第八十五話
それはこの戦闘をしている周囲一面を、土埃と共に霧のような水蒸気が立ちのぼり辺りに広がり、一瞬で見えなくなったのである。
その場所に現れたのは・・・・・そう例の森、辺境の魔界の森で、アリア達にボコボコにされて両手を失った魔人族の男キサールが現れたのであった。
そのキサールは、上空に出来た転移の魔法陣から落ちて来た為に、その下で土埃が上がっていたのである。それは恐らくであるが、水蒸気のような霧は、地面に激突する前に何らかの魔法を放ったのだろうと思う。
それで現れたキサールの開口一番に、魔神となっていたドロスに助けを求めたのである。
「たたっ、助けて下さい。ドロス様、あっ、あやつら化け物でした。どうか、どうかわたくしを治療してください。そうしないとあやらの放った追跡の攻撃魔法が・・・!?」
ドロスがそう声に出したと同時くらいに、上空からとんでもない魔力の塊が、異様な音を立てながら近付いていたのである。
《ドドッン、ドゴゴゴゴン・・・・》
そこは先程キサールが現れた場所の上空で、まだ維持したままの転移用の魔法陣の空間より聞えて来る音であり、その音の原因は以前・・・そうロンが例の森でキサールの止めを刺そうと、最後に放った魔法【水流爆破】の魔力の塊が凶悪な音と共に現れてきた。
それでそれは何故か、ボロボロの魔人族の男キサールではなく、そのキサールが助けを求めた魔神となったドロスにブチ当たったのである。
《ドッドドーン!シュュゥゥドゴン!》
『Gugooooooaaaaa!うががががっ、うがぁぁぁ、ぎ、ぎ、ぎざま・・・ギッ、キサール何をしてくれとる。こっ、この役立たずがぁぁぁぁ、もう知らん。貴様なんぞ!そのまま朽ち果てるがいい、うぅううう』
流石に無防備な状態で、アリア達に攻撃させて蓄積されたダメージの上に、極大魔法である【水流爆破】は防ぎ様がなく、そのうえ意表をついてきたのでどうしようもない状態であった。
「あっ、ああ、なっ、なぜです!ドロス様。それにそれはわたくしがやった訳では・・・」
『うっ、うるざい。この者達を倒せずここに招きおって、計画が台無しではないか、貴様が片付けんからだ!』
この時点で魔神ドロスは、まともに【水流爆破】が防がずに命中したために、自分の腕が吹き飛んでいたのである。
このタイミングでキサールが現れずに、早くこの場に現れるか、もう少し後でなら問題が無かった筈だったのである。
それは早い場合は、そんな攻撃魔法を受けてもドロスはビクともしなかったし、逆に遅く現れていたら今の傷は治っていたかも知れなかったのである。
しかし、ドロスは納得いかなかった。それで全ての原因はキサールだと考えていたからである。
それはキサールがあの森で、自分が先程まで闘っていたアリア達を、倒さなかったからだと思っていた。ただ魔神となった自分でも倒せない相手の事を、そして自分の事は棚にあげ、ただの魔人族の魔導師であるキサールが倒せなかった事が悪いと思い込み、全てをキサールのせいにしていたのであった。
そして、この場で待っていた筈のキサールを無視して、自分で魔神竜になる儀式を始めたのであった。
『もう、貴様は必要ない。我は自分で魔神竜へと融合進化を果たす事にする。貴様はもう既に我の部下にはせん。この役立たずが!貴様さえもっと速くに姿を見せれば、こんな事には・・・。それに、ここまで問題なかった筈だが・・・もういい、後は我でも出来る!貴様を生贄として行なうわっ、くはははっ・・・』
そう言葉を掛けドロスは、自分で魔法陣を起動し始めたのである。その時には既にキサールは、魔神となったドロスに裏切られたと、ワナワナと肩を震わせて怒りをあらわにしていたのである。
それでキサール自身が仕掛けたトラップを発動しようとしていたのだ。
・・・クククッ、ドロス様・・いや、ドロスよ貴様は永遠に魔神竜には融合進化は出来ない。何せこの魔法陣には私の仕掛けたトラップがある。私を生贄などのしても魔王竜は復活せんのだ!ククククッ。
キサールは心の中でほくそ笑んでいたのである。生贄すると聞いた時点で・・いや、それ以前からもしもの為に予防策を取っていたのである。
しかし、この時点でホントはキサールが起動する予定だったのだが、それを起動したのは魔神ドロスであり、そのドロスに向けてロンの仕掛けた魔法陣のトラップが発動したのであった。
《シュュゥゥゥン・・・!?ドドッドゴォォォン!》
その光景を見たキサールも驚きを隠せなかった。何せホントだったらキサールが、ロンが仕掛けたトラップの攻撃対象の予定だったが、この場で起動させたのは魔神であるドロスで、しかも先程片腕をなくしたばかりで、辛うじてその傷は自身の魔力で回復していた。
だが今度は魔法陣のトラップで両腕をなくす事になったのである。それはもちろん起動した途端に、魔法陣に溜められていた魔力が一気に、魔法陣の起動者である魔神ドロスに襲い掛かったのであった。
『・・!?Gabagooon・・・ぐっががががぁぁぁ!ぎっ、ぎざーでぅぎざまよぐも、いちどだけでだぐでぃどばでぼぅぅ・・・・ううううっ』
その魔法陣のトラップ魔法を嫌い、物凄く苦しんでいる魔神ドロスであった。しかしその光景を見ていたキサールは魔神ドロスのうめき声より、そのトラップ自体に驚きを隠せないでいたのであった。
「どっ、どう言う事だ?私はこんなトラップは知らない・・・まあ、だがいい、これで私は行動を起し易くなったぞ、ククククッ」
転移門広場の転移門前で驚き不適に笑うキサールをよそに、ロンはユウマを寝かせている近くで少し驚き、そして違う事を考えていたのであった。それは先程のトラップによる攻撃魔法である。ただ、それは自分が予想よりも、かなり弱く少なかったので有ったからである。
「えっ、あれって、以前僕が放った魔法じゃないですか、良かったちゃんと追いかけていたんですね。まあ、当たった相手は違いますけど・・・それに、良かったですちゃんとトラップが発動して、でも・・・うーん、しかしおかしいですね。あれだけ魔力を溜め込んでいたわりには、爆発が小規模でしたね。まあ、余り強力すぎても困りますが、それでも弱いような?」
ロンはそのように思っていたのであった。
まあ、それでも魔神ドロスには忍耐の限界を超えるものだったようで、最初のダメージから立て続けに攻撃を喰らった為に、防御能力が殆どなくなり、そのうえ二度も不意打ちを喰らった事により、物凄い弱体化を起していたのであった。
第九章:第八十六話につづく
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それで、そのボロボロになった魔神ドロスと魔人族の男キサールとの間で・・・?




