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16 翔子さんとマスターの秘密が明らかになったりならなかったり

 時は流れて約束の水曜日。

 お店の最寄り駅から電車に揺られること三十分。翔子さんに指定された駅で電車を降りて、改札を出てすぐ見えるケーキ屋の前で迎えに来てくれるのを待っている。


 待っているんだけど……どうにも落ち着かない。視線がキョロキョロする。

 だってここ、どう見ても高級住宅街なんだもん。お風呂上がりに毛皮のガウンを着てシャム猫を愛でながらブランデーを傾ける優雅な奥様方が住むようなところなんだけど。

 実は一人で行くのは心細いから莉那ちゃんを誘ったんだけど、答えはノーだった。


「あー、あれね。誰もが通る道だから、一人で行かないと。私もそうだったし」


 そんな思わせぶりな言葉を告げられた。莉那ちゃんも翔子さんと話したことがあるってことは、他の子たちもそうなのかな。

 これってもしかしてアクアリリィの恒例行事? なんなの? 大人の階段を上っちゃうの?

 挙動不審一歩手前でそわそわしていると、見知った顔が近付いてくる。手を振ってくれるのを見て、私もようやく緊張が解けてきた。

 やっと来てくれたんですね翔子さん。お店で見るのとあまり変わらない格好してる。いつもながらカッコイイなあ。


「お待たせ。待ち合わせ時間より早く来るなんていい子だね」


 頭をポンポンとされる。なんか心地良い。もっとなでなでしてほしいなーと自然に思ってしまう。目は細くなって与えられる刺激へと意識を集中する。


「そ、そんなことないです……」

「早速だけど行こうか。私の家はすぐそこだから」

「はい! ……えっ?」


 家? 翔子さんの? そ、そんな、いきなり家に上がり込むなんて。心の準備が、まだできてないんですけど。

 マンションか一軒家なのかはわからないが、とにかく周囲から完全に隔絶された場所で、相手のホームグラウンドだということが重要だ。アウェー戦なんていいことなしと相場が決まっている。

 もしそんなところに連れ込まれてしまったらどうなるのか。

 慣れた動きで導かれるのは、純潔な乙女には想像もできない世界。あらゆるツボを知り尽くした百戦錬磨の技術で、閉ざされた扉は優しい手つきで、しかし力強くこじ開けられていくのだった──。


 と、そんな風に一人で勝手に心の波風を立てながら、翔子さんの後ろを歩いていく。

 ただ住宅街を歩いているだけなのに、建ち並ぶ家が放つ高級感溢れるオーラが私を捻り潰そうとしているようだ。私みたいな平民がこんなところにいていいのだろうか。どう考えたって場違いじゃないか。

 うう、気まずい。


「着いたよ。ここ」


 泳がせていた視線を落ち着かせて、翔子さんが指差す先を見る。

 ……え? ここって、どう見てもかなりいいお宅じゃないですか。またしても視線が辺りを巡ってしまう。

 庭付きってなんなの。色とりどりの花壇ってなんなの。門から玄関まで結構歩くってなんなの。二階建ての一軒家で綺麗な外壁ってなんなの。敷地面積って一体どれくらいなの。こんな家に住んでる翔子さんって何者なの。


「ん? どうしたー」


 翔子さんが私の顔を覗き込んでいた。


「わわっ」


 思わずバランスを崩してしまった。弾かれた体がよろめく。


「そんなかしこまることないよ。リラックスして」


 門を開けて道を作って待っている翔子さん。その振る舞いは、やっぱり受付っぽくて感動してしまう。

 おっかなびっくりしながら玄関をくぐる。我が家とは比べること自体が間違っているほどに広い内装。玄関を開けたら最初に見えるものが階段ではない時点で、私はまともに考えることをやめた。

 ここは別世界なんだ。思考を極限まで簡略化しよう。

 翔子さんの案内でリビングに通される。そこで待っていたのはマスターだった。この二人と話し合うとは聞いていたけど、もしかして一緒に暮らしてるのかな。


 ……まさか、そういう関係とか?

 そしたら、私ってお邪魔じゃないのかな。正直に言わせてもらうなら、そんな百合のど真ん中で正座して神秘的な光景を永遠に眺めていたいんだけど、現実はそうもいかないのは重々承知。


「座って。遠慮とかいらないから。コーヒーでいい?」


 翔子さんに勧められて座ると、マスターがコーヒーを淹れてくれた。クリームたっぷりのウィンナーコーヒーだ。お店でしか飲めないような物を出すなんて、やっぱりマスターは本物だ。

 マスターと翔子さんと私、三人でテーブルを囲む。それぞれの前には飲み物が並ぶ。みんなコーヒーみたいだけど、翔子さんとマスターはブラックだ。さすが大人の女性は違うね。


「さて、と。今日こうして紗希を呼んだわけなんだけど」


 そう言って翔子さんは話し始めた。私は背筋を伸ばして次の言葉を待つ。


「最初に……そうだな。私たちについて話そうか。ね、それでいいだろ?」


 翔子さんがマスターに視線を向けた。私も釣られて目だけ動かす。マスターはゆっくりと頷いて返事をした。アイコンタクトってやつかな。寡黙なマスターらしい行動だ。

 頷き返した翔子さんは「それでだな」と話し始めた。


「私たちはね、いわゆる社員って扱いなのさ。ここでちょっと難しいんだけど、お店の社員ってわけじゃなくて、その運営会社の社員になるわけ。ここまでわかる?」

「……はい。なんとか」


 初めて知る情報が一気に来たけど、そんなに複雑でもないから受け入れられた。

 そっか。社員さんだからハードワークだったんだね。納得……していいんだろうか。日本人は働きすぎだってのは本当かもしれない。


「その運営会社も子会社みたいな感じでさ、夕凪グループっていう大元の企業があるんだよね。一族の親戚一同が色んな業種に手を伸ばして多角経営している会社なんだけど、そこの飲食接客部門の会社が私たちの所属ってわけ。オッケー?」


 頷きながら情報を整理する。大丈夫、まだついていける。

 夕凪グループってのは聞いたことがある。つまり、私みたいに平凡な女子高生が知っているくらい有名で大きな会社だということだ。コマーシャルもよくテレビで流れているし、国民認知度は九割以上なんじゃないだろうか。


「今はここにいないけど、紗希の面接をしたオーナーも同僚だよ。あいつ他にいくつも店の管理を任されてるから忙しいみたいでさ。あんまりこっちに顔出せないんだよね。だから、代わりに私たちがアクアリリィを守ってるわけさ」


 オーナーさんがお店にいないのにはそんな理由があったんだ。あの日いきなりだったのに面接してもらえた私は、もしかして一生分の運を使い果たしてしまったんじゃなかろうか。

 どうしよう。これから何もないところで転んじゃうような日が続いたら。


「それでね、その会社が運営してるお店の従業員は紗希みたいに一般募集で来るのがほとんどなんだけど、ほんの少しだけ例外があるんだよね。社長の元で直々に訓練を受けた、言ってみれば精鋭部隊の奴らがいるのさ」


 翔子さんがコーヒーを飲んだので、私も手を伸ばす。もしかして、そんな特殊工作員みたいなのがアクアリリィにもいるんだろうか。


「うちの店には二人いる。それが誰かというと──」


 そこで言葉を切った翔子さんは机に肘をついて手を重ね、その上に顎を乗せた。長い溜めに私も息を止めてしまう。一秒がやけに長い。

 二人ってことは、お店でもコンビで活動しているんだろう。結衣さんと香澄さんとか、あやめさんと闇無さんとか……まさか、ルナさんと莉那ちゃんだったりしないよね。

 息止めの結果は八秒でギブアップ。百面相をしているであろう私の顔を見て、翔子さんは柔らかく微笑む。


「──私と、こいつだよ」


 こいつという言葉が示すのは、この場に一人しかいない。

 私の視線に気付いたマスターは、これまたゆっくりと頷いた。マスターって、寡黙というより無口なのかも。


「こいつが店長兼マスターをやって、私がそれをサポートする。そうやってアクアリリィを作り上げてきたんだ」


 歴史を語る翔子さんの隣で、マスターは目を細めながらコーヒーを飲んでいた。


「これくらいで私たちについてはいいだろう。今までのは前座で、これからが本題だね」


 翔子さんの目が、真剣さを帯びていく。


「予想はついてるだろうけど、紗希についてのことだ」


 緩みかけていた神経と背筋が張り詰める。一体何を言われるんだろう。こういう時に悪いことばかり浮かぶのは私だけじゃないはず。


「まずは、今日ここに呼び出した理由から話そうか」


 ゆっくりと、しかし重苦しくはない口調で翔子さんは話し始めた。


「そろそろ紗希がアクアリリィで働き始めて三か月になる。それを過ぎたら研修期間が終わるわけだ。その前に私たち管理連中と面談して、これからもここで働くかどうかの意思確認とかをするために来てもらったのさ」

「そ、そうだったんですか」


 衝撃の事実。まさかこんなところに最終関門が待ち受けていたなんて。ここで「不可!」みたいな判断を下されたら私は店外追放?

 そんなのイヤだよ……。助けて莉那ちゃん。


「いやいや、そんな暗い顔しなくても平気だって」


 翔子さんは大人っぽい微笑みを向けてくれている。


「別に私たちが紗希のこれからをどうこうするってわけじゃないんだ。言っただろ? 意思確認だって。これからも働くかどうかは紗希が決めることなんだよ」

「……はい」


 どうやら早とちりだったようだ。考えてみたら、翔子さんやマスターが悪い人なわけないもんね。アクアリリィの人って、みんなあったかいから。


「んー、気分転換にちょっと違う話でもしようか。そうだなあ……。紗希は、私の本名って誰かから聞いた?」

「いえ、知らないです」


 やっぱり翔子さんもお店での名前を使っていたんだ。もしかして、翔子さんの本名を教えてくれるのかな。ドキドキワクワク。


「それはおかしいな。最低でも半分は知っているはずなんだけど」

「は、はあ」


 話が見えない。半分って一体……あ、もしかして。


「改めて自己紹介しとこうか」


 翔子さんは席を立ち、少し離れたところでお店にいるみたいな背筋を伸ばした姿勢を取る。その様子を見守るマスターと、ポカーンとする私。


「当店の受付、総合案内、その他雑用担当、鷹浦(たかうら)翔子と申します。以後、お見知り置きを」


 大仰な挨拶の振り付けと共に、翔子さんは初日に聞いた言葉とほとんど同じ言葉を繰り出した。違うのは、鷹浦という名字が加わったことだけ。


「じゃあ、翔子さんの本名って、翔子さんなんですか?」


 言いながらなんか変なセリフだと思ったけど、まあいいや。


「そういうこと。ってか、最初から本名使ってただけなんだけどね」


 まさかの展開だった。

 でも、考えてみればあり得ない話じゃない。お店での名前は各自で自由に決められるみたいだし、本人が望めば実名を使っても問題はないだろう。疑問は残るけど。


「でも、どうして本名を使ってたんですか?」

「一番の理由は名前を考えるのが面倒だったってことかな。オーナーに考えてくれって頼んでも、忙しいとか言って相手にしてくれなかったし」


 身も蓋もない舞台裏だ。


「それにさ。私は厳密に言えばアクアリリィ所属ってわけじゃないからね。会社の方から出向してるんだから、名前を変えることもないかなって思ったわけさ」


 なんというか、とてもサッパリした考え方だった。こういう単純なことを思い切って実行しちゃう人って、なんだか輝いて見える。


「──でさ、なんでさっきからあんたはずっと黙ってるの。少しは喋りなさいって」


 そう言って翔子さんはマスターの肩をポンポンと叩いた。急に話を振られたマスターは困った顔をするということもなく、私の方を向いて口を開く。


「紗希は……楽しんで仕事してるのが見ててもわかる」


 おおう、なんというハスキーボイス。

 まともに声を聞いたのって多分初めてだけど、口数の少ないマスターにぴったりじゃないか。ずっと聞いていたくなるような声色。これで甘い言葉を囁かれたら、思春期の未熟な乙女はコロッと落ちてしまうだろう。私のことだけど。


 それはさておき、さすがマスター。寡黙で観察眼も優れてるとか、まさに理想の上司。こんな人に私もいつかはなってみたい。

 それで慕ってくれる女の子ができて、いつしか二人は禁断の関係に──ってのもよくある展開だけどいいよね。


「そ、そうですか?」

「ああ。紗希さえよければ、これからも働いてほしいと思ってる」

「もちろんです! ぜひ働かせてください!」


 むしろそれ以外の答えなんてない。マスターは静かに頷いている。


「こちらからもお願いするよ」


 うーん、ニヒルとかハードボイルドって感じだなあ。ろくに意味も知らずに使っちゃってるけど。


「いやー、よかった。この前、なんだか元気なくて思い詰めたような顔してたから、もしかしたらって心配だったんだ。最近はそうでもないけど、意外と変に溜めこんでるんじゃないかと思ってね」


 翔子さんが安堵したように言った。この前というのは、私が莉那ちゃんとの付き合い方に悩んでいた時のことだろう。それ以外に私がお店で暗くなっていたことなんてないはずだから。


「はい。それならもう解決しました」

「瑠璃とも前より仲良くなれたみたいだしね。いいことだ」


 翔子さんは満足気に深く頷いた。やっぱり翔子さんも百合好きなんだ。勝手に仲間意識を覚えつつ、胸に浮かぶ疑問を掘り起こす。

 そう、翔子さんとマスターの関係だ。やっぱり、カップルなのかな。付き合ってるのかな。同棲してるのかな。


「ところで、マスターもここに住んでるんですか?」


 好奇心の塊を抑える力を私は持っていなかった。


「そうだよ。翔子と一緒にね」

「あ、そうなんですか。へえー……」


 やっぱりそうか。ということは、二人は恋人同士で、寝食を共にしていて、おはようとおやすみのキスとかしてて、ホクロの数を互いに知り合っていて──。


「言っておくけど、私たちは別に付き合ってるわけじゃないから」

「ふえっ?」


 なんと予想外な言葉を投げてくれるのですか翔子さん。それとも私の思考が先走り過ぎているだけか。

 心の足払いを受けた私に向けて、翔子さんは言葉を続ける。


「ただ気が合うし、昔から知った仲だし、それで一緒にいるだけ。この家の費用だって折半したし、毎月の生活費だって半々だし」

「えっ、昔から二人はお知り合いだったんですか?」


 新たな情報に食いついた私を翔子さんが釣り上げる。


「まあね。最初はこいつ違う喫茶店でマスターしてたんだけどさ、その店に私が入り浸ってたわけよ。喫茶店のマスターにしては若いし、何より女性がそんなことしてるってのが印象的でさ、時間を作っては行ってたね。何年くらい前だっけ?」

「初めて翔子が来たのは八年前だよ。いつもカウンターに座って中を覗いてた。興味津々って感じで」

「だってほら。喫茶店のカウンター奥ってさ、色々なカップが置いてあって見てるだけで楽しいじゃん?」


 翔子さんがこちらを見たので頷いておく。その意見は私も同じだ。あのゴチャゴチャした感じがたまらない。


「それで少しずつ話すようになって、ある日翔子に誘われてからは二人で食事とかにも行くようになって」

「あれはさ、ほら。女性マスターってのがカッコイイなってその時期は思っててさ、それで歳も近かったし仲良くできたらって……うん、それについてはもういいだろ」


 翔子さんにしては珍しく話のキレが悪い。照れているんだろうか。頬も少し赤いみたいだし。意外な一面を見てしまった。


「話を変えるよ。いつだったか、やけに真剣な顔してた時があったんだ。そしたらスカウトされたってことを話してきてさ、どうしようってすがりつかれてね。一体どうしたらいいの翔子さま助けてよーって」

「そこまでは言ってないでしょ。不安だったのは本当だけど……」


 今度はマスターが照れているようだ。ふむ、二人の意外な一面がどんどん出てくるぞ。


「それで、ちょうど翔子も学校を出てフラフラしてた頃だったから、おこぼれが貰えたらラッキーみたいな気分だったんだろうね。私と一緒に、スカウトに来てた人と三人で話したんだ」

「心細いから一緒に話を聞いてほしいって言ったのは誰だったかなー」

「昔のことは忘れたよ。話をしているとね、ちょうど新規プロジェクトを始めるとかで、その初期メンバーを集めているってことを聞かされたんだ」

「それがさっき話した社長直々の精鋭部隊ってやつだったってわけ。私は条件反射みたいに素早く立候補したね」

「そのスカウトの人こそが社長だったってことも知らずにね」

「今考えたら驚きだよ。あんな女の子がまさか社長だなんてこと誰も思うはずもないし」


 いやいやいや、ずっと黙って聞いてたけど私だって驚いてますよ。

 なんですか。そのサクセスストーリーは。この二人を主人公にして二時間ドラマが一本作れそうじゃないか。

 あ、その時は百合成分多めでお願いします。ダメなら勝手に妄想するからいいです。


「そんなこんなで話が進んでさ。私は社長の屋敷に住み込みで働きながら、接客に関するノウハウを叩きこまれたよ。あんたはどうしてたっけ?」

「会社が運営してる別の店で実地研修してたよ。翔子だって時々来てたでしょうに」

「そうだった。それで、長く厳しい修業を終えた私たちはアクアリリィのオープニングスタッフとして配属されて、日々労働に勤しんでいるというわけさ。あと目の保養もね」


 陽気に話す翔子さんに気付かれないように、そこでマスターが私にそっと囁きかける。


「翔子は今でこそこんなに明るく話してるけど、店で礼儀正しくしてる反動なの。だから、あまり気にしないでやってね」

「まっ、私たちの背景はそんな感じだね。長々と話しちゃったけど」


 なんだか凄い過去話を聞いてしまった。人って誰でもこんなビッグシナリオを持ってるものなのかな。

 でも、今のエピソードを聞くと、二人はカップルというよりも大親友という表現をするべきだと思ってしまう。きっとそれは、かけがえのない存在と言うのだろう。お互いに過度な干渉をせず、なおかつ常に存在を気にかけている。そんな二人。

 こんなゆっくりと時間が流れているような関係って、なかなかできないと思う。私もそうだけど、若い子ってすぐに突っ走ろうとする傾向が強いから。

 だから、こうして悠然と構えることができないのだ。頭ではわかっているのに、体が思い通りに動かない。欲望に忠実な行動を起こしてしまう。


 やっぱり、マスターと翔子さんは大人だ。憧れという言葉はこの人たちのためにあるんじゃないだろうか。よこしまな気持ちなんてこれっぽっちもない、本当の意味での憧れ。

 こういう大人に私もなれたらいいな。素直にそう思える。


「よし、昔話はこれでおしまい。お腹空いただろ? 何か作ってあげるから食べてきな」


 翔子さんは立ち上がり、豪華なシステムキッチンへと向かった。あんなのを実際に見る機会が訪れるなんて。家に入る前に感じていた夢見心地が蘇ってくる。

 こんな家に住めるってことは、当たり前だけど稼ぎが結構ないと無理だよね。アクアリリィの運営会社って大きな会社なんだろうな。やっぱり夕凪グループって規格外。

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