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ぴこん、ぴこん

作者: ニコ

【しんや:返却期限、過ぎてますよ】


 時計の針がもうてっぺんに届こうかというぐらいの真夜中、SNSの通知がぴこんと跳ねる。表示されたのは無遠慮な言葉と知らない名前だった。

 え、いや、まって。こわい。

 特に理由も無くパンツ一丁で居てはいけない気分になって部屋着を着る。正座して、それからアプリを開く。


【しんや:返却期限、過ぎてますよ】


 当たり前のように同じ言葉が表示された。

 これはおかしい。なにせ俺のSNSのIDを知っている人間なんて家族ぐらいのものだ。高校生としてそれでいいのかお前って言われそうな事ぐらい自覚しているが、事実なのだから仕方ない。

 教室の隅に居れば数合わせに誘われる。笑って場を盛り上げもするし、弄られたり弄ったりもする。けど別にその後に何があるって訳でもないし、そこにいるのは誰でも良かった。そんな存在が自分なのだ、という自覚がある。

 だって事実、誰も連絡先聞いてこないし。


【しんや:既読ついてますよ】


 ヒェッ。

 既読って見た瞬間つくんだな、知らなかった、新発見だ。大丈夫だ、これぐらいで動揺するな……心の中で唱え、深呼吸。なんとか息を整える。

 返事をしなければならない。とりあえず、えぇっと。


【高橋 隆信:読んでる!】


 何が読んでるだよ。バカかよ。見れば分かるんだよ。

 あまりの恥ずかしさに消そうとするが、もうその文字が表示された瞬間には既読がついている。しにたい。


【しんや:ありがとうございます】


 めっちゃ気を遣われている感のある返事が来て余計に死にたくなる。やめてくれ、SNS慣れしていない俺を虐めるのはやめてくれ。

 ベッドの上でじたばたしているう間にもぴこん、ぴこんと忙しなく通知が鳴る。


【しんや:高橋くん借りた本すぐ返すのに忘れてるって】


【しんや:図書委員が言ってたので伝えました】


【しんや:面白いよね、それ】


 ほんの少し冷静さを取り戻し、文面通り返却を忘れている事に気付く。そうだ、いつも金曜日には本を返しているけれど確かその日は病欠して休みを挟んで忘れたままになっていたんだった。


【高橋 隆信:ごめん、風邪引いてた!!!】


【しんや:知ってるよ】


【しんや:そうだろうと思って伝えました】


 それから、なんて返そうか迷っている内に。向こうからの言葉が先に来て。


【しんや:夜遅くにごめんね】


【しんや:タイミング中々掴めなくて遅くなった】


【しんや:それじゃおやすみ】


 結局その日はそれっきりだった。


【高橋 隆信:おやすみ】




 丁度その日に担当だったクラスの図書委員に頭を下げて返却の手続きをする。特にペナルティはなかったが嫌な顔をされた。

 眼鏡越しに投げかけられる面倒だなぁの気持ちにビビるみたいに教室に逃げ帰るしかなかった。こりゃあの優しい文面の送り主ではなさそうだ。わざわざ他人の振りして送ってくれたのかってちょっと思ってたんだけどな。

 教室に帰ると悪友が「お前が休んだせいでノート写せなかっただろ!」と短い脚で蹴りをかましてきた。理不尽だ。




【高橋 隆信:ちゃんと返せた。ありがとう】


 その日、流石に何も言わずじまいはどうかと思ったので意を決して連絡をしてみる。

 今日はまだ早い時間だし、部屋着も来ている。正座もしている。大丈夫だ。

 ぴこん。数分も経たないうちに通知が鳴る。


【しんや:よかった】


【しんや:実はちょっと心配してました】


【しんや:何かあったのかって】


 普通の返事に安心すると共に、そこで疑問が湧く。

 こいつ、男なのか? 女なのか? 『しんや』って名前からして男っぽいけれど、あまりそこは信用出来ない。表示する名前なんてあだ名にしている奴の方が多いのだし。フルネームそのままなんて友達居なさそうだよな!

 ……話を戻して。しかし、直接聞くにはデリケートな話だ。性別を聞くなんて下心しかないような気がする。


【高橋 隆信:普通にテレビ見てた。野球とか】


 軽く探りを入れてみる。好きなテレビ番組で性別が……分かるのだろうか。野球、女も見るよな。

 ドラマもバラエティも普通に見るよな。女しか見ない番組ってなんだろう、美容?

 またバカ晒したじゃないか。ベッドでごろごろしている内にまたぴこぴこ通知が鳴っている。


【しんや:私も見てたよ】


【しんや:地元勝ってたね】


 野球見てる、男か……? 私って言ってる、女か……?

 いや、でも、今時別に文面だと男でも「私」ぐらいは使うよな? どうだろう、一般的ではないにしても使うのかもしれない。使う可能性があるのなら、確定しない方が良さそうだ。

 これ、なんていうんだっけ。しゅがーなんとかみたいな。そういうあれだ。


【しんや:わりと野球見るんだね】


 向こうからの続けざまの言葉に、特に考えもせずに返事を打ち込む。


【高橋 隆信:やるのは下手くそで小学生でやめた。けど見るのは見る】


 小学生の頃、軟式のボールとバットまで買ってもらったのに近所の女子にボロクソに打ち負かされたのは嫌な思い出だ。

 続けていれば何か変わったのかもしれない。けど続かなかった。女子に負けたってだけが理由ではないけれど、あそこで勝っていれば自信の一つでもついていたのかな。

 まぁ園芸部として花壇の世話をしている日陰者にはもう関係のない事だ。


【しんや:そうなんだ】


【しんや:私も男子なら野球部入ったのにな】


【しんや:そしたら高橋くん見に来たのかも】


 急に女子だという事が確定した。

 なんだか無性に空回りしている自分が恥ずかしくなってごろごろ転がっている内にその日の会話は終わった。




 次の日、特に理由も無く野球部の奴と昼休みにグラウンドに出た。借りたグローブでキャッチボールをする。

 結果、俺は球を真っ直ぐ狙った場所に投げるのも難しい程度の腕前だと判明した。変化球の投げ方を執拗に教えてくる野球部員に無理に決まってんだろと叫びながらあっちへこっちへと球を拾いに走る。野球部のマネージャーが爆笑していた。絶対こいつは『しんや』じゃない。

 教室に帰ると悪友がにやにや笑いながら足をぶらつかせていた。「へったくそ」と笑う奴の頭をがしがしと撫でて、午後の授業へと挑む。




 『しんや』の正体に一つ心当たりが出来た。通知を切ったままにしているグループチャットの方だ。

 30人規模のクラスメイトグループは、クラスのリーダー格が年度初めに作ったきりになって二度か三度で活用されなくなったものだ。まぁそういうもんである、文化祭の時期とかになるとまた使うのかな。

 メンバーの名前を一覧で見てみれば、そこには確かに『しんや』の名前があった。


【しんや:きいて】


 そんな事をしていると唐突に、件の彼女から端的な文章が送られてきた。

 これはどうすればいいんだ? と思う間もなく次の通知が鳴る。


【しんや:ごめん】


【しんや;まちがえた】


【しんや:わすれて】


 分かった、と打とうとして思い留まる。そうして頭の中ではどうすれば話を続けられるのか、と考える部分が出来ていた。

 『しんや』とは本の返却を急かされて、それから野球が好きって事しか分からないような仲だ。けれどそんな何も知らない人間とのやり取りに、自分でも分からない内に密やかな非日常的な楽しみを見出していたのかもしれない。

 下心じゃない。多分。きっと。


【高橋 隆信:気になるんだけど。俺聞いてもいい話?】


【しんや:だめなやつ】


 意を決したのに無情な返事がきた。あんまりだ。

 落ち込む間もなく通知の音がすぐに響いた。


【しんや:高橋くんには言えぬい】


【しんや:ぬってなに】


【しんや:わすれて】


 なんか、嫌われている訳ではなさそうだ。

 心なし軽快に返事を打ち込んでいく。『しんや』は向こうでどういう顔して待ってんだろうな。


【高橋 隆信:実は俺、お前がクラスの誰か知らないから。恥ずかしくないぞ】


【しんや:しってた】


【しんや:でもはずいし】


 返信がぽんぽんと飛んでくる。どうやら閉じもせずにずっと返事を待っていたらしい。


【しんや:どうせクラスの名前おぼえてないよね】


【高橋 隆信:名字は大体覚えてるけど】


【しんや:私の事探すの禁止ね】


【高橋 隆信:たまたま分かっちゃったらごめんな】


 そこでしばらく返事が途切れる。

 張り付いているのもなんだか期待しているようで馬鹿らしい。枕元の文庫本に手を伸ばそうとした時、ようやくぴこんと音が鳴る。


【しんや:それはゆるす】




 

 生徒の名前なんていくらでも見る機会がある。教室の後ろに張り出された掲示の中からそれらしいのを探そうとすればすぐだ。だから俺は出来るだけそっちを見ないようにした。

 この教室の中の誰かが『しんや』なのかと思うと不思議な気持ちになる。今までと同じ光景に違う意味が付けたされたのだ。落ち着かないままに女子の後頭部とか見つめていたので意識的に行動を打ち切る。流石にキモい。

 悪友が「夏休み、今年は祭どうすんの?」と聞いてきた。「会ったらよろしく」とだけ言って黒板を写すのに集中する事にした。俺はいつだって誰にも誘われねーけど帰りは誰かと一緒なんだよ、よく分かんないけど。




【しんや:りんごあめ】


 「きいて」以上に意味が分からない言葉が飛んできた。

 しばし迷ったが追撃の言葉はない。既読で無視するのもなんなので、こちらから続ける事にした。


【高橋 隆信:食べにくいよな】


【しんや:かわいいとかで昔ママがすごく買って】


【しんや;食べ切れなくて困って】


【しんや:見た目だけだあれ】


 どうやら選んだ言葉は正解らしい。こちからが言葉を挟む間もなくぽんぽんと飛んでくる。


【しんや:高橋くんがかわいい好きじゃなくてよかった】


【高橋 隆信:可愛いのも悪くはないんだろうけどな。あんず飴なら?】


【しんや:あれはゆるす】


 どうやら向こうも上機嫌らしい。

 完全にどうでもいい話なんだけど、どうでもいい話が出来るぐらいにはお互い気持ちの良い関係ではあるみたいだ。

 文庫本の栞があまり動いていない。返却期限までに読み切れるかな。


【しんや:なので今度の祭】


【しんや:女子に奢るとき、りんごあめはやめてください】


【しんや:おこる】


【高橋 隆信:全員にりんごあめ奢ったら、怒った奴がしんや?】


 あぁ、しまった。ちょっとこれは踏み込み過ぎたかもしれない。

 まるでこれでは、探らないでと言ってた正体を俺が知りたいみたいじゃないか。結構楽しく話が出来ていたのに、こんな事で拗れさせたくはない。

 心臓が跳ねる。ぴこん、という音。息を吐いて画面を見る。


【しんや:できるもんならやってみろ】


【高橋 隆信:嘘です無理です】


 俺が気にし過ぎていただけかな? それともこのぐらいは許してくれたのかな?

 なんにせよ、次からは気を付けよう。




 次の日、なんとか返却期限までには読み切ってやろうと昼休みに文庫本を開く。こうなってしまっては内容が面白い面白くない以前に、区切りの悪い気持ち悪さを避けるための行動だ。

 図書室の椅子は教室のものより少し高い。届かない足をぶらぶらさせる悪友を避けるためにここに来ているはずなのだが、何故だか今も隣にいる。

 「お前な、本は家で読めばいいだろ」暗に自分と遊べと言ってくるそいつの頭をがしがしと撫でて放置する。こっちにはこっちの時間の使い方があんの。




【高橋 隆信:今日、体育、しんやは大丈夫だった?】


 午後からの体育の授業、女子の方では何人か熱中症になってしまったと聞いている。今日は猛暑日、担任も注意すべきだったのだ。

 男子は体育館での球技だったので特に被害はなかった。クソ暑い事には変わりはないが。

 ほんの少しつかない既読。けれどじれったく寝転がったその時に通知がぴこん。


【しんや:むしろ助けた方】


【しんや:めっちゃあつかった】


【しんや:むかつく】


 どうやら無事のようだ。彼女の態度にか、少し口元が緩んでしまう。


【高橋 隆信:中止にした方が良かったよな、今日。どう考えても】


【しんや:ほんとね】


【しんや:それかプール】


 誰かがプールの掃除をサボっただとかでプール開きは延期されてしまっている。塩素の臭いが恋しい。

 ほんと、誰かのせいでな――そう打ち込もうとしている間に次の言葉がきた。


【しんや:倒れたの男子だったら】


 それから、ほんの少し間を置いて。


【しんや:高橋くんは助けたよね】


 男子側で熱中症があったら。そりゃ助けるに決まってる。


【高橋 隆信:むしろ助けないなんて言う奴いないだろ】


【しんや:こっちはすぐに動かないの多かった】


【しんや:ぜいいんぼーっとしてて指示待ちみたいな】


【しんや:私が一番に動けた】


 それは良い事だよな。お前のおかげで軽く済んだのかもな。凄いな。言葉を幾つか頭の中で並べている内に、もう次の言葉が来る。


【しんや:高橋くんならやるかもって思ったから】


 意表を突かれた感じだ。頭に並べていた言葉がすっと飛んでいって意識が真っ白になる。

 そうして真っ白の中に染み込むように言葉の意味を理解していく。なんだ、なんで俺だ。

 悩んで、出来るだけ何の意識もしていないような言葉を選んだ。


【高橋 隆信:まぁ俺は良心の塊みたいな奴だからな】


【しんや:高橋くんいつも隅っこにいるのに】


【しんや:なんかあったらすぐに纏めてくれて】


【しんや:皆を見てるからそこにいるんだなって】


 あーあー、これはダメだ。スマホを放り投げて頭から布団を被る。

 ぴこん、ぴこん、追撃の音が鳴る。それが鳴り止んで少ししてから、そろそろと再び手に取って。

 上の文章を出来るだけ見ないようにしつつ言葉を打ち込んだ。


【高橋 隆信:ほんと恥ずかしいからやめて。寝る】




 その日の体育は女子が倒れた事もあって問題になったのか、男子だけでプール掃除をする事になった。あまりにも理不尽。

 疲れ切った午後の授業中、SNSを開いて『しんや』からの言葉をさかのぼる。めちゃくちゃむず痒い事を言われているが、こんな面と向かって言われないような褒め言葉を連打されると嫌な気はしない。心の体力が回復していく気がする。

 「なにニヤついんだよ、アホか」と悪友が隣から小突いてきた。元気いっぱいでいいよな、お前。




【しんや:なつまつり】


 端的な言葉ももう慣れたものだ。これもうこちらからの反応待ちというか、取っ掛かりの言葉なんだろう。

 俺は『しんや』の事を知らない。だからこれはお誘いなんかじゃない。


【高橋 隆信:いくの?】


【しんや:誘われてる】


 それからしばらく時間が空いた。

 仕方がないのでこちらから文章を作る。


【高橋 隆信:俺も行くと思う。お互い適当に楽しむか】


 それから、また時間が空いて。ようやくと向こうからの言葉が送られてきた。


【しんや:誘おうと思ってた】


【しんや:けど、なんか最近本読んでるし】


【しんや:邪魔できなかった】


 向こうは俺の事を知っている。その事が少しだけ歯痒い。

 遠回りな誘いの言葉にも見えるけれど。


【高橋 隆信:今誘ったじゃん。別にまだ予定ないしいけるぞ】


【しんや:いい】


【しんや:こっち予定ある】


【しんや:だからもういい】


【しんや:おやすみ】


 それっきりで、その日はもうおしまいだ。

 勝手な事だけれど、それだけで腹が立つほど俺は『しんや』の事が嫌いではなかった。というより、そういう態度をすっと受け入れられる。

 子どもっぽいもんなぁ、あいつ。


【高橋 隆信:おやすみ】


 既読が付いたのは次の日の朝だった。

 そんなの確認する俺もきもちわりぃや。




 日直になったついでに名簿を確認してみるけれど、『しんや』なんて名前はなかった。グループの人数はクラスメイト全員で丁度だから他のクラスの誰かが紛れ込んでるって訳でもない。

 日誌には真面目ぶった文章を書いてすぐに提出した。『しんや』に言われて気付いたが、俺は結構要領がいい方なのかもしれない。要領だけが良いからいつの間にか混ざっていつの間にか消えてる謎の人になってるんだけど。

 愛想もちょっとは良くした方がいいのかもしれないな。そう思って悪友に話しかけてみると「うっざ。お前うざ絡み得意かよ」って言われた。普通に傷つくわ。




【しんや:ごめん】


 また唐突な言葉だった。いつも通り、次ぐ言葉はすぐには送られてこない。

 余裕を持って返信する。


【高橋 隆信:学校で本読んでるのお前のせいだから。いつもこの時間読んでる】


【しんや:しってるごめん】


 語尾がごめんかよ。

 矢継ぎ早に返信が送られてくる。


【しんや:ほんとじぶんかって】


【しんや:迷惑なの分かってるし】


【しんや:こんなのごめん】


 焦ってるんだろうな。こっちも言葉の選び方が良くなかった。

 とりあえず落ち着いてもらわないとな。


【高橋 隆信:分かってくれれば気にしない。ていうか初めから俺は気にしてない】


 向こうの返信が止まる。何か迷っているのだろうか、それとも俺の言葉を待っているのだろうか。

 あぁ、こういう時は不便だな。落ち着いているだけならいいんだけど。


【高橋 隆信:俺はしんやが連絡くれて楽しかったよ。マジで誰も送ってくる奴いないし】


【高橋 隆信:ちょっとキレるぐらい誰でもあるし。謝って許さないほど心狭くないから】


【高橋 隆信:お前が連絡くれなくなる方が寂しい】


 一通り送ってから気付いたけれど、結構恥ずかしい事を言っている気がするな。

 まぁ、でも、いいだろう。向こうが何かを思ったとしてもきっとそれは勘違いではないし。今ここで全部恥ずかしい思いはしておいた方がいい。

 ベッドで転がりまくっていると、ぴこん、いつもの音が耳に届く。


【しんや:夏祭り誘わなくて良かった】


【しんや:私絶対もっとじぶんかってだし】


【しんや:許してもらえてよかった】


 通知が鳴り止んで。

 息を整える。恥ずかしい思いを、全部、ここでしようと決める。逃げ道になるベッドから離れて、部屋の中央で無駄に正座して文面を考える。

 大丈夫だ。今日の俺もパンツ一丁ではない。人前に出られる。


【高橋 隆信:明日は俺から声かけるよ。いつでも話そう】


【しんや:ごめん】


【しんや:ありがとう】


【しんや:ごめん】


 通知が鳴り止んだことを確認してから最後の文章を打つ。


【高橋 隆信:それじゃおやすみ。またあした】


 返信の通知はそれから十分ぐらい経ってからきた。


【しんや:おやすみ】




 次の日、空は雲一つなく晴れ渡り、ムカつくぐらいに暑かった。文句を言いながら黒の詰襟に袖を通して、夏休みまで残り少ない学校生活へと向かう。普段なら登校中の半分ぐらいで弱音も吐きたくなるところだけれど、その日はやるべき事が足を軽くしてくれた。

 教室、自分の机に座って。用意してきた言葉を、緊張しないように、噛まないように、あと出来るだけスマートに見えるように、隣へと投げかけた。


「夏祭り一緒に行くぞ、真矢まや


 悪友は顔を真っ赤にしてこちらを見た。

以下のお題を貰って書きました

・同級生

・だらだらとline

・私の知らない【あなた】

・足の届かない椅子

・りんごあめ

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[良い点] 二人の関係がエモすぎて浄化されそう(小並感 しんやかわいいよしんや
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