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怪異と生きる、僕らの町  作者: 読み方は自由
封じられし者(過去、小学生篇)
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第32話 手伝ってほしい(※三人称)

 ()()()()()()()()()()()()()。此の有り触れた意見は、多くの人から支持を受けた。少数の人達に決められた未来は、怖い。なら、自分達で「それ」を作れば良い。自分達で選んだ未来なら、それがどんな結果に成っても「分かった」と頷ける筈だ。それが余程の内容でない限り、大抵の人が「うん」と頷く筈である。


 彼等はその考えに希望を抱いて、最初はバラバラだった意見を「こうしよう」と纏め始めた。「それがきっと、皆の意見に成る筈だから」

 

 天理は、その光景に微笑んだ。それを観ていた彼の家族、そして、今回の重要人物である秀一や次男坊達も喜んだ。彼等は人々の意見がどんどん纏まって行く中で、一方は自身の傷を癒し、もう一方はそんな彼の所に「良くなった?」と訪れた。「御免、お見舞いに行くのが遅れて」

 

 天理は、その言葉に首を振った。今回の様な事が起こった以上、お見舞いに行く事自体が難しかっただろう。現に今も、例の次男坊は様々な対応に追われているし。「自分達も何か出来る事を」と言った天理の祖父も、自分の知り合い達を巻き込んで、彼等に「家の孫達に力を貸してくれないか?」と頼んでいた。そんな状態にある以上、秀一の謝罪にも(最初から否む積もりはないが)「大丈夫」と微笑むしかなかった。「こんな怪我は、いつか治るから。でも」

 

 天理は、秀一の目を見返した。秀一の目は、不安と期待に震えている。「戦いは、これからだ。世間の人達は多分、僕達に味方してくれるけど」

 

 秀一は、その言葉に俯いた。俯きたくなくても、俯いてしまった。彼は自分と天理、天理と人柱を見比べて、その両方に「そうだね」と呟いた。「世間の人達が動いてくれたのは、嬉しい。でも、それだけじゃ! 何の解決にも、成らない。皆の意見を集めた所で、『此の事態が良くなる』とは限らないから。最悪」

 

 此の努力が無駄に終るかも。或は『無駄』とは行かなくても、『解決』にまでは至らないかも知れない。『呪い分散が現実に行われた』としても、それが『問題の解決に繋がる』とは限らないのだ。全ては、結果論。とりあえずやって見なければ分からない、文字通りの賭けにしか成らないのである。


 その賭けに負ければ、浜崎睦子は帰って来ない。町の呪い(と言って良いだろう)、それに捕らわれている人柱も助からない。皆が皆、元の状態に戻るだけだ。過去から続いている因習にまた捕らわれるだけである。「だから」

 

 事態の変化を喜べなかった。本当は喜んで良い筈なのに、その変化を素直に喜べなかった。町の権力者達も折れ、町の声に「耳を傾ける」と言っても。普通の人間でしかない彼等に「これを断ち切れる」とは、どうしても思えなかった。「()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 何かの本にはそう、書かれていた。人間は、過ちを繰り返す生き物。過ちの中から知恵を得て、それを悪用出来る生き物。人間は秀一が考えるよりも愚かで、彼が思うよりも幼稚なのだ。幼稚だから、昔の痛みも忘れてしまう。昔の痛みを忘れた人間は、そこから悪知恵だけを得た人間だ。「そんな人間が残っていたら、きっと」

 

 秀一は、自分の言葉に暗くなった。そんな事を思う、自分の性根にも暗くなった。彼は自分の行動に光を感じる一方で、今の状況に闇を感じたが……天理にそれを止められてしまった。「え?」

 

 天理は、その声を無視した。声の奥にある、彼の不安を見詰める為に。「それならまた、止めれば良い。君が今回の経験を活かして。人間は……それに関わる怪異は、どんな世界にも彷徨っているから。君は……いや、君だけじゃない。僕達は自分の出来る範囲で、『それ』と向き合って行くしかないんだ」

 

 秀一は、その言葉に黙り込んだ。その言葉に多分、胸を打たれたのだろう。表情の方は曇っていたが、その胸は確かに燃えていた。彼は人柱の顔を暫く見て、それからまた天理の顔に視線を戻した。「そう、だね。その時は、出来るかどうかは分からないけど。僕が」

 

 人柱も、その言葉に頷いた。「僕が」の部分は少し寂しそうだったが、それ以外の所は彼と同じ表情だった。人柱は穏やかな顔で、天理の顔に目をやった。天理の顔は、彼と同じ様に微笑んでいる。


「天理君」


「何?」


「天理君は」


 そう言い掛けた人柱が黙ったのは、只の偶然か? それとも、テレビの画面から「市民様への緊急アンケートについて」が聞えた所為か? 兎に角、「うっ!」と押し黙ったのは確かだった。


 人柱は狼牙が「それ」に「そう来たか」と呟いた横で、その画面をじっと観始めた。画面の向こうでは、「市と県が合同で作った」と思われる広報番組が流されている。人柱は「それ」に眉を潜めたが、狼牙は「それ」を嬉しそうに眺めた。


「市民の皆様から様々な御意見を頂戴した上で、か。まあ、それが最善だろう。世間様が此だけ騒いでいるのに、肝心の行政が黙っていちゃ話に成らない。何らかの手を打つ必要はある。『自分達もちゃんと、考えています』ってね。知事の辞職や市長の辞職、ついでに議会の解散を決めたのも、『対応』としては普通か」


「そう、だね。そう、かも。ボクは余り、そう言うのは分からないけどね。大人は多分、『そう言う手が得意だ』と思う。自分が儲かる事には群がって、損する事からは逃げる。ボクの事を殺した連中も」


「ああ、同じだろうよ? 『ガキ一人の命で、皆の命が助かるなら』ってね。天秤の計りにすら乗せなかったのさ」


 人柱は、その言葉に暗くなった。彼の言い方はどうであれ、それが「物事の本質だ」と思ったからである。人柱はそんな人の本質、卑しい人の性に俯いた。「終らせたいね、こんな事。こんな救いの無い事は」


 狼牙は、その言葉に頷いた。お華ちゃんも、彼の反応に倣った。二人は人柱の事を暫く見て、その横顔から視線を逸らした。「終るわよ、絶対に」


 そう呟いたお華ちゃんに狼牙も「俺達が動いたんだからな、終らなかったらおかしいぜ」と頷く。狼牙は「ニコッ」と笑って、人柱の顔に視線を戻した。人柱の顔は、彼の言葉に目を潤ませている。


「信じよう」


「うん」


「信じる奴は、救われる。そうでなきゃ」


 此の世は、地獄だ。そう言い掛けた狼牙が驚いたのは、天理の病室に次男坊が現われたからだ。次男坊は天理の様子を確かめて、それが「回復に向かっている事」を確かめると、今度は天理達に事態の進捗を話して、その内容に「いやぁ、疲れた」と呟いた。「大体は、良い人なんだけどね?」


 天理は、その続きを聞かなかった。その続きは、聞かなくても分かる。だから、彼にも「色々な人が居ますから」と返した。「全員が全員、『良い人』とは限らない。誹謗中傷が趣味の人も居ますから」


 天理は真剣な顔で、次男坊の顔を見詰めた。次男坊の顔は、今の言葉に苦笑している。


「全くね、そう言う連中は嫌だよ。俺もつい、人の悪口を言っちまう事はあるが。それでも、『酷い』と思う。自分の意見だけを言って、こっちの意見は全く聞かないなんて。本当に困った連中だよ。俺が考えた、『呪いを分ける』って考えにも」


「噛み付いているんですね?」


「まあ。でも、気にする事はない。数の正義じゃないが、そう言う連中は叩かれている。俺達と同じ様な事を考えている人達にフルボッコは、まあ良い。今は、それよりも」


「それよりも?」


「大事な事がある。天理君」


「はい?」


「呪い分けの儀式だけど。それがもし、決まったら。君も、『それ』に力を貸してくれないか?」

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