第一話
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シルフォードでの貴族の反乱とも言える騒動の一件より、数ヶ月の時が過ぎていた。
その騒動の原因であるシルフォードの一部の貴族達と、ドルイド王国の貴族達の行方は解らないままだ。ただ色んな噂がある中で一番の有力な情報としては、どこかの次元に飛ばされたのではないだろうかという事らしいのであるのだ。
「あのね。ユウマさん!どうもあの問題を起してた貴族連中なんだけど・・・ホントに突然消えちゃってるんだって、レイちゃんの話じゃね、ホントだったらレイちゃんが私の代わりに天罰を与えるつもりだったけど、忽然と消えちゃってどうしようも無かったらしいのよ・・・」
女神で我が妻の1人であるフィーナの話では、どうやら現在育児に専念しているフィーナの代わりに、スレリア大陸を見守っている新任の女神であるレイから事情を聞いたらしい。
まあ、そのフィーナの代わりに常時女神の仕事していたレイは、何故か知らないが俺の事を兄と慕っているのだ。それで今回問題を起していた貴族達に対して、レイ自身もかなり頭にきていたらしく、貴族達がシルフォードを出た所で天罰という名の制裁を与える気でいたらしいが、それを実行する前に突然その移動を開始した(正確に言うと王国から逃げ出そうとした)大群の姿が突如として消えてしまったらしいのだ。
それに関しては後から時の女神メルティナである我が妹のティナにも確認を取ったら・・・。
「うんとねお兄ちゃん!どうやら最近アーストリアの所々に時空の亀裂やら空間の歪みが観測されてるの。それでだけどね、恐らくだけど・・・」
ティナの話では・・・その貴族達の大群は、シルフォードで起きた天災級の災害に巻き込まれたようなのだ。しかも、どうやら最近ではあるが所々で時空や次元が不安定になっているらしく、恐らくは何らかの原因で、その時に発生した次元の亀裂かなにかに運悪く落ちてしまい・・・どこかの時代か、はたまた別の世界に飛ばされたのだろうと説明してくれたのだった。まあそれは運がいい方で、もしかしたら次元の狭間でさ迷ってのたれ死んでいるかもしれないと追加で教えてくれたのだ。
普通なら救出する案件なのだが、今回行方不明になった者たちは・・・あまりにも素行が悪すぎるらしく救出は行わないらしい。その他の者に関してはちゃんと救出や援助を行っている事も教えてもらった。
そんな事が解ったけど、今更どうでもいい事のような気がする。別段あのゴミ蟲貴族の居場所が解ったと言っても・・・俺自身も助ける気は毛頭無いし、制裁を今更行う気もない。実を言うと、すでに色々と呪い的な事を行っていたからだった。
まあ、大体あいつらは自業自得で、そう言う運命に陥ったのだから自分達でどうにかしろと言いたいので、すでに関わりたく無いのが本音であった。
実際そんな事は既にどうでもいいと思う。現段階でシルフォード公国は、以前にも増して活気溢れる場所となっている。ただし規模的には以前より若干小さく縮小された状態になっており、貴族街は完全に取り壊される形になり・・・ついでに言うと貧民街と言われてた場所もなくなっている。
その場所に関しては、既に住人はいないし農園も跡形も無くなっているからである。それに以前有ったこのシルフォードで一番大きな冒険者ギルドとその周囲の店舗も既に跡形もなく無くなった状態なので、早い話以前の広大な広さがあったはずのシルフォード公国も、その部分が縮小された形になっていたのであった。
「しかし、シルヴァ義兄さんも思い切った事をしたよな!あの時点で公国内での貴族の権力廃止とシルフォードにある学園を閉鎖するなんて・・・」
まあ実際貴族に関してはあくまで公国内であり、領主等をしている貴族に関しては除外されるようだ。それに学園関係に関しても、どうも不正が多いかった様で、この際だから全ての学園を閉鎖してしまい、全てを神聖霊国にある学園都市にゆだねる事にしたらしいのである。
現時点で縮小はされたがシルフォードの公国としての運用は、全く問題ないと言う事になっているのであった。
そんな事があった中で、現状神聖霊国内の開拓を進めていると・・・俺は突然見知らぬ土地に立っていたのである。
「・・・・ん?」
確か俺はまた新たな住人を増やす事を考え、神聖霊街とは別でちょうど学園都市の反対側である東側の沼地を、俺が先頭に立って夢中で整備していると、何も前触れもなく俺の周囲が急に光り輝きだし、その眩しさに一瞬目を閉じた。
その後にそっと目を開けると、先程まで俺が居た沼地の場所ではなく、何故か今迄に見た事のない色んな種類の植物や木々が生い茂る場所に立っていたのだ。そうどちらかと言うとジャングルと言ってもいいような場所で、以前訪れた事のある時の迷宮内で偶然迷いこんだ辺境の魔界の森に近い感じの場所だった。
俺はその事を確認したまでは良かったが一旦思考が停止してしまった。そして、どう言う事なのかと思いながら周囲をもう1度確認して声をあげた。
「はぁっ、ここは?って・・・あれ、いったいどこだ!ここは?どうなってんだ。俺は確か・・・」
実際の俺の見渡した辺りには、今迄には全く見た事のない植物や木々が生い茂っており、少し離れて作業をしていた筈のアリア達の姿も確認出来なくなっていた。・・・というよりユウマが先程までいた場所と、全く違う場所に立っていたのだ。
しかもその事が何故起こったのかが解らないうえに、それらしい前触れもなかったからである。
「おっ、おい!これってもしかして、何かの冗談か?それとも実は俺が寝てるとか・・・」
この時点で俺は、冷静に考え現実逃避に近い考えを出したのだ。
そう思いたくなるのは、当たり前なのだがどうやら現実みたいだという事は、なんとなく俺は感じていたのである。
それはあきらかに先程までは俺自身が、沼地をある程度整地して上下水道の基礎工事をしていた筈で草木一本も生えてない状態の土地だったのだが、現状俺の居る周囲にはいつの間にか自分と背丈の変わらない程の草やら樹が生い茂っていたのだ。しかも俺の知らない草木で知っている同じ種類の植物が全く存在して無かったのだ。
「まっ、まさか!また変なとこに飛ばされたとかか?この間も・・・」
俺がこの言葉を漏らしたのは、実はホンの1週間程前にも似たような現象があり、ある場所に強引に転移された事があったからである。
その時は誰からも説明される事もなく、別にたいした事でもなかったので自身の持つスキルを使用して、元の場所に戻ってきた。実際これに関しては後日神界で問題になっていた様で大騒ぎだったらしい。
どうやらこのアーストリアとは違う、どこかの世界で何も考えてない馬鹿な人が勇者召喚を強引に行い手順を間違った様で、その影響によりアーストリアの住人である数名がその世界に召喚されてしまったそうだ。
ただし俺がその中に含まれていたのが幸いして、その召喚されていた全員が無事女神様達の力により、アーストリアに帰還していたのだ。
ついでに言うと、以前ティナの説明であった様にアーストリアのある世界の次元が不安定になっている事があるので、その影響が大いにある事も聞かされていた。
実際にこういう事は稀にあるようなのだが、今の状態だとどのような事が起きるか解らないらしい。ホントならその世界に住む神が最初に連絡をくれるか、もしくは正式な召喚の儀を行なえば基本的には、どこに召喚されたか解るらしい。
ただそういう手順を踏まずに召喚しようとする愚か者が時たまいるらしいが、その殆どが失敗に終るか召喚された者が、どこに飛ばされ解らなくなるらしいのである。それに今のアーストリアの状態では抑止力事態が存在しない事まで説明してくれた。
そんな事が以前にもあったので、俺はまた変な召喚に巻き込まれたのだろうと思ったのである。
第十三章:第二話につづく




