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果てのない世界で選んだ選択肢  作者: よしたろう
新たな出会い
14/52

巨大な建物の中

建物の中は静かで二人の足音だけが響く。

足元をランタンで照らして躓かないように歩くが、ゆづきは軽々と進んでいく。

少しペースが速くて置いて行かれそうになった。

彼女に明かりを渡そうと思い、尋ねてみた。


「ゆづきがランタンを持った方がいいんじゃないか?」


「足元危ないからまもるが持ってて、このくらいなら目がきくから。」


そういって、再び進み始めた。



しばらく暗闇の中を進む。

見える範囲で分かったことだが、この建物はショッピングモールにそっくりだった。

いくつかの区画が区切られていた。


食品店の中はほとんどガラガラだった。

生存者達がこぞって持って行ったのだろうか。小物などが少し散乱していた。

特に目を引くようなものはほとんど持ち去られたようだ。


「そろそろ服が見つけられるはずだよ。」


ゆづきから声がかかる。おそらく衣服店の並ぶ区画に来たのだろう。

ランタンをかざして周囲を確認すると、思った通り衣類がずらりと並んでいた。


「これ、持って行っていいのか?」


「そんなの気にする人いないよ。」


確かにその通りだと思い、動きやすい服装をいくつか選んでカバンにしまう。

まだ衣服が多く残っているため、この街に来て服を取りに来た人がほとんどいないことが見て取れる。


服を選びながら疑問に思ったことを問いかけた。


「ゆづきはどうやってここを見つけたんだ?」


「この周辺の調査中に、ひとつだけ目立つ大きな建物を見つけたんだ。

ついでに中も確認してみたら食料は無いけど、こんなたくさんの服があったってわけさ。」


得意げに語っているが、ランタンの光が届かず、顔の表情は読み取れない。

ゆづきの方も一通り服を選び終わったようでこちらに戻ってくる。


「もう選び終わったのか?」


「うん。特にたくさん必要ってわけでもないし。」


「そうか。」


軽く会話をするが、この場所に長居するつもりはなかったのですぐさま切り上げた。



そして帰ろうと思ったその時、別の区画から物音が聞こえた。


ゆづきと俺は息を潜める。

さらなる音はしなかったが、何かいるかもしれない。

ゆづきが小声で


「確認しに行ってくる。」


というと引き止めるまもなく移動していった。

一人取り残された状態になった。

正直、この状況は怖い。

真っ暗で、何かいるかもしれないのに孤立するのはかなり危険だと思う。

ゆづきが早く戻ってくるのを祈るばかりだ。




しばらく時間が流れた。


「動くな。」


背後から突如しわがれた低い声が聞こえた。

男だとは分かるが、背後を取られていてそれ以外は分からない。

背中に鋭い凶器を当てられていることに気が付く。


「荷物を置け。」


指示に従って荷物を置く。

恐怖で動けない。


「一体何しに来やがった。」


敵意丸出しの声音で話してくる。しかし、俺は敵対するつもりはない。


「ただ、俺は服を取りにきただけだ。

それ以外、何もする気はない。」


正直に答える。


「嘘をつけ。」


なにか信じてもらえる方法はないかと、考える。

咄嗟に思いついた事を口に出した。


「本当だ。信じてくれ。

荷物の中身を確認すればわかる。」


背中に凶器を突き付けながら俺の荷物を取り、中を確認する音が聞こえる。


「・・・。嘘はついていないようだな。」


カバンの中には、服と水筒とライターくらいしか入っていない。

背中に突き付けられていた凶器が下ろされた。

危険な状況に変わりないが、少しだけ落ち着く。


「ここには・・・」


その男が言葉を言い終わらないうちに、ドンっという打撃音とその男が背後で倒れる音がする。

慌てて振り返ると、ゆづきがその男をノックダウンさせていた。


「ありがとう。助かった。でも、こんな乱暴にしなくてもいい気がするんだが。」


「危ないところだったんだよ。仕方ないでしょ。

とりあえず、このおじさんから何か聞き出してみようかな。」


ゆづきはそういうとその男が持っていた凶器を取り上げて、男を強く押さえつけた。


「いてぇ、何しやがる。」


「それはこっちのセリフだよ。連れに何すんの。」


「ガキのくせに力がつええ。くそ。

お前らが俺を襲撃してきたと思ったんだよ。侵入者をとっちめてやろうとしただけだ。」


「ふーん。」


彼女は、疑いの目でその男を見つめている。

本当の事を言っているかは怪しいが、さっき俺に攻撃してこなかったからむやみに敵を作ろうとしているわけではなさそうだ。


「なぁ、そろそろ放してあげていいんじゃないか?ここに侵入してきたのは事実だし・・・。」


ゆづきが信じられないといった表情でこちらを見た。


「でも、襲ってきたのはこのおじさんでしょ?危険だよ。」


ここで面倒ごとを増やしておくよりは、和解できればいいという期待を込めて、解放するように頼み込む。


しぶしぶ、男を押さえつけていた手を放し解放した。

その男は反撃してくることもなく、凶器をしまい、その場にあぐらをかいて座った。

警戒してその男は話しかけてきた。


「それで、お前らの言っている服を取りに来たってのは嘘じゃないな?」


「ああ、嘘じゃない。」


「こんな街で着飾る余裕があるお前らは知らないだろうが、この周辺の食料が枯渇し始めたせいで、食料を奪いに襲い掛かってくる奴が多くてな。侵入者には懲らしめてやろうと思っただけだ。お前らはもう用が済んだはずだろう。早く出て行ってくれ。」


そんな乱暴な言葉に反論しようとするゆづきをなだめて、ショッピングモールらしき場所から出ていくことにした。これ以上居てもよいことはなさそうだ。




外に出るともう太陽は真上を通り過ぎて少し傾き始めていた。


「あのおじさん。本当に放置して良かったの?」


首をかしげて聞いてくる。


「ああ、別に敵に回す理由もないからな。」


「まさか、あの真っ暗な建物に人が住んでるとは思わなかったよ。

前行ったときは居なかったんだけどな。」


そんなことを話しながら、来た道を戻る。

服は手に入れられた。

ここにきた目的は果たせたが、さっきの状況は俺一人ではどうしようもなかった。

結局、頼りっぱなしで悪いとは思っている。

しかし、まだこの街で起きていることの謎は全然解けていない。

それに思ったよりも人がいるようだ。この街に来て、危険な人と出会ってないのは奇跡かもしれない。

ゆづきにはまだまだ、世話になりそうだと思いながら、帰り道を歩き続ける。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

しばらく投稿遅れるかもしれませんが、ご了承ください。

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