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そして彼と彼女は――⑤

盗賊団――『虹色の風』。


それが彼らが所属する盗賊団の名前だ。


『虹色の風』は人間と魔族による戦争の中で結成された盗賊団だ。その構成員は対魔族の為に結成された七国連合軍からの脱走兵総勢10名からなっている。


この10名という数字は盗賊団の構成員数としてはかなり少ない部類にはいるが、脱走したとはいえ彼らは曲りなりにも元兵士。


訓練により培った一人一人の確かな実力とその連携能力は少ない数を補って余りあるほどあり、出来たばかりにも関わらず『虹色の風』は盗賊団としてはかなりの実力を誇っていた。


『虹色の風』は外との交流が少なく人があまり寄り付かない小さな村や山奥の村などを獲物とする。


これは少しでもその犯罪の発覚を遅らせるため。元兵士である彼らはそういった所謂田舎の村には兵士や治安維持部隊――地球でいう警察のようなもの――の手が及ばないことを知っていた。


それに打算もあった。平治ならともかく、今は魔族と人間による戦争中。大都市や権力者が住む村を襲撃しない限り国が自分達に兵士を差し向けるはずがないと。


そしてその目論見通り国は彼らは放置した。これは田舎の村専門の盗賊団に人員をさくぐらいなら戦争に使うという上層部の判断によるためだ。


彼らはたくさんの村に襲撃をかけた。家々を破壊し、若い娘を強姦し、金品を奪い最終的には村民全てを皆殺しにした。


次はどこの村を襲撃しようかと相談していた時、突然戦争の終結が知らされた。


戦争の終結は彼らにとって非常に都合が悪い。何故なら彼らが好き勝手にやれたのは人間と魔族が戦争していたからだ。


戦争が終わった今、彼らは今までのように好き勝手に村を襲撃することが出来なくなった。


ましてや彼らは連合軍からの脱走兵。連合軍の兵士達にとっては恥ずべき裏切り者であり上層部にとっては都合が悪い存在だ。追撃部隊が組織されることは十分に考えられた。


『虹色の風』のメンバーは相談の結果、人間領と魔族領の境界にある"境界の森"でほとぼりが冷めるまで身を隠すことにした。


"境界の森"に彼らが身を隠すことにしたのは死体で溢れ腐敗臭が漂うこの森に人が寄り付かないことを知っていたからだ。


人類が勝利した以上魔族による襲撃の心配をする必要はないし、並の魔族ぐらいなら討伐出来る実力を彼らは持っている。


それに戦死した兵士達の死体をあされば、彼らが生前身に着けていた高価な装備品も手に入り一稼ぎ出来るかもしれない。


そんな軽い気持ちで彼らは森に入った。入ってしまった。


森の中を進んだ彼らが見つけたのは親しげに話す二人の男女だった。


男の方は珍しい黒髪以外はこれといった特徴のないどこにでもいるような顔をしていた。


容姿が平凡なのは残念だがその毛髪の色の希少性を考慮すれば普通の奴隷よりは多少高く売れそうだ。


ライトメイルをつけているが剣や槍などの武器になる物を持っている様子はない。どこかで見たような気がしたが思い出すことは出来なかった。


女の方は自分達が今まで抱いてきた女とは比べものにならないほどの美貌を持った女だった。遠目からでも赤いドレスに包まれたその肉体が凶気的な色気を発しているのが彼らにはわかった。思わず情欲に火が灯りそうになる。


背中にある大きな翼を見たときは魔族かと警戒したが、魔族と人間が親しく話しているわけがないので多分魔導具か装飾品の類なのだろう。


最初は自分達を探す追撃部隊の人間かと思い暫く観察していたが、追撃部隊にはとてもじゃないが見えなかった。


こんな場所にいるということは自分達のように訳ありか、それともただの駆け落ちカップルか。


そう当たりをつけて彼らは身を潜めながら二人を逃がさないように包囲する。


彼らは二人を襲うつもりだった。


優男と女の二人だけなら自分達でどうにでも出来る。男は殺して金品を奪うか奴隷として売り払い、女は自分達の性欲処理の道具として飼い殺す。


彼らの頭の中では既に自分達が極上の美女を抱いている姿が映っているのか、『虹色の風』のメンバー全員が情欲に満ちた獣のような笑みを浮かべていた。


そして彼らは――二人に襲撃をかけた。




×××




「へっへっへ。俺たちゃあ盗賊だ。殺されたくなければ金だしな!」


最初イリーナはその言葉を男達が誰に向かって言っているのかわからなかった。


自分とアレクト以外にも誰かいるのかとイリーナはキョロキョロと周囲を探してしまう。そして漸く男達が自分達に向かって言っているのだと理解した。


仮にも魔王の娘である自分と人間最強の男アレクト。


武装しているとはいえたった10人程度の盗賊に脅威を感じるはずがない。人数の差は五倍あるが、実力差は百倍以上離れている。


彼らは本気で自分達を殺せると思っているのだろうか?


イリーナが確認のためにアレクトに視線を向けると、アレクトは呆れたように肩をすくめながらコクンと頷いた。


「それって私達に言っているのよね?」


「ああ!?そうに決まってんだろ!!さっさと金を出せっつってんだよ!!」


怒鳴り声をあげる盗賊達を無視してイリーナは困惑したようにアレクトに問いかけた。


「ねえこいつらは私達のことがわかっていないの?私の翼を見れば普通はわかるでしょうに。それにあなたって人間の中でも有名のはずでしょう?」


「この様子じゃあ知らないみたいだな。まあ人間全員が俺のことを知ってる訳ではないってことさ」


どうでも良さそうに答えるアレクトだったが、実はもう捨てたとはいえ勇者であった自分を知らない人間がいることに少しだけショックを受けていた。


「それより見てみろよ。こいつらの武器は七国連合軍の騎士団が使っている剣だ。多分連合軍からの脱走兵が盗賊になったってところじゃないかな」


イリーナは彼らが持っている武器を観察してみた。


言われてみれば彼らの武器は魔王城を攻めてきた人間の軍隊が持っていた武器によく似ている。


それを見た時彼女の頭の中には人間に殺された同胞達の姿が浮かんだ。


自分のために犠牲になった部下達の姿が、父親代わりだった人の最後の姿が彼女の頭をよぎった。


そして沸々と人間に対する憎悪と怒りが沸き起こる。


(ああ憎い。目の前のクズ共を引き裂きたくてしかたがない。同胞達の苦しみを思い知らせてやりたい)


今にも爆発しそうになる感情を無理矢理抑え込み、イリーナは最後の確認をした。


「こいつらは殺していいのよね?」


アレクトは笑顔を浮かべてただ一言だけ答えた。


「君の好きにしていいよ」






「おい!俺達を無視するんじゃねえ!!舐めてんじゃねえぞ!?」


自分達が存在していないかのように振る舞う獲物達にイラついてしまい、男は感情のままに剣を振ってしまった。


しまったと思った時には、もう剣は止められないほど勢いがついてしまっている。


(女の方を殺しちまった。ちっ!やべえな……)


何せ目の前の女は極上の美女。自分が今まで抱いてきたどの女よりも美しい。


この女を喘がせるのを楽しみにしていた。そしてそれは自分だけではなく仲間達も同じはずだ。


身を隠すために村を襲撃するのを止めていたため暫く女を抱いていない。


そんな状態の時に折角の美女を殺したとあっては自分が仲間達に殺される可能性だってあった。


男がいくら後悔してももう剣は止まらない。女の柔らかそうな二つの乳房を分断するように剣が女の胸を斬りつけた。


今まで男は多くの人間の命を奪ってきた。騎士だった時は戦争で、盗賊になってからは略奪のために多くの人間を斬ってきた。


だから確実に女を殺したと思った。


人間を斬る時特有の慣れた感触があった。


だけど……


「な……嘘、だろ?な、何で生きてんだよ……」


女は何事もなかったかのように平然としていた。確かに斬ったはずなのに、体はおろか着ているドレスにすら傷ひとつない。


「今、何かした?」


女は今日の天気を聞くように問いかけてきた。


そこで漸く男は気付いた。目の前の美女がただの人間ではないことを。そしておそらく……


「!!ぞだ族魔分多はついこ!ろけつを気」


男が仲間達に警告したときには既に男の首と胴体は別れていた。


「?」


彼が最後にみた光景は逆さまに映る自分の首なしの体だった。






彼女は笑っていた。彼女は楽しんでいた。彼女は喜んでいた。


「あは!あはははははははは!!!!」


イリーナは玩具を壊すように軽い力で自分を剣で斬りつけてきた人間の首を引きちぎった。


首が無くなった体から噴水のごとく吹き出る血が周囲を赤く染める。


足元に転がってきた壊したばかりの玩具の首をイリーナは思いっきり踏みつけた。


脳漿と血液が周囲に飛び散り彼女の体にもそれらがかかる。


頬についた血と脳漿をペロリと舌で舐めると、体が火照ってきて快感の溜息が出てしまう。


興奮を沈めるためにまだ残っている玩具を眺めると、彼らは何が起こったのかわからないと呆然とした様子で固まっている。


イリーナは散歩をするような足取りでその内の一人に近づき、雪のような白さを持つ右腕を心臓に突き刺した。


『グチュッ!』と何かを潰したような音が聞こえた。右腕を心臓から抜くと再び赤色の噴水が出来上がる。


「ああ、素敵。私って血が大好きなの」


まるで極上のショーを見ているような楽しそうな口調でイリーナは男達に語り掛けた。


そこで漸く盗賊達は我を取り戻した。


「こ、こいつは魔族だ!!一斉にかかれ!!既に二人()られているぞ!」


盗賊達はその言葉からすぐに一斉にイリーナに襲い掛かった。


その立ち直りの速さはさすがは元兵士といったところだろう。


ある者は渾身の力でイリーナに斬りかかり、ある者は首に剣を突き刺そうとする。


盗賊達は何かに責め立てられるように、そして仲間を失った怒りと恐怖をぶつけるように全力でイリーナに襲い掛かった。


「「「「「「「「うおぉぉぉぉぉ!!」」」」」」」」


イリーナは彼らの行動を黙って見ていた。


避けようと思えば避けられた。剣が当たる前に盗賊達を殺そうと思えば殺せた。


だけどイリーナはあえて彼らの全力攻撃を受け止めることにした。


それは自分との実力差を見せつけるため。そして彼らに絶望を与えるためだ。


盗賊達の一人は彼女の腹を斬りつける。一人は彼女の首に剣を突き刺す。一人は心臓を、一人は頭を目がけて剣を振り下ろす。


だけど――結果は既に決まっていた。


「もう満足?そろそろこうして立っているのも飽きたのだけれど」


「なんで死なねえんだよ……何で剣がきかないんだよ……」


イリーナの体にはやはり傷一つついていなかった。確かに斬撃をくらったはずなのに、確かに剣で刺されたはずなのに何事もなかったように笑顔を浮かべていた。


「いいこと教えてあげる。私には魔力がこもった武器しか通じないの。だからあなた達が持っているただの鉄の塊で私を攻撃したって何の意味もないわよ?」


自分達が何をしたところで何も意味がないことを理解した――理解させられた男達の顔に絶望が浮かぶ。


彼らの顔をイリーナは満足そうに見ていた。嬉しそうに、楽しそうに眺めていた。


「じゃあもういいわよね?こっからは私の番ね」


「ひぃっ!に、逃げろー!!」


子供のように怯えた男達が少しでもイリーナから離れようと後ろを振り向き全力で逃げ出そうとする。


だけどその逃走はすぐに止められることになった。


「まだ俺の協力者が満足していないんだ。悪いんだけどもう少しだけ付き合ってやってくれ」


今までイリーナと男達のやり取りを黙って見ていたアレクトが後ろに回り込み男達の逃走をとめたのだ。


盗賊達の一人が逃走経路を確保するためにアレクトに斬りかかろうとした。


だけど剣を振りかぶった時には既に盗賊の上半身と下半身は分かれていた。


「おいおい。いきなり攻撃はやめてくれよ。怖ろしさのあまりつい反撃しちまった」


いつのまにかアレクトは漆黒の剣を盗賊達に向けて突きつけていた。


アレクトの足元には腸がはみ出た状態の仲間の上半身が転がっている。


その光景を見て盗賊達は足を止めてしまう。


「ちょっと!私の玩具をとらないでよ」


「すまんすまん。こいつらが逃げ出そうとしたからさ。もう手は出さないよ」


前方には人間の体を一撃で分断するアレクト。後方には素手で人を殺すイリーナ。


盗賊達はもはや自分達がどうやっても逃げられないことを悟った。


「た、助けてくれ……。何でもする!ほしいものがあるなら何でもやる!だから命だけは助けてくれ!!」


武器を投げ出し、頭を地面にこすりつけて命乞いをする盗賊達。そんな彼らにアレクトは嘲笑を向けた。


「何でもするんだってさ。どうする?」


アレクトに聞かれたイリーナは可愛らしく首を傾げて盗賊達に問いかける。


「本当に何でもしてくれるの?」


「あ、ああ!助けてくれるなら何でもする!なあ、みんな!!」


盗賊達は必至で首を上下に振り肯定の意志を示す。


そんな盗賊達に向かってイリーナはニッコリと笑顔を浮かべながら要望を伝えた。


「じゃああなた達の苦しんでいる姿を見せてね。最初はあなたの両手足が無くなった姿が見たいわ」



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