第一章ー失われた王女の帰還・4ーそれぞれの思惑
昨日更新できなくてすみませんでした。
チラッと新キャラが出ます。
「アレがルスティカ姫ですか。……なるほど、見てくれだけは良いですね。神の形代――象徴の王という意味ではあれほど戴くのにうってつけの王女はいないでしょう」
「皮肉と悪意に満ちた評価と言い回しはやめて。わたしのお姉さまなのよ?」
「姉妹なのに随分違いますね」
「……育った環境が違うもの」
「あの王女は温室育ちですからね。あなたが味わった屈辱と辛酸をあの姫は知らない」
「知らなくて当然なのよ、お姉さまは。――何も知らない、知らされていない」
「マレーナ。無知は言い訳になりません。無知は罪でしょう」
「いいえ。知ろうとしないことが、考えようとしないことが罪なのです。……お姉さまは、違うわ」
「どこが?ルスティカも同じでしょう。王族らしい傲慢な姫だ」
「……わたしも、そうだったかもしれないわ。何も知らずにココで育っていたら」
「それはあり得ませんマレーナ。あなたこそアルベルティーヌ女王の後継者に相応しい、聡明な王女です」
「ありがとう。でも本当に、わたしとお姉さまに大した違いはないのよ」
「!そんなことは――」
「いい加減にしろ、ナジブ。マレーナを困らせてどうする。……それでマレーナ、これからどうする?」
「予定通りに進めます。お姉さまの戴冠に合わせて婚姻の儀が執り行われるであれば――この機を逃すことはできません」
「俺もマレーナに賛成だ。お前は?ナジブ」
「的確な判断です。俺が反対する理由はありません」
ルスティカはマレーナの歓迎パーティを企画する傍らで折を見て妹との時間を持つようにしていた。
15年ぶりに逢った双子の妹。自らの半身であり片割れであるマレーナとの空白の時間を埋めるようにルスティカはマレーナと姉妹の時間を作った。
寄り添う姉妹の姿は夢のように美しかった。黄金の薔薇姫と銀の薔薇姫が仲睦まじくしている様子を城の者は微笑ましく見守っていた。
「ルスティカは――今日もマレーナ姫のところか」
ルスティカの部屋を訪れたアシュガルは苛立ちを紛らわせるために空笑いをした。
「興味なさそうにしていたくせに、再会した途端、妹姫にベッタリとは。は、可愛らしいところもあったんだな」
「それは……この世で唯一、血を別けた姉妹でいらっしゃるからでは?」
「ふん、そんなものかな」
侍女の執り成しにアシュガルは不服そうに息を漏らす。ともあれこれで彼のプライドは保たれ、体裁は整った。――そこへ。
「失礼します、アシュガルさま。陛下がお呼びです」
叔父である現国王からの呼び出しがかかった。
謁見の間には叔父だけではなく父であるアヒメレク大臣も玉座の脇に控えていた。他にひとの姿はない。あくまで内々の話であることを悟って彼は憂鬱になる。というのも――
「どうだ?ルスティカとはうまくいっているか?」
用件などこの一言しかないからである。
いつもなら「まあまあですよ」と答えて終わりだったが苛立っている彼は叔父と父もやきもきさせるべく今日は付け加えた。
「もっとも我が妻は妹姫に夢中みたいですがね。いくら17歳とはいってもまだ子供……」
言った途端、空気が凍り付いたのが解った。自分の予想とは違う反応にさすがの彼も戸惑い言葉を止めた。
「……なんです?」
アシュガルの笑いがひどく乾いたものになる。頬は強張り口の形が固まってしまった。
「――ルスティカはマレーナと懇意にしているのか」
「そうみたいですね。別におかしなことではないでしょう?――姉妹なんですから」
異様に重い空気に耐えかねたアシュガルはわざとらしく言った。なぜ父と叔父がこれほど逼迫した顔つきをしているだろうか。まるで見当がつかないからこそ、恐ろしい。
何か――自分の知らない昏い何かがある気がして。
「アシュガル……」
重々しく名を呼ばれる。
「ルスティカ姫をお前に夢中にさせろ。……他のことになど目がいかぬように、な」
冷淡な響き。父の表情はぞっとするほど冷たく――彼は疑問を口にすることもできなかった。そうしなければならないという脅迫観念だけが生まれた。
「頼んだぞ、アシュガル。――そなたにかかっているのだからな」
ルスティカの父であるダール王もそう言う。アシュガルは疑問を指し挟む余地などなかった。