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呪術恋愛戦線 山奥に隠れていた陰キャ呪術師の俺が都会から来た陰陽師美少女に狙われる異能バトルラブコメ  作者: 杉林重工
二章 彼女の名前は瀬路原野弦

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みんなの山

「……だからさ、肺助の山は、肺助だけのものじゃないと思うな」


「え?」肺助はノツルの顔を凝視した。今俯いている彼女の顔は影になっていて、表情はわからない。


「大変だったら、ちゃんとわたしにも言ってよ」


 しかし、見えない彼女の表情の上に、涙が滲んでいるのを肺助は見た。


「瀬路原……」


「肺助が、わたしに相談してくれなかったのは、わたしが戦えないから?」


「そういうわけじゃ……」そもそも、他所の呪術師がやってきたのは昨日今日の話でもある。だが、たとえそれが一週間前だろうが、一年前だろうが……と肺助は思考を巡らせていた。それを察したのか、ノツルは言葉を震わせながら次のように言う。


「肺助、わたしも戦えるんだよ」


 ついにノツルは両手で肺助の手を握り、真っすぐ彼の瞳を見る。


「だから、これからは一緒にわたし達の思い出、守ろうよ」


「それは……」しかして、肺助の頭に躊躇が浮かぶ。


(あの熊みたいな式神は確かに強そうだけど……ノツルをこういうことに巻き込んでいいのか?)


 肺助は唇を噛んだ。


「もう、肺助は、いつもこういう時の判断が鈍いなあ」


 露骨に表れた躊躇い。それに対し突然、ノツルは溜息のような声を吐いた。


「ま、どうせ、肺助はわたしを頼らざるを得なくなるだろうけどね!」


 そして、肺助の返事を待たずして、急に手を離して瀬路原ノツルは立ち上がった。


「ねえねえ、なんかお腹空いたし、ご飯食べて帰ろ!」彼女は夕日の方を向く。表情はわからない。ただ、所在無げに半開きになった手を揺らす。


 対して、いきなりのことに肺助はやや気が動転していたが、一呼吸して冷静さを取り戻す。


「っていうか、最初はそういう話じゃなかったっけ。あ、そういえばあの結界に閉じ込められてたとか、そういうのはどうなってんだよ」


 肺助はいろんなことを思い出しつつ、立ち上がる。


「それは……わたしもこう見えて、凄腕の呪術師だからね。あんな結界ぐらい、どうってことないし! じゃあ、行こう!」


 ノツルは元気にそういって、目を袖で一擦り。外跳ねの強いショートカットの髪を揺らして肺助の手を引いた。ところが、その場でずるり、と足を滑らせてバランスを崩す。


「あ」


「おい!」


 しかし、地面に背中がつく前に、肺助は素早くノツルを抱きとめた。二人の視線が交差する。両腕の中のノツルは、さっきまでの自信に満ちた様態に反して、随分と華奢だと肺助は思う。制服の下、幾重の布の下に、健康的な皮膚と薄い脂肪、筋肉そして、食い込んだ自身の指先に熱を感じる。陸上で鍛えているとはいえ、あまりにも柔らかく、案外あっさりと、その熱の奥まで壊せてしまいそうだと肺助は思った。


「……あー……」


 気付けば日は沈みかけており、夕陽となって二人の頬を赤く焼いた。


「えーっと……」


 目を合わせたり、気まずそうに反らしたり。ノツルですら、胸の前でもじもじと両手を宙に揉んだ。


「あのさ、肺助……」


 しかし、意を決したようにノツルは唾を飲み、ゆっくりと手を、肺助へ伸ばす。その震える指先が、彼の首に触れた。


「わたし、ずっと肺助に……」


 しかし、彼女が何かを言いかける前に、肺助の背中に何かが乗り上げた。


「え、狐?」


 思わずノツルは目を見開き、肺助の肩に乗るそれを指した。肺助も驚いて身を反らす。すると、肺助の背から落ちた一匹の黒い狐が、今度はノツルの脇を通ってそのまま、こん、と一鳴きして夕闇に消えていく。


「なんだったんだ?」「なに、今の……」


 と、肺助もノツルは動揺を隠さず、狐の消えたほうを見つめる。


「さて」


 そして、急に後ろから掛った少女の声に二人は驚き実を震わせた。


「瀬路原ノツルさん。あなたの呪術について、いくつか質問があります」


 その声の主は、ほかならぬ阿賀谷戸命香。静かに、しかしどこか怒りを湛えた表情であった。


「ちょうどわたしもお腹が空いているので、ご一緒していいですか?」


 不気味なほどに落ち着いて、阿賀谷戸命香はそう迫った。


 ――十分後!


 駅前のファミリーレストラン『ナンデモヤ』にて。夕方、そこへ合儀肺助、阿賀谷戸命香、瀬路原ノツルが揃って入店する。ごくごく普通の高校生グループの集団の入店にも思えたがしかし、妙な緊張感が伴っていたことを、店員たちはひそかに感じ取っていた。


(あのテーブルには近づきたくないな……)





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