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1 目が覚めたら12年後でした




 ――どうか・きて・・・目を・けて・・・僕・・・のレア・・・


 懐かしい自分を呼ぶ声が聞こえる。


 息苦しかったはずの呼吸がいつの間にか苦しくなくなり、重たかった身体も軽く感じる。


 んん・・・


 「・・・・朝?」


 ゆっくりと瞼を開けると、見慣れたベッドに仰向けに横たわり布団に包まれている。


 視線だけを窓へ向けると、薄い白地のレースのカーテンの隙間から柔らかく温かい陽が差し込む。


 まるで心が満たされるような穏やかさに包まれていた。


 「・・・何故かしら・・・すごく懐かしく感じるわ・・・」


 「・・・・れ・・・レア?!良かった!!」


 「っきゃぁあっ?!」


 突然自分のベッドのすぐ左横から、明らかに大人の男の声が聞こえた。


 男はあろうことか目が覚めたばかりでベッドで仰向けになったままのテレジアに、突如覆い被さる様に抱き着いた。


 ――な・・何?・・どういうこと?・・私は王子妃よ??・・何が起こっているの?!


 突然の事態に身体は動揺して固まり、相手を突き飛ばすことさえできない。


 「・・・あ・・貴方は誰ですかっ!!離して下さい!!私はクロード第二王子殿下の妻です!!」


 「えぇ、・・・レアは僕の妻ですよ!!」


 「――?!」


 ――今なんておっしゃったの?・・・・・僕の妻?!


 とんでもない発言にテレジアは自分の耳を疑う。


 それは仕方ないことだろう。


 テレジアの夫クロードはロックフェル国の第二王子であり、御年十五歳のはずの少年だ。


 美しいテノールボイスを響かせるような大人の声の男では決してない。


 髪の毛はサラサラの金髪、瞳は誰をも虜にするようなアメジストの美しい瞳。

 

 背丈はテレジアよりも大きかったが、百八十はいっておらず幼さの残る笑顔が印象的な可愛らしい男の人だ。


 恐る恐る抱き着いている男性に、必死でポンポンと肩を叩いて距離をとる。


 身体を起こして男をじっと見てみるが、やはりクロードとは思えない。




 目の前の男はクロードと同じ美しい金髪だが、鼻先まで隠すほどの前髪と耳にかかる長めの髪は艶やかで妙に色っぽい。

 

 瞳は同じ色味だが、見つめられると引き寄せられてしまいそうな吸引力を持つアメジストの深みのある色味がより彼を美しく魅せている。


 体躯は細身の割に、すっぽりとテレジアの身体を包める程の広い肩幅に見上げる程の背の高さ。軽く百八十は超えているだろう。


 「可笑しなことをおっしゃるのはおやめください!どこのどなたか存じ上げませんが、離れないのなら護衛を呼びますよ!」


 目覚めたばかりで体を動かすのもやっとでも、テレジアは精一杯睨みつけた。


 「レア・・・そんな寂しいことを言わないで・・」


 男は悲し気に言う。


 「――え?!」


 ――レアという呼び方は、クロードだけに許した私の愛称!・・・何故この人が?


 「十二年ぶりだからって僕を忘れるなんてひどいです・・

 クロード・ロックフェル。僕は貴女の夫ですよ?」


 夫だと名乗る男は、テレジアが病を患い死を覚悟した時から、十二年も経っているのだと平然と告げた。




 「十二年?・・・貴方が?・・・私の夫のクロード第二王子・・殿下?・・・本当に?!」


 身体の距離を保ったまま、テレジアとベッドの上で向かい合うクロードは説明を始めた。


 「そうですよ・・レアを生かす為だけに、僕の能力を使ってレアの時間だけを止めたんです」


 「・・・・私だけ?・・それじゃ・・私だけ二十歳のまま?・・クロード・・様は・・今いくつなのですか?!」


 「レアは二十歳のままですよ。でももう僕は大人だし、レアよりも七歳も年上です・・不思議な感じですね!」


 不思議だという割にはクロードは随分嬉しそうに見える。


 テレジアは納得できず、あどけなさの残っていたクロードに、もう会えないかもしれないという寂しさが急激に込み上げてくる。


 しかし、よくよくじっと彼を見つめて見れば、わずかだが懐かしい幼き頃のクロードの面影が見える気もする。


 信じがたい話ではあったが、自分が時を止められていた理由だけは理解できた。




 ――・・・私は・・・不治の病だったはずよね。

 

 「・・・もしや・・・私の病を治す薬が出来るまでの時間稼ぎの為に、私の時を止めたのですか?」


 「はい、当時はどう頑張ってもレアを救う事はできませんでした。

 ・・ですが、特効薬が完成したのでもうこの病で死ぬことはありません。

 止めた時を戻した直後にすぐ薬を僕がレアに飲ませたので、もう身体も自由に動かせるはずです。体の調子はどうですか?」


 「・・確かに・・もう身体の辛いところは・・ありません・・」


 「良かった!・・本当に・・どれだけ心配したか・・。

 レアの苦し気な顔が最後に見た表情だったので・・ずっと辛かったのです・・」


 「・・・そう・・・ですか」


 クロードが自分の為に涙を流して喜ぶ姿を見て、心配をかけていた事は理解できた。

 

 それでも、どうしても自分が眠っていた空白の時間差に、テレジアはどう振舞ったらよいのかわからない。


 あまりにも変わってしまった夫をじっと見つめる。


 ――他の親しかった人たちもどれだけ変わってしまったのだろうか?と、ふと思う。


 テレジアの心の中には、言いようのない不安と心細さ。そして動揺が入り混じっていた。




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