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16 マックスの隠しごと



 マックスは後悔していた。

 クロードの話をしてから、テレジアはショックでその日の夜から熱を出してしまったのだ。


 たとえクロードへの愛を失い『女神の眷属の番』でなくなったとしても、彼はテレジアの大切な幼馴染の一人だ。


 心配しないわけがない。



 ――わかっていたのに・・私は・・



 あの時のテレジアの悲しみに染まった表情を忘れられない。

 苦しめる為に病を治したわけではなかったというのに。


 テレジアには自分の想いは全て告げたように見せていたが、実はいくつか胡麻化していた部分があった。



 マックスはバルトン公爵とセレーネがどのような者たちなのか、クロードよりもよくわかっていたのだ。 

 テレジアの時が止まってからクロードとマックスは必至で特効薬になり得る薬草を探しては調合することを繰り返していた。

 二人とも薬を作ることに全神経を注いではいたが、クロード程世間知らずではなかったし、情勢にも目を向けていた。


 クロードが国外へ薬草探しに奮闘している最中も、バルトン公爵の不穏な動きはしっかりと把握していたのだ。――しかし、マックスはクロードにそのことを伝えなかった。

 あくまでクロードは薬の開発の協力関係のみであり、テレジアとの件に関しては進んで助けるつもりはなかったからだ。


 クロードは女神に認められ、何の苦労もなくテレジアの番となれた。



 ――もしも俺が『女神の眷属』であったなら・・



 幾度となく頭を巡る想いは何年経とうと薄れることはなく、バルトン公爵の謀り事を見て見ぬふりをした。



 テレジアが目覚めてからも、テレジアの事にしか目がいっていないクロードをひと泡吹かせてやろうと、わざとテレジアの動向を教えてセレーネをエスコートしてクロードの下へ連れて行ってやった。――

まさかそのことが原因でテレジアが苦しむとは思わず後悔して彼女に謝ったが・・。


 テレジアはクロードの不甲斐なさで悩んでいるというのに、それでもセレーネたちの思惑に乗せられたままテレジアを傷つけた。――だからクロードに怒鳴り着けまでもしたのだ。



 全てクロードのせいにしたが、今はそれが間違いであったとわかる。


 女神はテレジアの悲しみに応えるかのように空に暗雲を運び、怒りを天変地異で示している。

 女神の決めた番を蔑ろにしたクロードに、国王に、バルトン公爵に、セレーネに天罰を下したに違いない。――だが、毎日セイボルグ伯爵の下へ訪れるクロードの頭上には暗雲は立ち込めている所をマックスは一度も見ていない。



 ――私は・・今更だというのに・・どうすべきなのだろうか・・



 女神は王宮だけでなく、バルトン公爵家にも天罰を下している。そのことを鑑みれば、クロードに対して女神は怒っていないということになるのではないだろうか。

 自分の頭上にも暗雲は立ち込めてはいないが、何か過ちを犯してしまったのではないかと勘が働き、日々苛まれていく。


 もしかしたら、マックスが仲を取り持っていれば『女神眷属の証』が消えることはなかったのかもしれない。


 頭をよぎる思いは、クロードが倒れたという知らせで更に思い知る。


 自分が常にクロードとテレジアの間に入り、繋がるはずの縁を見ないふりしていたことに。



 マックスは隠しきれず、クロードが倒れたことを何のフォローもなくテレジアに伝えてしまい、彼女は熱を出し臥せってしまった。



 今も消えることはない王宮の空を覆う暗雲。

 体調を崩すクロードとテレジア。


 マックスは自分が幼馴染であるクロードを見離し、テレジアには胡麻化し、王族としてのすべきことから目を背けた。



 ――もう・・いい加減目を逸らすわけにはいかないな・・・



 言葉にすることなくマックスは想いを固めた。

 

 今から動いてもどうにもならないかもしれない。――しかし、テレジアとクロードの身体も心配だ。


 このまま放置しても女神の怒りは収まらないだろう。 



 マックスは再度覚悟を決め直し、テレジアの熱が下がったのを見計らい見舞いに向かうのだった。





 ***





 「テレジア、体調はどうだい?」



 「マックス様。――熱も落ち着きましたし、もう大丈夫かと――」



 「何をおっしゃるんですか!食欲がなくて殆ど何も召し上がっていないではないですか!」



 マリエッタは侍女らしからぬ態度でテレジアの言葉に被せる。



 「マリエッタ、主を想う気持ちはわかるが言葉を遮ってはいけないよ?」



 マックスの言葉にマリエッタはしゅんと項垂れ「も・申し訳ございません・・」と、テレジアに謝罪する。



 「――大丈夫よ、謝罪を受け入れるわ。マリエッタが私を心配して言ってくれているのはわかっているのよ」



 「――お嬢様・・・」



 マリエッタは下がるようテレジアに促され部屋から出て行った。



 「気を悪くしないでね。マリエッタは私が大好きで、マックス様の前なのに行動がいきすぎてしまったの。しっかり言いつけておかなかった私の責任だわ」



 「私もわかっているから大丈夫だよ。――それよりも、食事もとれていないのかい?」



 「・・ちょっと食欲がなくて・・」



 切なげに苦笑するテレジアは、明らかにクロードを想っているのが透けて見えた。

 その表情に思わずきゅっと唇を噛んでしまうが、自分のすべきことを思い出し気持ちを切り替える。



 「クロードのこと・・自分のせいだと思っているのだろう?」



 「・・・・」



 沈黙は肯定しているも同然。

 マックスは強く拳を握りしめながらも覚悟を決め話始める。



 「テレジア、――君はクロードともう一度話すべきだ」



 「マックス・・様?」



 今までずっとテレジアの味方でいたマックスが、突然告げた意外な言葉に目を瞠った。



 「私はね・・クロードをテレジアに近づけたくなかったんだ」



 「??――何をおっしゃって――」



 「――本当は気づいていたんだ。自分には付け入る隙など無いことを。女神の意思は絶対だと」



 「――何か・・ご存じなのですね?」


 

 マックスの陰りは、自分とクロードに深く関わりがあるのだと感覚で感じる。

 きっと話を聞かなければ後悔する。――テレジアはそう感じた。



 「――私はクロードが必死で薬草集めに奮闘している間、バルトン公爵が側室を認められる状況を作っていたのを知っていた。

 クロードが安易に仮の側室候補という立場を作ることが、後々どうなるかわかっていてクロードを止めなかった。テレジアが目覚めてからも、クロードが謀られているとわかっていて助けなかったんだ・・」



 「――そんな・・なぜ・・なぜ弟も同然だったクロードを・・助けてくれなかったのですか?!」



 「ずっと妬んでいたんだ・・・テレジアの愛を一身に受けることを許されたクロードが・・羨ましくて堪らなかった・・すまない・・」



 テレジアは愕然とした。

 マックスの想いは幾度となく聞いていた。それらしいことを聞きもしたが、ここまで何年にも渡ってマックスがクロードに嫉妬しているとは思わなかったのだ。



 「――・・・何故・・今更それを私に言うのですか・・もう私は『女神の眷属の番』でなくなってしまったのですよ?」



 「わかっている。・・・私がしたことは、王国を危機に陥れるようなことだ。・・・クロードに助言しなかったことで、テレジアの幸せも奪ってしまった・・」



 「・・もうどうしようもないことです・・」



 怒りすらも消え、脱力してテレジアは答えた。



 「――駄目だ!今更なことは十分理解している。だが、女神は今も怒りを収めていないんだ。クロードが死んでしまったら、この国は滅亡するかもしれない!」



 「――・・そんなこと言われても・・本当に女神の怒りかなど・・わからないではないですか・・」



 「わかる!女神の怒りは暗雲となり、テレジアとクロードを苦しめたところに向かっているんだ!」



 「何の話ですか?!」



 テレジアは知らなかったのだ。



 王宮に暗雲が立ち込めていたことも、バルトン公爵とセレーネを追い込んだのが天変地異を起こした暗雲が原因だということも。


 


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