何か”=食料を持ち出した者であり、この街は広大で自分一人だけ生存しているというパターンだ。そんなことを考えると頭痛がしてきた。
まだ空は赤く染まりはじめたばかりだが、疲れと眠気に抗えず、意識を手放してしまった…。