プロローグ 百合喫茶アクアリリィ
いらっしゃいませ。ようこそ百合喫茶「アクアリリィ」へ。
お客様、当店は初めてですか? それでは、まずここがどのような店なのかをご説明させていただきます。
申し遅れました。当店の受付、総合案内、その他雑用担当、翔子と申します。以後、お見知り置きを。
さて、お客様。当店は「百合喫茶」と銘打っていることから、ある程度の期待は持たれているのではないかと思いますが、いかがですか? 当店でその期待が満たされることを願っております。
まずは、システムのご説明をさせていただきます。と言っても、難しいことは何もございません。基本的には、住宅街の片隅にあるような喫茶店にいると思っていただいて構いません。
他のコンセプトカフェではチャージ料金や時間制限などがあることが多いのですが、当店ではそれらも一切ございません。もちろん、注文回数の制限もありません。お客様が当店で心ゆくまで満足していただけるように、という願いからです。
それでは、お好きな席へどうぞ。今は早い時間のせいか、珍しく店内に他のお客様もいらっしゃいませんので、ご説明をさせていただくにはうってつけです。椅子の座り心地はいかがでしょうか。ゆったりとくつろいでいただけるように、わずかな妥協もしないのが当店のモットーでございます。
「いらっしゃいませ。本日はご来店、ありがとうございます」
お客様、運がよろしいですね。こちらは当店人気の従業員、結衣でございます。なぜ人気なのかは……後のお楽しみです。
こちらが当店のメニューでございます。見ていただければわかるかと思いますが、コーヒーや紅茶、お食事はサンドイッチやホットケーキなど、奇抜なものはございません。ですが、その味はどれも自信を持ってお勧めできるものです。
あちらのカウンターをご覧ください。カップを棚にしまっているのが当店のマスターです。彼女は幼い頃から喫茶店での修行を積み重ね、知る人ぞ知る女性マスターとして活躍していたのです。
その技術は高水準で、きっと誰もが満足してしまうでしょう。何を隠そう、私も彼女の淹れたコーヒーに惚れ込んだ一人なのです。私が言うのもなんですが、人生で一度はあのコーヒーを飲んでおくべきだと思います。
はい、コーヒーを頼まれますか? ありがとうございます。──結衣さん、こちらのお客様にコーヒーを。
注文を受けてから作っておりますので、もう少々お待ちください。それまで、あちらをご覧になってはいかがでしょうか。ええ、そうです。お客様もこれを楽しみにしていらしたのではありませんか?
あそこの二人、向かって左にいるのが結衣。先ほどお客様に対応させていただきましたね。右側の子は香澄と言います。こちらも当店人気の従業員でございます。
おや、お客様。その様子ですと、なぜ二人が人気なのかお分かりになったようですね。
──コーヒーが出来上がったようです。私がお持ちしましょう。今あの二人に水を差してしまうのは野暮というものですからね。特別ですよ?
ええ、そうです。あの静かな佇まいが人気の秘密です。あの二人、とても仲が良さそうで、見ていると幸せな気持ちになりますね。
腕と指を絡め合い、寄り添う二人。確かな絆があれば、言葉なんて必要ないことを教えてくれます。時折目を合わせて微笑んでいますが、あの恥じらい加減──私も仕事の合間に眼福をいただいております。
もちろん他にも従業員はおりますし、それぞれが得意とする雰囲気作りも異なります。ちょっかいを出して遊ぶ小悪魔タイプや、優雅にリードする麗人タイプ、ひたすらイチャつく甘々タイプなどなど。きっとお客様の好みも見つかることでしょう。
どこまで見せてくれるのか、ですか? どこまでと言いますと……ああ、そういうことですか。ふふっ、そこは彼女たち次第です。
ですが、あえて前例を申し上げるならば……キスを披露した子もいましたね。周囲から見えないようにこっそりと、ですけれども。見たいですか? 色々な時間帯に何度か通っていただければ、もしかするとそんな場面に遭遇するかもしれませんね。
はい、質問ですか? どうぞお聞きください。
──従業員の子たちが、ですか?
そうですね……。私が言えるのは、そういう子も確かにいる、ということだけです。そうでない子でも「女の子は柔らかくていい匂いがしてあったかいから好き!」なんて言って楽しんでいるみたいですよ。
ですが、やはりここはこういう場ですので、本当に女の子が好きな子、そんな子も少なからずおります。
誰がそうなのかは私の口から言うことではありませんので、ここまでにしておきましょう。今はあの二人を見ているだけで──はい、もう一つ質問ですか? 好奇心旺盛ですね。そういうの、嫌いじゃありませんよ。
えっ、確かに従業員は募集しておりますが……かしこまりました。お客様、少々お待ちください──。