第十五話
目に見える光景の中で俺は唖然としていた。
「・・・なっ!なんだっ、この状態は?それにあいつは・・・」
今現在、ユウマから少し離れた場所で行なわれている戦闘は、なんとも言えない状態だ。
まあ、幸い操られているであろう鬼人とエルフ達4人は無事ではあるが、何故か一箇所に固まった状態である。どうやらエルフに擬態した魔獣である1体の蟲ゴブリンという変なゴブリンを4人が4方向から護っている感じなのだ。
その蟲ゴブリンは護られながら、なにか魔力を行使しているようであり、どうやら植物系の魔獣に群がっている無数の蟲を操っている。それが植物系の魔獣と戦っていているようだ。
それとは別で、その場より少し離れてる場所では、巨大な獣と戦闘している鬼人に擬態したオーガ8体とエルフに擬態したデミゴッドゴブリン5体と魔法使いタイプのメイジゴブリン5体が戦っている。
ちなみに無数の蟲が戦闘をしているのは植物系の魔獣で、木のお化けであるトレントのデビルトレント5体と、食虫植物系のデーモンプラント2体だ。
獣に関しては頭が三つある巨熊のケルベロスベアーが3体と、体長10m級の蛇であるデビルスネーク2匹である。どうやらすでにオーガ3体とデミゴッドゴブリン2体は、地べたに転がっているので倒されてしまっているようだ。
ただ、デビルスネークの2匹の胴体周りが異様に膨らんでいるので、もしかしたら他のオーガかデミゴッドゴブリンの何体かが食べられてしまっている知れない。
状況から見ても劣勢だと思われるが、何せ森の生き物達は殆ど無傷な状態に対して、擬態しているオーガとデミゴッドゴブリン達は既にボロボロである。操られた鬼人とエルフもよく見ると傷だらけだ。
「しっかし、すごいな!この森に生息してる生き物達は・・・オーガとデミゴッドゴブリンを敵とも思ってないみたいだな。まっ、それはいいとして、あの怪我してる4人だけを如何にかして救出したいけど・・・」
実際に擬態した魔獣の事は、ホントにどうでもいいが・・・現状操られている人達(鬼人とエルフ)をどうにかして救い出したいとユウマは考えていた。
ただ単にこの場から連れ出すのは簡単だが、何も処置をしない状態で連れ出した場合、もしかしたらイヤリングの寄生生物に、その宿主の脳を破壊されてしまう可能性がある。何せ先程の鬼人とエルフ達を眠らせてからイヤリング等のアクセサリーを浄化したのだが、寄生されていた者達全員は今のところ昏睡状態になっていたのだ。
まあ昏睡状態に関しては、回復させる方法は色々とあるので問題は無いのだが、出来るだけ昏睡状態にならない様に救い出したい。
でも、今のところ方法がないので、試しに今回は時間を停止してみることにした。実は以前ホンの遊び心で創った時間停止の創造魔法で、その名も【時間静止】であり今回はその時間停止魔法を使用してみようと考えていた。
創生魔法で創ったこの【時間静止】は、確かに世界の時間を停止というより静止する事は出来るのだが欠点もあるのだ。それはその動いている時間の部分を静止してなかった事にしてしまい、実際に時間自体は進んでいる状態なのだ。
あくまで世界の動作が停止するだけで、空間の時間が停止するわけでなくちゃんと進んでいるのだ。それに物体を停止させれる時間も、実際に長くて2分程度なのである。
実はこれ以上の時間も静止は出来るのだが、長時間動作を静止させると世界自体が壊れてしまうらしい。まあ実際にそこまでの時間を静止して使う事は無いが、我が妹で時の女神であるティナによると『余り長く停止させると他の世界や次元で少しばかり影響が出て災害が起きちゃうから気を付けて』だそうなのである。
なのでワザと制限を掛けているのである。ついでに静止している間は、途方もなく俺の魔力は放出しているらしいのだが、全くもってよく解らない。
「とりあえずは・・・時間を止めたから、まずは4人を浄化して寄生されてる状態を解除してっと・・・それで、このまま一緒に瞬間移動でさっきの場所に戻るとしよう」
実際に【時間静止】を使用して、操られてる鬼人とエルフの4人の元に向かい、まずは蟲ゴブリンを軽く蹴飛ばしデーモンプラントの花弁の中に蹴り入れた。その花弁は袋状になっておりすっぽりと蟲ゴブリンを飲み込んだ。
それから操られていた4人の真ん中で聖光気を全開で放ち、アクセサリー関係が消滅したのを確認して、先程の場所である荷馬車の荷台がある場所に【瞬間移動】のスキルを使用して4人を連れて来た。
「よし、時間にして恐らく1分は経ってないはずだ!とりあえず解除!!」
すると今迄静止していた者達はすべて動き出した。まあ、実際今回ユウマが時間静止させていたのは、ホンの30秒程度だったので世界や次元に与えた影響は殆ど無い。というより誰も気付いて無いはずだ。
この世界で静止していた状態から、通常どおり世界が動き出したその頃、先程の戦闘を行なっていた部隊はというと・・・。
まず、最初に先程ユウマが蹴飛ばした蟲ゴブリンはというと、デーモンプラントの花弁の袋状の中に完全に吸い込まれていたのだ。まあ、生き物で言うところの胃袋に当たる部分だ。
『・・・ふははっ、我が蟲達の力を使いこの森全てのモンスターを操ってくれるわ・・・ん?暗いでは無いか、おい、生贄達よ!明かりをっ・・・《グシュュゥ・・・》へごっ!?うがぁぁぁ・・・』
あっという間に蟲ゴブリンはデーモンプラントの溶解液に溶かされて、デーモンプラントの養分となってしまったのであった。
それと同時に植物系の魔獣に群がっていた蟲達も、命令を出すモノがいなくなり、統率が取れなくなって全てデーモンプラントに吸い寄せられ捕食されてしまっていたのだった。
一方戦闘の行なっていた場所ではで、今迄蟲に邪魔されていたデビルトレントが自由に動き出し、触手でメイジゴブリン3体を絡め取り養分というより魔力を吸取り消滅させた。
それに劣勢だったとはいえ辛うじて戦えていたオーガとデミゴッドゴブリン達も、メイジゴブリン達の援護がなくなった事により一瞬のうちに全て倒されケルベロスベアーとデビルスネークに捕食されてしまい、最終的には死体というより存在自体残ってなかった。
それでユウマの方は、助け出した4人もやはりどう言う訳か、先程助けた者達と同じ昏睡状態となっていたので、恐らく寄生されて時間が経ってしまった事が原因であると最終的に考えた。
「やっぱり、駄目だったか!まあ、いいや、とりあえず拠点に連れて帰ろう。後はそれから考えて場いいか!・・・戻ろう」
今回の事でどっちにしろ、寄生生物に取り付かれて時間が経過してる場合は、どうやっても脳に与えられた損傷は免れない事は解った。それならこっちにも一応対処方はあるが、どの道その治療を行なうにしても、女神シルクと相談しようとユウマは考え、現状の状態のまま操られていた者達を連れて行く事にした。
その事を確認した後に【瞬間移動】のスキルを使用して、中心部の拠点である場所に戻ったのであった。
第十一章:第十六話につづく




