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9 仕組まれたお披露目会





 「お披露目会・・ね」


 クロードからの手紙にはテレジアを労わる言葉が添えられており、王命でお披露目会を王家主催の夜会でもう一度仕切り直すことがしたためられていた。『側妃候補』たちはいらぬ混乱を招かぬよう、夜会終わり間際に祝いをしに来るだけと決められているらしい。恐らくテレジアを気遣っての配慮なのだろう。

 会場の準備からドレス、装飾品に至るまで全てクロードが決めてくれるらしく、当日会場で会えるのを楽しみにしている。という言葉で締めくくられていた。


 「――・・前回のお披露目の代わりに、今回は貴族のみの夜会お披露目なのですね」


 「そのようね・・それも国王陛下のご配慮なのかしら?」


 「きっとそうに違いありません!国王陛下御夫妻は、テレジア様の事をとても可愛がってくださっていたのですから!」


 鼻息荒く言うマリエッタの言葉に、テレジアも頷きたかった。





 十三歳の時から王宮へ通うようになり、国王夫妻とテレジアは七年以上の付き合いでもある。

 国王には王妃の息子が二人と側妃の子供が一人いるが全て王子。姫を可愛がりたかった国王と王妃にとって、テレジアは実の子供のように可愛がられた。その愛情は深く、テレジアも彼等をとても尊敬していた。


 『唯一の伴侶』と教えてくれたのも国王だった。だからこそ、国王が後宮解散取り消しを賛同したという知らせはショックでしかなかった。


 お披露目会をボイコットしたテレジアにも非はあるのだろう。それでもテレジアは納得できず、深い悲しみがずっと胸の中にしこりとして残っている。

 眠っていた時間はすでに一緒に過ごした倍以上の空白の時間として過ぎている。それこそが、『後宮解散取り消し』という結果なのかもしれない。


 誰にも会いたくない気持ちを何とか振るいたたせ、『女神の眷属の番』としての役割を果たそうと、テレジアは自身に言い聞かせることしかできなかった。





 ***





 マリエッタと他十人近い侍女たちによって頭のてっぺんから足のつま先まで念入りに磨き上げられ、クロードに用意してもらったドレスにテレジアは袖を通していた。


 「とっっっても美しいです!!この世の者とは思えない可憐な美しさにきっと皆奥様に見惚れるはずですわ!!」


 マリエッタは最後のヘアセットの微調整をしながらも、他の侍女たちと共にずっと褒め讃えてくれる。


 「ありがとう、みんなが綺麗にしてくれるから頑張れそうだわ!!」


 今夜は王家主催の夜会。自室から王宮の大広間までは徒歩二十分程で移動できる。護衛騎士と向かうのだから、何か問題が起こるわけがない。


 時間になり、王族の出入り口まで移動しなければならない。しかし、二階の太子殿を抜け一階へ降りたところで侍女が待っていた。


 「王太子妃様、王太子殿下が入場前にお話があるそうで、ご案内させていただきます。」


 「――クロードが?王族の控室ではなく?」


 「はい、他の王族の方々の前ではお話になれないと伺っております。」


 「わかりました。それならば急ぎましょう」


 すでに貴族たちが入場し始めているのがわかる。いくら王族が最後の入場とはいっても待たせるわけにはいかない。テレジアは見知らぬ侍女の案内で、王族控室を通り過ぎた一般貴族用の控室の奥へと案内された。

 王族の控室からはさほど離れてはいない。しかし、なぜこのような貴族でも中々入り込まないような場所で会うのか。


 そんなに人前で話せないようなことであればもっと前に連絡をくれたらよいのに。


 クロードの考えがテレジアには全く理解できない。

 

 「――こちらでございます」


 侍女に案内されて部屋に入ると、そこは休憩室というよりは、宿泊用の部屋にも見えた。


 ――こういう部屋は、貴族で具合が悪くなった人がベッドで仮眠をとる為に用意されているのかしら?


 部屋の中をぐるりと見まわし、なぜそんな部屋で会わなければならないのか疑問を感じた。


 ――ガチャリ


 「――え?」


 振り返ると、先ほどまで一緒にいたはずの侍女がいなくなっている。


 ――まさかっ!!


 嫌な予感に慌てて扉へ向かい開けようと押してみるが全く開かない。


 「――うそでしょう?!・・なぜこんなことに?!」


 侍女だけでなく護衛までいない。

 今夜の夜会の護衛はいつもの護衛ではなく、臨時であると聞かされていた。信用できなかったが、太子殿から大広間の王族控室までは大した距離もない。きっと問題ないだろうと安易に考えていた。


 今日のお披露目は二回目だ。もし今回もボイコットしたとなれば、明らかなる職務放棄と捉えられるだろう。流石に『女神の眷属の番』であるため妃でなくなることはない。しかし、側妃を迎え入れる話は間違いなく許可されるはず。


 「――いやよっ!!こんな形で終わるのだけは嫌っ!!誰かっ!!誰か開けてっ!!」


 ドンドンっと何度も手に血が滲むほど扉を叩き、声がかれる程叫び続けた。何分経ったのか、全く分からない。それでもテレジアは泣き叫びながら助けを呼び続けた。


 ――がちゃっ


 「――テレジアっ?!なぜここに!?」


 涙でぐしゃぐしゃになったテレジアを見つけたのはマックスだった。


 「ま・マックス様~~っ!!もう・・始まってしまいましたか?」


 「~~~~あぁ・・だが、まだダンスまでは始まってないはずだ!とりあえず王族控え室まで急ごう!!」


 「はいっ!!」


 涙でぐしゃぐしゃの顔をハンカチで拭いてもらい、とにかく急ぎ控室まで向かった。





 ――ばんっ!!


 「誰か化粧直しできるものはいるか?!」


 王族控え室に入って早々、マックスは使用人へ問う。五分程で戻ってくるはずと他の使用人たちは答えた。

 流石にこんな姿では表に出て行くことなどできない。せめて状況の確認だけでもしなければならない。テレジアは控室の扉を少しだけ開けて大広間の中の様子を伺った。


 「――?!!」


 大広間のダンスフロアに立っていたのは紛れもなくクロードだった。

 濃紺のマントを靡かせ、美しい正装を身に纏った王子。きっと自分が隣に立っていれば、お揃いの装いとなったであろうことは一目瞭然。少しずつ互いの装いの色を組み合わせた姿。

 金髪は後ろに撫でつけられ精悍で麗しい姿に皆が見惚れている。


 ――な・なぜセレーネ様が?!


 何故かクロードの横には今いるはずのないセレーネ・バルトンが立っていた。

 美しい赤みがかった金髪は緩やかにまとめ上げられ、装飾品の煌めきと相まってとても美しい。そして、女性らしい曲線美の身体に纏うのは、濃紺と銀糸で鮮やかに彩られたエンパイヤドレス。

 二人が並び立っても揃いの衣装だと誰もが思えるだろう。


 「――嘘よ・・・今日は・・お披露目のはずでは?・・側妃候補は・・こないはずでは??」


 愕然としたまま扉から動けなくなったテレジアに気付き、マックスが傍による。


 「テレジア?もうすぐ化粧直しもできるはずだよ?どうしたの?」


 「~~~~ま・マックス様・・なぜ・・セレーネ様が?・・・・ここにいるのでしょうか・・・・」


 再び涙が溢れ、テレジアは自分が見たものを信じたくなくてマックスに詰め寄る。

 マックスも言いたいことが理解できたのかそっと大広間の中を覗くと、そこにはクロードとセレーナが仲睦まじくダンスを踊り始める所だった。


 「な?!・・私はクロードに待つように言ったのに!!なぜ踊っているんだ!!」


 マックスの憤る声に思わず大広間をもう一度見てしまう。

 底には湯が二ダンスを踊る二人の姿があった。


 ――うそ・・誰か嘘だと言って・・・・


 あまりにも信じがたい光景に、テレジアはその場で倒れ込む。


 「――テレジア?!しっかりしろ!!テレジアっ!!」


 掠れ行く意識の中で、マックスが自分に叫んでいる声だけが聞こえた気がした。






 



 
















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