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 『北天乱舞(Confused fight)』-5-

 ――始まりは、いつからか。

 手袋をはめながら、上島は思った。

 思えば長い、付き合いである。

 『湊』空軍基地。最初に赴任したのは20年も前の事だ。

 白河 元康の下で、副長を勤めた事が、今となっては夢のようだ。

「白河さん」

 ゴーグルをはめながら、上島は少し笑う。

「あなたはもう飛べないんだったよな」

 何と哀れな事だろうか。

 12年前のあの日、傷を負ったのはあなたも私も同じなのに。

 白河はもう、操縦桿を握る事はできない。

 だが自分にはそれができる。

 私はあの日、生まれ変わったのだ。

 ――神に近い存在として。

「運命を分けたのは、何かな?」

 エンジンを点火する。

 パチンパチンと計器の電源を入れる。

 ――彼が操るのは、黒塗りの機体。

 他には何の、模様も証もない。

 だが、上島の飛行服には確かに金に光る蝶がある。

 計器を確認する、満足する。手を握る、満足する。そして真天井を見上げる。

 雲が太陽を覆っていく。それを見、上島は大きく口を開けた笑った。

「『湊』327飛空隊・『七ツ』」

 こんな異国の地で再び会う事ができようとは。

「生きて国に帰れると思うな」

 高鳴るエンジンと比例するように、昂ぶっていく心臓に。

 上島は笑いを抑える事が、いよいよできなくなってきた。

「行くぞ、お前ら! しっかり着いて来い!!」

 同様の黒塗りの機体5機を従えて。上島のそれは宙へ滑り出した。

 空は、上って来る者を拒絶しない。

 すべてを受け入れる、それが空。

 そこに何を見い出すかは、たどり着いた者次第。

 そしてその運命の行く末は。

 神の手に、委ねられるのか?




  ◇


 風が唸り声を上げる。

 慣れてきたはずの操縦桿が、今日はやけに重く感じられる。

 銃撃をかわし右へとエルロンを傾ける。上になった左の翼が何もないはずの虚空で、確かに何かの抵抗に合い着いてくるのを嫌がって拒む。

 知らず磐木は眉間にしわを寄せた。スロットルを跳ね上げる。

 その翼の真横を、ギリギリで弾は飛んで行く。

「おぉぉおおお!!」

 もう一段強く、アクセルを踏み込む。

 どうにか曲がり切った機体の横、たった今まで磐木がいたその場所を、派手な色をした空賊の機体が翔け抜けて行った。

 それを見るともなく背中越しに確認した刹那。あ、と思う間もなくその空賊前方に、別の色をした空賊が通り過ぎた。

 タイミングはゼロ。

 2機がまともに衝突する直前、磐木はギアを2段階上げた。

 強烈な爆音が木霊する。風のうなりをも上回りそれは、一瞬その世界を制覇する。

 熱風が押し寄せる。あまりの風に体勢が崩れる。歯を食いしばってなんとか、翼を平行に保つ。

 そこへ、別の彼方から銃撃が降った。

「くッ!!」

 爆撃の余波のせいで、反応が一歩遅れた。それでも直撃を間逃れたのは、ただのまぐれ。

 後部座席付近。そこにもし誰かいたならば、その瞬間にアウトだったかもしれない。

 磐木は一瞬ゾッとした。幸い今日は白河は乗っていない。

 体全身を使って、機体を持ち上げる。そのまま、今撃って来た機体を追いかける。

 右へ左へ、上へ下へ。風も伴い、照準は合わない。

 それでも、磐木は執拗に追いかけた。

 『蒼国』中型戦闘艇・『葛雲』。

 2人乗りの利点を生かすため、砲弾が1人乗りより1つ多く搭載されている。本来ならば後部座席のみの射撃を、前からも射撃可能に改良してもらってある。

 その射撃は、足元のレバー。

 まだまともに撃った事なかったが、それに磐木は手をかけた。

 もう片方の手は操縦桿を握り締める。

 逃げる空賊の背中にピタリと張り付く傍らで。

「――ッ」

 足元のレバーを押し倒した。

 機体の下腹から飛び出したその弾は。

 蠢く空を貫く一条の光となりて。

 その方向にある――金色の機体を追い立てる一機の空賊機を貫いた。

「避けろ」

 刹那、爆発。

 結末を目の端だけで見ながら、磐木は舌を打った。少し風に流されたか。まともに入るとは思わなかった。

 同時に、今度は通常射撃を展開する。

 普通ならとても当たらないタイミングであったが。

 その場に吹く風、さらに追加の爆風が、弾の動きを歪めた。

 パツンパツンと翼を砕き、そこに注意を取られたか、グラついた機体に。

 一気にトドメを差し込んで行く。

 爆破。

 直視は避ける。操縦桿を引き起こしながらねじり逃げる。

 寒いはずのこの空で、首元に汗を感じた。

 そのまま高くまでのぼり、磐木は一瞬息を吐いた。

 周辺に敵機はいない。眼下に現状を見下ろす。

 仲間は無事か? 機体はどこにいる?

(それにしても)

 雲は低く、重い。

 ここまで上るともう、雲の中にいるも同然になってくる。違う冷気が立ち込める。

(思い出す)

 眼下に入り乱れる空戦模様に、磐木はあの日を思い出さないわけにいかない。

 ――12年前のあの日の事を。

 空が開いたあの日。瑛己の父親である晴高たちと共に向かったあの〝零〟の空。

 入り乱れる空賊と、空軍。

 まだまだ未熟だった磐木はあの時、ただ逃げるのに必死だった。

 わけもわからず。

 冷静に空を見つめる事なんかできていなかったと、今でははっきりわかる。

 記憶に残っているのは混乱と、必死な記憶。

 そして絶望と、終わりへの願望。

 苦しい。もう終わりにして欲しい。

 だからこそ。

 最終的に現れた銀の機体を見た瞬間、磐木は救われたと思ってしまった。

 ――これで終われる。

 死が唯一の安らぎ。

 それを断ち切り、彼を生かしたのが。

「隊長」

 聖 晴高。

 磐木は瞼を細める。

 あれから12年が経った。

 今磐木は、あの頃の晴高と同じ歳になった。

 同じく隊を持ち、若い者達を率いている。

 自分に晴高と同じような器量があるとは到底思えない。

 磐木はずっと、自分は隊長に向いていないと思ってきた。そんな資格も才能もないと思っていた。

 ――聖隊長のようにはなれない

 その思いがあったからこそ。いつも心のどこかで、葛藤も抱いていた。

 だが最近ようやく、磐木は少し思う。

 あの頃晴高が思っていた事。抱いていた想い。

 仲間に対する物。そして自分が何をすべきなのか。

 隊をまとめるとは容易な事ではない。そこに必要なのは拳の力でも、飛行技術でもない。

 それ以上に〝心〟。

 仲間を想う気持ち。

 それは――信頼。

 隊長とは、すべてを理解し、守って、導き、そして信頼する事。

 自分に誰かを導けるだけの器量はない。そこまで磐木は自分が、卓越した人間だとは思えない。

 けれども、盾になる事くらいならばできる。

 仲間を導ける、そこまでの力はないとしても。

 降りかかる火の粉から守る事くらいは。

 そして仲間を信頼する事くらいは。

 人の上に立つとは、前に出る事。前に出るという事は、その背中を盾にしてこの身をさらすという事。

 背中をさらす事とはすなわち同時に、誰かに背中を預けているという事。

 守った者を信じているという事。

 人を信じるとは、自分を信じるという事。

 それは誇りを抱くという事。この心に絶対たる、信念を抱くという事。

 隊長は一番上でなければならない、一番偉い、一番にならなければならない……そんなのは単なるおごり。

 それは後ろに控える物がいるからこそある定義。そして、

 ――守ると同時に、守られているという事を。自覚する。

 それこそが。

 磐木が抱く、〝隊長〟たる任。

(俺は1人じゃない)

 全員守る。それは。

(守られているから)

 327飛空隊、『七ツ』。

 ――あんたが飛ぶ意味は?

 結成から5年。

(聖隊長)

 今ならば磐木は胸を張って、晴高に言える気がする。

 これが俺の隊です、と。

 ――前方に、青い機体。追われているのは飛か?

 操縦桿を切りなおす。アクセルを踏み込む。

 ドドドド

 軽く威嚇射撃する。磐木の援護射撃に気づいた飛が、パッと下へともぐる。

 なおもそれについて行こうとする空賊に斜めから接近する。翼がかすめるギリギリを抜ける。

 『葛』の機体はこの群集の中でも大きい部類に入る。

 加え、羽根の設計から、曲がる瞬間に空気をあおるように風を吹き起こす。

 その圧力を、磐木は気に入っていた。

(忘れてた)

 最近はずっと、『翼竜』ばかりで飛んでいたから。

 昔、晴高や兵庫を乗せて飛んでいた頃の事なんか。

 ゴォォォォ

 空がまた轟いた。

「やっと、思い出しました」

 ドドドドドド

 連射に、空賊のエンジン部分から火花が散る。

 また1つ、光と共に機械仕掛けの鳥が、空を追われて去っていく。




 バックミラーで爆破する機体を見ながら、飛は口笛を吹いた。

「ひょー、おっかねー」

 磐木の飛行に、思わずそんな悲鳴をもらしてしまう。

 それくらい、上から弾丸のように現れて数秒で1機墜とした磐木の操縦は、鬼気迫る物があった。

「こらアカン、隊長、マジで狙っとるわ」

 隊内、撃墜王。

「こりゃ、俺もクソ本気でいかにゃ」

 言って、カカカと薄く笑う。言うワリに飛の表情はさほど変わらなかった。

 この空に入ってから時間の感覚はない。けれど、それなりに経っているのだろう。

 飛も、迫る敵機を何機か沈めてはいる。

 けれども本音を言えば、本調子というワケでもない。

 やはり胸の片隅に、モヤのような物は残っている。

「シャレにならんて」

 笑う。俗に言う、「敵は自分自身だ」。

 空戦傍ら、パニックに陥らないように心を抑えているのも事実だった。

 でもそれを誰にも悟られたくはない。

 まだ空を、恐々飛んでいるなんて。

「特にあいつには」

 秀一なんぞに知られたら。

 あいつはバカみたいに心配して、俺の機体から離れてくれなくなるだろう。

 この空で、そんなふうに人の事考えていられるほど、秀一も自分も完璧な乗り手とは言えない。

「あの頃ならなぁ……もうちょい無敵だったのになぁ」

 パニックになる前の自分なら、もっとかっ飛ばしていたんだろうか。

 どんな寒くてもいい、恐ろしい敵が襲ってきてもいい。

 今ここで、もし何の制約もなく飛べたなら。

 ――僕の夢は。飛に……お前、凄い飛空艇乗りになったなって。お前強いなって、飛に認められる事だから

「弱音なんて、みっともないわ」

 片手で、鼻を掻く。

 ――全部、ぶっ壊す。

 敵も、己の心に湧き上がるパニックへの恐怖も。

「この俺様を、舐めんじゃねーや」

 ドドドドド

 視界に、金色の機体が入る。

 空賊に追われている。それを認め、飛は翼を立てた。

「羽根、重ッッ!!」

 空気の乗りが悪い。これは自分の精神とは何の影響もない別次元の理由のようだ。

「操縦桿、重ッッ!!」

 おかげで操縦桿は重い。

 磐木のあの飛行、あの人は何も感じてないんだろうか? 『葛』にはそういう抵抗感はないんだろうか?

「でも、弾は」

 早い。

 空気の間を滑りぬけ、飛んで行く。速度はいつも以上。

 狙いはドンピシャ。

 爆発に捕まるようなヘマはしたくない。右へ避けた。

「……にしても変やな……昨日はあんなに、軽かったのに……」

 さっきまでの空戦でもそうだ。むしろスピードが乗りすぎて怖いくらいだったのに。

 この空域に入った途端に、すべての動作が鈍くなった。

「異国はわからん」

 鼻をすすった。

「煙草吸いたいなぁ」

 呟きながら、操縦桿を右に切ったその刹那。

《東から、空賊機確認!!》

 聞こえた叫び声は、小暮の者だった。

 慌て見た東の空にあったのは、新たなる空賊機。

《ここに戦力を集中させる気か》

 イヤやわぁ。思わずそう思った飛の視界の端、バックミラーに、敵機が踊った。

「付き合いきれんわッ!」

 ガガガガガ

(脇腹摩った!?)

 反応遅れた、操縦桿を立て直す。

 引き戻すそれは、重い。

 地面に引き寄せられる。

「こんちきしょ――――ッ!!」

 地表ギリギリでどうにか持ち上げた機体を、そのままグルリと回転させる。

 下から望む空は、入り乱れ。

 最初に比べれば確かに機体の数は減った。

 形勢を伺えるほど、味方が目立つようになったとは言えないにしろ。

 確かに敵の数は減っている。それは思った。

 射撃ボタンに力を込める。空に向かって打ちかける。

 金の機体がそれを受け止めそうになり、慌てて避ける。その向こうに空賊がいた。

「うし」

 そう呟いて、アクセルを踏み込もうとした時。

「あれは」

 青の7番艇……瑛己の向こうから。

 こちらに向かって飛んでくるのは。

「瑛己!!」





 漆黒の飛空艇。





 

 サイドミラーに映ったそれを、瑛己は錯覚かと思った。

 でも本能が反応した。違う。

 鏡に映るのは、いつも、事実。

 それが真実とは限らないとしても。紛れもなくそこにある物をそれは、忠実に映し込む。

 ゴォォォォ

 地響きにも似た音が耳の傍でした。左へ避けながら、瑛己はハッと後ろを顧みた。

「黒」

 この、色と形で溢れた空に。

 シンプルに、その身を黒一色で染めた機体が。

 闇より解き放たれた――狙うのは。

 ――空の色を模した、それ。

 合計5機。それは他を見向きもせず、迷わず青い機体へと撃ちかかる。

 ズズズズズ

 脳天に響くような奇妙な音がした。瑛己は下へと逃げる。

 だがそれは、瑛己の軌道を読んでいたかのように、ピタリと瑛己と同じ動きを取った。

 咄嗟にもう一つ、右へひねりを入れた事だけが、瑛己の命を救った。

 だがすべての弾をかわしきれるほどの速度ではなかった。

 左のエルロンの下が、ガガガとこすれて弾けた。

 一瞬、羽根そのものが飛び散ったと思えるような衝撃であった。瑛己は慌てて確認をする。

 辛うじてまだ、翼がもげるほどではない。

 だが安心している暇はない。次の射撃が待っている。

 顔を上げればそこには、空賊の姿もある。

 瑛己は歯を食いしばった。下へ逃げる。

 ズズズズズズズズ―――ン

 何の音だこれは?

 未だかつて聞いた事ない。

 空気が避けるかのようだ。

 頬が痛い。さっき砕けた翼の一端が瑛己の頬を切っていたが、血を拭う余裕などない。

《瑛己――――ッッ!!》

 叫び声と共に、飛が飛んできた。

 ドドドドド

 入った。下からのその射撃は間違いなく、黒の機体の真ん中を貫いた。

 ――はずだった。

 だがそれは咄嗟、右下へとかわして避けた。

(早い)

 反応速度じゃない。翼か機体の性能か。

 自分はこれほどにも、操縦桿の重さにもがいているというのに。

 ドドドドド

 そうこうしているうちに、空賊機が射撃を。

 そこは何とか逃げ切るが、瑛己は眉を寄せた。

 翼の性能か? 運転手の腕か? エンジンか?

 ――2枚の壁の間を縫え

 ジンの言葉が蘇る。

(あの言葉の意味は)

 ズズズズズ

 後ろからの射撃に、操縦桿を持ち上げる。

 重い、重い、重い、遅い――。

 思えばこの重みは、この空域に入ってから。

(さっきまでは)

 追い風で。

 まるで風が後を押すように。機体の流れも弾の流れも。

(むしろ、早すぎるほどだったのに)

 ――風が。

 瑛己はハッと顔を上げた。

 ゴーグル越しに見えるのは、乱戦する空。

 北天の、乱れ舞い散る、飛空艇の数々。

(上には層がある)

 上がろうとした時に感じた壁のような風の層。

(下にも層がある)

 そう言えば、落下だけはスピードが減らない。

 ――一番近く見える山の木々が。斜めになっている。

(間の層)

 そこに。

 ――操縦桿を持ち直す。

 歯を食いしばる。引き上げる、引き上げる、そしてそこから。

 ゴーグル越しに目を凝らす。

 そこに見えるのは、ただ、入り乱れる機体。

 ドドドドド

 射撃を避ける。いやもっともっと目を凝らせ。

 瞼細める。バックミラーは確認しない。転がって銃撃だけはかわす。

 ――その果てに。

 鼻腔をつく、匂い。

 それは、海のにおい。

 違う、ここは湖だ。

 ここは内陸、海は遠い。

 ――ならばどこから?

「見えた」

 その瞬間瑛己の目に。

 まぎれもなく見えた。



 風の道。






 ――この国の風は特異だ。

 上に一枚壁のような風の層がある。

 そして中心を挟むように、陸から流れた幾分か温かい空気が流れる所がある。

 それに挟まれた中央は、気流が乱れている。

 土地によってもその乱れは変わる。湖などの水上と、陸地、山間地でもまた違ってくる。

 国土、気候、変化の多い地形、すべての条件から。

 飛空艇乗り泣かせとも言える土地である。

 ――それを知った上で、黒の機体の羽根の造りは、それに最低限適応できる形を取っていた。

 そういう機体を選び、連れてきたと言ってもいい。

 それは、このような乱戦に慣れていない空賊たちや、徒党を組む事に慣れていない空賊、同じ国土でも地形の異なる場所からやってきた空賊。

 ――まして、他国からきた者の操縦など。

 上回るのは容易いと単純に考えられていたが。

 ――翼がもげる心配は後回しだ。

 スロットルを跳ね上げる。

 黒の機体は瑛己のそれが、スピードを増したのはわかった。

 だがそれは、想像を遥かに超えた。

 スピードがさらに乗る。

 どこまで乗る?

(まさか)

 黒の機体の乗り手は目を見張る。

 追いつけない。

 最大速力まで踏み込む。目下この機体が出せる速力は、世界で随一という触れ込みだった。

 それでも届かない。

 砲撃する。だが、瑛己の機体は斜めに簡単に逃げる。

(さっきまでと)

 乗り手が変わった? 機体が変わった? 焦る彼を他所に。

 瑛己は。

 まず目の端にいた空賊機を撃った。そこから斜め上へと駆け上がる。

 ――空気に逆らわず。

 いける。

 ジンが言っていたのはここだ。

 風を味方とする。

 眼下に、黒の機体を捉える。真上を抜けてから。

 ひねる時、左へひねりを多めに入れた。

 ああ、わかった。

 黒の機体の脇腹。

 ドドドドド

 真正面叩き込む。

 そこから下へと潜り込み、

 ――その機体、まだ猶予あり。

 ゆえに。もう一度。

 今度は右からひねりながら。

 ――瑛己の瞳は静かである。

 撃った。




 盛大に響くその爆音に。

 瑛己は手を休める事なく次へ向かう。




  ◇


 その時磐木は、空賊機2機を相手していた。

 それを見つけた小暮が援護に入り、早い段階で切り抜ける事ができた。

 だが。

 バックミラーに映ったわけではない。サイドミラーもしかり。だがそれでも。

 何を感じたかと問われれば、それはいわば、〝気配〟。

 悪寒。

 本能の導くまま操縦桿を切り返したその刹那。

 ド――――ッ

 その音は鳴り響いた。

 砲撃の主を振り返れば、黒い機体。

 そしてそれを認めた刹那。

 もう一度放たれた弾は、磐木の機体の横をすり抜けて。

 ――小暮を。

「――ッ」

 捉えた。



 息を呑んだその刹那、確かにこの空に笑い声を聞いた。

 あの日から消えないあの、おぞましいほどの。

 神になったと言った、あの男の笑い声を。

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