しおりラブレターを挟んだのは誰? ②
大昔、図書委員をしていました。
最近、米澤穂信先生の作品にハマって、自分でも図書室を舞台にした小説を書いてみたくなりました。
千葉県のとある高校の図書室を舞台にした、プチ青春ミステリーです。
図書準備室を追い出された私たち三人は、人もまばらな図書室の中、カウンター近くのテーブルで、ひそひそと今後のことを話し合う。
「くそー、失敗したなー。考えてみれば、古谷がカウンター当番をまじめにやるはずないものなー」
と、田村君。
「でも、そうだとすると、森沢先輩に内藤さんが告白したことになるんじゃない?」
と、私。
「別に、いまどきアリじゃない?」
と田村君。
すると、深津さんが、
「すみません、それについては少し違和感があります。
古谷君と内藤さんの口論を聞いた感じでは、二人とも別の男子生徒にしおりを渡したかどうかで口論していた印象なんです」
「私も図書委員としてしか内藤さんのことを知らないけど、年上の女性に恋したり、いきなり告白するような子だとは思えないかなぁ」
「でも、そうすると、しおりを挟んだのは内藤さん以外ってことになるけど?」
「やっぱり、森沢先輩の隙を見て、誰かが挟みこんだんじゃないかな?」
「しおりには名前が書いてなかったんでしょ? じゃあ、何のために」
「想いだけでも伝えたかっただけとか……」
と、深津さん。
それなら、やっぱり内藤さんがしおりを挟んだのかな? 森沢先輩への秘めた想いをこっそりしおりに書いて渡したとか?
「だったら、仮に内藤さんじゃないとして......そういえば、森沢先輩の前に借りた人はチェックしたの?」
と、田村君。
「いや、してないよ。しおりが挟まっていたら、返却されたときに図書委員がチェックするでしょ」
と答える私と、うなずく深津さん。
「わかってないなー、その発想が間違ってるんだよ。図書委員がみんな朝日さんや深津さんみたいにまじめに仕事をしていると思っちゃだめだね」
えー、そういうものなのー。
「でも、森沢先輩が借りる前から本に挟まっていたんだったら、先輩も図書委員も関係なくない?
図書委員が犯人じゃないんだったら、他人の恋愛なんて、私にはどうでもいいんだけど?」
「いや、山本委員長を怒らせてるんだから、それじゃもう納得しないでしょ」
ですねー!(ちくしょう)
ということで、森沢先輩の前に借りた生徒に詳しい事情は伏せて話を聞いてみたのだが、その答えは「何も挟まっていなかったし、自分でしおりを挟んだりもしていない」とのことだった。
なので、あらためて森沢先輩にカウンターでの受け渡しの様子を、詳しく聞くことにした。
図書準備室にお呼びした森沢先輩は、部屋に入ってくるなり、「なになに、誰かわかった!」と、興味津々のご様子。
「それがまだわからなくて。それでカウンターでのやり取りを詳しく教えてほしいんです」
というと、森沢先輩は少し困った様子で、
「よく覚えていないんだよねー。図書委員の顔も見ていないし」と言った。
すると、その様子を見た田村君がなぜか、
「どんな男子生徒だったか覚えていませんか」と森沢先輩に聞く。
「えっ、男子生徒? 男子だったの……?」
と意外そうな森沢先輩。うん?
さらに田村君が、
「そ、そうなんですよー。ただその図書委員がしおりを挟んだのか、まだわからなくて。
本を借りるときに、図書委員がなにか不自然な行動をとったかと、カウンターの周りに誰かいたりしませんでしたか?」
「いやー、ごめん何も覚えていなんだよねー」
と森沢先輩。
「とにかく! 誰が挟み込んだのかわかったら教えてね!」
と言って、部屋を出ていった。
森沢先輩を見送ったあと、田村君から、
「おかしい。前のめりに犯人のことを聞いてくるから、てっきり自分に告白してきた人に興味があるのかと思ったのに。
だから男子生徒って言ってみたら、まるで告白してきたのが女子生徒だと思っている感じだった」
「それは、借りるときにカウンターにいたのが女子生徒だってことを覚えてたからじゃない?」
「だったら、借りたときの状況を何も覚えていないっていうのはおかしくないか?
俺は先輩がなにか知ってて隠しているんじゃないかと思う。
内藤さんは誰かと《《間違えて》》森沢さんに『告白付きしおり』を渡したんじゃないか?」
へー、田村君、そこまで考えていたんだ。すごいね。
うーん、私は他人の恋愛に興味ないからなー。私ってみんなと感覚が《《ずれている》》のかな。
うん? 間違えた? ずれている?
しおりに名前がなかったということは、「誰」が「誰」に渡したのか、わかるように渡したはず。
それなのに、渡された森沢先輩は、渡してきた相手がわからない。
渡した人が、渡す相手を間違えた? いや間違ってなかった?
間違っていなかったけど、なにかがずれてた?
返す時はともかく、借りるときは借り手を図書カードで確認するけど……。
ふいにさっきの、
「図書委員がみんな朝日さんや深津さんみたいにまじめに仕事をしていると思っちゃだめだね」
という田村君の言葉を思い出す。
図書室で本人確認というと!
そのとき、手元にあったしおりの「すきです」の文字がキラキラと輝いてみえた。
「ねぇ、田村君、深津さん!
森沢先輩の弟とかいたりしない? この学校に!」
で、いた、弟が。一年生の森沢歩君。
なので、さっそく歩君のほうに図書準備室に来てもらって事情を聴いてみる。
「はい、僕が頼まれて、姉さんが借りた本を代わりに返しました」
と神妙な顔で答える、ワイルドな古谷君とは全然違う、シュッとして色白な歩君。部活は吹奏楽部らしい。
「それで、ついでに本を借りてくるように頼まれたので、そのまま姉さんの図書カードで本を借りました。すみませんでした」
歩君は図書カードを持ち歩いてなかったそうで、新歓オリエンテーション以来の図書室だったそうだ。
代わりに本を返しに来るのはいいんだけど。時間外に返却BOXに入れていいことにもなっているし、返却時に図書カードはいらないし。
でも姉弟だとはいっても、他人の図書カードで借りたりしたらだめだよ。
図書カードの貸し借りは禁止だってカードに書いてるでしょ、とやさしく諭して、歩君にはお帰りいただいた。
えーと、森沢先輩が借りた本を弟の歩君が代わりに返しにきて、古谷君の代わりにカウンター当番をしていた内藤さんが受け取って、歩君が自分の図書カードの代わりに森沢先輩のカードで本を借りてて、そのときに内藤さんが歩君宛てのしおりのラブレターを本に挟んで渡して、それが歩君から森沢先輩に渡って、それを見た森沢先輩が本を返しにきたってこと?
ややこしい!
頭がこんがらがっていると、深津さんがホワイトボードに整理してくれた。
①内藤さんが、古谷君の代理で図書室のカウンター当番を担当した
②森沢先輩(姉)から頼まれた、森沢歩君(弟)が本を返しにきた
③内容さんが、本を受け取り返却作業を行う
④歩君は、お姉さんに「ついでに本を借りてきて」と言われていた
⑤歩君が、本を探す様子を見た内藤さんは、カウンターに常備しているしおりに「すきです」と書き込んだ
⑥歩君が、カウンターに本を出して、森先輩のカードで本を借りた(違法です!)
⑦内藤さんは、図書カードの名義が違うことに気づかず、「すきです」と書いたしおりを挟んで本を渡した
⑧歩君は、しおりに気づかずに、森沢先輩に本を渡した
⑨森沢先輩が、本を開いて「すきです」と書かれたしおりに気づいた
なるほどー! 深津さん、ありがとう! あと字がきれいだね!
これで、事件の全貌がつかむことができて、私たちは山本委員長に報告することができた。
森沢先輩、歩君、古谷君、内藤さんは、それぞれ山本委員長から、改めて注意を受けるだけですみました。
森沢先輩は、しおりを見て弟宛てのメッセージだと気づいて、弟に告白した子が誰なのか興味津々だったようだ。
内藤さんは、野球部の応援をする吹奏楽部を見て、歩君のことが気になるようになったんだそうだけど。
クラスが違って話しかけるチャンスがなくて、いままで一度も図書室で見たことがなかった歩君が突然目の前に現れたことに舞い上がったらしい。
自分でも思いがけない行動に出たらしく、図書カードが歩君本人のものではないことには、まったく気づかなかったそうだ。
渡した後は、ドキドキした毎日を図書室で過ごしていたけど、歩君ではなく、古谷君から「しおりを使って告白した!?」って聞かれて。
一年生の吹奏楽部の歩君に告白したことを、なんで二年生の野球部の古谷君が知ってるのか、とパニックになり、弟歩君が言いふらしたんじゃないかと思い込み、泣き出してしまったらしい。
それで、それぞれの誤解も解けたところで、なんと!
歩君と内藤さんが付き合うことになって、古谷君は失恋してしまったそうだ。
こうなってしまうと可哀想な気もするけど、元々、図書委員の仕事をサボってたのが原因だからねー。
こんな理由で図書委員を辞められるわけがなく、非常に気まずいまま、古谷君をその後の図書室や委員会の会議で見かけたことはないけど。
それはそれでよくないなー。
みんな、もっと図書委員の仕事をまじめにしようよ、というのが今回の事件の教訓かな?
あと、しおりにメッセージを書いて本を貸し借りするというのが、学校でちょっと流行ったらしく、校内の読書推進に貢献できたようで、図書委員としてちょっと嬉しい(笑)。
Fin.
図書室の知識については、調べて書きましたが。
時代や地域によって違いがあるので、ここは違うかな?というところあったら、ご意見ください。
ご感想をお待ちしています。




