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 『白い残痕(Snowy_footprint)』 -1-

 吹きすさぶ風の中。

 雲の間を雷光が轟く。

 さながらそれは、竜のごとく。

 牙を向き、襲い掛かってくる。

 荒れ狂う空に、操縦など一杯一杯。

 翼を水平に維持する事など、不可能。

 敵と戦り合うのとどちらが楽なのか?

 そんな事を思いながら、ふっと笑ったのをよく覚えている。

 ――しかし、それが、運命の分かれ道だった。

 もしあの時決断しなかったら。自分は今どこにいるのだろうか?

 無茶苦茶に飛ぶ一機の青い機体。

 その後を追う事なく。

 翼を翻していたならば。



《間もなく、危険空域に突入する。総員警戒態勢を》

 蒼国空母『雄大雲』。艦内に繰り返し流れる警戒放送を聞きながら。

 ジンはふっと息を吐いた。

 しかし意に介した様子なく、また煙草をくわえる。

 彼が見つめるのは、窓の外。

 小さな窓からは雲の様子もその気流も、大して見えるわけでもないが。

 ジンには、見えた。

 荒れ狂う雲と、踊る暴風。稲光。

 そして。

「風迫」

 不意に声をかけられ、彼は視線だけを声の主へと向けた。

「総員、個室で待機と言ったはずだ」

「……」

「……」

 煙草をくわえたまま、ジンは口の端で笑う。

「そうでしたか」

「ああ」

 それだけ言ってまた、煙草をふかす。

 磐木はそんな彼の様子に一瞬眉をしかめたが、それ以上は何も言わず。自身も窓を見た。

 分厚いガラスに、2人の瞳が映る。

「ひどい空だ」

「ええ」

「……さすがに空母は揺るがんな」

 『蒼』と『ビスタチオ』国境に位置する、〝風の抜け道〟と呼ばれる空。

 ここの気流は特異である。

 寒流と暖流がぶつかる所だという節もあるが。同じような場所はこの世界にいくつもある。

 だがこれほどに激しく空が轟く場所は、他に類を見ない。

 まるで、2つの国を決定的に裂くかのような。拒絶しているかのような。

 次元すらも、超えなければならないような。

 拒否反応にも近い歪みが、この場所にはある。

「あれから、性能が良くなったと言っても、小型機ではひとたまりもないな」

 空母とて、完全に揺れに抗う事ができているわけではない。確かに機体は揺れている。

 それでも、壁に身をつけていれば立っていられないほどでもない。

「……この時期はそれほどでも」

「そうか」

「一番きついのは、夏至の頃ですよ」

「……そうか」

 そう言って磐木はふっと微笑んだ。

 ジンも少しだけ口の端を緩めて、また、窓の外に目を移す。

 ――今を生きる、すべての命が。

 どれだけ思って生きているのだろう?

 今した行動が、やがての自分運命を分けるなど。

 今選んだ小さな選択が、やがて生死を分かつほどの物になろうとは。



 もしあの日、あの機体を追いかけなかったら。

 磐木 徹志という人物に会う事はなかった。

 そしてそれは同時に。

 ジンの命はあの日あそこで、終わっていた事を意味する。

 極寒のあの雪の中。

 今この場に立つ事などなく。

 ジンは思う。まるでさながら俺は幽霊だ。

 だが奇しくもまだ足はある。そして生きている。

 そして本当のピリオドの時間まで。

 まだ、選ぶべき選択は、残されている。

 


 窓の外は荒れ狂っている。

 機体が揺れたが、でも、転がるほどでもない。

 やはり今日の風はまだ緩いのだと、ジンは思った。

 雷光が窓を白くする。

 ジンは目を伏せ、ヴァージニアスリムに口付ける。




  30


 『湊』を出た327飛空隊は、一路、『ビスタチオ』へと出発した。

 まずは『永瀬』基地で空母艇『雄大雲』への乗り換え。予定通り出発。そこから2度ほどの経由をして、『ビスタチオ』東部の街『ア・ジャスティ』へ向かう運びとなった。

 それにしても、空母である。

 『蒼国』が誇る空母艇という事もあり、その大きさには瑛己でも目を見張るほどであった。

 瑛己たちが愛用している『翼竜』7機がわけなく積み込めるとあって、よほどの大きさとは思っていたが。

「やっぱ生で見ると、迫力違うな……」

 空母を前にして、飛ですらも唖然としたほどである。

 とにかく巨大である。まるで基地一つがそのまま空へと持ち上げられているかのような広さだ。

 327飛空隊はそれぞれ来客用の個室を用意された。

 ホテルのような広いものではないにせよ、寝台と簡易テーブルが備え付けられていた。

 戦艦というよりは旅客機のようだと瑛己は思った。

 こんな空母に乗り込める機会など早々あるものではない。そして飛が目の色を変えないわけがない。

「艦内全部見て回るぞ! 瑛己、ボケボケすんな」

「……」

 だがしかし、はしゃぐのは飛だけに留まらず。

「瑛己さん!! すごっ!! 厨房ですよ!! 飛空艇に厨房がある!!」

 秀一までも、大騒ぎして艦内を走り回っていた。

「厨房あるのがそんなに珍しいもんかねー」

 暇つぶしについてきた新も呆れるほどであった。

 新は元海軍である。1つの機体に複数人が関わっている事も、大人数で動かすという事も、乗り物で寝起きするという事にも慣れているのだろう。

 厨房、大食堂、就寝スペース、廊下は狭いがよく磨き上げられている。娯楽室などもあり、本がたくさん詰め込まれていた。

 機械室には巨大なエンジンが乗せられていて、その大きさは『翼竜』に搭載されている物の比ではない。あまりの巨大さに全員で目を疑ったほどであった。

 艦内の見学は一応の許可が出ているものの、それほど派手に動きまわっていいというわけでもない。それでも、見る物見る物、新鮮に見える。

 操縦室に関しては入室できなかったものの、外から窓越しに見る事はできた。何人もの人間が座って、その向こうに開けたガラス窓の外を見ていた。

「何だか不思議ですね」その様子を見た秀一が言った。

「僕らはいつも、1人で1つの機体を操ってる。操縦も撃つのも、燃料も機械の心配も、乗り込んでしまえば全部自己責任ですけど。ここではそういうの全部、分担されてるんですよね」

「それはそれで面白いんだけどね」

 新はニヤリと笑いながら、肩をグルグル回した。

「団体行動は、それなりに責任負うわけよ。上下の指揮系統が絶対だからね。上が撃てって言っても、それが砲撃手に伝わらなかったら意味ないし。大体、責任者の判断で左右される人間の数が馬鹿多いわけだし」

 そう考えると1人は孤独だけど楽だね、と言って新は頭の後ろで手を組んだ。

「死ぬも生きるも、1人だから」

 それはそれで、隊全体への影響がでると思うが……そう思ったが、瑛己はあえて言わなかった。

 新は両方を見ている。こういう場所を知らない自分が言う事ではないと感じたからだ。

 ――1日目は艦内の散策に終わり、『蒼国』北部の地で燃料の補給のために停泊となった。

 2日目はいよいよ海を超えて、『ビスタチオ』の領内へと及ぶ事になる。

 その途中の空域に控えるのが、〝風の抜け道〟と呼ばれる場所だ。

 乱気流の巣とも言われるような所だ。突入と同時に艦内には警戒放送が流れた。

 その間は各自部屋にて待機を言い渡されていた。

 瑛己も部屋にこもり、小窓から外を見ていた。

 小さすぎて全貌が掴めるほどではない。それでも、外が荒れている事は見て取れる。

 ここまでほぼ安定していた機体も、徐々に揺れが気になるようになってきた。

 おかしなものだと、瑛己は思った。

 自分で飛空艇を操っている事を思えば、こんな揺れ、気にするほどでもない。

 まして空戦など始めようものなら、上と下がわからなくなるような事もある。

 揺れの中、瑛己は苦笑する。やっぱり自分は乗るより運転する方が向いているのかもしれない。

 そしてさらにもう1人、それを実感する人物が。

「えいきぃー、悪い、酔い止め持ってへんか? あかん、酔った」

「……」

 飛び込んできた男の姿に、瑛己は軽く絶句した。

「……〝空戦マニア〟じゃなかったか?」

「こういう微妙な揺れはあかん。それに、俺は人の運転は好かん。自分で回してナンボやわ」

「……」

「何や、その、しこたま嫌そうな顔は」

「……別に」

 もちろん酔い止めなど瑛己は持っていない。

 狭い部屋に瑛己と、「もう動けへん」と床に転がる飛、そして「やっぱりここにいた」と秀一まで集まり。

 3人、過ごす事になった。



「なあ、抜けるのに何時間掛かるんやっけ?」

「1時間か2時間?」

「……吐いていいか?」

「自分の部屋でやってくれ」

 そんな2人の会話を他所よそに。

 秀一はじっと、窓の外を見ている。

 その様子に瑛己は少し目を細め、転がる飛を置いて彼を見た。

「凄い雲ですね」

 瑛己の視線を感じた秀一が言う。

「ああ」

 短く呟き、瑛己も窓の外を見つめる。

 雲と言っても、下から見るのとは違う。

 それ自体が一つの生き物だ。それが時折激しく機体にぶつかる。

「……」

「……」

「……こんな、なのかな」

「何が」

「……〝空の果て〟」

 不意に秀一の口からこぼれた言葉に、瑛己は軽く目を見開いた。

「磐木隊長が前に言ってたじゃないですか? 空に開いた穴と……人を飲み込んでく気流、荒れ狂う空の話」

「ああ」

 瑛己は目を伏せる。

 磐木の言葉、そして瑛己の中にはさらに、兵庫から聞かされた光景も混じっている。

「こういう嵐なのかな……」

「さあな……」

「……飛べるかな」

 ポツリと言って、秀一自身がハッと顔を上げた。

「あ、や、……例えばですよ。もし自分がその時直面してたらって。飛べてたのかなーって」

「……」

「風に抗って」

 運命に抗って。

「抜けられるのかなって」

 未来へ。

「……さあ」

 答えようもない。

 瑛己は窓へと視線を戻す。

 もし自分がその場にいたら。

 〝空の果て〟と直面し、荒れ狂う風の中、この身1つ、機体1つで潜り抜けなければならないという現実に直面した時。

 ただ1つ、わかっている事があるとしたら。

「全力で走るだろ」

 死に物狂いで。

 風に抗う。運命に抗う。

 死に抗って。

 生きる事を望む。

 生きて、生きて生きて生きて。

 晴天の下へ出る事に。

 この身は躊躇わず、懸けるだろう。

 持てる力、持てる命、すべてを。

 それが生きるという事。

 それが生命というもの。

「迷ってる暇なんか、ないさ」

「……」

「死に物狂いで走る」

「……ですね」

 飛が2人の背中を見、そして寝転んだまま天井を見た。

 そこは、染み一つない。白のタイルが敷き詰めてあるだけだった。


  ◇


 〝風の抜け道〟を通過して間もなく、『ビスタチオ』領空に突入。

 そこから数時間後、陸地が見えてきた。

 そして『ビスタチオ』東部の飛行場、『リリ・フイ』に到着。ここで一晩停泊となった。

「きたぜ『ビスタチオ』! さあ夜の街に繰り出すぞ!!」と意気揚々と飛び出そうとする新に。

「外出は禁止だ。大人しくしてろ」

 その後頭部をポカリと殴ったのはジンである。

「えー、でもーだってー」

「それに外に出ても何もないぞ。ここはただの飛行場だ」

「街くらいあるでしょ?」

「やめとけ。入国審査は『ア・ジャスティ』に着いてからだ。着く前に不法入国で捕まるぞ」

「えーそんなー」

「向こうに着くまで我慢しろ」

 2人のそんな問答とは別に、秀一が少し肩を震わせた。「さすがにちょっと、冷えますね」

「奥へ行けばさらに寒さは増すぞ。着込めよ」

 小暮の言葉に秀一は、はいと返事をした。

 ついにいよいよ、明日は『ア・ジャスティ』到着である。

 瑛己は自分でも知らず、心臓が高鳴るのがわかった。

 それが何に対する高鳴りなのか、言葉としてはわからなかったが。

 あまり気持ちのいいものではないと、瑛己は思った。



 寒さのせいか、不意に増した気持ちの昂ぶりのせいか。

 その夜、瑛己はほとんど寝付けなかった。

 ようやく浅い眠りにつけたのは明け方。

 そして少し、夢を見た。

 空を飛んでいる夢だった。翼が生えたわけではない、飛空艇でである。

 目印もないような真っ白い空を一人で飛んで行く夢である。

 そのうちに、前方に何か見えた。

 それに向かって瑛己はアクセルを踏み込もうとしたが。すでに足はもう目一杯それを踏んでおり。

 スピードはそれ以上でない。

 瑛己は立ち上がり、前方のそれに向かって叫ぶ。

 だがそれは次第に遠のき。

 やがて白い空に、飲み込まれるように消えて行った。

 自分が、父さん、と叫んでいた事に気がつくのは。

 目が覚めて後の事である。


  ◇


 空母を降りてまず思った事は、寒いという事。

 いや、むしろ痛いかもしれないと瑛己は思った。

 露出した顔が痛い。

 他の装備はそれなりに厚めに着込んだつもりだった。

 厚手の紺のジャケット、下にはさらにもう一枚重ねて、それから制服を着込んでいる。

 下の方が手薄ではあるが、冬用の靴下を2枚重ねた。軍靴も冬用の、膝まである分厚い物だ。

 それでも、この冷気をさえぎるものではない。

 ……これは本気で兵庫に連絡して、毛糸のパンツを送ってもらうべきなのだろうか? 瑛己は真剣に悩んだ。

 瑛己のそんな様子に、まさか毛糸のパンツの事で悩んでいるとは思わない磐木が、「聖どうした。体調が悪いのか?」

「あ、いえ」

「ここは気圧が違う。体調に異変を感じた者はすぐに言うように」

「はい」

 もう一度磐木は瑛己を一瞥して、そして黒のバックを肩から下げた。

 他の隊員もそれに続く。

 滞在は仮として2週間。着替えで荷物はかなり多い。これでも減らしたつもりだが、量は多い。鞄1つでは入りきらなかった。ズシリとする。

 息を吐けば白い煙となり、そのまま凍りつきそうだ。

「ぶヘクショい!! ……あー、鼻水凍るわ」

 と、笑う飛のまゆ毛がすでに白くなっている。それを見て瑛己は、自分も同じような具合なんだろうなと思った。

 ちなみに帽子は全員同じく、冬用の飛行帽である。夏よりもさらにダウン生地が厚めとなっている。

 秀一が名残惜しそうに『雄大雲』を振り返った。

 降りてしまうと何だかとても頼りない。『雄大雲』の大きさに比べる自分たちの小ささに、何だか心もとなしさを感じる一同であった。

 327飛空隊の先頭を歩いているのは、『湊』総監・白河であった。

「何年ぶりかな。やはり『ビスタチオ』は寒いな」

 そう言えば、瑛己はこの2日間で白河と小暮が一緒に話している姿を何度か見た。

 理論家の小暮と、白河が何を話しているのかはわからなかったが。彼がとても楽しそうに笑っていたのが印象的だった。

 『ア・ジャスティ』の滑走路は広い。端には雪もかき集められている。

 見上げれば空は、今にも振り出しそうに重い。これは雪雲だ。

 そんな中8人、建物のある方へと歩いて行く最中。

 向こうからトラックがやってくるのが見えた。

「お、お迎えかな」

 と新が弾けたように手を振った。

 やがて、彼らの前で止まったトラックから、運転していた軍服が一人がヒョイと降りた。

「『湊』空軍基地の方々とお見受けしましたが」

「いかにも」

「このたびは遠い所ようこそいらっしゃいました。さあ、荷物をこちらへ。ご案内します」

 その軍人の目は青かった。

 そして瑛己たちが目を見張ったのはもう1点。

 女だったからだ。


  ◇


「ようこそ『ビスタチオ』へ。歓迎いたします」

 青い目の女性軍人に案内された先で待っていたのは、こちらもやはり青い目をした金の髪を持つ男であった。

 『ア・ジャスティ』基地にある一際立派な建物の一室。外観の期待を裏切らない、こちらも立派な一室であった。

 きらびやかな装飾の中に、一際目立つ『ビスタチオ』の国旗、〝一粒の実〟。

「私がこの『ア・ジャスティ』を統括する、カイ・キシワギ(kai_kishiwagi)です。よろしく」

 国旗の前に立つその男が、ニコリと笑って会釈をした。

 歳は40前後。金髪に碧眼高い鼻。飛と新が無言で白河とキシワギと名乗るこの責任者を見比べている。

「こちらは私の補佐を勤める、クラ・アガツ(kula_agatsu)大尉です」

「よろしくお願いします」

 こちらも短く刈り込まれた白に近い金髪と碧眼。飛は思わず秀一を見てひどく睨まれた。瑛己はどうにか未遂でこらえた。

「このたびは突然申し訳ないです。私が責任者の白河 元康です」

「『蒼国』、『湊』基地の噂はこちらにも届いております。指揮官の才の賜物でございましょう」

「いえ、とんでもない次第です。優秀な部下のおかげに他ありません」

 頭を下げる白河の後ろで。好奇の目でキシワギ大佐を見つめる隊員の中。

 磐木と――そしてジンは、じっと険しい表情で彼を見つめていた。

 そんな視線に気づいたキシワギは磐木を見「やあ」

「磐木君。久しぶりだね。元気そうだね」

「……大佐殿も」

 低く呟く磐木を見て。

 キシワギはチラとだけジンを見た。そして口の端に笑みを浮かべた。

「……話はまた明日としましょう。今日はまず、滞在先を案内させます。荷物を下ろしてまずは空での疲れを落としてください」

「助かります」

「アガツ、案内を」

「かしこまりました。こちらへ」

 白河を筆頭に、部屋を出て行く。

 新が出、飛が行き、秀一、瑛己、小暮と続く中で。

 ジンは一人動かず。

「風迫」

 そんな彼を磐木が促した。

 だがジンは真っ向、キシワギを見据え。

 やがて、小さく頭を垂れた。

 そしてようやく一歩踏み出しかけた彼に。キシワギが足早に彼に寄った。

 そして彼の耳元に口を寄せ、

「ジン」

「……」

「元気そうで。何よりだ」

「……おかげさまで」

「またお前がこの地に訪れるとはな。嬉しい限りだ」

「……」

「くれぐれも、素行には気をつけたまえ。あれから何年経ったか知らんが」

「……」

「お前を向く銃口に、変わりはない。いいな」

「……どうも」

 キシワギはニコリと笑い、改め、ジンと磐木にこう言った。




「ようこそ、氷雪の国、『ビスタチオ』へ」




 重い灰色の雲から白い物がこぼれ落ちてきたのは間もなく。

 雪は世界を沈黙に染め、そして白く覆って行く。

 その下に埋もれる無数の現実と。過去をも。

 一瞬、無に帰すかのように。



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