出席番号14番「太刀川類堂」
2017/7/2 更新 (2/3)
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――原因は昼のカレー弁当。間違いない。くそっ……仄かな酸味を隠し味と勘違いしちまったぜ――。
太刀川類堂は背中を冷や汗でビッショリと濡らしながら、弁当に二日目のカレーを入れるというとんでもない暴挙に出た母親を呪った。冬の寒い内ならともかく、このポカポカ陽気では、密閉された弁当箱の中のカレーが腐るのも必然といえた。
キリキリと痛む腹をおさえながら、太刀川はまとまらない思考で解決策を探す。「先生、お腹が痛いので席を外してもいいですか?」なんて、良い子ちゃんみたいにお伺いを立てる事は、ハナから選択肢に無い。
不良少年と周囲が認識すればする程、己のプライドが保たれる。ポジションが得られる。刺々しくも脆くて狭い世界に太刀川は立っていた。もしも腹が痛い様子を同じ世界にいる奴らが知ったら、きっとそれをネタに、舐めた態度を取るようになるだろう。太刀川にはそれが許せない。
社会の教師は黒板に向かってブツブツと喋っていた。こちらを見ていない。太刀川はこのチャンスを使って、授業を抜け出す事にした。
手早く荷物を纏めると、ソロリと立ち上がる。「何事か?」と周囲の生徒が顔を向けるが、太刀川は「俺は不良だからさあ、授業なんてサボってやるんだよ。ヘヘッ」と言わんばかりの下卑た表情を作る。
まかり間違っても、お腹が痛い様子を周りに見せる訳にはいかなかった。プライドの問題だ。
さて、と一歩踏み出した瞬間、なにか《《小さくて硬いモノ》》を踏んだ。足が変に捻じれて体の均衡を失う。アッと思う間もなく硬いモノを踏んだ方の足が滑り、体が横に倒れていく。
急速回転する思考で、太刀川は己の失敗を悟り、そして戦慄する。
――しまった! 尻の力が緩む。このままでは……このままでは!――。
救いの手を伸ばそうとした太刀川だったがその手は空を掴んだまま。ついに太刀川は大きな音を立ててその場に倒れた。
《《ビチチッ》》! ドスン!