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第四話 何処かへ

「……ここどこ?」


 這いつくばっていた身体を起こそうとするが、溺れてたことによる疲れと気だるさで力がはいずらかった。

 なんとか上半身を起こすと、お腹からなにかが上がってくるのを感じ、その場で飲み込んでいた水を吐いた。

 吐いたことにより息ができないほど水を吐き胃の中にあるものを全てだすと、今度は咽せて咳き込む。

そして咽せもあらかた収まると、大きく息を何度も吸い込み吐き出す。

 呼吸も落ち着き、身体中入っていなかった力も少しは戻り膝をたて立ち上がろうとすると、自分が全裸であることに気がついた。


「え、え? なんで私裸なの」


 咄嗟に身体を手で隠し周囲を見回す、霧が濃くてよくわからないがどこにも人の気配はなく、いる様子もない。それにひと安心。

けれど外で全裸であることに誰もいないとはいえ羞恥心を感じる。

 すると霧の奥からゴロゴロとある石の上を走っている音が聞こえてきた。その音はどんどんとヨウに近付いてくる。

 霧が濃いから走って逃げようかとも思ったが、そんな体力も元気もなくただ隠している部分を強く押さえることしかできなかった。

 人影がうっすら見える程まで近くにこられヨウは裸体をみられる覚悟し、グッと目をつむる。


 恥ずかしすぎて死にたい……。


 そう考えていると突然、絶対に川は渡らないでとうっすら聞こえた。

それに対し反射的に目を開ける、なぜならその声はショウの声だったからだ。

けれど目を開けた先にはその人影の正体である人物が立っていた。

 恥ずかしさでどうにかなりそうだった。

ヨウはゆっくりと顔を上げその人物を見上げる。

するとヨウはその人物の正体にボソッと声を出した。


「ショウ……」


 そうショウだった――

けれどその瞬間違和感を覚えた。先ほど聞こえたショウの声はささやき声程度の声量、あの距離感で聞こえる声量ではなかった。

だけれど目の前にいるとは紛れもなくショウだ。

ヨウはさっき聞こえたのは勘違いだと思った。


「……ショウあのときどこに行ったの? 私溺れて死ぬかと思ったのに」

「へ? どこ行ったってヨウがいきなり走ってどっか行ったんじゃん」


 話が噛み合わない。確かにヨウはつい数分前は溺れていた、なのにショウはどっかに行ったと言っている。


「いやそんなわけないじゃん。だってここ……。あれ?」 


 周りを見ると川があったはずなのに、その川がなくなっていて見える範囲は全て石だけになっていた。


「え? ちょっと待って。どういうこ?」


 どうしても驚きを隠せない。

あり得ないほんの数秒前まで浸かっていたのになくなっていることが。

そう考え川のあった方へ少し進もうと、石を触ろうとも水のあった痕跡は一切ない――


 もしかして、溺れたのも...…夢…だった?


「ねぇ、そんなことより早く行こ。遅れちゃうよ」


 ヨウが困惑しているなかショウはヨウの手を掴み何処かへ向かおうとする。

 けれどヨウは咄嗟に手を振り払った。


「どうしたの? ヨウ」

「ご、ごめん。……なんでもない」


 ショウはもう一度手を差し出し、ヨウはその手を握った。

その時はなにも感じなかった。それどさっきは異様な冷たさを感じた。


「あ、ちょっと待って」


 ヨウは動き出そうとした足を止めた。


「もーこんどはなに?」

「私、服着てない」

「服? なに言ってんの? 着てるじゃん」


 そう言われ体を見ると服を着ていた。

脳の理解が追い付かない。あるものがなかったりないものがあったりと――


「さっきから変だよ、ヨウ。大丈夫?」

「……あ、うん大丈夫。」


 なにも理解できていないままヨウはショウに引っ張られ何処かへ向かう。



 ずっと濃い霧のなかを進んでいく。

川がなかった衝撃で気がつかなかったが、周囲に生い茂っていた木々の一切がなくなっていて、ただ周りには石しかない。

わけがわからず言葉がでない。ヨウはショウになにも話さず、ずっとショウに引っ張られ続ける。

 どれくらいたっただろう、三十分は歩いていないけれど数十分以上は歩いた、ショウの足は止まると自ずとヨウの足も止まる。

 そこには霧で先の見えない川があり、一隻の小舟が留まっていた――


「ほら行くよー」

「行くってどこに?」

「この船で、川の奥に」


 そこでヨウは勘違いだと思っていたショウの声を思い出した。


「……いや、いいや」

「なんで」

「だってこの先何があるかわからないし。なんだかさっきからずっと……変なことばっかだし」


 握っていたショウの手が異常に冷たくなり、手を強く握られる。


「……ねぇ、ヨウ。私たちって双子だよね? 同じ日に生まれて同じように育って、だからどこに行くのも一緒。私はこの船のるよ。それともヨウは片割れの私を1人で船にのせるの?」


 それに一気に恐怖を感じる。

手を振りほどこうとするが、握力はすさまじくさっきまでとはまるで別人。


「あーあおいていくんだ、ひどいね。じゃぁわたしがつれていってあげる」


 ヨウは小舟に引っ張られる。


「いや、離して。ねぇショウ」


 抵抗するがびくともしない。どんどんと小舟に近付いていく。


「助けて、誰か……」


 ショウは小舟に乗り込みヨウを引き込もうとする。


「こわくなーいこわくなーい」


 最後の最後まで抵抗するかま、その抵抗も空しく小舟に乗り込む。

 けれどその瞬間何かがヨウの身体に入ってきた気がした。それでさっきまで抱いていた恐怖がほんの少しだけ和らいだ――


「おねがいしまーす」


 ショウがそれを言うと小舟はゆっくりとどこかに向かい動き出した。

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