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怪異と生きる、僕らの町  作者: 読み方は自由
封印されし者(現代、高校生篇)
49/55

エピローグ(※主人公、一人称)

 手書きの手紙は、温かい。呟きのアプリと違って、書き手の息遣いがある。息遣いの先にある万年筆が、それを描く音も聞える。手紙の読み手が喜ぶ様な音色が、その宛名を通して伝わる。僕の家に届いた手紙は、そんな雰囲気の手紙だった。

 

 僕は郵便受けの中から手紙を取って、自分の部屋にそれを持って行った。部屋の中では、狼牙達がそれぞれの時間を過ごしている。僕が彼等に手紙の事を伝えた時も、それに「ふうん」と応えただけで、ゲームの画面を見ていたり、外の風景を眺めたりしていた。「()()()()()()()()()()()


 二人は、その言葉に動いた。特に狼牙は「何?」と驚いたらしく、お華ちゃんが「珍しいわね」と呟いた横で、「古風だな、今時」と笑っていた。「連絡ならケータイに入れちゃ良いのに」


 僕は、その言葉に苦笑した。彼の気持ちも考えて、本当は「悪い」と思ったが。狼牙の意見も「そうだね」と分かる以上、それを全て否める事は出来なかった。僕は二人の視線を受ける中、椅子の上に座って、手紙の封を切った。「結構あるな」


 パソコンで書いても、「大変だな」と思う枚数。よくよく考えて見れば、郵便受けの中から持って来た時も「分厚い」と思ったし。封筒に貼られている切手の数も、普通に考えれば「凄い」と思える枚数だった。


 僕は休日の風が「気持ち良い」と感じる中で、秀一君の手紙を読み始めた。彼の手紙は、美しかった。手紙の内容は勿論だが、そこに書かれている字も美しい。その一つ一つを丁寧に書いている感じだった。


 僕は、()()()()()()()()()()に過去の自分を蘇らせた。過去の自分と出会った、過去の彼も蘇らせた。彼の隣に立っていた、光君の事も。今の時間に彼等を作って、あの忘れられない夏を思い出した。僕は、その思い出を憂えた。


「秀一君は」


 いや、違うな。秀一君もまた、あの夏を思い出したらしい。僕と同じ高校生に成って、僕と同じ景色を眺めた時。あの思い出をふと、思い出した様だ。町の彼方に沈み行く夕日を見て、その憧憬に襲われた様である。


 秀一君は(最初は)僕のスマホに「連絡を入れよう」としたが、「スマホのアプリでは、此は伝えられない」と思ったらしく、普段なら絶対に寄らない文房具屋で良い感じの便箋を買うと、自分の家に直走って、此の手紙を早速書き始めたらしい。手紙の冒頭には「それ」を伝える文章と、「面倒かも知れないけど」と言う文句が添えられていた。

 

 ……それでもやっぱり、抑えられない。この気持ちを分かってくれるのは多分、君と彼しかいないから。あの時間を一緒に過ごした、君達しかいないから。手紙がどんなに長くなっても、此だけはどうしても読んで欲しいんだ。「あの時間とき、あの場所に居た友達」として……。


 僕はそこまで読むと、何故か不思議な感覚に襲われた。壮大な夢が、平凡な現実に変わる感覚を。平凡な現実が、壮大な冒険に変わる感覚を。理性と感情の間に覚えてしまったのである。


 僕は狼牙達が何やらヒソヒソと話す中、真剣な気持ちで手紙の内容を読み続けた。彼が今も浜崎さんと付き合っている事を、鳩山さんから「お前、俺の助手に成らないか?」と誘われている事を、その答えに「どうしようか?」と迷っている事を、光君が異界で仕事を始めた事を、その光君に「千早さん」と言う同僚兼同居人が出来た事を、一字一句見逃す事無く読み続けたのである。


 僕は「千早さん」の名前に(()()()()()()()()()()()()()())不思議な縁を感じたが、手紙の内容が終ってしまった事もあって、その感覚を直ぐに忘れてしまった。「皆、頑張っているんだな。それぞれの道を只管に。僕は」


 頑張っているじゃない? そう応えたのは、僕の隣に飛んで来たお華ちゃんだった。お華ちゃんは手紙の内容こそ読まないものの、そこに書いてあった事は何となく分かった様で、僕が彼女に「そんな事」と言った時も、それに「あるわ!」と言い返した。「貴方はずっと、頑張っている。あの頃からずっと、自分を磨いている。霊能者としての自分を」


 僕は、その言葉に胸を打たれた。言葉の内側にある思い、その愛情にも震えた。僕は封筒の中に手紙を仕舞って、自分の守護者達に頭を下げた。「有り難う」


 守護者達は、その言葉に戸惑った。特に狼牙は「それ」が苦手だったのか、僕がまた二人に頭を下げた時も、気まずそうな顔で僕の言葉を遮った。「止めろよ、気持ち悪ぃ。俺等は只、自分の役目を果たしているだけだ。『お前を守る』って言う役目をね? それに一々」


 感謝しなくて良い。狼牙はそう言うが、僕としてはやはり言いたい。「彼等のお陰で、今の自分があるんだ」と、そう言いたくて堪らない。狼牙に例え、それが「嫌だ」と言われても。此の子持ちだけはどうしても、彼等に伝えたかった。僕は椅子の上から立ち上がって、二人の顔を見渡した。「狼牙、お華ちゃん」


 二人は、その声に応えた。お華ちゃんは真剣な顔で、狼牙は何処か鬱陶しそうな顔で。


「なに?」


「此からも、よろしくお願いします」


 二人はその言葉に驚いたが、やがて「クスクス」と笑い出した。特に狼牙は余程におかしかったらしく、僕が狼牙の顔にポカンとした時も、それに「お前は、馬鹿真面目だな!」と笑っていた。「まあ、こちらこそよろしく」


 お華ちゃんも、その言葉に続いた。彼女は僕の態度に暫く呆れていたが、やがて何かを思い出したかの様に「あっ!」と驚き始めた。


「天理」


「な、何?」


「手紙の返事は、ちゃんと書きなさいよ? 相手が真剣に書いた手紙なんだから」


「分かっている。だから」


 これから文具屋に行って来るよ、そこで返事の便箋を買う為に。

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