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呪術恋愛戦線 山奥に隠れていた陰キャ呪術師の俺が都会から来た陰陽師美少女に狙われる異能バトルラブコメ  作者: 杉林重工
二章 彼女の名前は瀬路原野弦

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幸せゴルフ計画

「まったく、どうなってんの」


 瀬路原ノツルは、ファミリーレストランを出てすぐの建物の影で毒づいた。


「それは、仕方のないことでしょう。まさか、あの陰陽師崩れが合儀肺助の味方に付くとは」


 そう答える声は、老紳士。彼女の正面にいつの間にか立っていた。三つ揃いのダークブラウンのスーツを着ている。彼は、手の中で翡翠色のゴルフボールを転がしながら答えた。


「あんたの計画……じゃなくて、わたしの計画が台無しじゃん。もっと肺助がわたしに泣いて縋ってくれるって話だったのに」


「そうですな。予定では孤立無援の合儀肺助氏を最強の呪術師、このナイススイング正隆が徹底的に打ちのめしていたところを、無敵の式神〈ハヤト〉で助ける、というのがあなたの役どころでしたのに」


 我ながら完璧なシナリオでした、とナイススイング正隆。対して、ノツルは抗議する。


「シナリオじゃないでしょ! わたしは本気なの」


「わかっていますが、それでもわたしがワンショットもできないというのはこれ如何に」


「それはダメでしょ。当たったら肺助がケガするじゃん」


「いいえ、レディ。ゴルフボールが当たったら基本的には致命傷ですよ」


「じゃあ絶対ダメ!」ノツルは大声で怒鳴る。


「まったく。貴女は、彼に優しすぎる」


「ち、違う!」


「勿論、当てるつもりはありませんでしたよ。ただ、ぎりぎりまで追い詰めないと、肺助氏も貴方の大切さや強さに気づくことはないでしょうから。ですが、確かに私情は収めるべきでした。今のわたしは、あくまで貴女のキャディーですからね」


「キャディーって何?」


「……キャディーと選手の関係を一言で言い表すのは難しいですが、まあ、スポーツで言うところの、コーチみたいなものでしょうか」


「そう、わかった。それで、じゃあコーチとしては、次、どうすればいいと思う? このままだと、あの陰キャにモテそうな清楚しか取り柄がない先輩に肺助が取られちゃうかもしれないし。どうするの、わたしがかっこよく登場して、肺助がわたしのことを頼ってくれるこの計画」


「わかっておりますとも。しかしあの呪術師、相当深く『呪いをかけて』合儀家に入り込んでいるようです。あれを解くのには、このナイススイング正隆にも難しく……」


「あんた、はぐれ呪術師の中でも最強だったんでしょ。なんとかしてよ」


「そうですなあ。それでは、例のものをお貸しいただけますかな」


 紳士=ナイススイング正隆は白い手袋に包まれた手を差し出す。ノツルは鞄からハンカチを取り出すと、ナイススイング正隆に渡した。


「はい。これでいい?」


 正隆はそっとそれを開き、中に数本の髪の毛が入っていることを確かに認めた。


「素晴らしい。これだけあれば十分です」何度も頷き、正隆はそれをポケットに収める。その様子をじ、とノツルは視線で追う。


「言っとくけど、それで肺助にひどいことしたら許さないからね。消すよ?」


「わかっておりますとも。少し脅かすだけです。あとは、タイミングを見てあなたが颯爽と現れ、このナイススイング正隆が考案した完全オリジナルの真言を唱えればいいのです」


「それを唱えた瞬間、わたしとあなたのことがばれる気がするんだけど」


 ゴルフ、ドラコン、なんとかってやつでしょ、とノツルは言う。正隆は笑みながら首を振った。


「なに、呪いを解くにあたって、同じような呪文を唱える必要があるのは当たり前です」


「そう、なの?」


「勿論ですとも。忘れてはなりません。あなたは特別な才能を持った呪術師です。あの陰陽師崩れ、阿賀谷戸の娘がなんと言おうと、瀬路原ノツルは当代きっての呪術師ですとも」


 この、ナイススイング正隆が認めます、と言いながら、正隆は彼女の肩を叩く。すると、すこし照れたようにノツルは顔を逸らした。


「さあ、わたしは準備があるし、あなたも本物の呪術師として活躍し、彼から尊敬を得るためにも、まずは愛する肺助君のために頑張りなさい」


「あ……愛……!」その言葉に、ノツルの顔があっという間に真っ赤になった。


「ちょっと! 肺助いたらどうするの!」語気を強めつつ、ノツルはなるべく小声で怒る。同時、周囲を警戒するように見回した。おっと失礼、とナイススイング正隆が自身の口を手で押さえる。


「でも、彼はまだチョコレートパフェを食べているのでご心配なく。では、また後で」


「本当にもう。じゃあ、よろしくね」


 きき、と止まったゴルフカートに乗り、ごろごろとタイヤを軋ませて帰っていく正隆の背中を、ノツルは複雑な心境で見つめた。


「これでいいんだよね……本当に」


 ノツルは強く、手の中のスマートフォンを握りしめた。その画面は、不気味な呪詛を明滅させながら、発光している。


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