第三十六話
この時点でユウマは、大量のネギタマを新鮮な状態で確保していったのであった。
大量のオニオンロックを一掃して、もうすでに地下にある数十箇所の部屋の中は空っぽに状態になり、大量のネギタマの回収作業と、いつもどうり大量の魔石の回収がすべて終わった頃、まだ地上では幻影に惑わされているグレンが、肩で息をしながら何か変な事を喋り出した。
「なっ、なんなんだきさまは、何故ここまで切り付けても倒れん、しかもどうなっている?何故ここまで完膚なきまで切り付けているのに、何事もなくそのような笑みを漏らしている」
グレルはその場でユウマの姿が映っている氷の塊に向かって叫んでいる。いつの間にかグレル以外の者達には幻覚が解けてその光景はグレルが氷の塊に向かって必死に何かを喋ってる様にしかみえなかった。
それを見て、この場に残っていた娘達は半分以上呆れていた。
『ねえ、あいつ・・・今のうちやっつけたら倒せるんじゃない?』
『うん、私もそう思うよ?あいつ、まだ気が付いて無いよ。馬鹿だねきっと』
「あいつにさ、今から私の究極魔法を、喰らわしてやっていいかしら。なんかさっき必死になってたのがアホらしくなってきたわ」
「お姉ちゃん駄目だよ。さっきのこと忘れたの、あの時ユウマさんが現れなかったら、死ぬ気だったでしょう。私達を守るために、また同じ事する気なの」
ヨーコが怒るのも当たり前である。
あの時確かにフィリアは死を覚悟して命を燃やして対処しようとしていた。それなのに、何故かユウマが現れた途端に燃やしつくした筈の、命の炎はもちろん魔力までもが回復していたのだ。
まあ、そうとは知らないヨーコは凄い剣幕でフィリアに注意してきた。
「だっ、大丈夫よ。今はもう回復してるから」
「それでも駄目。お姉ちゃんすぐに無理するから」
「ふふふ、御2人ともホントに仲がよろしいですね。フィリア様、ヨーコ様」
「ホントだね。でも、そろそろあいつも気が付くんじゃ無いかな?いくらなんでも・・・」
メグミがそう声をみんなにかけた頃、流石にグレルも異変に気が付き出したが、それでもその氷の塊をユウマだと思いながら攻撃を加え続け声をあげた。
「ぐあああ、きさまぁぁぁ、いい加減に反撃してみたらどうなんだぁぁぁ、何故何も言わぬ。そして何故これだけ傷つけて平気なんだぁぁぁぁ。きさまは危険だ。危険すぎる」
そんな事を口にしているグレルをよそに、半壊した領主の館の地下からホクホクの笑顔で戻って来たユウマであった。
『主様。物凄く機嫌がいいよね。どうして?』
「そりゃ、当たり前じゃんか。今回の目的の物が大量に手に入ったんだぞ。これで殆どの材料が揃ったからな。これさえあれば色々な物が作れるし、今回の目的のカレーが作れる」
そうこれさえそろえれば、ユアの食べたがっていたカレーを作る事が出来る。それに他の娘達も結構楽しみにしているからである。
『ああ、あれですか?そのかれぇでしたか。主様達はそれを作るための材料探しをしてたんでしたね』
「そうそう、そのためネギタマは必需品だったんだよ。それにさっき切り刻んでみたら、なかなか品質で味も最高だったからな。色々な物も作れる」
『ふーん、そうなんだ?ねえ、それって月達も食べれるのかな?』
『ええ、お姉様。おそらく大丈夫だと思われますよ。ファルお姉様も食事は普通に出来ると仰っていましたから』
『そうなんだ♪ならなら、主様!月達の分もお願い』
その様な話を3人でしながら、肩で息をして氷の塊に必死に喋りかけているグレルの横を通りすぎてみんなの前まで歩いていった。
「そういえば、まだあいつ幻術が解けずに戦ってんだな。アホなのか?」
横を通り過ぎそう声を漏らしながらみんなの元に向かった。
そのユウマを見て、みんな不思議に思い声をかけた。
「ユウマ様どうしたんですか、突然どこかに行ってしまわれて」
「ユウマ、あんたねぇ、なんであいつをほったらかしにして、どこに行ってたのよ」
シルフィーとフィリアに質問されたので、とりあえず答える事にした。
「ん?ああ、ちょっと今回の目的の品物を持ってる奴があの奥てっいうか地下にいっぱい居たんで狩ってきた。それはもう大量にもうホクホクのルンルン気分ですよ」
ニコニコして2人の質問に答えていると、メグミとヨーコはその様子を見て呆れていた。
まあ実際今回の一件をみんな知っているので、その事に関してはさほど驚く事は無いのだけど、今現在半分以上むきになり、ユウマがかけた幻影で氷の塊をいまだ攻撃している魔人族をどうするのだろうと思っていた。
しかし、何故かみんなこのときまで魔人族の攻撃している氷の塊が、普通の氷の塊ならとっくに砕け散っている筈なのに、いまだ砕けてない氷の塊については誰も突っ込む者がいないでいた。
何せ聞いたらまたとんでも無い事を言い出しそうなので、怖くて聞けなかったのが本音である。
そうこのとき相手の前に出していた氷の塊は、ただの氷でなく魔力を極限まで圧縮した氷であって、硬度も並大抵の剣や魔法では砕けない、もはやこれは氷というより鉱石、最上級のクリスタル鉱石に近い代物となっていたのであった。
今だネギタマの事を話しているユウマに対してフィリアが声をかけてきた。
「ユウマ、それはもういいから、そろそろあいつをどうにかしなさいよ。もう、うっとおしいたらありゃしないから」
「あっ、そうだった。いや、そんなに効くはず無いんですけどね。俺の幻術、それに解けたら解けたで、俺が戻ってくるまでカチンコチンに固まるはずだったんですけどね」
「はぁ?それ、どういうことよ」
「えっ、今奴が攻撃している氷の塊が砕けたら奴に纏わり付くようにしてるんですよ。ほら、少し削れた氷が付着して動きが鈍くなってるでしょ」
フィリアがユウマに言われて魔人族の男グレルを見てみると、確かに奴の鎧が凍って動きが鈍くなっていた。
しかしフィリアはこの時点で、おそらくユウマはこれだけでなくまだ何かをしかけていた筈だと考えていた。
まあ確かにユウマはもしものときのために、フィリア達6人を強制的にアイスヘンジに転移できるようにしていたのだが、それを使う心配も無かった様である。
ついでに言うと先程言ったようにユウマの作った氷の塊、これを砕ける者はおそらくこの世に数人いるかいないかであったが、このときそんな事を知る者は誰もいなかったのである。
「で、どうするのよ。あのアホな魔人族は、もう止めを刺してやったら」
「あっ、忘れてた。あいつをボコボコにしてやるつもりだった事を、でもどうでも良くなってきたけど、今からさっさとやっちゃいますね」
そう言葉のかけ、今だ氷の塊相手に粋がっている魔人族、グレルのそばに向かい指を弾いた。
《パチン・・・》
第八章:第三十七話につづく
・
・
ユウマが指を鳴らしたと同時に、魔人族グレルが声をあげた。




