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そして彼と彼女は――⑥

「満足したか?」


アレクトは血だまりと死体の中に佇むイリーナに声をかけた。


「うーん……スッキリはしたけど、満足には程遠いかな。私専用の魔導具があればもっと派手に()れたんだけどね。あれは城に置いて来ちゃったから。ていうかさ、あんたは何してんの?」


アレクトは盗賊だった物の死体をあさり、彼らの持ち物を<収納>(ストレージ)の魔法で回収していた。


<収納>(ストレージ)は魔力で異空間を作り出し、そこから自由に持ち物の出し入れができる便利魔法だ。使用者の魔力量に応じて収納できる量は変わるが、習得も比較的簡単で荷物を持ち歩く必要もなくなるので魔法を使うものには重宝されている魔法の一つだ。


「俺達の最終目標には金も武器も大量に必要になる。その時のためにな。ほら、君もそこらへんにある兵士達の死体から装備品をはぎとってくれよ」


「え~!?何で私がやらなくちゃいけないのよ!私は魔王の娘なのよ!?」


ぶつぶつと文句を言いながらもしっかりとそこら辺に転がっている死体から装備品をはぎ取るイリーナ。


そんな彼女を見てアレクトは苦笑が自然と浮かんでしまった。


暫く二人で作業を続けてあらかた装備品は回収し終えた。中には魔導具や魔力のこもった貴重な装備品もあったのでアレクトはご機嫌だった。


「さて、余計な邪魔が入ったせいで話が中断してしまったが、さっきも言った通り俺達が最初にするべきことは仲間集めだ。まずは最初から人間に敵意を持ってる魔族から仲間にしていく。イリーナ、君に心当たりはないか?」


「うーん、あるにはあるけどさ。でもあんまり魔族を戦力として期待しない方がいいわよ」


「何でだ?俺が勇者だったから魔族が俺に協力するはずないとかそういう理由か?」


魔王軍が敗戦した最大の理由はアレクトなのだ。そんな人間に協力する魔族はほぼいないだろうということはアレクトにも予想がついていた。もっとも、そんな魔族を協力させるためにイリーナを仲間にしたのだが。


「違う違う。あんたが知っているかわかんないけどさ、魔族ってのは基本的に下位魔族・中位魔族・上位魔族の三つに分けられるのよ。私が知る限り魔族領に住んでいる魔族の殆どは下位魔族で、中位魔族は大体300人位、上位魔族ともなると父様を含めて10人しかいなかったわ。そんな数少ない中位魔族と上位魔族は全員が魔王軍に従軍していた。後はわかるわよね?」


「? あ……!」


ネルメリア大陸に召喚されたアレクトは、勇者として活動するに当たって色々な知識を学んだ。


そしてその中には中位魔族・上位魔族に関する知識もあった。


曰く中位魔族は最低でも魔力のこもった武器を装備した兵士100人以上で当たれ。


曰く上位魔族に出会ったら全てを捨ててでも全力で逃げ出せ。


人間領で読んだどの本でも中位魔族と上位魔族の恐ろしさは天災と同じ扱いで書かれていた。


そして実際に旅の途中で戦った彼らは恐ろしく強かった。アレクトとて命を奪われそうになったことが幾度もあった。


魔王との決戦時に中位・上位魔族がいた場合、人間側が負けることを悟った勇者パーティーは旅の途中でも積極的に彼らと戦った。その結果が……


「その……俺が殆ど殺したとか?」


アレクトの回答にイリーナはニッコリと笑顔を浮かべる。もっとも、その瞳には強い皮肉が込められていたが。


「大正解!上位魔族は私を除いて全員があなたに殺されたし、最終決戦時に残っていた中位魔族もやっぱり人間達に殺されたと思うわ。言い訳するわけじゃないけど、あの最終決戦時に一人でも上位魔族が残っていれば私達魔族が勝利していたでしょうね。そういった意味ではあなたの作戦勝ちといったところかしら」


言う言葉が見つからないアレクトにイリーナは追い打ちをかける。


「下位魔族でも強い魔族はたくさんいたけど、彼らもやっぱり魔王軍に従軍していた。そして魔族との戦争に勝利した人間の方針は"魔族は問答無用で皆殺し"でしょう?だから今生きている魔族は基本的に戦闘能力の低い者が殆どだわ。これが魔族を戦力として期待できない理由よ。ご理解していただけたかしら?」


「あ、ああ……。でも、魔王軍にいた魔族が全滅したってわけじゃないだろ?」


「そりゃあね。中には逃げ延びた魔族もいるだろうけど、やっぱり数は少ないと思うわ」


実の所それなりに魔族の戦力を当てにしていたアレクトは少しばかりガッカリしてしまった。


因果応報・自業自得と言う言葉が頭をよぎったが気合いでそれを無視する。


「そういえばイリーナも上位魔族なんだな。でも言っちゃあ悪いが、君からは俺が今までに戦ってきた上位魔族ほどの力を感じないんだが……」


「私はまだ未熟だし上位魔族の中では若い方だからね。今は200歳ぐらいだったかな?潜在能力は魔王軍でもトップクラスだろうけど、現時点での戦闘能力は魔王軍の中でも真ん中よりちょっと上ぐらいかしら」


上位魔族は繁殖能力が非常に低のく千年単位で子供が産まれないことも珍しいことではない。


その代わりに上位魔族には寿命というものがなく長く生きれば生きるほど強力な力を持つことになり、一部の者は人間領でも伝説の存在として伝わっている者もいたほどだ。


魔王軍にいたイリーナ以外の上位魔族は全員が1000歳を軽くこえていて、まだ200歳のイリーナとは比べることが出来ないほどの高い戦闘能力を誇っていた。


反対に下位魔族は繁殖能力が高く一度の出産で5人も6人も子供を産む。


その代わりに下位魔族の戦闘能力は全体的に低い傾向にあり、寿命も短い。


中位魔族はやはり繁殖能力は低いが、上位魔族ほどではない。


勿論種族ごとによって違うが、平均的な中位魔族だと100年に一人は子供を産む。


ただ元々の個体数が少ないのでやはりその数は少なくなる。


「そうなのか。じゃあ君が若い内に出会えてよかったってことなのかな?」


「ええそうね。後1000年も経てばあなたを超える実力を持っていたかもしれないわねえ。それで出会った瞬間にあなたを殺していたかも」


そう言って笑うイリーナを見ると軽く鳥肌がたつのがアレクトにはわかった。


「ああ、それとさっきあなたが『自分が勇者だったから魔族が協力するはずがない』とか言っていたじゃない?その辺の心配は無用だと思うわ」


「何でだ?君がいるからか?」


「まあそれもあるけど、魔族ってのは基本的には弱肉強食なのよ。味方の中で一番強い者に従うみたいなところがあるからね。父様がいなくなった今、世界最強はあなたでしょう?だから私もあなたに従っているの。だから味方にした魔族は皆あなたに従うと思うわ。もっとも、あなたの場合味方と認められるまでが大変でしょうけど」


イリーナが自分より強くなった姿が頭に浮かび嫌な想像がアレクトの頭をよぎる。


「……今後のために聞いておきたいんだが、君は俺より強くなったらどうするつもりなんだ?」


「そうねえ……あなたの言うことになんて従わずに好き勝手やるかもね。父の復讐にあなたを殺すなんてのもありかしら」


(他人にもらったポ○モンみたいなもんかな。ジムリーダーバッチがあれば一定レベルまでは命令を聞くけど、そのレベルを超えると命令を聞かなくなるみたいな)


アレクトにポ○モン扱いされたイリーナはそんなことも知らずに不適に微笑んでいる。


「ま、まあそれはともかく、君の言う心当たりとやらを教えてくれないか?このさい仕方ないから質よりは量をとることにするよ」


「いいわよ。私の心当たりは二つあるの。まずはゴブリンね。こいつらは魔族で一番弱いんだけど、その代わりに繁殖能力が魔族で一番高いのよ。一匹見つければ三十匹はいるって言われるぐらいにね。ゴブリンは異種族を利用して繁殖するから一匹でも生きていれば絶滅することはないの。私はゴブリンの巣を幾つか知っているからそこに行ってみましょう」


アレクトは勇者だった時に三桁を超える数のゴブリンを殺してきたが、いくら殺してもゴブリンが何度も現れたことを思い出した。


(ゴキブリみたいな奴らだと思っていたが、本当にゴキブリみたいに言われているとは……)


ゴキブリとゴブリンの姿が重なり、少しだけゴブリンが苦手になりそうだった。


「もう一つはサキュバスね。サキュバス族は戦闘能力は低いんだけど、人間に淫夢を見せたり性行為を介して精気を吸い取ることが出来るの。だから直接戦闘するよりも支援とか暗殺の方が得意ね。こっちも隠れ里を知っているし、私がいればサキュバス達は絶対に味方になってくれるわ。ま、ゴブリンもサキュバスも人間に狩られていなければという前提条件付きだけどね」


「いやに自信満々に言うじゃないか。何か理由があるのか?」


「もう殺されちゃったからいないんだけど、私の母様がサキュバスクイーンっていう種族でサキュバスの王様だったのよ。だからサキュバスにしてみれば母様の娘である私は絶対に逆らえない存在なの」


イリーナの母親が殺されたと聞いてアレクトに嫌な汗が流れた。


何せ彼が勇者として殺してきた魔族の数は四桁を超えている。


その中に彼女の母親がいないという確信は持てなかった。


それに既に彼女の父親を自分は殺しているのだ。母親まで殺したとあってはさすがにいたたまれない。


僅かながらも狼狽するアレクトにイリーナはどうでもよさそうに話しかける。


「安心して。母様が死んだのは150年前だから」


「あ、そうなのか!」


勇者として魔族を殺してきたことに後悔はしていないが、それでも見た目が極上の美女であるイリーナの母親を殺していないと聞いて安心してしまうのは仕方がないことだろう。


思わず安堵の溜息をついてしまったアレクトにイリーナは冷たい視線を向ける。


場を支配する何とも言えない空気を誤魔化すようにアレクトは大きな声を上げて方針を示した。


「じゃ、じゃあサキュバスは何時でも仲間になるっぽいし最初はゴブリンのところに行こう!!うん、それがいい!よーし、出発だ!!」


自分のキャラを壊して殊更に明るく振る舞うアレクト。


そんな空回りする彼のことをイリーナは呆れたように眺めるのだった。

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