第二十六話
実際に真ベルステリア神聖星に訪れていたのは、時間にして2~3時間程度であったが、ユウマには物凄く長い時間あの場所にいた様な感覚に捕らわれていたのであった。
アーストリアの神界にある転移魔法陣の部屋に戻って来たのだが、何故か周囲が真ベルステリア神聖星に行く前の静けさと違い・・・物凄く慌しい状態になっており、守護天使達があっち行ったりこっちに来たりとして俺達に全く気付いて無いのである。
「ん?・・・どうかしたのか。なんか騒がしいような。っていうより、忙しそうだな。俺達に全く気が付いてない」
そう実際、転移魔法陣のある部屋には入ってきてはいないが、この部屋の入り口には扉はない。それに今俺はその入口から顔を出し覗いているのだが、目の前を先程数人が荷物を持って通り過ぎて行った。
「えっと、ちょっと私が確認してきますから皆様フィーナ様の部屋で待っていて下さい」
俺が顔を出して覗き確認していると、ミアちゃんが俺の横から顔を出して、自分が確認してくると言い駆けて言った。とりあえずミアちゃんに任せて、俺達はミアちゃんが言っていたようにフィーナ様の部屋に行く事にした。
しかし、これはいったいどう言う事だろうか、確かにここを離れる前は異常な程の静で今までに感じた事が無かった。・・・だが、今回の用事を済ませて、この場に帰ってきたら朝の静けさが嘘のようになって、元の騒々しさが戻って、守護天使達が慌しく動き回っている。
まあ、ただ慌しく動き回っているが危機的状況という訳でなく、必死に荷物運び重点に行なっている感じで、それに下界で何かが起こっているという訳では無いようなのだ。
フィーナ様の部屋に、歩いて向かっていながらフィーナ様とティナが先程の騒々しさを思い出しながら話ていた。
「あれは、どうしたんだろうね?みんなあんなに忙しそうだけど、なにかあったのかな・・・。何か連絡あったメルちゃん?」
「う~ん、何も無いけどね。まだ、緊急時の権限は私に譲渡されたままだから、緊急事態があれば連絡があると思うけど・・・!?でも、あれって、なんか荷物を片付けてない?」
「まあ、あの光景は不思議だけど・・・ここは、ミアに任せましょう。ささっ、早く私の部屋にいきましょう」
何せフィーナ様にも時の女神であるティナも、不思議そうに慌てまくる守護天使達の方を気にしながら、最後はミアちゃんに任せようと話していたからである。
実際に緊急時等の危機的状況になった場合は、まだ、代理である女神候補の6名ではなく、現状は時の女神メルティナであるティナか、アーストリアの女神であるフィーナ様に即連絡が来るし、そうで無くてもフィーナ様専属の守護天使であるミアちゃんの元に連絡があるはずだが、先程のミアちゃんの様子ではそのような雰囲気ではなかったのであった。
それでとりあえずはフィーナ様の部屋に、来たのはいいのだがやる事がない・・・一応、先程フィーナ様の双子の妹であるフェリエちゃんとフィリエちゃんがお菓子を食べたいとおねだりしてきたので、現在フィーナ様の部屋にあるテーブルのうえには、色々なお菓子の他にデザート類や果物類(皮をむいて食べ易いようにしたもの)を置いてやると、何故かその場でお茶会が始まり、ガールズトークが始まったのであった。
流石に女の子達を地べたに座らせる訳にもいかずクッション類を渡しておいた。
それで俺はというと、話しについていけないのでフィーナ様の部屋の前にある空き部屋で、ソファーを出してそのうえで寝そべって魔導書を読んでいた。もちろん入口は開放して俺の方からも彼女達の方からも見えるようにしている。
まあ、そうしているのはミアちゃんが戻って来た時に、解る様にしただけである。えっ、それだったら一緒の部屋にいればいいのではと、最初はそうしようとしたが、少々恥ずかしい話と俺に何故か話しをやたら振ってくるので困るし、出来れば静かに魔導書を読みたかったからである。
すると俺はいつの間にか寝てしまっていたのであった。
時間にして大体1時間程たってからの事だろう、その間にミアちゃんが戻って来ていて事の真相を話そうとしていたのだ。
詳しい情報を仕入れてきたミアちゃんは、自身の姉であるルアちゃんとエミちゃんを一緒に連れて来て説明していた。
「たっ、大変ですよ。大変なんです。フィーナ様!メルティナ様!ユウマさん・・・ん、あれ?ユウマさんは」
フィーナの部屋に入って来るなり、声をあげたミアにみんなが驚いたように視線を向けが、ミアに関しては目的の人物の1人であるユウマの姿が見えない事に不思議に思い、こちらに向けられた視線は気にせず、ユウマの事を尋ねたのである。
「えっ、あっ、ユウ君なら、ほら隣の部屋で・・・あれ?さっきまで魔導書を読んでたんだけど、寝ちゃってるね」
そのミアの質問にはリンカが答え、そのユウマが寝ている部屋を指差した。その方向をミアとルア、それにエミも向けて一安心したところで、フィーナが声を掛けたのである。
「えっ、それで、どうしたの。何が大変なのミア?・・・それにルアちゃんとエミちゃんも一緒に連れて来て?」
「モグモグ・・・ゴックン!ホントにどうしたの。血相を変えて?もしかして下界で何かあったの」
フィーナとティナが少し心配になり尋ねると、ルアちゃんとエミちゃん顔色を悪くして言い難そうにしていた。
「えっと、それがですね。・・・・」
ミアがユウマのほうに視線を向けていたので、シルフィーがミアに声を掛けた。
「あっ、ミアちゃんユウマ様が気になるのでしたら、起してきましょうか?」
「あっ、いえ、シルフィーさん。今は・・・・」
それで寝ているユウマはいる事が解ったので、ここはあえて起さず、意を決して事の成り行きを話し始めた。
「まず今回の件に関しては、どうやら下界がどうのこうのじゃないみたいです。実際には・・お姉ちゃん達がお話します」
ミアがそう言葉にして、ルアとエミが前に一歩出て突然、ルアちゃんが土下座して話をしだした。
「「「「へっ?」」」」!?この瞬間この場にいた少女達は意味不明だった。
すると土下座した状態で、ルアが顔を上げて真剣な表情で話し出した。
「えっと、まず私から話します。その前に今回代理で来て頂いた女神候補の皆様にお詫びを、それから・・・」
「えっ、それはどういう!?ムグムグ・・・」
ルアの突然の行動とその言葉が良く解らず、何かを聞き返そうとした女神候補のサーシャだったが、それを何故かレイカが口を塞いで、それ以上喋らせないようにしたのだ。
レイカは、サーシャに小声で『最後までちゃんと聞こうぜ!』そう声を掛けると、サーシャは大人しくなり、首を縦に振ったのを見て、ルアちゃん続きを喋るようレイカが伝えた。
「こいつの事は気にするな。続きを頼むよ」
そのレイカの素早い行動は、ルアにとっては驚く程に早い処置で、この時点でサーシャが求めていたその事も説明するつもりでいたし、けなされても言いと考えていた。だが、この時点ではその必要性がなくなっていたのである。
それでレイカが言うように続きを話す事にした。
「あっ、はい、実は私の方はシルク様の件でありまして、実は女神候補の皆様にお断りをしたくこの場で謝罪をと思いまして・・・それにまだ来たばかりではありますから・・・」
この時点で女神候補達も、なにもしないまま代理の仕事が終わりなのかと思ったようである。
・・・まさか、代理をしないうちに、お役ごめんって事なの?それなら、それで補佐としてでもここに・・・。
この時は女神候補達、6名共そのように考えていたのであった。
しかし、これからルアが話す事は、そのような事は無かった様である。
「実は・・・」
「「「「実は!・・・ゴクッ」」」」
「その、シルク様が・・・ちょっと、調子に乗ってまだ修行を引き続き行い更なる能力をモノにすると言われまして、このまま行けば1月は戻ってこないと思います。それで、代理の件が以上に長くなると・・・」
「・・・・はぁ?」
「はい、これには色々と事情がありまして・・・・」
まあ、実際この後に詳しく話しを聞いたところによると、シルクは未来予見の能力を微かではあるが、出来るようになっていた。ただ、その能力を手に入れかなりの確立で状況を理解できる様になったそうだが、まだ完璧ではないそうで約束の期限には、間に合いそうにないらしい。
それで先に期間の延長をお願いしていたのだが、どうもその予見ともう一つ新たな力が目覚めそうという事で、後1月以上その修行を行なうと言い出したようなのだ。
その新しい力は、どうやら未来視のようで、それを取得して自身の力として実現できるようになる事が、未来予見ではっきりと見え、その事が判明したのでその事を決断したらしいのだ。それでその連絡がきたのがちょうど少し前だったらしいのであった。
それからは、長い時間の間簡易的な部屋では申し訳ないと言う事になり、返事を待たないウチに使ってない個室の部屋を片付けていたらしいのである。もちろんその個室の部屋にあった荷物は、全てシルクの部屋に全て押し込んでいるのであった。
何せ現状この部屋の住人シルクは、予定を守らず自身の為だけで全く戻ってきそうもないのと、余りにも空き部屋にシルクの私物を大雑把にほたっていたので、捨てる訳にも行かないという理由で全ての物をシルクの部屋に押し込んだそうである。
それで現在はようやく2部屋まで確保出来たらしいのであった。
どうやらマリエルの部屋にもマリエルの荷物を入れ込んでいるそうである。こちらに関しては部屋を埋め尽くす程ではなかったようであった。
ただ、それを詳しく聞くと殆どがシルクとマリエルの私物らしいのであった。ちなみにフィーナ様の私物は殆ど下界にあるユウマが作った神殿の倉庫内に保管しているので、この神界には殆ど残ってなかったのであった。
それでフィーナの部屋のある居住区には、3、4つの空き部屋があったのだが管理しているのが、フィーナとミアの2人だったのでその事を相談する前に、というより今回関係のないフィーナ様に相談するのは後にしようと言うようになっていたようであった。
それで今度はエミちゃんの方が、申し訳ないように話をしてきた。現状の土下座状態から顔を上げ説明したのである。
「すみません。こちらもマリエル様が、どうしてもまだ修行をすると言う事で、まあ、こちらは主にマリエル様、本人ではなく。今回一緒に連れて行かれた子達のレベルアップだそうです。それでユウマさんに謝罪をと思ったのですが・・・ユウマさんは・・・あれ、どこに行かれたのですか?」
まあ、実は似たような事だったのだが、こちらは緊急時は連絡すれば戻って来るそうだ。ただ、出来る事なら集中したいらしいので、問題が無かったらそのまま修行を続行したいそうであった。
しかしこの時、一番謝罪をした人物にエミが視線を向けたが、その人物の姿が見えなくなっていて、この場にいる全員確かめた。すると全員は先程までユウマがいた隣の部屋に、視線を向けた。
そこには、先程までソファーのうえに寝ていたユウマの姿はなく、顔の上に置いていた魔導書だけが残っていた状態であった。
「あっ、あれ?お兄ちゃん・・・」
「ホントだ!ユウ君どこに行ったんだろう?」
まず、ティナとリンカがそのユウマが寝ていたソファーの場所に近付き、魔導書を拾い上げ部屋の中を見渡していた。
「あれ、先程までソファーの上で寝ていましたのに、起きたならこの部屋に姿を見せると思いますが・・・それにここのドアも開けてますから、誰かが気が付くと思うのですが?」
「そうだよね。でも、動いた気配も無かったよ。それに・・・あれっ、ここの神界のどこにもいないよ?どこにいったんだろう」
シルフィーもその場所を確認しながら現状の状態を整理して答えた。それにフィーナはユウマの気配事態がこの神界に無い事を感じ取りみんなに説明した。
その言葉に、この部屋にいた娘達が全員不思議に思い、お互いに視線を交わして周囲を確認して頭をひねっていたのであった。
その頃その話題の本人であるユウマは、訳の解らない場所に来ていたのであった。
第十章:第二十七話につづく
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それは実際には魔導書を読んでいるウチに眠くなり、そのまま眠っていたのまでは、確かに覚えていた。




