「え? 私……」
ガチャッと玄関から音がした。
彼が帰ってきた!
私はすぐに玄関まで迎えに行く。家にいるときだけだけど。
彼は私を見ると笑って近づいてくる。
「ああ、寒かった。アンリちゃんは寒くなかった?」
私を抱きしめていってくれる。なんて優しいんだろう。
私は彼の胸に顔を埋めてうなずく。
「そうかそうか」
といいながら、彼は細い目をなお細める。それから一緒にご飯を食べる。
彼がお仕事に行っている日はほとんどこんな感じ。
お仕事がうまくいかなかった日はいつも私に
「今日はこうだったああだった」
といろいろ私に教えてくれる。
私はただ黙って聞いているだけ。
「アンリは黙って聞いていてくれるからありがたいよ。ほっとするよな」
しゃべらなくても私が彼を心配していることなど、彼は私の言っていることがほとんど分かるようだ。彼との生活ではあまり困ったことはなかった。
でもこの頃、彼は帰ってくるのが少し遅くなってきた。なんかにおいがきつすぎてくさいし……。
嫌な予感がしていたが、ついにある日、私の知らない女を連れて帰ってきた。
やわらかそうなワンピースを着ている女だ。
私はいつも通り彼を出迎えに行ったが、いつもの彼ではなくあまり笑ってくれなかった。
ただいま、は言ってくれたけどそれだけだった。
彼と一緒に玄関に入ってきた女は、あっという間にリビングに入り込み、堂々と振る舞っていた。
(ちょっとは遠慮すべきでしょ)
彼に訴えるように目で合図したけど、彼は全く無視。
ついに堪忍袋の緒が緒がきれた。
(いい加減にしなさいよ!)
ちゃんとした言葉にならない。言いたいことをちゃんと伝えることができない自分がむなしい。
抗議は彼にした。
(早く帰れって言って!)
腹が立つけどそれ以上はどうにもできない。
(早く帰れ!)
女には私の気持ちが伝わったみたい。
だから余計に私は騒いでやった。
と、彼が困ったような目でこちらを見た。
ワンピースの女もこちらを見た。
で、私に命令した。
「黙って!」
私はかっとなって余計に暴れて抗議した。
ついに女が言った。
「ねえ、亮介。この子、猫のくせに、自分のこと人間だと思ってるんじゃない」
「いやあ、それはないだろ」
「そりゃあそうよね」
クックと下を向いて笑った。
「え? 私……」
自分が猫だと初めて気づいた。




