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呪術恋愛戦線 山奥に隠れていた陰キャ呪術師の俺が都会から来た陰陽師美少女に狙われる異能バトルラブコメ  作者: 杉林重工
三章 あらしが来る

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ここが地獄の一丁目

 合儀肺助の収容場所には心当たりがあった。


『多分、肺助さんは冥途の土産に阿賀谷戸の陰陽道こそ正統であることを常世にも知らしめるのだ、とか言われて、[阿賀谷戸陰陽道の正当性と歴史 その一]のパビリオンに入れられるはず』

『そのあと、呪いに耐えられず倒れたりして、強制勉強室、それから第四地下牢に入るはず』


 それが命香の見立てであった。


 羅生門が開け放たれると、そこは確かに、圧縮されているとはいえ幻の『平安京』であった。その様子に、刺客である夜風和留すら息を飲んだ。


 ――ただし、地獄であるのもまた確かであった。


 すでに朱雀大路に殺到していた、生きた人と見紛うほどはっきり見える霊と、本当の人である天森の弟子十数名が、二人を待ち構えていた。


 すでに抜き身の刀一振りを構えていた夜風和留は、それらの群れに躊躇なく踏み込んだ。


 一歩の踏み込みで間合いを潰し、剣の長さを利用して一方的に斬る。斬った後に振り上げる刀はそのまま防御となって天森の弟子の剣や槍を阻み、そのまま振り出された和留の刃で身を斬られる。一目見て、姉こそが化け物だと命香は思った。


 さらに、空から降りてくる、片方の翼だけがついた毛の束のような妖怪を、和留はただ地面から剣を振るだけで落とす。


 これが、死者たる怨霊も、呪いといった形のないものすら断ち切る達人の剣。不斬之斬には未だ至らず、しかし遠当て程度は当たり前のように行う。


(これなら大丈夫か)


「ちょっと待って命香! 何こいつ! 気持ち悪! 最悪なんだけど! 命香!」


 命香の考えをいかなる理由か、察した和留は絶叫した。


 その声に導かれて、命香が見たのは、三メートルほどの二枚貝。だが、それは貝殻の隙間、その内側から蛞蝓のような足を五本垂らして直立し、棘に似た魚の背鰭のようなものと、無数の目玉をのぞかせている。今、その貝殻を大いに開き、棘付きの鰭を十重二十重と大いに伸ばして威嚇する。明らかに、その辺の不細工な怨霊とは格が違う。


 しかして命香は姉の悲鳴を無視し、目立たぬようこそこそ走った。きつく手印を結び、口に呪符を咥えたまま静かに阿賀谷戸わくわく正統陰陽師ランドの敷地内を駆け抜けていた。


『オン・アニチ・マリシエイ・ソワカ』


 事前に唱えた、隠密に長けた真言は命香の姿を魑魅魍魎達から見事に隠していた。


『STAFF ONLY』


 凡そ平安時代の京を再現したこの場所には相応しくない表記。だが、茶色をベースに、現在の京都の条例を守った雰囲気の扉の前に命香は立つ。


 しばらくもしないうちに、命香の足元で、一匹の黒い狐が躍った。そして、その扉にぶつかって消える。と、音もなく扉が開いた。


 その先、暗い階段を下る。突き当り、扉は勝手に開く。自分の功績を誇るためか、狐火が命香の視界で舞う。


 ――阿賀谷戸わくわく正統陰陽師ランド・地下二階。


 地下一階から地下二階は、地上の施設に対する配管や、からくり機構の格納、そして従業員の通路としての機能を果たしており、阿賀谷戸わくわく正統陰陽師ランドのマスコットキャラクター『こどくん』『のろちゃん』の移動にも使われる。(こどくんとのろちゃんはこの世界に一人ずつしかいないオンリーワンであり、中に人などいないため、こうした地下道を利用して効率よく移動しなくてはならない)


 とはいえ、阿賀谷戸の陰陽道の正統性がまだ示されていない以上、この地下二階には従業員たる人がほとんどいない。今のうちと命香は通路を駆け抜け、エレベーターの前に立つ。エレベーターは勝手に開き、命香を迎え入れた。


 地下三階に行けば従業員の休憩スペース、強制勉強室などがある。問題は、地下四階。


 肘でスイッチを押し、地下四階へ。


 そこは、あくまでも従業員たちの行動するスペースとして作られた地下二、三階とは異なる。エレベーターが開いた途端、陰鬱な雰囲気と湿気た空気、黴臭さが鼻を突いた。


 阿賀谷戸わくわく正統陰陽師ランドで、勉強や学習を怠ったり、阿賀谷戸の陰陽道を正統と認めない不届きものを収容したりするための座敷牢群。手入れする気もない石畳の床と、頑丈な気で作られた牢と牢の間を、命香は速足で抜けていく。


 ――どこかに、肺助さんが。


 しかし、何周してもこの牢のどこにも肺助を認めることはできなかった。その代わりに。


「何この、スプラトゥーンのイカ墨みたいな……」


 地面に散った蛍光緑の液体を前に、命香はつい言葉を発した。そして、それが厳重に閉ざされた扉の向こうのさらに下、地下五階に続いていることを察する。


 ――そこが、この施設における孤独の果てに死んだ動物たちのために作られた塚、霊安室であることを命香は思い出した。


「そんな……肺助さんは、もう……」


 命香の口から、はらり、と呪符が零れ落ちる。と、地下四階にサイレンが鳴り響いた。


『侵入者感知』

『地下四階・厳重強制御勉強室』

『侵入者感知』

『各怨霊・悪霊は警戒に当たってください』

『急急如律令』


 命香が顔を上げると、監視カメラと明確に目が合った。否、最初から命香の姿は捉えていただろうが、監視する側が命香を認識できていなかったのだ。ついさっきまでは。


「しまった、時間が……」


 すぐさま命香は呪符を取り出し、ひょうと遠く、エレベーターや別の通用口に投げつける。


「雷霆は天命なり、雷祖、雷母、雷将よ、我が呼び声に応えよ!」


 途端、雷法が雷を呼び、監視カメラを破壊し、エレベーターを焼き、通用口の戸を熱光で溶接した。


 物理的な通りは塞いだ。霊の類であろうと、正規の入り口を塞ぐことに意味はある。それ以外の通用ができるのは、余程上位の神霊だけである。


「……正しかったのかな、これ」


 そして、命香は改めて、階を貫通して降りてきた、藁の塊のような足が三本、根のような腕を五本持ち、そのうちの一本を地面について、体中から伸ばした稲穂から無数の眼球を覗かせるなかなかのビジュアルの化生を前に眉を顰めた。


 今、その怪物は威嚇をするように赤青緑の極彩色の枝葉を伸ばして命香を威嚇する。おそらく、阿賀谷戸家で代々摺り潰されてきた毒草の怨霊であろう。


 座敷牢の木枠が、怪物の接近だけで歪み、腐っていく。


 命香は気を落ちつけて手印を組み、意識を集中させた。


(落ち着け、この程度、わたしだけで何とかしないと)


 だが、それより早く毒草の化生は黒く染まった腕を伸ばして命香に掴み掛っていた。真言や呪文を口にするよりはるかに速い。


(駄目だ、間に合わない……!)


「オン・ユア・マーク……セット!」


 しかしその時、聞き覚えのある声の、知らない呪文が命香の耳に届いた。


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