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 『北天乱舞(Confused fight)』-4-


 ――『七ツ』が空に上がり、その後少し遅れてアガツ大尉も空へと上がった。

 『ビスタチオ』基地に残った兵力の一部、15機を従えての出陣であった。

 彼女達はまっすぐ、『七ツ』と空賊が接触したであろう場所へ向かったが。

 その時にはもう、戦闘は終わっていた。

 陸に、海に、墜ちた残骸は空賊の物で。

 空を映したような青い機体は、1つも見つけられなかった。

 向かったのだと、アガツは思った。

 『七ツ』は次の戦場を求めてさらに西へ。

 苦戦強いられる『ア・ジャスティ』の援軍として。

 ――だが彼らには、この戦闘は関係のない事のはず。

 異国の地の空軍と空賊の小競り合い。黙って基地にいればそれでいいものを。最悪、本国へ帰参する事もできるだろうに。

 なのになぜ彼らは今、戦場へ翼を向けるのだろう? その身をさらすというのだろう?

 何のために?

 アガツの脳裏に、出立前に磐木が見せた強い笑みが浮かんだ。

 その笑顔は狂気の沙汰ではない。戦いに狂っている者の目ではない、知性に富んだ、冷静なものであった。

 ――俺たちに任せろ。

 ただ、その意だけがこもったような笑みだった。

「……全機に告ぐ、これより我ら、『七ツ』を追って西へ向かう。そして前線部隊の援護へと向かう」

 ――他基地に援軍は求めた。

 だが、到着するまでにどこまで食い止められるか。

 情報では、空賊は徒党を組んで東へ進軍を進めているらしい。

(どうか無事に)

 アガツは空を見上げた。

 夜明けの光に金色を帯びた雲が、少し早めに駆けて行く。

 向かうのは自分たちと同じ方角。

「雲が導く方角へ」

 ――空の神よ、我らがともを守りたまえ

 そしてこの空を守ろうとするすべての者達に、どうか、慈悲のお心を――。




《この先を西に向かうと〝ルーの湖〟に出ます》

 空賊16機を撃破した327飛空隊の面々は、そのまま西へと向かった。

《【白虎】のアジトは〝イリア湖〟の向こうにある〝レモネスク渓谷〟です。戦闘がどの辺りでされているのかは正確にはわかりませんが、『ア・ジャスティ』空軍が出る以上はその近隣でないかと》

《さっすが小暮ちゃん、詳しー》

 フライト中の無線は極力禁止、作戦中はなお更。とはいえ今は状況が状況である。

 今回の『ア・ジャスティ』による空賊殲滅作戦。その内容を、瑛己たちはほとんど何も知らされていない。

 戦場がどこなのか。アガツが「分散させた」と言っていた事から、戦闘が行われているのは一箇所ではないようだが。

《とりあえず〝ルーの湖〟まで出ましょう。何か気配が掴めるかもしれません》

《了解。進路は?》

《ここからだと……》

 一瞬言葉を詰まらせた小暮に、ジンは小さく息を吐き、無線に向かって言う。

「方位285。少し南に流されている。真西より北寄りの方角で」

《了解》

 もう一度ジンは辺りを見回し、行く空を遠く眺めた。その上で、間違いないだろうと小さく息を吐いた。

(〝ルー〟か……)

 その名は、この国の古い言葉で〝原点〟を現す。

 それを教えてくれたのは。

 ――ジン、生きてッ……!!

(あれから5年)

 ジンは遠く彼方を見つめる。

(二度とこの地には)

 こないと思っていた。

(二度とあいつにも)

 会えないと思ってる。

 贖罪。

 ――あなたに感謝こそすれ恨むなど。私にはあり得ません

 ――裏切り者。殺してやる



 ……なあ、ゼンコー。

 お前はそう言ってくれたけどな。俺にはわかってるんだ。

 俺は逃げた。

 詭弁だ。お前らが助かった、そんなの詭弁だ。

 あのまま散るべきだったんだ。

 俺は死ぬのが怖かった。だから。

 結果としてお前らを裏切って、まだ、のうのうと空に上がってる。

 軍のいぬに成り下がって。

 フズの気持ちもわかるんだ。俺があいつだったら、あいつが俺だったら。

 だから俺は。

 あの日から……俺が生きてきたその本当の理由は。

 誰でもいい。俺を狩ってくれ。

 かつての仲間に。

 殺される事を。

 ……なぁ、ゼンコー。

 俺は本当はあの日、フズに再会したあの日。

 心のどっかで……安心もしていたんだ。

 逃れられないと。運命は逃してくれないのだと。

 その絶対的事実に。

 笑ってしまうほどに。



《前方! 飛行物体あり!!》

 鳴り響く声に、ハッとジンは顔を上げた。すぐさま確認する。

「目標確認」

《数、およそ20》

《艇映は?》

《『ビスタチオ』空軍に……あらず。空賊の模様》

《戦闘態勢入るぞ》

 あれは、とジンは目を細める。

 緑の飛空艇に見覚えはない。

 さっきった物もそうだ。記憶にない。

(俺がいた頃とは)

 北の空は随分と様子が変わったようだ。

 だがむしろそれに、ふっと口の端を吊り上げた。

「戦りやすい」

 なあゼンコーと、もう一度彼は虚空に向かって語りかけた。

 矛盾してるんだ。

 死を望んできた。いつかかつての仲間に殺される、それを心のくさびとしてきた。

 命永らえた、けれども俺にまともな明日なんぞありはしないと。

 生きてはきた。でも未来なんざ諦めてきた。

 ……なのに。

 なのに……恵の安否を知りたがってる自分がいる。

 ――もう一度だけ。

 そんなふうに願う自分がいる。

 そして。

 未だ、空にしがみついている自分がいる。そして。

 守りたいと。

 仲間を。そして。

「風に注意しろ。北からの突風、油断すんな。『蒼』とは違うぞ。2枚の壁の間を縫え」

《了解》

「飛、前に行きすぎんなよ。馬鹿したら撃つからな」

《んな無茶な》

「隊長は二日酔いだ、全員フォローするように」

《もう治ったわ! 俺の心配はいらん!!》

《何だ隊長、まだラリってたんスか? だったらもう、引っ込んでてくださいよ》

《貴様よりはマシだ、新》

《へぇー? 『葛』で俺とスピード勝負しようって言うんスか? いいっスよー? 受けて立ちましょ》

《100万年早いわっ》

《ほな、勝負します? 全員で撃墜記録スコア。キヒヒ》

《いいねいいねー。やろか》

《……遠慮します。集中したいんで》

《僕も興味ないです》

《お前ら付き合い悪すぎっ。協調性っちゅーもんを知らんのか》

《……お前にだけは言われたくない》

《同じく》

《何やとー!? お前ら、俺を何やと》

《銃撃くるぞッ!!》

《ほな、そーゆー事で》

《んじゃま、皆さん、ご健闘を》

「新、飛、お前らは最初に俺が墜としてやる」

《だからー、銃口は俺らやのうて向こうに向けてくださいって》

 ――今を。

 矛盾してるんだ。ジンは目を閉じた。

 それが生きるという事か?

 罪悪に苛まれながらも、それでも生きたいと。

 こんな環境、あるはずないんだと否定しながらも。それでも時間と共にいつの間にかあの国に体も、そして心も……受け入れていた。

 今は。今を。

 守りたい。

 1秒でもいいから。長く。

 ただただ。そう願う俺は。

 地獄の番犬を名乗っていたあの頃と。

 ――あなたは変わった。でも、今のあなたの方が殺しがいがありそうだ。

 お前の言うとおりだよ、フズ。

 でも俺は。弱くなったとは思わない。



 贖罪、懺悔、後悔、未練、そして裏切り

 すべてを飲み込んで、いつかくるであろうその日まで

 生きたいと願う、そんな俺は

 醜い生き物かもしれない。けれど

 恥じる気持ちは、ない

 笑うなら笑え




  ◇


「――報告します!! 『ア・ジャスティ』空軍を追った先行部隊が壊滅。続いて【グジン】率いる第二班もグム平原で撃破された模様!」

「何!? 相手は!? 空軍の残党か!?」

「戻った者によると、機体は金色にあらず。青塗りの部隊。その胴体に、七つの星」

「青……?」

 訝しげに顔をしかめる者達の中で、ただ一人、その男は深く息を着いた。

「それは、『ア・ジャス』にきているという『蒼国』の連中では?」

 【白虎】副長・ハヤセ。

 長くなった黒髪を斜めに垂らし、彼は小さく笑った。

「確か通り名は、『七ツ』」

「『蒼国』空軍か……厄介な」

 ポンと側近の肩に手を置き、彼は髪を掻きあげた。

「気にする事はない」

「しかしここで下手を打って、『蒼』まで乗り出してきたら」

「そんな事、今更。もうサイは投げられてる。俺たちはすでに、『ビスタチオ』を敵に回してるんだぞ?」

 なだめるように言うハヤセの傍ら、伝令はさらに報告を続ける。

「青の部隊はさらに進軍。直に〝ルーの湖〟に到着模様」

 〝ルー〟か、とハヤセは瞼を伏せた。

「現状、あそこはどうなってる?」

「連合軍が『ア・ジャスティ』空軍と衝突中。連合軍が押している様子ではありますが」

「……あそこが堕とされると、次は〝リスビア〟か……。連合に伝令。戦力を〝ルー〟に集結。そこで空軍を迎え撃て」

「ハッ」

「ならびに【白虎】全軍に指示。一気に東進を開始する。『ア・ジャスティ』基地から『ムナム』まで墜とす。空賊連合には〝ルー〟で撃退後に北から、『エリミナ』、『サティファ』、『コデュー』を進撃。空軍がきても迷わず町を爆撃せよ。空軍は相手にするな。合流後に一気に叩く」

「了解!」

「行け」

「ハッ」

 伝令を解き放つが、その後すぐに傍にいた者達はハヤセに向かった。「しかしッ」

「町の壊滅とは……ッ! 市民に手を出すのか!?」

「どうした? 今更偽善か?」

「しかしッ」

「踏み絵だよ、踏み絵。ここで愛国心を出すような連中、必要ない。邪魔になるだけだ」

「ハヤセッ!!!」

 先ほど彼が肩に手を置いた人物が、今度はハヤセの胸倉を掴んだ。

「いいのか、それで」

「……何が? お前らだって、国に帰りたいんだろ?」

「……ッ」

「今のままじゃ、『蒼』には戻れない。戻っても【天賦】がいる……俺たちはあいつらに滅ぼされる」

「しかし」

「『黒』の援護がなくば、『蒼』には帰れんのだ」

「……」

「テギを救ってくれたあの技法、そして『黒』の技術があれば……俺たちは、生まれ変わる事ができるんだ」

「……」

「【天賦】なんぞに遅れを取る事はない。部隊だって増える」

「しかし……あの男、信じていいのか!? 本当に!?」

「上島殿の事か」

「お前は、テギを救ってもらった事で、盲目になってるだけじゃないのか!?」

「……」

 ハヤセは口を尖らせた。ほのかにその手が動いたと思った刹那。

 腰から引き抜かれた銃が、彼を掴んでいたその男の胸を撃ち抜いた。

「抜けたい奴は抜けてくれ」驚愕を顔に貼り付けたまま力を失うその男を手で押しのけて。

「その代わり、これが今生の別れだ」

「……」

 温度の少ない黒い瞳がじっと見渡す。生唾を飲む者はいても、反旗を翻す者は誰もいなかった。

「あーあ、台無しだ」

 血に汚れたシャツを見下ろし、ハヤセは苦笑した。

「離陸準備。俺たちも出るぞ……その前に着替えてくるかな」

 それだけ言って彼はクルリと背を向けた。

「――離陸準備! 急げ!」

 今ここで、命を落とした者がいる。その事実はまるでなかった事であるかのように。

 慌しく人が動き始めた。



 部屋に戻るとそこには、少女が立っていた。

「テギ」

 ハヤセと同じく黒髪に漆黒の目を持つその少女は。

「起きていていいのか」

「……」

 虚ろな瞳で彼を見上げた。

 だがハヤセは満足そうに笑うと、彼女をそっと抱きしめた。

「大丈夫。もうすぐ国に帰れるよ」

「……」

「やはり間違ってなかった……大丈夫、お前はもう、大丈夫」

「……」

 少女は無言のまま虚空を見つめていた。

 その顔は無表情。まるで人形のようでもある。

 それでも。

 少女の体温に喜びを覚えずにはおれないハヤセであった。

 生きてここに心臓を打って、立っている。

 奇跡の御技だ。

(手に入れたい)

 不治の病と言われた妹の回復への喜びと、同時に彼が抱いていたのは。

 もう少し、黒い色をした感情であった。


  ◇


 ドドドドドド

 銃弾が滑り込むのは、エルロンのど真ん中。

 その真下を潜り抜け、横へ旋回しながら、今撃った飛空艇の動きを見やる。

 速度は落ちた、水平は失っている。

 でも、戦う意志は消えていない。

 安定が悪い中でも羽根を翻し、瑛己の後を追いかけてくる。

 それを見た上で、瑛己は判断した。墜とす。

 下から突き上げるように、今撃ったエルロンを横に薙ぐように銃弾を叩き込んだ。

 翼は弾けた。

 引火するまでに時間は残っているはずだった。

 でも乗り手は機体を捨てて、飛び降りはしなかった。

 斜めに水面へと滑り込んで行く機体と共に。

 爆破する、その瞬間まで。

 一緒に乗り手は、空へと還って行った。

「……」

 瑛己はその顛末を見、少し複雑な表情を浮かべた。

 ――基地を出て、すでに5時間。

 そろそろ体にも疲れが出始めている。

 だが戦況は、西に行くほど激化している。

 次から次へと押し寄せる空賊部隊、色も形もとりどりなそれを相手に、連戦を強いられてきた。

 辛うじてまだ弾も燃料も尽きてはいないが。

(どこまで続くのか)

 終わりすら、疑ってしまう。

《間もなく〝ルーの湖〟に差し掛かります》

 小暮の声に、瑛己は小さく息を吐いた。自分でも、疲れがにじんでいるのがわかった。

《全員無事か》

《3番、辛うじて》

 新の返事を皮切りに、短い返答が続く。

《機体の損傷、燃料はいいか?》

《何とか……ですがさすがに》

《ちょい、キツないですか?》

 瑛己も改め、メーターを詳しく確認して行く。

 だがその刹那。

《おいおい……レーダー、何よこれ》

 息を呑むように聞こえた新の声と同時に、瑛己もそれを見て驚愕に目を見張った。

《肉眼確認、西の空だ!!》

 レーダー、向かう西の方角は、点滅する明かりで真っ白になっていた。

 顔を上げれば西の空は、それとは逆に黒い点が。

 はびこる、蜘蛛の子の群集のように。

《〝ルー〟到着! 見えます》

《前方、金色の機体確認。艇映は『ビスタチオ』空軍戦闘艇・『セフィロト』!!》

《戦闘領域突入します》

《隊長、このまま入って》

 よろしいのですか!?

 一時体勢を整える暇を。

《……》

 ここで無線から返る沈黙は。

 いつか、平穏な世界へと導くのだろうか?

 瑛己は息を整える。両手をギュっと握り締める。

 装備がいいいのか、寒さは、初めてここの空に上がったの時と比べれば格段に違う。

 幸い空も、雲は増えているがまだ降るまでに至っていない。

 先の事はわからないにせよ。

《総員に告ぐ》

 吸い込む空気は、内臓を切り裂く。

 だがそれは妄想。

《我らはこのまま、戦場へと突入する》

 実際には空気は、人を切り裂くような事はなく。

 切るとすればそれは。

《この先戦いはさらに激化すると思われる。空賊と『ア・ジャスティ』空軍の見極めには充分注意を。ここが一つの山場になる》

 人が、人の手にて。

 何かしらの意志を、貫かんとするがために。

 それは立場は違うがゆえに異なる、それぞれが思い抱く絶対たる、

 ――正義。

 戦わねばならぬほど、命を張るにふさわしいほどの。

 絶対の信念。

《無駄死には必要ない。危なくなったら退け。これは我隊最大の鉄則と思え》

 名誉などいらん。

 栄光などクソ食らえだ。

 ただ今、彼らが貫こうとする〝正義〟が何なのかと尋ねられたなら。

 彼らは迷わず言うだろう。

《戦いを終わらせる。いいな。これ以上この空を、不穏に染める事は断じて許さん》

《了解》

《ういっす》

《敵機来るぞ。戦闘態勢》

《重ねて言う。戦闘を終わらせる。ただし死は不要。生き残る事が我らが貫くべき絶対だ。いいな》

《了解》

《行くぞ!!》

 西の空より弾が、空気を貫き飛来する。

《『蒼国』・『湊』第327飛空隊・『七ツ』!! 『ア・ジャスティ』空軍の加勢に入るッ!!》

 それを上と下に避け、戦場へと彼らは飛び込んで行く。

 それは例えるなら、〝渦〟。

 生死が蠢く、巨大な巣。

(気圧が)

 斜めに空を切るように抜けながら、瑛己はグイと歯を食い絞った。

 空気が違う。今までとは違う。

 飛空艇が大量に密集しているからか、風も変わった。

(重い)

 ドドドド

 後ろから撃たれ、下へと逃げる。

 逃げた先には金の機体が。その真上を抜け、機体をひねる。

 正面に、鮮やかな花を描いた機体を捉える。

 間髪撃つ。撃ちながら、後ろからの射撃をかわす。

 だが上昇の過程で、また空気が変わる。

 上がりきれない。

 空気に抵抗を感じる。慌てて右へ切る。

(壁)

 そう言えばジンが言っていた。2枚の壁の間を縫え。

 ドドドドド

 横合いから今度は桃色の機体が。

 何と様々な色彩に溢れているんだろう。

 まるで飛空艇の見本市に飛び込んだかのようだ。

(これは)

 神経を使いそうだ。

 その時、一層冷たい風が頬を殴るように吹き付けた。

 それを皮切りに、辺りの風力が増して。

 プロペラ音、銃声以上の雲の轟音が。大地に威嚇するように響き渡った。

 ――神がいるというのなら。

 今のこの空を、何と思って見ているのだろう?

 何が引き金となり、何が交差し、どんな思いの果てにこの結果が生まれたのか。

 だが単純明快なのは、結果の過程にあるのは必ずしも人の〝エゴ〟であるという事。

 その想いの量の強さゆえか。

 機体の動きが鈍い。空がとにかく重い。

 ギアを切り替える。

 いや違う。気持ちを切り替えよう。

(『七ツ』の誇り)

 この空を守る。

 それが。

 瑛己がその胸に貫く思い。

 ドドドドド

 射撃ボタンは躊躇わない。

 撃った機体の顛末よりも、次へ。

 迷う暇があるなら走る。

(空の女神)

 いるなら、仲間を守ってくれ。

 自分は、あんたに頼らずとも抜けられるくらいに。

(強くなりたい)

 強くなるから。

 操縦桿に力を込める。

 重い感触は、瞬きで拭い去れ。

 バックミラーについた、見慣れぬ飛空艇。銃口が光る。

 それをかわし、操縦桿を引き起こす。

 体全体でひねり込み、見つけた敵機を即座、撃つ。

 粉塵を切り裂き。

 ゴーグルの向こうに、航跡を見る。



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