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呪術恋愛戦線 山奥に隠れていた陰キャ呪術師の俺が都会から来た陰陽師美少女に狙われる異能バトルラブコメ  作者: 杉林重工
二章 彼女の名前は瀬路原野弦

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楽しい悪夢・芝との会話と先輩へのお礼

『さあ、緊張の一瞬です。芝との会話。これが大事です。そう、芝との、会話』


 ――芝との、会話。


 合儀肺助は今、緑の芝生の上に立っていた。その先には、大きな穴が開いていて、傍には見知った少女、瀬路原ノツロが立っている。


「こっちだよー! こっち!」


 ノツロはそういって手を振っている。肺助もそっちに行ってあげたいのはやまやまなのだが、不思議と足は動かない。


「行くぞ、少年! さあ、ホールイン、ワン!」


 その声は肺助の頭上から降ってくる。はっとして顔を上げると、なんと雲を隠すほどの背の高い――否、巨人としか言いようのないほどの体格となったナイススイング正隆が、巨大なゴルフクラブを振り上げ、合儀肺助に向けて振り下ろす。


 ――おれは、ゴルフボールなのだ!


 肺助は驚愕した。このままでは殺される!


「こっちだよー! こっち!」


 そんなのんきなノツロの声が恐ろしい。


「ちゃー、しゅー、めーん!」


 ナイススイング正隆がクラブが大いに迫る。


「ゴルフクラブのスイングの速度は、成人男性で『秒速』四十メートル。プロになれば五十メートルにも及ぶ。つまり、時速百八十キロ。その速度で、ゴルフクラブの先端、拳ほどの大きさの鉄塊=アイアンが合儀肺助に迫るぞ! サイズ差もあって、当然肺助の体は吹き飛ぶどころか跡形もなく砕け散る!」


 正隆はスイング中にも関わらず、丁寧におのれの行いの解説を入れた。


「言われなくてもわかる! 死ぬに決まってるだろ!」


 肺助は絶望に押し出されて言葉を吐いた。


「こっちだよー! こっち!」


 ノツロは相変わらず肺助の危機など感知もしない様子で手を振っていた。


「危ない!」ところが、そんな言葉がノツロの言葉も、肺助の恐怖もねじ伏せる声がした。


「阿賀谷戸先輩!」


 どしゃり!


 肺助の目の前で、ゴルフクラブが止まった。否、ゴルフクラブを受け止める存在がいた。


「これは……おでんの、大根……?」


 肺助は目を見開いた。ゴルフクラブを、何らかの出汁をたっぷり吸った美味しそうな大根が止めている。その出汁の香りに、肺助は思わず唾を飲んだ。


「違います! ぶり大根です!」ぶり大根の大根(CV.阿賀谷戸命香)は声を荒げた。


「失礼しました」


 肺助は思わず謝った。おでんの大根とぶり大根の大根を取り違えるのはさすがに失礼だと思った。


「もう、真剣にやってよね!」隣にいつの間にか立っていた、ぶり大根のぶり(CV.阿賀谷戸命香)が怒鳴る。


「ごめんなさい」肺助はぶり大根のぶりにも頭を下げた。ところが、その時であった。


「ちゃー、しゅー、めーん!」正隆がスイングし、


「こっちだよー! こっち!」ノツロが声を張る。


 再び、ゴルフクラブが肺助に迫った。だが。


「ディーフェンス!」


 肉じゃがのニンジン(CV.阿賀谷戸命香)が滑り込み、肺助を守った。


「おのれ、なかなかやるね」肉じゃがの肉(CV.阿賀谷戸命香)がふむふむ、と腕を組んで頷く。よく見ると、肺助の周囲にはひじきの煮物(CV.阿賀谷戸命香)やほうれん草の胡麻和え(CV.阿賀谷戸命香)など、層々たる顔ぶれが並んでいた。


 ――層々たる、顔ぶれ?


「……いや、これはいったいどういうことなんだ?」


 肺助は、自分を取り囲む料理たちを前に困惑するばかり。


「こっちだよー! こっち!」


 ノツロののんきな声が、緑の芝生が美しいゴルフ場にこだまする。


 *


 式神に運ばせた遁甲盤による卜占、神楽鈴の音、一晩中行われた儀式。


 その間、肺助は神経を摘まみだされ、爪でしごかれるような痛み、殴打のような直接的な痛み、釘で骨を貫かれるような痛みなどに耐え続けた。腹に、肩口、首にまで痛みは迫っていたと思う。


(夢、か。痛みに負けて気絶していたのか、それとも、呪いが収まったからあんな変な夢を……)


 肺助が朝の日差しに目を開くと、いつの間にか口に呪符を噛まされ、座禅の上に錫杖を乗せられていたことに気づく。


「痣が、ない……」


 そして何より、あれだけ不気味に全身に現れていた痣は消え失せていた。まるで、それもまた夢だったかのようである。


「肺助!」


 合儀椎子の声。はっとして顔を上げた肺助の顔面から思いっきり水がかかった。冷たい水が全身を打ち、毛穴一つ一つを穿つ。


「し、死ぬ……」


「よかった。これで大丈夫ね」


 呪符を吐き出しながら、肺助は声の主である阿賀谷戸命香を見た。晩に見た姿とほとんど変わらぬ道着姿であったが、彼女の顔には露骨に疲労があった。


「先輩、それ……」


 そして、肺助はふと、彼女の足に、薄く痣が浮いているのに気づく。すると、命香はさっと足の向きを変えた。


「気にしないでください。すぐに消えます。それより、わたしも身を清める必要があるので……」


 命香はじっと祭壇を見つめている。だが、その後ろ姿からでも、耳が赤くなっているのに気づき、肺助は慌てて立ち上がった。少し手間取っていると、母・合儀椎子が手を貸した。


「あなたは川で身を清めてから戻ってきなさい」


「はい。あ、あの、先輩!」


 早く小屋を出ようとした肺助だが、その前に命香へ声をかける。


「ありがとうございました。それから、気になることがあるんですが……」


「肺助さん。体の調子が問題なかったら、学校へ行っていいですよ」


 命香は肺助の言葉を遮るように言った。肺助は顔をしかめた。本当はいくつか、伝えないといけないことがあったのだが、全て飲み込む。


「……わかりました。本当に、ありがとうございました」


 もう一度礼を言うと、肺助と合儀椎子は小屋を後にした。




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