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 『零地区(area_zero)』-1-

 気に入りの煙草に火を点けると、ジンは軽く吹かし、目を伏せた。

 半分開けた窓から、少し湿り気を帯びた夜風が吹いてくる。

 その窓辺の壁に身体を預け、チラっと外を見た。

 北塔の2階。ここに広がる景色は、昼間なら『湊』の町を一望する。

 だが夜の闇に最初に目に入ったのは、硝子ガラスに映った自分の顔だった。

「……」

 ジンは、窓枠で灰を落とした。

 それは夜風に誘われ、闇の中へと消えて行った。

「待たせた」

 その時、ガチャリと部屋の扉が開いた。

 ジンはまず硝子に映る室内を眺め、それからそちらを振り返った。

 『湊』空軍基地、北塔、第8会議室。

「こんな時間に突然の召集、すまない……掛けてくれ」

 そこに、第327飛空隊のメンバーが集まっていた。

 その顔を見渡し、総監・白河 元康はチラリと磐木を見た。

「謹慎中の2人は外しています」

「……そうか」

 白河の目が、ほんの一瞬複雑な色を灯した。

 ジンは外側の壁で煙草をもみ消すと、そのままポッと空へ放った。

 その時ふと思った。この手を離れた煙草は、一体どこへ行くのだろうか。

 夜風に誘われ、空へ舞い上がるのか。それとも、飛ぶ事もできずただ地に落ちて、雨風にさらされ果てて行くのだろうか。

 ジンは苦笑した。

 そんなもの、知った事じゃない。

 放った煙草の行方は、振り返らない。




 白河は、座に着いた一堂を眺め、重い口調で呟いた。

「作戦命令だ」

 誰も声を上げない中で、空気だけが。ザワリと一つ、またたいた。




  7


「一昨日、『音羽』海軍基地を出立した巡視船が2隻、消息を絶った」

 『音羽』海軍基地は、『湊』から南東へ行った湾岸沿いの基地である。

「最後の通信は一昨日の朝。不審な船を発見したので追跡するという内容だったらしい、だがそれ以来、何の連絡もない」

 その最後の通信すら、電波障害でも起したかのように、言葉途中で途切れた。

「そこで、その行方不明になった巡視船の捜索依頼がきた」

「……」

「最後に通信があったという場所は?」

 磐木が尋ねた。白河は彼を見、そして全員を見渡し、ゆっくりと口を開いた。

「『湊』から西、『久那くな諸島』を抜けさらに西へ行った海域」

 その言葉に、全員がハッと顔を上げた。

 白河はそれを受け、静かに、だがまっすぐを向いてこう言った。

「中立海域、通称〝ゼロ地区〟―――そう呼ばれる場所だ」

「……」

 シンと静まり返った室内に、夜風に揺れる窓の音がカタカタと鳴り響いた。

「……〝零〟か」

 その沈黙を破ったのは副隊長・風迫かさこ ジンだった。

「それでその、不審な船というのは?」

 白河は腕を組んだ。「わからない」

「言葉以上の事は何もわからない。それが一体何だったのか……」

「不思議ですね」

 小暮の眼鏡が、照明にキラリと輝いた。

「不審な船……それも、気になるのは〝零地区〟」

「うむ」

「〝零〟は、国際規約上の規定海里の穴とも呼べる場所だ。たくさんの国に囲まれながら、その海と空はどこの国にも属さない。いやむしろ……人という身分では、御さえきれない場所なのかもしれない」

 そう言って、小暮は磐木を見た。

 〝零地区〟。その言葉が導き出すもう一つの言葉。

 だが、磐木は何も言わなかった。白河も目を伏せ、何も答えなかった。

「で? ミッションは? どう飛ぶんスか?」

 その空気を察したのか、単に気がはやったのか。新が身を乗り出すように訊いた。

「今回の作戦は、あくまでも巡視船の消息を追う事だ」

 白河は一言一言を確かめるように言った。

「彼らが何を見て、どこへ向かったのかはわからない……それゆえに、行動はあくまでも慎重に、目立つ事は避けた方がいいのかもしれない」

「少数で、という事ですか」

「うむ」

 小暮と新が顔を見合わせた。

 その隣に座っていた相楽 秀一が、不意に手を上げ立ち上がった。

「待ってください。それじゃぁ、たかき瑛己えいきさんは?」

 その問いに、磐木の答えは早かった。「奴らは待機だ」

「しかし……!」だが秀一は引き下がらなかった。「もうすぐ2週間になります。彼らも十分に反省しています。怪我も随分よくなっている。そろそろ解いてくださっても」

「待機だ」

「隊長!」

 磐木がギロリと秀一を見た。だが秀一も負けじと彼を見返した。

 その光景は、周囲の者にとって冷や汗そのものだった。

 磐木が身じろぎをした。今にも立ち上がって、秀一を蹴り飛ばしそうな様子に、新がギョッと飛び上がった。

「俺、立候補! 絶対行きたい」

 それを見て、小暮も彼に続けた。

「新はここに来る前、海軍だったもんな。やっぱり心配か?」

 だが彼は苦笑して、フルフルと首を横に振った。「まさか」

「見つけたら、おめーら変なもん追いかけないで、もっと夢を追いかけろよと言ってやる」

「夢? 確かお前、搭乗の船にラクガキばっかりしてクビになったんじゃ……?」

「ちげーよ! 俺は、自分の力で飛びたかったの! 大人数でヘロヘロ船を動かすんじゃなくて、一人でバーッと空を翔け回ってみたかった。だから、こっちにトラバーユしたのだ」

「ほぉ……絵描き志望だったけど親に大反対されて、仕方なく入った海軍で、デッキに絵ばかり描いていたからお払い箱になり。空軍なら、自分の機体にペイントしているのも見かけるし、多少は許されるだろう、そう思って入ったという噂は、デマだったんだな?」

「……小暮ちゃん、文章長いし……大体、どこでそんな、信憑性のある真実にほど近い噂を聞いたのん?」

 2人のやりとりに、白河がハッハッハと笑った。

「相楽君、慌てなくても2人にはまだまだ一杯飛んでもらわなければならない。怪我も完治したわけじゃないのだろう? 幸い、今度の仕事は調査だ。2人の気持ちも、君の気持ちもわかるが、今回は理解してくれ。その代わり、これが終わったら謹慎は解かせよう。な? 磐木」

「……」

 磐木は何も答えず、顔をそむけた。秀一はもう一度白河を見た。すると彼は大きく頷いた。

「それで。あとは誰が出ます? 目立つ事ができないとなれば、3か、多くて4という所でしょう」

 秀一が座るのを確認して、小暮が言った。

「磐木隊長、新が行くとして」

「お前も外せないだろう、小暮」

 ジンが、足を組み替えながら言った。

「じゃあ、磐木隊長、風迫副長、新、俺……」

「待った。秀一だけであの2人を抑えきれるのか? 飛が今度の事を聞いたら、秀一なんかぶっ飛ばして、絶対ついてくるぞ!?」

「今2人は? ちゃんといてきたのか?」

 撒く……小暮の言葉に、秀一は苦笑した。「ええ、まぁ、一応。飛はもう寝てたし、瑛己さんも『海雲亭』に行くって」

「聖か。あいつも、今度の事を聞いたら、ついてきたがるかもな」

「……」

「俺が残る」

 言ったのは、ジンだった。全員が驚いた様子で彼を見た。

「副長……しかし、」

「4人もノコノコ行く事はない。隊長と小暮と新、3人で充分だろう」

 小暮が磐木を見た。

 磐木はジンを見やり、ポツリと呟いた。

「いいのか」

「ああ。調査なんてかったるい仕事、俺はパスだ」

「となると、問題児2人の見張り係になりますよ?」

 ニヒヒと笑う新に、ジンは鬱陶しそうに片目を細めた。そして「んなもん知らねーよ」と煙草を取り出した。

「だが、何かあったとしても、俺は磐木隊長みたいに手加減できないがな」

 クッと笑うとそのまま、火を点けずにくわえた。

 秀一はその様子に苦笑したが、心のどこかで少しホッとた。


  ◇ ◇ ◇


「あ、瑛己くん! 丁度いい所にきた」

 『海雲亭』の扉を開けると、奥から海月みづきの元気な声が飛んできた。

 夜も大分過ぎ、店内は穏やかな空気に包まれている。

 程ほどに込み合った室内を見回すと、カウンターの所から海月がブンブン手を振っているのが見えた。

 瑛己は小首を傾げ、ゴチャゴチャになったテーブルを注意深く避けて歩いて行った。

 ある程度までくると、海月の背中越しに、こちらを見つめる者がいる事に気付いた。

 カウンターに座り、グラスを片手にジッとこちらを見ている男。目が合うと、男はニコリと微笑んだ。

「……?」

 瑛己は海月を見た。すると彼女は嬉しそうに笑った。

「今ね、丁度あなたの話をしていた所なのよ! 今日はこないのかなぁって思っていたんだけども。ナイスタイミング。さっすが〝運命の女神様に一目惚れされちゃって、以来ラブラブな子〟だわ」

「……何ですか、その、いつも以上に長いフレーズは……」

 瑛己は頭を抱えたくなった。誰だ、この人にまでそんな事を吹き込んだのは……しかしそんな人物、一人しか思い当たらない。

 今頃そいつは、医務室のベットで眠りこけているはずだ。飛は一度寝付くと簡単には起きない。その間に、顔に落書きでもしておけばよかったと瑛己は心から思った。

「あのね、あなたに会いたいって人が来ているの」

 海月がそう言うと、彼女の後ろに座っていた男がスッと立ち上がった。

「フリーライターの田中と言います。よろしく」

 背丈は瑛己よりも頭一つ分くらい高いだろうか。黒いカッターシャツに赤のネクタイ。スラリとした足は、随分長く見える。そのポケットに手を突っ込み、人の良さそうな笑顔を浮べる男。歳は……20代後半くらいだろうか。

 胸のポケットからは、サングラスが半分顔を出している。

 田中と名乗る男は懐から名刺を取り出すと、瑛己に渡した。瑛己はそれをチラと眺める。『フリーライター・田中 義一』。瑛己は男をもう一度見た。そして「聖 瑛己です」と軽く頭を下げた

 ライターが何の用だろうか……瑛己は訝しそうに男を見たが、男はそんな瑛己にますます面白そうに微笑んだ。

「噂通りの子だね。ちょっと話が聞きたいんだけど時間、いいかな? 海月さん、彼に飲み物頼むよ」

「はーい」

「……」

 笑顔で奥へ行く海月を見て、瑛己はその背を引き止めたい気分になった。

「掛けなよ。別にとって食ったりしないから」

「……」

 仕方なく、瑛己はカウンターの隣に腰掛けた。

「いい店だね。海月さんは可愛いし、気に入ったよ。俺も毎日通っちゃおうかなぁ」

 瑛己の眉間にしわが寄った。「あの」

「聞きたい事って」

「ん? ああ。まぁ、色々とね」

 その時、海月が「お待たせー」と言って麦酒を運んできた。

「海月さん、ごめんね、ちょこっと彼と2人で話したいんだ。いいかな? 本当は海月さんと2人きりで、朝まででも一緒にいたいくらいなんだけど」

「ふふっ。じゃぁ、何かあったら呼んでね」

「ありがとう」

「……」

「ごめん。それじゃぁ本題に……って、何? そんな怖い顔して」

「……いえ、別に」

 すると、田中は意味ありげに微笑んだ。「まさか、海月さんに惚れてるとか?」

「……違います」

 確かに、海月の事は嫌いじゃない。だが瑛己にとって海月は……この一週間話すうちに、姉のような存在になっていた。

「じゃぁ、本気でアタックしよっかなぁ。俺、タイプなんだよなぁ、ああいう人」

「……で、聞きたい事って何ですか」

 殴りたい衝動を必死にこらえ、瑛己は低い声音でそう言った。

 彼のその様子に田中は面白そうにクスクスと笑い、ポケットから一枚の写真を取り出した。

 そこに、一機の飛空挺が映っていた。それを見た途端、瑛己の動きがピタリと止まった。

「君の事は、ある程度調べさせてもらったよ」

 田中は微笑みを崩さず、そんな彼を楽しそうに見ていた。

「15で学校を卒業。それから3年の航空学校を経て、18歳で『笹川』空軍基地へ配属、そしてこの春『湊』空軍基地へ異動。以来、〝運命の女神に好かれた男〟という呼び名を欲しいままにしている。ここへくる途中、【海蛇】に遭遇し、すぐに輸送艇の護衛の任務で【天賦てんぷ】と対峙、無凱むがいとの激闘。からくもそれを無事に抜け基地に戻ったあくる日、無断で基地を飛び出し、【海蛇】の渦巻く海域に出る。そこでかの【竜狩り士】と対峙するも、撃墜。現在は謹慎を言い渡され、怪我の療養に励んでいる」

「……」

 瑛己は顔を上げた。そして田中を、瞼を大きく広げて見た。

「父親・聖 晴高は、君が9歳の時に行方不明に。当時空軍の中でも指折りのエースパイロットだった彼は、〝空の果て〟に消えて行ったと話題になった。母親・咲子はそれから君を女手一つで育ててきたが、君が空軍に入るのを見届けると、それに安堵したかのように2年前」

「……父と母の話は、関係ないでしょう?」

 瑛己はそれ以上の言葉を遮るように、感情を抑えて言った。

 田中はそんな彼の様子に「失礼」と軽く手を傾けた。

「ともかく、ある意味君はとても面白い背景を背負い、今を、そしてこれからを飛ぼうとしている。そう思えてならない」

「……僕はまったく面白くありません」瑛己は腰を上げると田中を睨んだ。「そんな話ならこれで失礼します」

「待った待った」

 田中は瑛己の袖をグイと掴むと、無理に座らせた。「本題はここからだっての」

「君は『湊』にきてから、この短期間で様々な体験をしている。そしてその体験には、一つの共通項がある。そうだろう?」

「……」

 瑛己は田中と目を合わせなかった。

 共通項? そんなもの……と思いかけて。

 瑛己はハッと目を見開いた。

「空(ku_u)。君の飛ぶ先には、その存在が必ずある」

 その目の先には、先ほど田中が置いた写真があった。

 セピア色に、スピードの振れもある……が、瑛己にはそこに映っている機体が何か、すぐにわかった。

 そして田中はゆっくりと、舌なめずりでもするかのようにゆっくりと、言葉を解いていった。

「最初の出会いは『湊』への異動の途中。【蛇】に苦戦している所へ、空(ku_u)は君を助けるようにして現れた」

「……」

「次は〝獅子の海〟だ。無凱との接戦の中、結果としてまたも君は助けられる事になった。それに恩を感じたのかな? 【蛇】に囲まれていると聞き、厳罰覚悟で飛んだ。君がその分別を欠いているとは思えないからね」

「……」

「君の飛ぶ先には、いつも空(ku_u)がいる。偶然か、それとも必然か、そこまでは俺にもわからない。しかし随分、できすぎている気もするがな」

「……あんたは……何が目的だ?」

 その問いに、田中はフフフと笑った。「目的?」

「俺はただ、真実が知りたいだけだよ。この空に溢れるすべての、光と闇と、真実をね」

「……」

「そして、君は」

 瑛己は、ゆっくりと田中を見た。

 すると田中は彼の目を待っていたように、まっすぐ彼の瞳を見つめた。

 その奥にある、彼の心を覗き見ようとするかのように。

 瑛己は背中にゾワリとしたものを感じた。だが、目がそらせなかった。

「あの日、空(ku_u)の正体を―――見たんじゃないのか?」

 瑛己の心臓が、ドクンと一つ、大きく跳ねた。

 ―――空(ku_u)。

「あの日、君は空(ku_u)をかばって墜ちた。だが空(ku_u)は、爆破した飛空艇から脱出した君を守るように飛んだ。そのせいで【竜狩り士】の弾を浴び、致命傷にはならなかったが、不安定な走行で空を落下して行った。それを目撃した者がいる」

「……」

 ドクン。

「その後君は近くの無人島の海岸に倒れている所を発見された。だが、その浜には何か巨大な物にえぐられたような跡が残っていた。―――まるで、飛空艇が胴体着陸したかのような跡がね」

 ドクン。

 瑛己は音を殺して唾を飲み込んだ。

 田中の目が痛い。

 けれどそらせない。

 何か返事をしなければ。

 だけど、何と? 言葉が出てこない。舌が張り付くほどに、口がカラカラだ。

 頭の中が、真っ白になる。

 ……いや。たった一つ、その胸に浮かぶのは。

「―――」

 それが、彼の心を激しく揺さぶる。

 その時だった。

「瑛己っ!!」

 呪縛から解けたように、瑛己はガバリと声を振り返った。

 そこに、飛が立っていた。

「飛……」

 瑛己は、明らかに安堵の表情を浮べた。

 その様子に、飛は怪訝に眉を上げ、瑛己を、そして田中を見た。

「やぁ。こんばんは。君が……まさか、噂に聞く須賀 飛君かい?」

「何やあんた」

「フリーライターの田中と言います。よろしく」

 にこやかに笑うと名刺を出した。飛は訝しげにそれに目を落とし、すぐに瑛己に向いた。

「瑛己、ちょっとこい。緊急事態や」

「……」

 瑛己は大きく深呼吸すると、返事より先に立ち上がった。「失礼します」

「聖君」

 呼ばれたが、彼は振り返らなかった。しかしその肩が小さく揺れたのを田中は見逃さなかった。「また会おう」

「……」

「あ、おい、瑛己ちょい待て!」

 逃げるように店を出る瑛己を、飛は慌てて追いかけた。

 2人の背中を見送りながら、田中は懐からジッポーを取り出した。

 それをピンと開ける。と、彼の顔に緩く笑みが広がった。

 そこには銀で、大きなキスマークが描かれていた。


  ◇ ◇ ◇


「ちょい……! 瑛己ッ! 待て、聞いとんのか!?」

 『海雲亭』を飛び出し、基地に続くだだっ広い草原の真ん中で、ようやく瑛己は足を止めた。

「どないしたんやっ……一体、お前」

「……何でもない」

 飛を振り返りもせず明後日を見たまま、瑛己は静かに答えた。「お前こそ」

「緊急事態って、何だ」

「お? ああ、おぅ……それやそれ」

 ザッと靴を鳴らすと、飛は声を低く落とした。

「秀一がおらん。さっき、新さんと小暮さんの部屋にも行ったけど、誰もおらへん。どうも様子がおかしい」

「……」

「何や、俺、いや~んな予感がする」

「……」

 瑛己は空を仰いだ。

 半分欠けた月明かりに照らされ、灰色の雲が、一層暗い空を流れるように翔けていた。

 同じように、飛の声も彼の心に留まる事なく、耳を流れて消えていた。

 自分の心臓の音しか聞こえない。

 黒い空。だが星よりも、その目に映る映像は。

「……」

 あの日から消えない、顔。




 2日後の朝。

 基地全体を、揺るがすように騒ぎが起こった。

 ―――作戦に出たパイロットが、1日経っても帰ってこない。

 それが第327飛空隊の。

 隊長、磐木 徹志を含む3人のパイロットだと。

 瑛己達が正式にそれを知らされたのは、その日の午前中の事であった。



2012.5.19.誤字修正

2012.5.10.誤字修正

2012.5.6.誤字訂正


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