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2 クロードとテレジアとマックス




 セイボルグ伯爵家の次女として生を受けたテレジア。


 天真爛漫なテレジアは、十三歳まで何不自由なく領地で過ごした。


 特に将来やりたいことも見つからなかったテレジアは、他の貴族令嬢と同じくほどよく釣り合う貴族の令息と結婚するのだろうかと想像する程度だった。


 しかし、テレジアの思い描いた未来はやってこない。


 初潮を迎えた日、『女神の眷属の番』の証の紋がテレジアの左手の甲に発現したのだ。


 王国の誰もが知る印。


 父親であるセイボルグ伯爵は王家へすぐに一報を送った。


 同時刻、『女神の眷属の証』の紋が番紋に同調するように幼き王子にも発現したのだ。


 突然の事であったが、王家は最優先で『女神の眷属』の為に動いた。


 しかし、『女神の眷属の証』が発現した第二王子クロードはまだ八歳。


 王国で婚姻が認められるのは十歳からであった。


 十歳の誕生日に二人は婚姻することが決まり、それまでは二人は婚約という形で関係を繋いだ。


 テレジアは十三歳から毎月数回王宮へ登城することになったのだ。 


 


 「テレジア嬢、私の息子クロードだ。そなたの伴侶となる『女神の眷属の証』を持っている。

 今日から唯一の伴侶である番として息子を支えてほしい」


 「承知いたしました。まだ未熟ではございますが、精一杯務めさせていただきます」


 王宮の応接間で対面した第二王子クロードはまだ幼い少年だった。


 さらさら金髪にアメジスト色の宝石のようなくりっとした大きな瞳。


 すっと通った鼻筋は人形のように愛らしく、美少女のようにすら見えた。


 挨拶をした時もテレジアをじっと興味深そうに見つめ、好奇心の強そうな様子が伺えた。


 これまでクロードが王族とはいっても、次男であったこともあり自由に過ごしていたらしい。


 テレジアの紋の発現と同時刻にクロードにも紋が発現し、王宮もパニックに陥ったらしい。


 クロードが突然環境が変わったことで戸惑っていることもテレジアは理解できた。


 『唯一の伴侶としてクロードを支えてほしい』という国王の願いにも、テレジアは応じたいと素直に思えた。




 姉はいるが弟や妹のいないテレジアにとって、五歳年下のクロードは可愛らしい弟のようにも妹のようにも思えた。


 伴侶と言われても実感が沸くわけがない。


 将来好きな人と添い遂げたいとも思っていなかったテレジアは、新たな人生の目標としてクロードを伴侶として受け入れた。


 ――私の伴侶・・・私は女神の眷属の番・・運命?・・唯一無二?


 純愛に憧れのあったテレジアにとって、『唯一の伴侶』である番いう関係はとても魅力的に思えた。


 必ずクロードを愛せるかはわからなくても、夢見がちな思春期の少女にとっては素晴らしいもののように感じられたのだ。


 「テレジア姉さま!」


 まだ成長段階のクロードの背丈はテレジアの目のあたりまでしかない。


 いつもこちらへ来るたびに、テレジアを上目使いで見つめてくる。


 その上目遣いが可愛らしくて、自然とクロードを弟のように可愛がった。


 クロードも同じだったようで、姉のようにテレジアを慕っていた。




 二人は月に数回クロードの勉強時間の合間にお茶をする時間を持つようになった。


 しかし、授業は時間が前後することは日常茶飯事。


 テレジアが暇を持て余さないようにと、王弟であるマックス・ローウェルが庭園の散策や、読書に付き合ってくれた。


 文武両道なだけでなく薬学にも興味のあったマックスは、テレジアと三歳しか歳が違わない為話も合う。


 おかげでクロードに会うまでの時間暇を持て余すこともなく、テレジアは有意義な時間を過ごせたのだ。


 マックスはクロードの剣術や勉学の助言もしていた。


 その為、三人の関係は良き友人関係として王宮で周知されていたのだ。


 しかし、その関係は十歳を迎えたクロードがテレジアと婚姻してから崩れ始めた。




 十一歳を迎え背丈も百六十を超えたクロードは、すでにテレジアより目線が上になっていた。


 十六歳だったテレジアは可憐で体の成長は緩やかであったが、元々愛らしい面立ちは凛とした美しさも混じり、大人の色香も感じさせるようになっていく。


 これまで姉として慕っていたクロードは、自分の気持ちが姉に向けるものとは明らかに違うことに気づいた。


 それだけでなく、今まで兄のように共に仲良く過ごしていたマックスも、テレジアへ自分と同じ好意を抱いているのだと気づいてしまったのだ。


 誰よりも自分がテレジアの特別であることは紋が証明していた。


 それでも他の男が自分の妻であるテレジアへ恋慕を抱いている事を許容できなかった。


 「僕・・・姉さまの事・・・特別な呼び方がしたいです・・・」


 「特別な呼び方?」


 クロードはマックスのいない時を狙い、テレジアにおねだりをした。


 「僕たちは運命の番ですよね?だから、誰も姉さまを呼ばないような呼び方で呼びたいんです・・・

 れ・・・レアとか・・・どうですか?」


 「レア?・・・・確かに私の事をレアと呼ぶ人はいないわね。

 二人だけの呼び方っていうのがあっても良いと思うわ!クロード様は呼ばれたい呼び方がありますか?」


 瞳を潤ませながら乞うクロードに、優しく微笑みながらテレジアも了承した。


 「僕は・・・様をつけないでくれたらそれでいいんです!

 僕の事・・・クロードって呼んでくれますか?」


 「わかりましたわ!では、私の事もレアと呼んで下さいね!クロード!」


 「――嬉しいです!」


 ぱぁあと顔を綻ばせ、クロードはきゅうっとテレジアを抱きしめた。


 ――可愛い弟でも独占欲が芽生えたのかな?


 嬉しそうに抱き着いてくるクロードを、どこまでも姉目線でテレジアは優しく見守っていた。




 クロードの成長は著しく、勉強も予想していた時期より早く履修を終わらせた。


 更に、眷属の能力を十分に発揮できるように体力作りは強化され、訓練を重ねていく毎にぐんぐん背も伸びていく。


 十三歳を過ぎたころには百七十を超え、体つきも大分大人に近づく。


 身近にいた優秀なマックスに負けまいと、必死なクロードの様子もテレジアは見ていて微笑ましかった。


 しかし、テレジアが王子妃教育を終わらせて十九歳を迎える頃異変は起こった。




 突然立ち眩みを起こしたり、動いた後呼吸が荒くなることが増えていく。


 最初は疲れからくるものだろうと侍医も話していた。


 しかし、それが大病の予兆であったと気づいた時にはもうすでに遅かった。


 テレジアは二十歳を迎えクロードも十五歳を過ぎたので、いよいよ二人が初夜を迎えてもよいだろうと周りが期待していた最中、テレジアは倒れて危篤状態に陥ったのだ。


 これまで予兆は幾度となく起こっていたのに、それが不治の病であるとは皆気づけなかった。


 進行が早く、持って一週間であろうと侍医が判断した時にはすでに意識も混濁し、呼吸もままならない状況であった。


 薬学知識に長けていたマックスも必死で薬を調合してテレジアへ飲ませた。


 どれだけ薬を飲ませても効果はなく、誰もが彼女の死を覚悟した。


 「レア・・貴女はここで死んではいけない・・・絶対生きなきゃダメなんです・・

 僕が・・僕が必ず方法を探してみせる!・・・・だから・・お願い・・待っていて」


 クロードはベッドに横たわるテレジアの手を掬い上げ、両手で包み込むように握りしめた。


 目を閉じて祈ると、テレジアの身体は光り輝きクリスタルに包まれたのだった。




 「僕はクリスタルに覆われて時の止まったレアを救うために、マックス兄上と共に不治の病の特効薬を作る為頑張ったんです。

 ・・十二年という時間はかかってしまったけれど、僕の命が尽きる前に見つけられて本当に良かった・・」


 状況を伝えてくれるクロードの瞳には涙が滲み、感情を押し殺しているようにみえる。


 テレジアの心が十二年の歳月と想いに戸惑うであろうことは考慮しているのだろう。


 それくらいはテレジアでもわかる。


 「クロード・・私の為にマックス様と一緒に頑張ってくれてありがとう。

 ・・なんだかマックス様のように立派になってしまって・・昔のクロードに会えないのは寂しいけれど・・それでもまた会えて本当に嬉しいわ」


 「・・マックスも元気だよ・・・レアの為に無駄に老化を防ぐ薬なんか開発しちゃってさ・・

 まったく・・今じゃ僕と同い年みたいだよ」


 不機嫌そうにマックスの事を話すクロードは、彼を皮肉っているようにも感じる。


 テレジアはクロードがマックスに負けまいと張り合っていた頃も思い出し、懐かしさにくすりと笑みを浮かべた。




 ――コンコン・・・


 入室の許可を得て部屋に入ってきたのはマックスだった。


 「テレジア!!目が覚めたんだね!!・・・・良かった!・・本当に・・」


 テレジアと視線が合った途端、駆け寄ってきたマックスの瞳からは涙が溢れていた。


 「マックス様!・・・本当にお久しぶりとは思えない程お変わりなくて嬉しいです!!」


 クロードの言った通り、十二年もの月日を感じさせないマックスの若々しさは、三十五歳とは思えない姿。


 どこからどう見ても二十代後半になるかならないか程にしか見えない。


 「君が起きた時・・・変わりない姿で迎えたかったからね・・」


 マックスはクロードの横に立つと満面の笑みえを浮かべて微笑む。


 「まぁ、本当にクロードとマックス様が同じ歳のように見えますわ!薬の力は凄いのですね!」


 「君の特効薬の研究をしながら、自分で試飲して老化を防ぐ薬も研究したからね!

 ・・それでも緩やかに老いは重ねているんだよ」


 「全く老いなんて感じさせませんわ!・・・私の為にクロードと一緒に薬の研究をしてくださって本当にありがとうございます!

 また・・以前のように仲良くしてください」


 「勿論だよ!・・君と再会することだけを生きがいにい――」


 「――マックス兄上・・レアは僕の妻なのであまり相応しくないことは言わないで下さい」


 「・・・・クロード?」


 マックスの言葉に被せる様に告げたクロードの言葉は、明確な敵意を感じた。


 仲の良かった二人が何故突然険悪ムードなのか理解できない。


 「テレジア・・夫婦の時間をどうやら邪魔してしまったみたいだね。

 また今度ゆっくり友人として会いに来るよ」


 テレジアに優しく微笑みかけると、マックスはきて早々に部屋を後にした。


 「――クロード?・・何故マックス様にあんな振る舞いをしたの?

 今まで仲が良かったじゃない?」


 「・・・・仲は良かったですよ。レアの為でしたからね。

 ・・でもこれからはライバルでしかないです」


 「ライバル?」


 ――なぜ兄のように慕っていたマックス様へ睨みつけるような目を?・・・ライバルってどういう事?!




 突然告げられたクロードの言葉に、テレジアは言葉の意味を理解できずにいた。


 

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