表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪術恋愛戦線 山奥に隠れていた陰キャ呪術師の俺が都会から来た陰陽師美少女に狙われる異能バトルラブコメ  作者: 杉林重工
二章 彼女の名前は瀬路原野弦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/51

ナイスナイススイングスイング正隆正隆

「待ちたまえ!」


 阿賀谷戸命香がスマートフォンを操作しだす段になって、初めて正隆は動揺を示した。


「あいつを二人にして、それでなにがどうなるっていうんですか」


 肺助も同じく、額に汗を浮かべて命香を見る。だが、二人の焦りは別の軸にあるのは言うまでもない。


「ナイススイング正隆が二人いると、ゴルフ場を建設した際に神が二柱生まれるか、或いは儀式自体が失敗する。そうでしょう」


 命香は正隆に言い放つ。


「別の土地ならまだしも、一つの土地に同じ神を二柱も降ろすことなど難しいし、前例が少ないことは呪術においてリスクが高い! おそらく失敗するだろうね」正隆は歯噛みした。


「一か所で複数の神様をお祀りすることも少なくないですが、別の神ならまだしも、全く同じ神を二つも祀るなどは流石に困難でしょう。それに、あなたの性格上、二人も自分がいたらしょうもない争いを始めるでしょうし」


「それになにより、わたしが面白くない!」


 正隆は声を張った。命香はついつい微笑した。


「だから、交渉です。これからわたしは二人目のあなたを呼ぶ。儀式のためにもあなたはノツルさんの呪いを解くしかない。そして、それを確認したらわたしはスマホを破壊します。これで解決ですね」


 命香はなんてことない、といった表情で言い切った。だが、肺助だけが眉間にしわを寄せている。


「待ってください。じゃあ先輩が今度は呪われたままじゃないですか」肺助は思わず噛み付いた。


 しかし一方の命香は、相変わらず落ち着いて答える。


「そうです。だから、わたしはナイススイング正隆へ、阿賀谷戸命香が依り代になるよう、呪うことを許容します。だからどうか、ノツルさんの呪いを解いてください。完全オリジナルの真言をベースにした呪いは、わたしのどんな知り合いを頼っても解けないでしょうから」


 そこまで言って、命香は大きく深呼吸した。彼女は肺助ではなく、正隆をまっすぐと見つめ、言い放つ。


「これが、わたしの交渉です」


 一方、ナイススイング正隆は顎に手を当てて思案していた。その隙に、肺助は大声で言う。


「なんで先輩が犠牲にならなくちゃいけないんだ。それは違う!」


 肺助は命香の正面に回り込んだ。到底、納得できる『交渉』ではない。だが、命香はつんとした表情のまま。


「きっとこの先、わたしはこの山をゴルフ場に変えたくて仕方がなくなったり、毎朝毎朝、ゴルフしようぜ! とか騒ぐ、ナイススイング正隆の怨霊をよく見ることになるでしょう」


「嫌すぎる……」


「ですが、仕方のないことです。呪術師をやっていれば、面倒な呪いと共存することなど、よくあることでしょう」


「そんな……」肺助の顔に、露骨な動揺が走る。


「それに、そもそもわたしは『よそ者』でしょう。あなたのいう、守る対象には含まれていないじゃないですか。だから、気にしないでください」


 その言葉に、肺助は一瞬詰まった。命香はふ、とその様子を鼻で笑い、ずい、と肺助を押し退け前に出た。


「さあ、どうしますか。あなた個人のデジタルデータをもとに作った式神です。事故防止のためにも、呪符代わりのスマホは二台もないはず。もう、提案に乗るしかないでしょう」


「あったら、ノツル君からスマホを奪う努力もしていないからね」


 そういって、正隆は改めて眉を顰めて、ついに答えを出す。


「わかった。ノツル君の呪いを解こう。そしてこのわたしは消滅する。ただし、勿論、君がもう一人のわたしを呼ぶのが条件だ」


「交渉成立ですね」命香は毅然と言い、スマホをいよいよ耳に当てた。


「待って……」肺助はいよいよ涙を浮かべて言う。懇願に近い。だが、その言葉すら、遮られた。


「ちょっと待ったああああ!」


 その時、明朗な少女の声が山野に響いたからである。


 はっとして振り返った二人と一つのスマホ式神は、その様子に目を丸くした。


 熊の形をしたスマホ式神〈ハヤト〉であった。〈ハヤト〉は真っ直ぐ命香へ向かい突進する。その雄々しき様態に、命香は思わず腰を抜かし、それを肺助は突き飛ばして錫杖を向けた。だが、〈ハヤト〉はそれと衝突することなく立ち上がり、その口を大きく開け、火花の混じった灰を含む煙を大いに吐きつけた。


「なんだこれ!」肺助は思わず顔を覆い下がった。命香も同じだった。二人が慌ててこの煙幕から逃げ去ったとき、命香はすぐに異常に気付いた。


「スマホがない!」


「ありがとう、〈ハヤト〉」


 焦る命香と対照的に、明るい声が木立を揺らす。二人から二十メートルほど離れた先に、瀬路原ノツルは、その手にスマホを一つ収めていた。そして、ぱん、と手を打った。


「〈ハヤト〉はお仕事ご苦労!」


 主人=瀬路原ノツルの言葉に従い、スマホ式神〈ハヤト〉はあっさりと消滅する。


「……おえ、同時に二つも出すと、本当に死にそうになるね」


 瀬路原ノツルはえずいた。すでに顔は蒼白、大粒の汗をびっしょりとかいている。だが、それでも何とか姿勢を維持し、受け取ったスマホを傍の木に押し付け、固定する。


「でも、これで全部終わり。肺助と先輩はスマホを奪ってくれてありがとう。場所を教えて正解だったね。それじゃあ、正隆さん、なんか色々あったけど、お疲れさまでした」


 そう笑いかけながら、ノツルは小さな鞄から金槌を取り出すと、それをまっすぐ振り上げた。


「それから、これからも呪いとしてよろしく。お手柔らかに」そう言って、振り下ろす。


「瀬路原さん!」命香が悲鳴に似た声を上げたのと、ほとんど同時。


「――瀬路原ノツルの『破壊行為』を禁じる」


 その呪いがノツルの動きを止めた。


「肺助?」ノツルがはっとして肺助を見た。


 肺助は既に走り出しており、命香やナイススイング正隆を追い抜いて、ノツルに迫っていた。ノツルは反射的に、スマホを奪われまいと背を向けようとした。


「ノツルの、おれから『逃げる』ことを禁じる」


 途端、ノツルの動きが止まった。


「それをこっちに! 助けるから!」 肺助は汗をぬぐいながら手を伸ばす。ノツルに向けて。


「――はい」


 不思議であった。もう、この呪い合いのすべては、自分が被れば全部丸く収まるはずなのに。そう覚悟してきたはずなのに、ノツルはスマホを、合儀肺助に手渡していた。


(あーあ、やっぱり、わたしは駄目だな)


 とノツロは思った。


 一方、肺助はそれを受け取ると、使い方のさっぱりわからないそれを適当にタップし、なんとか通話アプリを起動した。


「はい、こちら合儀肺助と言います。えっと、ナイススイング正隆さんのお電話でお間違いないでしょうか。はい、はい、それでは一人、よろしくお願いいたします」


 まるでピザでも注文するかのような気軽さであった。


「ちょっと! それじゃあ肺助さんが!」


「頼む頼む頼む男に呼ばれるのは面白くない……!」


 他方、一人の呪術師と一人のスマホ式神は大いに焦りだす。だが。


「うーん、だけどさ、呼ばれてしまったからにはでるしかないよね。使役されるのが式神だから。死んだ後、誰に呼び出されるかもわからないし、気軽にできるよう設定したのも、『君』だろう? 二人のわたしが呼ばれることも仕様通りのはずだ」


 そんな彼らの目の前に、もう一つのナイススイング正隆が立っていた。まるで、肺助を庇うような立ち居であった。


「もう、滅茶苦茶……」命香と正隆は呆然として呟いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ