立ち食いそば屋で商品が出てくるのがいつもより遅かった
とある駅の構内にある立ち食いそば屋を、僕はよく利用している。
このそば屋は普通においしい上に、商品提供が速い。
店員さんに食券を渡してから、だいたい三十秒前後で商品が渡される。
たまに「おそばを茹でますので少々お時間をいただきます」などと言われても、体感で二分以内にはできあがってくる。
そのぐらい駅構内の立ち食いそば屋なら普通だろう、と思う方もいるかもしれないが、そのような店であまり食事をしない僕にとっては、これはなかなかに驚くべき速さなのだ。
店員さんは、だいたい恐ろしい手際の良さでそばを茹で、水で締め、出汁をかけて、薬味やトッピングを乗せて提供してくれる。
素人目で見て、相当な仕事の手際だと思う。
今日も僕は、仕事に行く前の十五分ほどのすき間時間を利用してそのそば屋で食事をしようと、食券を買った。
ところが今日は、利用した時間のせいか、そのそば屋はかなり混んでいた。
ほぼ満席状態だ。
椅子がないので席というのもおかしいが、スペースの空きを見ればそう表現したくなる状況だった。
食券を店員さんに渡してから店内を見渡すと、まだ商品が提供されていない、そばにありつけるのを待っているお客さんが三人いた。
あまりこのそば屋では見かけない光景だ。
これはさすがに多少の時間がかかりそうだぞと思い、僕はひそかに携帯電話のストップウォッチ機能で商品提供までの時間を測ってみた。
僕に頼んだ商品が手渡されたのは、店員さんに食券を渡してから三分と十秒ほどが経過したときだった。
さすがに少しかかったが、四人待ち状態で三分は、十分に速いと評価できる。
さすがだなと思って、僕はそばに取り掛かろうとした。
目の前にある商品を見て、はて、と思った。
そばに出汁──おつゆが掛かっていなかったのだ。
僕が頼んだのは温かいおそばで、渡されたトレーには、純粋に温かいおそばだけが入ったどんぶりと、トッピングが乗せられた小鉢が置かれている。
僕は迷った。
初めて注文した商品だ。
ひょっとすると、この商品はこれで正しいのだろうか?
これを言うと僕が利用した店が分かってしまう方もいるかと思うが、僕が注文したのは、鶏のてんぷらと新生姜の漬物がトッピングとしてついてくる、なかなか斬新なそばである。
しかし僕は、この商品の冷たいそばバージョンを以前に注文したことがあった。
確かそのときには、つゆがついていたはずだ。
僕は数秒の逡巡の後、店員さんにどんぶりを見せてこう言った。
「あの、おつゆが入ってないんですけど、これで正解ですか?」
嗤ってほしい。
これで正解ですか、はないだろう。
僕は口下手で、こういうときとっさに適切な言葉が出てこないのだ。
せめてもうちょっとこう、「これで合ってますか」とか、言いようがあったはずだ。
それはともあれ、それを受けた店員さんは、少し恥ずかしそうに笑って言った。
「すみません、今おつゆ入れますね」
そしておつゆを入れて、渡してくれた。
僕は少し安心した。
こんな超人的な手際で仕事をする人たちでも、ちゃんと人間で、ちゃんとミスをするのだ。
仕事でたびたび凡ミスをするへっぽこは、僕だけじゃないのだ。
僕はおいしくそばをいただいて、お店を出た。
今日もごちそうさまでした。