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「え? 私……」

掲載日:2026/01/11

 ガチャッと玄関から音がした。

 彼が帰ってきた!

 私はすぐに玄関まで迎えに行く。家にいるときだけだけど。

 彼は私を見ると笑って近づいてくる。

「ああ、寒かった。アンリちゃんは寒くなかった?」

 私を抱きしめていってくれる。なんて優しいんだろう。

 私は彼の胸に顔を埋めてうなずく。

「そうかそうか」

といいながら、彼は細い目をなお細める。それから一緒にご飯を食べる。

 彼がお仕事に行っている日はほとんどこんな感じ。

 お仕事がうまくいかなかった日はいつも私に

「今日はこうだったああだった」

といろいろ私に教えてくれる。

 私はただ黙って聞いているだけ。

「アンリは黙って聞いていてくれるからありがたいよ。ほっとするよな」

 しゃべらなくても私が彼を心配していることなど、彼は私の言っていることがほとんど分かるようだ。彼との生活ではあまり困ったことはなかった。

 でもこの頃、彼は帰ってくるのが少し遅くなってきた。なんかにおいがきつすぎてくさいし……。


 嫌な予感がしていたが、ついにある日、私の知らない女を連れて帰ってきた。

 やわらかそうなワンピースを着ている女だ。

 私はいつも通り彼を出迎えに行ったが、いつもの彼ではなくあまり笑ってくれなかった。

 ただいま、は言ってくれたけどそれだけだった。

 彼と一緒に玄関に入ってきた女は、あっという間にリビングに入り込み、堂々と振る舞っていた。

(ちょっとは遠慮すべきでしょ)

 彼に訴えるように目で合図したけど、彼は全く無視。

 ついに堪忍袋の緒が緒がきれた。

(いい加減にしなさいよ!)

 ちゃんとした言葉にならない。言いたいことをちゃんと伝えることができない自分がむなしい。


 抗議は彼にした。

(早く帰れって言って!)

 腹が立つけどそれ以上はどうにもできない。

(早く帰れ!)

 女には私の気持ちが伝わったみたい。

 だから余計に私は騒いでやった。

 と、彼が困ったような目でこちらを見た。

 ワンピースの女もこちらを見た。

 で、私に命令した。

「黙って!」

 私はかっとなって余計に暴れて抗議した。


 ついに女が言った。

「ねえ、亮介。この子、猫のくせに、自分のこと人間だと思ってるんじゃない」

「いやあ、それはないだろ」

「そりゃあそうよね」

 クックと下を向いて笑った。


「え? 私……」

 自分が猫だと初めて気づいた。

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