第二章ー嵐の夜・2ー
短いです。
会場には沢山の招待客がいた。ルスティカがマレーナのお披露目を盛大にするために片っ端から招待したのだから当然だが。
(どこにいるのかしら?)
マレーナの白銀の髪は見つけやすいだろうがいかんせん人が多すぎた。なかなか見つけられない上に誰もがこぞってルスティカに挨拶をしたがったのでなかなか前に進まず、マレーナの元まで辿り着けずルスティカはもどかしい思いをした。
「ご機嫌麗しゅう、殿下」
「王宮の最奥にいらっしゃる殿下にお目にかかれて恐悦至極に存じます」
「たいへんお美しくなられて――」
父王はルスティカを人の目に触れさせることはしたが人前に出すことは滅多になかった。なのでいかに重臣といえどルスティカの顔を知っていても直接話したことがある者はほとんどいなかった。
というのも妻であった女王アルベルティーヌを暴漢に襲われて亡くしたためルスティカを王宮の最奥部で厳重に守り、限られた者との交流しか許さなかったのだ。
そうすることで王家直系の後継者の身を守ろうと考えた。
いつもバルコニーの下にいた民。あるいは赤い椅子の下に並んでいた臣下たちとこうして対面するのはルスティカにとってはじめての経験で、だからこそ新鮮でもあり彼らの声を無下にはできなかった。
そのためルスティカの歩みは遅々として進まないのだった。
「皆さんごめんなさい。わたし、マレーナを探しているの」
だがそんな物珍しさも最初だけだ。忍耐の限界が近づいていたルスティカはそうそうに口火を切った。
「まあそうでしたの。それは失礼を」
「残念ですが殿下の邪魔はできません」
そう言って人々は道を開けたのでようやっと前に進むことができた。
ほどなく探し人を見つけることができた。父王の言っていた通り、マレーナは40代くらいの、少し恰幅のいい男性――シャクールと話をしていた。
「マレーナ」
「お姉さま。どうなさいましたか?」
ルスティカの予想とは違いマレーナはいたって平静だった。それにルスティカはホッとするより肩透かしを食らった気分になりながら答えた。
「お父さまが……マレーナはこういった場所には不慣れだと言うのにシャクールと一緒なら大丈夫だとあなたを一人にしたものだから気になって」
「そうでしたか。ありがとうございます、お姉さま。お気遣いくださって」
それもマレーナの笑顔で帳消しだ。ルスティカも笑顔になる。
麗しいこの光景にシャクールは嬉しそうに言った。
「黄金と白銀の薔薇姫が並び立つ姿を拝せるのは実に僥倖です。寿命が延びるようですよ」
好好爺として笑う重臣にルスティカは頷いた。
「それは良かったわ。大臣には壮健でいてもらわないと」
「ありがたきお言葉。健康だけが取り柄です。いつまでも殿下方にお仕えしたいと存じます」
「そうしてくれると助かるわ。――マレーナもそう思うでしょう?」
「えぇ、お姉さま。大臣は賢人と名高く、博識なんですよ。いろいろ教えてくれて助かります」
ルスティカは目を瞬かせて妹を見た。
「あぁ、そういえばマレーナとシャクールは知り合いなのよね?どこで知り合ったの?マレーナを連れてきてくれたのもシャクールだったし」
マレーナは微笑んだ。母に似た、気品漂う笑み。それだけでルスティカは何も言えなくなった。
「偶々ですよ、殿下。いやしかし銀の薔薇姫を宮殿へ返せてよかったです」
シャクールは笑って恭しい礼をとった。
「ええ本当にありがとう、大臣」
マレーナとシャクールの打ち解けているやり取りにルスティカは取り残されたような気持になった。
そして気になった。
――マレーナはシャクールといままで、何の話をしていたのだろう?
それは忍び込んできた影のようで、考えると冷やりとした。だからルスティカはマレーナに訊けなかった。
そしてシャクールにも。
けれどその感覚は妹と他愛ない話で談笑をしている内にルスティカから抜け落ちていった。