僕と契約してヒーローになりませんか? 番外編:料理
その日は、いつもと変わらない暑い日だった。
木陰から見上げる空は青く澄んで、まぶしかった。
「テツ。おやつにしよう。」
「ん?もうそんな時間かい?」
「うん。」
そうかそうかと、木を下りてくるテツは、その手に何か持っている。
「テツ、何持ってるの?」
「ふっふっふ、じゃじゃ~ん!」
「???」
「君、反応悪いよ。これこそ、伝説の神様の使いのプレゼントだよ!」
「え……あ、うん。ありがとう。」
バサッと差し出した紙袋には、白い箱。
鼻高々といった感じのテツに戸惑いながらお礼を言う。
とりあえず、シートの上に置くと、袋から箱を取り出した。
チラチラとこちらを見ていることからして、早く開けて反応が見たいらしい。
大人しく、求めるとおりにしてあげよう。
君出てきた箱は、すぐよれて開けづらい。
指を突っ込んでどうにか開けると、中に入っていたものに息を吞む。
「これ………」
「そう。パイだよ。リンゴの。」
「どうしたのこれ?」
「ボクの手ずくりさ。ヒーローからキッチン借りて、作ったんだから。」
「す、すごい!」
「でしょぉ~。もっと褒めてぇ。」
美味しそうなきつね色に焼けたパイ。
生地の隙間から見える大きくカットされたリンゴが砂糖でテカテカ光っていた。
まだほんの少し暖かいところ、作ったのは今朝くらいか。
一緒に食べるために作ってくれたのだとしたら、とても嬉しかった。
「じゃあ、いただこうか。テツは、料理とかできたんだね。」
「うん。まあね。それはいつかの奥さんの得意料理だったんだ。そして、ボクの得意料理の一つ。」
「教えて……もらったの?」
「そう。今までの奥さん達からいろんな料理は教わったよ、どれもボクが気に入ったのを、彼女がいなくなっても食べたかったという欲からね。」
いつか別れるって分かっていたから、愛した奥さんのことを自分の中に残したくて、きっと料理の練習をしたのだろう。
いつか、僕の持ってくるこのクッキーも練習してくれるだろうか。
「でも、なかなか作る気になれなくてね。一緒に食べてくれる人ってなかなかいないんだよね。前の……前くらいの奥さんかな、一人で食事するボクを凄い嫌った子が居てね。」
「………。」
「食事はみんなでするものだって。彼女自身、令嬢って呼ばれる人間だったのに、使用人とおなじ卓に付いたりするものだから、皆から怒られてたんだよね。」
「優しい、人だったの?」
「究極の馬鹿だったね。」
「……確かに。」
「郷に入りては郷に従え、それが出来ない人間だった。ボクとは正反対だ。はい、どうぞ。」
「あ、ありがとう。」
喋りながらもテキパキと切り分けたパイを僕に差し出してくる。
慣れている手つきだった。
料理はなかなかしないというのに、体が覚えているという奴なのか。
紙皿の端に添えられたフォークでケーキを一口大に切り、口に運ぶ。
パリパリと薄い層になって割れ、国の中でサクサクとした食感を残した。
皮で渇いた口の中をリンゴの果汁が潤していく。
これは……
「お、美味しい………」
「だよね~。えへへ」
テツも、口の周りをてかてかさせながら頬張っている。
「いろんな人が褒めてくれたんだ。よかったら持って帰る?」
「いいの?」
「うん。クッキーのお礼だよ。」
「ありがと。」
一陣の風が髪を揺らした。
遠くではもしかしたら今でも聖戦が行われているかも知れない。
でも、今は。
この瞬間だけは、
この世界に二人だけしか入らないような気がした。
甘いお菓子がつないだ、友達があまりいない同士の友情は脆くて硬くて大切なものだった。
***
こんにちは。まりりあです。
番外編って核の初めて……でも無いですね。お掃除大作戦があるか。
さて、ここで気付いたんですけど、
テツって二人いる?
神の使いのテツと蛇さんのテツ。
名前のレパートリー少ないな……(´・ω・`)
頑張ります。