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第25話 明かされた真実

そして私は思いっきりヴォルフガングに抱きついた。


「……う、ぁ……ぁ、お父さん……」


嗚咽も涙も止まらなくて、ただただしがみつくように抱きつけば、ヴォルフガングがそっと抱きしめ返してくれた。


「大丈夫だ。俺様は最強だと言ったであろう」

「最強でも、あんなに血が出たら、死んじゃうわよ!」

「アリア、……すまなかった」


心底心配させてしまったと、ヴォルフガングはギュッと抱きしめながら、前方に立つレンブラントを鋭く睨む。

相手が知らぬドラゴンならば、全力で叩き潰していたところだが、レンブラントはよく知る者であり、酒に酔っていたことを考慮しての対処だった、だからヴォルフガングはむやみに手を出せず、自身が怪我を負ってしまったのだ。

に、しても最愛の娘をこんなにも泣かせた張本人をどうしてくれようかと、自然と険しい表情にもなる。だが、レンブラントの方は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。

徐々に酔いが醒めてきたのだろう、現実が見えてきたかと、ヴォルフガングはひとまずこれ以上被害は出ないだろうと、少しだけ安堵したが、それもつかの間、


「アリアちゃんを泣かせて、あんなに悲しませて……、頭を冷やせ、クソジジイが!」


思いっきり悪態を吐いたルーフェスが、レンブラントの頭上から氷水を大量に投下した。

全身が凍えるほどの冷水、それを浴びたレンブラントの酔いは完全に醒める。


「……、ヴォルフガングが父とは、どういうことじゃ」

「どうもこうもないわ。アリアちゃんはヴォルフちゃんの娘よ」

「アリア? ()()()ではないのか……?」

「残念だけど、()()()ちゃんは亡くなったのよ。それは変わらないわ」


レンブラントが探す()()()は、もうこの世にはいないと、ルーフェスは切なく吐き捨てるように告げる。

そして、ヴォルフガングに連れられて歩いてきた私を、レンブラントが信じられないものを見るようにじっと見つめる。姿は()()()だが、よくよく見れば、よく似ている誰かだった。


「紹介が遅れた、我が娘、アリア=リスティーだ」


片腕で抱きしめたまま、そう紹介すればレンブラントの表情がみるみる怒りに満ちる。


「娘も一緒に死んだと、儂にそう言ったのはおぬしであろう!」

「そうだ」

「なぜ生きている」


可愛くて、可愛くて、愛しくて、誰よりも優しかった()()()が大好きだった。目に入れても痛くないほどに可愛がった。それが突然寿命とやらを迎え、失ってしまった。

誰よりも何よりも大切だったマリア=クローディア。その()()()とヴォルフガングの間に娘が生まれていた。レンブラントはその娘を今度こそ絶対に守り抜くと決めたが、ヴォルフガングから娘も()()()とともに亡くなったと告げられ、絶望の淵に突き落とされたレンブラントは、聖域の奥深くに身を沈め、そのまま深い、深い眠りへと落ちてしまった。

そして時が流れ、()()()の魔力を感じ目が覚めた。ヴォルフガングから()()()は亡くなったと告げられたのに、強大な魔力はマリア以外の何者でもなく、レンブラントはたばかれたと、大量の酒を煽り()()()を探すべく人間界へ飛んだ。

これが、レンブラントがアラステアに現れた真実。


「人間の娘を育てる方法など、知らぬであろう」


だから、死んだことにして人間に預けたとヴォルフガングが話す。()()()を溺愛しすぎていたレンブラントに、娘を奪われないようにしたまでだと、ヴォルフガングが正当理由を告げれば、レンブラントは握りこぶしをつくり、奥歯を噛む。

確かに人間の子供を育てる方法など知らぬ、自分が育てられるとも思えず、ヴォルフガングの選択は正しかったと認めざるを得ないが、それでも騙されたことに変わりはなく、レンブラントはヴォルフガングを憎悪の眼差しで睨みつける。


「儂だけ除け者だったのか」

「この事実を知る者は、俺様以外おらぬ」

「私もアリアちゃんが生きてるなんて、最近教えてもらったばかりよ」


ルーフェスは、長い眠りから目が覚めると、突然「暫く留守にする、何かあれば呼べ」と、いきなり聖域を出て行こうとしたヴォルフガングから事情を聞いたと話す。

つまり、本当に最近まで娘の存在は知らなかったと、正直に言えば、レンブラントはようやく怒りを静めた。自分だけ除け者にされたわけではないと分かったからだ。


「ヴォルフガングよ、儂が悪かった」


自分の非を認め、レンブラントが謝罪すれば、ヴォルフガングは「酒は禁止だ」と言い渡す。昔から酒癖が悪く、絡んだり、暴れたり、因縁もつけてくる、本当に手に負えないと、今後一滴たりとも口にするなと強く言い渡せば、レンブラントは眉を寄せ、ぐぬぬと唸ったが、このような事態を引き起こした事実を認め、酒は口にしないと誓った。

ようやく場が収まり、レンブラントがアリアに近づく。


「いくつになったのだ」


まるで孫に話しかけるように、優しい表情でそう問いかけられ、ヴォルフガングを横目に見れば、「答えてやれ」と視線で合図を送られる。


「もうすぐ19歳になります」

「おお、もうそんなに大きくなったのか。()()()に似てきたな」


お母さんに似てきたと言われ、なんだか恥ずかしいようですごく嬉しかった。先ほどまで暴れていたドラゴンとは思えないほど、穏やかな声。


「して、結婚はしておるのか?」


19歳にもなれば、結婚していてもおかしくない年だけど、私は婚約破棄してきたばかりだし、もちろん予定もなく、首を振ろうとしたのだけど、背後から大きな声が飛んできた。


「アリアの夫は俺だ」



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