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第五公演 ー幸先ー


大罪とは、一般的にはひどく大きく重い罪のことを指す。また宗教においては掟や規律を破った際の罪の重さの区別として、小罪と合わせて使われる。また、多くのフィクション作品に起用されている大罪は七つの人間的欲求や感情からなる悪魔を七つの滞在と表現したりする。大抵は悪役が被ったりする設定だ。


俺もお目にかかったことがあるが、一部の特出して人気を誇る作品には決まって大罪がくっついてきたりする。




「シュメルは勇者に選ばれたんだ!!

 だから!!だからこそ殺したんだ!!

 何の罪もない!!」




彼もそうなのだろうか?俺が寝ていた様なベットを背後に、囲い用のカーテンを引き裂いた彼も。一人称を自身の名前に置き換えて泣き叫ぶ勇者ことシュメルという名の青年は、着せられた病院服を崩しながら声を枯らす。ギチギチと占める様な音が聞こえるのは、水晶の様に煌めくいわば勇者の剣というやつを力強く握る音だろう。素朴な電球の光を反射させ、彼はそれを振り回した。近づき難い。

 



「ずっとこんな調子で…」




カーディナルが落ち込んだ様子でぼやいた。貴女が慰めようとしても逆効果なのでは?




「あ〜、こりゃダメかもな…

 適応できる見込みがない…」




「…えっ、…

 主人公でもそんなことあるのか?」




俺は思わず聞いた。主人公というのは作中の中での最強が確定された存在だろうに、何でもすんなりいくのかと思った。何せそれが主人公補正だからだ。




「…この勇者はゲーム作品から出てきた物だろう

 ゲームの主人公は小説や漫画と違って、

 誰かに操られるもんだから自立性が弱いんだ。」




コートローラーで前に進めば前に行くし、ジャンプをすれば魔物を切る。そもそも血を浴びるなんぞ誰だって嫌なのに、なにがどうして選ばれたからってそんな役職に就くんだって話だ。シュメルは実際は根の弱い方なのだろう。カーディナルは焦ったままで、わたわたとシュメルが暴れて割った花瓶などを片付けようとしている。この場を抑えるのには少し彼女にとっては酷だろう。




「殺しちまった方が早いんじゃねぇの」




シシがシュメルに聞こえる様に言った。モモはそれを聞いてシシを強く睨むも、全く効いていない様子でシシはケラケラと笑った。ササミはあんまり状況を理解していないのか、ぽけっとしている。何とも頼り甲斐のありそうな人たちだろうか、タクミの先輩ぶった顔が懐かしくなる。





「うーん、にしてもな狂乱ぶりだな。

 確かにシシの言う通りかも知れねぇな。」

  



ククはヘルメット越しのくぐもった声で言えば、暴れるシュメルに堂々近づいた。




「っ来るな!!!、シュメルに近づくな!!

 でなきゃっ、」




長身でシュメルを覆ったクク…手で剣を鷲掴んだ。皮の手袋によってククは一切傷を負っていない。思ったより弱いらしいその剣。、シュメルの息を飲む音が聞こえた。怯えているであろう表情は見えない。…えっ、本当に殺すのか?こう言う時って誰かが落ち着かせてくれるもんじゃないのか。俺がどうにかしてやった可哀想な奴を俺の前で殺すのか?




「…」




カーディナルがそっと俺に近づいて俺の袖を握った。白黒の瞳が訴えかける。…俺は幼女の頼み事を断れないタイプだった。そんな正義心なんてないって言うのに。


そして結局、俺もククの灰色のコートを掴んで引っ張った。ククはびくともしないから、俺は思わず声を上げた。




「な、なあ、殺すのはやりすぎなんじゃないか。」




ククはゆっくりと振り向いた。フルフェイスヘルメットで、暗くて見えない顔はどんな表情をしているかわからない。背後からカーディナルからの期待の視線を感じ、シシが鼻で笑う音が聞こえた。ククはなにも言わなかった。その手は今まさにシュメルの首を折ろうとしていたらしい。しかし手を下げて、俺の意思を汲み取ったか剣から手を離しその場を少し離れた。



シュメルは思わずベットに尻餅をついた。剣を振り回す力はもう無いが、握っていた手は硬直して開かない。

俺はベッドに座り込むその怯えた顔した青年に浴びせる言葉に迷って、無言な間が少し続いた。





「……俺、マワルって言うんだけど…、お前は?」





出てきたのは自己紹介だった。心の中で俺はきっと自分の首を絞めているだろう。くそっ、他人を慰めることがこんなにも苦痛且つ困難だなんて。





「…」




帰ってくるのは無言だけ、俺は慌てて口を開く。シュメルの方に手を置いて俺はきっと苦笑いを浮かべているのだろう。




「っそうだよなぁ、 

 ええっと、とりあえずここは、」



「死にたい、」




俺はゆっくりと顔を上げる。目の前には目に涙を浮かべるシュメルがいた。また震えている。俺の問いは無視されてしまった。…で、死にたいだと?



「もうっ、殺してほしい。

 シュメルは勇者だったのに、

 使命を放棄したから、結局殺されてしまう…

 折角なら苦しみのない様に…

 さっさと死んでしまいたい…」




俺が肩を掴んでいる相手は、とっくに心は冷たくなっているただの人間だった。魔物に立ちはだかり、剣を振るって汗水を垂らした勇者はもういない。この人は、もう主人公ではなく…ただの、様々なものに縛られて、搾られた人間だった。


血がふつふつと湧き立つ気がした。早々、思ったその主人公からの脱却への落胆。シュメルはもう主人公じゃない。勿論勇者でも、ない。自身の生きる価値を見失ったことを自覚した人間を目の当たりにすると、途方もなく苛立つらしく…俺はただ一端に思った。俺が助けてやった命をそうやって吐き捨てるのか。…そもそも!!そもそも、だ。主人公だとしても、勇者だとしても元は普通の人間ではないか。ほらまた1人、見つける。1人の存在を見つける。




「俺は名前を聞いたんだ。」




俺はシュメルの肩を掴む手を強めて揺さぶったり。大きく息を吸って拳を握り直す。




「俺は、名前を、聞いたんだ!!!」




シュメルの頬に自身の拳がのめり込む感覚、それは一瞬であり、多分シュメルにとっては長く深い苦痛だったと思う。カランと勇者の剣が落ちた、柄に入っていた水晶が真っ二つに割れる。




「俺はお前に名前を聞いたんだ!!、

 お前が死にたいだとか知らない!!

 そんなこと聞いてないし、

 そもそもほとんど初対面の相手に

 そんなこと言うバカがいるか!!」





俺は当たり散らかす様に言った。これじゃ本末転倒であることはわかっていたが、とにかく言いたかった…何でみんな死にたがる。絶望するな、前を向けよ。こっちだって混乱してるって言うのに、何で誰も彼もそうやって諦めようとするんだ。




「はあ、…はあ、わかったか、?

 俺が聞いたのはお前の…」




「シュメル」




殴られた頬を抑えて言った。




「シュメルです、シュメルの名前はシュメル…」




シュメルは妙に落ち着いて俺を見た。その目からはしっかりと落ち着いた涙が流れて、空が宿っていた。ほっと息をつく。何だかよくわからないが収まった様だった。俺は屈んで落ちた剣を拾いシュメルに渡そうとするも、そんな俺をカーディナルが横切って、シュメルに抱きついた。





「勇者様!!!、シュメルと言うのですね、

 落ち着いてよかったですわ」




おお、積極的なもんで。まるでヒロインとの再会に一気に薄れる俺の立場。剣はずっしりと重く俺の手に不思議と馴染んだ。シュメルは彼女の角を見てもなにも言わない、冷静さを取り戻したらしい。




「っ…貴女のお名前は?」




シュメルが紳士的にカーディナルの手を取ってそっと引き剥がしながら、俺の問いを模倣する様に言った。その一連の動きで赤くなったカーディナルは、合わせて病院服の裾を持って頭を下げた。


「私、カーディナルと申しますわ…、

 是非、シュメル様には

 カーディとお呼びいただけると…

 あっ、皆様も、マワル様も

 是非カーディと呼んでくださいまし!」



「…いい名前ですね、

 それに見知った素敵な目の色だ。

 ずっとシュメルを介護してくれたのは

 カーディだったんですね。」




ふっとほころんだシュメル。小さなカーディはさらに、いちごの様に真っ赤になった。一同はその様子を見で笑い、おかげで空気が和んだ。




「っ、!私ササミ!よろしくね、!

 カーディに…シュメル!」





一番最初に駆け出したのはササミだった。2人の手を取り無理やり握手をしては満面の笑みで語る。モモが後に続き、シシは機嫌が悪そうに突っ立っていた。ククが俺に尋ねる。





「不思議だな…マワルが話しかけたら落ち着いた。」




正確には、“殴ったら”、だが。




「…まあ、とりあえずはよかった、…」




俺はそう言いながら剣を慎重に持ってまじまじと見つめる。そこには俺の顔が写っておりもうツノも生えていない。よかった。




「よしっ、みんな元気になったんだ。

 こんな所じゃ何だ。広いところに移動しよう。」




ククが一つ声をかける。皆が病室を去っていく中シュメルとカーディが俺の方を向いた。




「っ、シュメル達を助けてくださり、

 ありがとうございました…」




シュメルはそういうと、カーディが止める前にその場に膝を尽いて俺に忠誠を誓うかのように言った。




「この御恩、決して忘れません。」




ハキハキとした声でそう告げる。俺はイケメンを跪かせていると言う事実に優越感を持つとともに、何だか気恥ずかしくなったので慌てて顔を上げる様に言っては手を差し伸べてしっかりと立たせた。




「いいんだよ、

 あんな状況止めないわけにはいかないから…」




俺は頭を掻いては目を逸らしそう言う、カーディはそんな俺を見てふふっと笑った。




「っ、2人とも…無事でよかった。」




俺が言葉に迷った末に出たそんな一言。2人は俺へ慈愛満ちた微笑みを浮かべるときゃっきゃっと子供の様にはしゃいでは俺の手を2人で分けれる様に持って引いた。




あいも変わらず俺がタクミと歩いた、大勢が行き交う社内よりずっと古びていて、それを部屋と呼んでいいのかわからないくらいの場所。コンクリートで固めてあったり、パイプが剥き出しだったり。しかし広い部屋で、7人はその部屋に散らばるように座った。散らばるも何も、ソファや椅子が置いてあるところが別々だから仕方がない。シュメルとカーディはすっかり仲良しなのか、2人で一つの椅子を使っているし、シシに関しては机に座っていた。



「さてと、新メンバーが三人とは。大収穫だな。」



ククが心底嬉しそうに言った。



「シュメルとカーディは、…文明が違いすぎて

 少し困るだろうけど、

 とりあえずは慣れてくれ。」




言われた2人はこっくりと素直に頷いた。2人とも完全に適応したわけではなさそうで、話によるとカーディはシュメルに対し回復魔法を施そうとしたが、今いる世界、作品には魔法が出てこないからか使用できず困り果てて、その間にシュメルがああなってしまっていたらしい。




「ここは一応…近未来系統の作品内だが、

 とある事情で管理人らは入ってこれない。

 マワルは安心して欲しい」




俺も静かに頷く。とある事情が気になるが、俺はとりあえず口をつぐんだ



「っ…あの、一ついいですか?」

 



病院服のカーディとシュメル。シュメルがそう尋ねたが、カーディが思ったことらしいを2人してククの方を向いていた。




「なんだい?、魔法は使えないって話は

 したろう。」



「いえ、そこはわかりました。…気になったのは…

 メンバーというのは、?ここの人達はみな何かの

 チームなのでしょうか?」




確かに。的を得ているその質問に対し、ククではなく相変わらず落ち着かないのか、ササミが割り込んだ。

  



「あれ!クク言ってなかったの!?

 ここはね!仕事が嫌になった管理人が集まってる ストライキ促進グループなんだよ!」





言葉の端々から若干の治安の悪さが感じる。ククが慌てて訂正するように言った。シュメル達はストライキの意味がわからず首を傾げている。




「…まあ間違ってはないけど…」




ククが首をかいた。俺の不信感に満ちた顔を見て、ククはハッとしたらしい。




「あー…詳しくいうと、それと似たグループが 

 かつてあったんだよ。その時はもっと人がいて

 実際、数個の見知らぬ作品に行って、

 大規模な反対運動を施したりしたんだが…」

 



彼は少し恥ずかしそうに語る。俺はファンタジー界の戦場に何もできずに放り込まれる管理人や社員達を思い出し、そのような行動に至るのも仕方がない気がした。




「失敗したんだよね!」




ササミが口を挟む、それをモモが自身の口に指を寄せて、静かにと囁いた。ササミは慌てて口を閉じた。どうやら当たり前の光景らしい、。




「そう、まあ失敗に終わった。

 殆どみんな死んじまってな。

 残党は俺と、もう1人。  

 まだ紹介できてない奴だ。」




「…じゃあ、ササミ様達はどこからいらしたの?」




シュメルと俺が起きるより、一番早くに目覚めたらしいカーディが会話を続ける。状況は把握が上手い。

  



「アタシ達はその時、暴動に巻き込まれた

 作品の登場人物。」




「っ、え。」




俺は思わず声を出す。眉間に皺を寄せてククを睨んだ。




「でも、ククはみんな元社員だって、」




そう言われれば、ククは首を振って俺の疑問を晴らす。




「おう、嘘じゃないぞ。コイツらはみんな、

 暴動に巻き込まれて…そのまま社員入りしたが、

 まあー、

 社員になった経緯が独特だったからだろう。

 自我も強いければ力の強い主人公達だったから、

 あっちの手に会えなくてな。


 マワル、お前と同じようにあっけない方法で

 処分されかけたんだけど…」




「…それを、貴方を含めた残党の2人が助けた 

 た。」



俺は予想を口にする。だからククをリーダーとして、三人は動いているのか。横目では、ササミが話したがるので、その口をモモが手で塞いだ。ササミが手足をばたつかせて暴れては、その足がシシの柄シャツに辺り、シシがキレている。なんだか仲の良い三人だった。俺は話に戻り、顔を向き直す。




「うん、そういうことだ。

 三人の故郷である作品を壊してしまったから

 その罪滅ぼしがほとんどだ。


 三人みたいな子がもっといたんだが…

 今は完全にあっちに引き込まれてるな。」




ククが物悲しげに言った。それに対して、シュメルが少し考え込みながら言った。




「では、シュメル達ももうそのグループに

 加入しているというのですか?」




「いや、いや。違うが…すでに活動もなにも

 していないグループさ。人数が足らなすぎる。

 人数を増やす活動も視野に入れているが、

 君たちが嫌ならもちろんここでゆっくり

 暮らしてもらって構わない。」




後ろを振り向き、シシ達を宥めながらククが言った。ヘルメット越しでも、その言葉が真実でないことを物語っている。俺は足を少し揺らすも、座っている丸い椅子が錆びているのか少し軋んだのでやめた。




「…シュメルは…、マワル様が入るのであれば。」




「カーディも、マワル様やシュメル様が加入

 するのであれば、手伝いますわ。」




平然と言ってのける2人、ククは期待に満ちた顔…いや、顔は見えないが、多分そんな感じの表情で俺を見た。


確かに、あんな酷な会社壊してしまった方がいいが…そんなこと可能なのだろうか?そもそも作品という名の世界を管理しているというのに、壊してしまった後世界はどうなって…?


俺は手元のツルツルとした剣を撫でた。映る自分の顔は思ったよりも幼く、なぜか客観視できてしまう。考えた、俺がここにいる理由は…俺の人生というバッドエンドを否定し、シュメル達の不幸を捻ってまげたからだ。作品というものはいかにも美しく、俺は好き、だけど不幸はやはり嫌いだ。




「、入ります。」




俺は志を胸に、断言した。ククが嬉しそうに頷き、その言葉を聞いたササミが俺の首に腕を回す。




「やったー!!マワルくんにシュメルくん、

 カーディちゃんが仲間になった!!」




「…2人は本当に良かったのか?」




後ろをついてきたモモが尋ねる。




「はいっ、私はマワル様とシュメル様と

 共にあるので、」




「シュメルも、お二人にお付き添い致します。」




なんだか頼もしい2人だ。微笑みを向けてきたので、笑って返せばもっと明るい笑みで帰ってきた。まさに光属性だ。あどけないな。




「よしっ、じゃあ新メンバーの追加で再結成

 って感じッ、」




ククが勢いよく立ち上がればぶら下がっている電球に頭をぶつけた。気を取り直し、すこし後ろに下がってはまた言う。




「だな、うん。…っても、

 人手不足は治らないが、…」




がははっと、恐らく大口を開けて笑った。現在は総勢八人。




「前までは何人くらいいたんだ?」




「…ざっと三十人と少しだったか、。

 本部もこんなところじゃなかったんだがな、

 その間に会社上層部が力をつけたもんで、

 状況的には最悪なんだよ。」




何かアクションを起こして、人を増やす必要があるもののどうもうまくいかないらしい。考えてみれば、社内の管理人らは何不自由ない暮らしをしているし疑うことを知らない。そんな人たちを勧誘するわけにもいかない。




「実際にお誘いをしてみたりとか…」




カーディが小さく呟くも、驚くことにシシが返答した。




「…少しは理解しろよ?


 この馬鹿どもがお前ら助けに行くっていった

 せいで、もうほとんどここから出れなく

 なったからんなことできるわけないだろ。」




機嫌の悪そうに言った。カーディがその声を聞いて思わずびくっと驚いて怖がった。




「…でもまあ、確かに外には出づらくなったな。」




俺は同意して、頷く。




「そういえば、どうやってあなた方はマワル様

 を見つけたんですか?」



「それは俺たちの功績じゃねえな、…

 今ここにいないもう1人がずば抜けて賢い。

 まあその力のおかげかな。」





怖がったカーディを宥めながら、シュメルが尋ねる。ククは頷いて答えた。まだ1人、シャイだとかの理由で顔を出していない人物がいる。残党であるらしいから、ククと同じようにある程度強いんだろうか。


会話が止んだ。現在の議題は、これからどうするか。案としてはメンバーを増やすことだったが、進行形でそれを実行する手段がない。…沈黙が嫌いな俺は、思わず一言口に出した。







時系列を並べると、マワル達が話しているより、こちらは軸が少し先に進む。




「っ、なあコウ。タクミ先輩直属の部下って

 通常業務とは違う仕事なんだよな。」




部屋で転ばされてから、ウサギはめげずにコウにそうやって話しかけていた。帰ってくるのは無言のみであり、ウサギはひたすらにコウの足跡を聞いて歩いていく。




「俺、返答くれないと黙らないぞ。」




コウの足音は大きい。まるで苛立っているような感じだったのでウサギは思わずそのように尋ねた。仕事だと言ってから一切話していないのは流石に、ペアを組むのであれば苦痛になってしまうだろう。連携も取れない。




「…俺たちの仕事は、簡単に言えば取り締まりだ。

 通常、一般の管理人は作品内に入りその運び

 を支えるが…俺たちは管理人らの強い干渉や 

 規律違反を見つけて罰する事だ。

 今回は」


「今回ぃはぁ、特殊だけどぉねぇ」




コウが話している途中で目の前にいたメズに気づかず転んだ。ウサギはメズに挨拶をしようとしたところで転んだコウの赤いマフラーを踏んで転んだ。メズがドミノ倒しを目の当たりにして笑い声を漏らそうとしたところ、そばにあった一室からタクミが顔を出す。





「ちょっと、何やってんの君たち…。

 ほら、早くおいで。」




少し手招きをしては、わちゃわちゃとした三人を呼んだ。


コウとウサギはその部屋…物語が保存されている通称閉架と呼ばれる白い無機質な部屋で、タクミの前に指示をされては並んだ。


 

「いい?これは君たち2人の初仕事だからね、

 先日の事件の捜索、必ずアイツらはここに

 現れるから。」




タクミは自慢げに言った。メズは後ろでなにやらものをいじっている。触れているのは、一冊の小説を囲うガラス板とその周辺の機器だった。


  


「…先輩、質問いいですか?」


 

「コウライくんはいちいち丁寧だね、

 いいよ。なんだい?」




タクミは腕を組んで首を傾げる、ウサギも何か質問をしようとしたが、コウに先を越されてしまった。




「なぜここに出るとわかったんですか?

 目撃情報でも?」




「いいや、…まあ、簡単に言っちゃあ

 盗聴器仕掛けたんだけどね。」


 

タクミが片目を閉じて、まさに自身の手柄を自慢するかのように言った。しかし言ってることとしては驚くべきことで、ウサギもコウも驚いた。2人が聞いて話では、タクミは主犯格に腕などを折られて怪我を負った聞いていたのに。きっと凄惨な現場だったはずなのにそうやって仕事を全うしているのが尊敬に値すると感じて、ウサギはぱあっと顔を輝かせた。




「っ、流石先輩っす!!!」




「…でしょでしょ〜??」




タクミはウサギの言葉に対し、にこにこと笑ってはそう言った。コウはそれが気に入らなかったのか、ウサギのポニーテールを引っ張っては後ろに追いやる。




「でも、あれらは強いのでしょう?

 人手が足りないのでは?」




現在コウが知っている味方勢力はウサギとタクミ、メズだけだった。ウサギも同様に、三人しか知らない。からこそそんな、頼りになるタクミ先輩の腕を折った輩に少人数精鋭で立ち向かえるというのだろうか?





「あー、舐めちゃダメよボクたちを。

 君たちじゃ頼らないかなって思ってさ、

 ちゃんと呼んであるよ」

 


 

タクミはそっと手招きをした。すると、ウサギの背後から突然人が入ってくる。ウサギは驚いて体を震わすも、その人はいつのまにかタクミの横に並んでいた。




「ハッちゃんです!この子は君たちより

 すごい経歴積んでるから、今回はこの人の

 指示に従ってね」




蛍光ピンクの髪は、ワックスでハート型に強く固められていた。恐らく崩せば長髪のだろう。そこへ突き刺すように赤いリボンにピアス。長いまつ毛にこちらを睨むような吊り目と、コウは目があった。




「んっ、んふふっ…」


 「っよろしくお願いします!!」




コウは思わずそのルックスに笑ってしまうも、ウサギは容姿など知らないため平然と挨拶をして頭を下げた。…




「先に行っとけど、ハッちゃんなんて呼ばない

 でよね?、アタイはハツ。

 君たちの教育係。」




ハツはやはりキンキン声の女性で、この会社では珍しくヒールを履いている。それが高歴者の証であった。




「なんでよ?ハツって呼びにくくない?」




「ハッちゃんなんて呼ぶのはタクくらいでしょ。

 お前ら名前は?」




「ウサギっていいます!、こっちはコウライ!、

 俺はコウって呼んでるけど…」




コウはよほどその揺れるハートがツボに入っているのか、ウサギがマフラーを引っ張ってもびくともしないほど笑いに耐えようと震えている。その代わりにウサギはコウの紹介をしてやった。

  



「いつまで笑ってんだい!!、全く…。

 ちゃんとアタイの元で扱いていくからね。

 覚悟しろよ。小動物に、無礼者が。」




「っ、はい!」




罵り口は教官のようだ。ウサギは思わず過敏に返事をしてしまっているらしい。コウも、ウサギも。双方に緊張気味だ。




「せんぱぁい!準備できまぁしたぁ!」




メズが雑談をよそにしていた作業を終え、タクミに声をかける。




「うん。ありがとう。

 よし、君たち準備はいいかい?

 知っている通り、168時間のうちに帰還して、

 改変しないように目標を捕らえる事。

 いいね?」




ウサギはごおっ、と。ゲートの開く音と風が舞い込むのを感じた。隣でコウが平然とした態度に戻り風の合間に返事をする、ウサギも慌てて先程と同じ様子で返事をした。




「それじゃあ、いこうか。

 君たちの幸先が良いことを願っているよ。」



初めまして。


処女作にして早くも絶作となりそうな此方をご観覧していただき誠に有難う御座います。


タイトルも仮で、とりあえずの投稿になります。

スマホのメモアプリでちまちま書いていたものを放出予定で、大体週末に1エピソードずつ投稿する形になります。もし先が気になる、なんて方は沢山急かしていただければと思います。何卒よろしくお願い致します。あと何かいいタイトルありませんかね。

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