第29話 ―*ハッピーエンド*―
そんな二人から目が離せないのか、アシュレイは僅かにため息を漏らしながらも二人を見ていた。
(もしかして?)
なんとなく元気がなくなったように見えて、私は静かに近づくとそっと声を出す。
「手作りのお弁当、私も作ろうかしら?」
「アリアっ」
急に声が聞こえ、アシュレイは驚いて少しだけよろめく。
「アシュレイ様に手作りなんて、失礼かしら?」
少しだけ意地悪を言えば、アシュレイがいつものように腕を掴む。
「つ、作ってくれるのか?!」
(ちょっと必死すぎない?)
声が裏返って、強く掴まれる腕が本気度を伝える。
「味の保証はできませんよ」
「アリアが作ってくれるものならば、全て美味いに決まっている」
「そんなわけないでしょう」
「いや、違わない」
私は料理人じゃないのよ! というツッコミはひとまず吞み込んだけど、期待に満ちた輝くアシュレイの瞳が怖い。
「ええっと、要望とか……」
「サンドイッチがよい」
即答だった。
(それって、もしかして食べさせて欲しいの……)
ちょっと冷静になりましょう。セリーナとティムだからあんなこと出来るわけで、私にアレをしろというのは、いたたまれない。
だから、
「それでは、明日、執務室の机に置いておきますね」
手作りのお弁当を渡せばいいだけ、私は名案を思い付く。
「一緒ではないのか……」
なぜか物凄く落ちたアシュレイは、切なく目を伏せる。
(ああ、もうっ、なんでそんなに落ち込むのよッ)
捨てられた子犬のように、シュンと下を向いてしまったアシュレイに、罪悪感が押し寄せる。アシュレイのことは好きだけど、「あ~ん」なんて、恥ずかしすぎて出来るわけないでしょうと、自分とも葛藤。
どうしようかと目を泳がせれば、セリーナとティムがまだ仲睦まじくサンドイッチを食べさせあっていた。
(なんであんなにラブラブなの!)
私には到底出来そうもないと、今度は私が肩を落とす。
城の通路には、重たく悲しい空気が満ち、このままではいけないと、私はダンッと一歩踏み出す。
「一口だけなら」
千歩譲って一回だけと言い切る。
そうすれば、アシュレイの顔に光が射す。
「では、俺も一口だけ」
まさかアシュレイも食べさせてくるとは思わず、「う゛っ」と声が詰まった。
羞恥が二回も?! 私の心臓、耐えられるかしらと額に汗を浮かべて、引き攣る口元を必死に隠す。
「アリア、愛している」
唐突過ぎた。
「……ぇ?」
「俺は君を愛することができて、幸せだ」
窓から差し込む光が眩しくて、アシュレイの笑顔も眩しくて、私の視界が滲む。
「いきなり……なに、を言い出す、の……」
「俺を愛してくれて、ありがとうアリア」
どうしてこの人は、ストレートに愛の告白をするの、よ。こんな台詞言われたら……。
(嬉し涙で何も見えないじゃない!)
ずっと自分のことを化け物だと思っていた、好きになってくれる人なんかいるはずないし、好意を寄せてくるのは、きっと魔力狙いで利用するためだと考えていた。
だから山奥でひっそりと暮らした方がいいと、一人がいいと思っていた。
それなのに、私の能力も親も関係なく愛してくれた人がいて、好きになってしまったことさえ感謝され、何度も愛を叫んでくれた。
私の全てを受け入れてくれたのは、この人。
そう思いながら、私がアシュレイに抱きつくと、しっかりと受け止めてくれて、「何よりも大切にする」と言われ、さらに涙が止まらなくなる。
「私も好きよ、アシュレイ」
あなたが一番好きと伝えれば、アシュレイから小さな笑い声が聞こえた。
「ようやく【様】をとってくれたな」
「だって、夫婦になるんでしょう」
「ああ、アラステア国で一番幸せになる夫婦だ」
二人はしっかりと抱き合いながら、笑いあった。
しかし、このときドラゴン3体がこちらに向かっていることを、二人はまだ知らない。
アリアを泣かせたと、怒り心頭でやってくることを……。
おしまい
【あとがき】
最後までお読みいただき、誠に誠にありがとうございました。
第1部掲載時からお付き合いしていただきました方には、心より感謝申し上げます。
無事にハッピーエンドを迎えることができましたが、1部に引き続き楽しんでいただけていたらすごくすごく嬉しいです!
思ったより長くなってしまいましたが、楽しんでいただけましたことを祈りつつ、お読みいただきました皆様へ、
『誠に、誠に、ありがとうございましたぁぁ!』




