お人よしお話
「あいつの居場所はわかってる。これを見て」
ノツルは、スマートフォンを二人に見せた。地図の上を、三角形のマークが移動している。
「位置情報アプリ?」命香の言葉に、ノツルは頷いた。
「ナイススイング正隆のスマホに仕込んでおいたの。でも、そんなことしなくても、あいつが行く場所はわかってる。肺助、秘密基地の場所、覚えてる?」
「え? まさか、うちの敷地に?」肺助はぎょっとして問うた。
「そう。電気が使えて、なおかつ清められた場所を教えてほしいって言われて……」
「確かに、合儀家の敷地の一部には、山の中でも電気が引かれていますが」命香は、昨晩の小屋然り、いくつかの施設には電気が通っていることを知っていた。
「秘密基地は潰れちゃったけど、その傍にソーラーパネルがついた小屋があったでしょ。あそこを教えたの」
「確かに、あの近くに山の世話をするための器具をしまっている小屋があるけど……」
合儀家は、所有する山野にて、周辺の家々に影響を及ぼしそうなほどの木々の拡大を防ぐため、時には伐採も行っている。休憩のほか、斧やチェーンソーが保管されている小屋である。
「一か月前から、正隆はあそこを拠点にして呪術を行えるように『調える』って言ってた。あいつは、スマホを手に入れたら、多分そこにスマホを差しっぱなしにして無限に動くよ」
「無限に、動く……?」命香は眉を顰める。
「一か月も前から、人の敷地で……」肺助は自然と拳を握り固めていた。
「ごめん、肺助……あのね、わたしもね、肺助みたいに……」肺助の様子に、ノツルはどこか縋るように声を絞った。
「もういい。場所がわかったら、あいつのスマホを圧し折ってそれで終わりだ」
「でも、一か月以上準備されたなら、そう簡単にたどり着けないように結界も……肺助さんだって、やったことがあるでしょう」
命香が言うのは、真壁動太のために行った、校舎裏の人払いであった。だが、肺助は首を振る。
「そんなもの関係ない。うちの山で、赤の他人の呪術を禁じる」
「もう滅茶苦茶じゃん」命香は絶句した。
「あとは、直接ぶん殴れば終わりだ。場所がわかるアプリがあるなら、どこに隠されてもわかるし」
肺助の言葉に、ノツルも頷く。そして、スマホを肺助に渡した。
「ごめんね。肺助。必ずスマホを取り返して」
「そういうのはいい。とにかく、今はあいつを倒す。必ず取り返すから安心して」
そういうが早いか、肺助は走り出していた。あ、と命香は思わず漏らし、それに続いては知りだそうとした。だが、それをノツルが止めた。
「先輩、肺助のことをお願いします。何かあったら、わたしのことはもう、どうなってもいいから。あの、わたしのことなんですけど……」
「……わかっています。スマホ式神術は、阿賀谷戸家でも研究済みです。どんな弊害があるのかも。でも、本当にいいんですか」
「うん。全部、わたしが悪いから。先輩の言うとおりでした」
ぐったりと階段に座りこみ、ノツルはつう、と涙を流した。
「わたしは、わたしもね、肺助みたいに、特別になりたかったんだ」
「……わかります。だからもう、寝ていてください」
「嘘。同じ呪術師の癖に、何がわかるの」恨むようにノツルは言う。
命香はしばし、肺助が出て行った玄関外を見、一瞬だけ天を仰いだ。そして、大きく深呼吸。そうして少し間を置くと、ノツルの肩に手を置いた。
「……ノツルさん、わたしは、陰陽師になりたかったんですよ」
「何か違うの?」
「お父さんが、認めてくれません」
「え?」ノツルは思わず顔を上げる。だが、命香の表情を伺い知ることはできなかった。
「わたしも行きます。わたしにとっても、肺助さんは特別なんですよ。だから、肺助さんは殺させません。ですが、覚えていてください」
命香はすでに、玄関の外に立っている。その背中を、ノツルはただ見つめるのみ。
「あなたもそうです。あなたも救います。絶対に殺させはしません」
一瞬だけ、命香はノツルを振り見、言う。
「きっとわたしは、誰かみたいなお人好しになりたいんですよ」




