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第22話 ドラゴンVSドラゴン

「自分で歩けます!」

「こうした方が早いだろう」


アシュレイは私の足の遅さを覚えていてくれたみたいで、抱きかかえて走った方が早いと言いながら、必死に何かを探すように駆ける。

確かに私の足じゃ、アシュレイについていくのは無理。王太子殿下にこんなことしてもらうのは絶対ダメだけど、一刻を争う事態で、私はアシュレイが運びやすいように抱きつく。


「アリア?」

「少しでも、運びやすい方がいいでしょう……」

「ああ、助かる」


何となく嬉しそうな顔を見たような気がしたけど、気のせいにしておこうと、私は落とされないように必死に抱きついた。

それからアシュレイは一軒の店に飛び込むと、まだ残っていた人たちにヴォルフガングから指示された内容と、王太子殿下の名を名乗り、深く頭を下げ協力を申し出た。






アラステア城は混乱を極め、前線では聖女である王妃クレアとセリーナが結界をかけ続けていた。

そして、その傍には第一師団長のティムと第二師団長のローレンが控えていた。


「クレア様、これ以上は危険です」


聖女と言えどもドラゴンを相手にするのは危険すぎると、ローレンが引くことを伝えるが、クレアは首を振り、


「私がここを退けば、アラステアが無くなります」


ドラゴンの侵入および、攻撃を受ければ国が滅ぶと、ここを動くわけにはいかないと断言する。

それはセリーナも同じで「わたくしもアラステアを守ります」と、結界に力を注ぐ。

その結界の向こう側では、ルーフェスが必死にドラゴンの動きを封じようと、押さえつける。


「目を覚ましなさいよッ」


暴れる金茶のドラゴンは、押さえつけるルーフェスをなぎ倒そうとさらに暴れ出し、鋭く伸びる爪でルーフェスの肌を抉り、尾で打撃まで与える。


「痛――ッ! いい加減にしなさいよぉぉ」

「ウォォォ――ッ!!」


怒ったルーフェスが右腕でドラゴンの顔を殴り飛ばし、大地に倒したが、金茶のドラゴンはすぐに起き上がるとその勢いでルーフェスに掴みかかった。


「若造がでしゃばるなッ」

「じじいは引っ込んでなさい!」

「皆で儂を騙しおって、許さぬ」

「騙すって、何を言っているの?」


金茶のドラゴンが何を言ったのか理解できず、一瞬怯んだルーフェスは凄まじい勢いで飛んできた尾に遅れを取り、胸に強烈な打撃を受けてしまい、「カハッ」と、体液を吐きだす。

息が詰まり、動きが鈍くなったルーフェスを横目に、金茶のドラゴンは再びアラステア領内に侵入すべく体当たりを開始する。

年寄りの癖になんて力だと、ルーフェスは顔を歪めながらも呼吸を整えるが、足元に巨大な影が見え、少しだけ安堵する。


「引け、レンブラント」


地を這うような低い声が頭上からした。声の主はヴォルフガング。

金茶のドラゴンはレンブラントと呼ばれ、空を見上げ、不機嫌なオーラを纏う。


「よくも儂を騙しおったな、ヴォルフガングよ」

「何の話だ?」

「白を切るか、まあよい。ここに居るのは分かっておるのだからな」


そう言うなり、レンブラントは結界に強烈なタックルをした。結界に亀裂が走る。


「う、っ、……これでは」

「クレア様っ、きゃぁっ」


持てる魔力を結界に注いでいたクレアとセリーナが、ドラゴンの圧に押され転倒する。


「クレア様!」

「セリーナ様!」


ローレンがクレアを支え、ティムがセリーナを抱き起す。

普段は見えない結界だが、ドラゴンが体当たりするたびに反射し、亀裂が入っていることが鮮明に視界に映り、ローレンは苦い表情を浮かべてヴォルフガングを見る。

その視線を感じたヴォルフガングは、このままでは結界が破られると判断し、ローレンに指示を出す。


「ローレンと言ったな、聖女を連れ、直ちに離れろ」

「しかしッ」

「アリアとアシュが来る。問題はない」

「アシュレイが?!」


思わず呼び捨てにしてしまったが、行方不明となっていたアシュレイが生きていると聞かされ、驚きと安堵が同時に溢れローレンは唇を噛み締める。

ヴォルフガングを追って森に入ったが、いつの間にかアシュレイの姿を見失い、あれからもう一か月も経過していた。アシュレイの部屋からは「王位を弟のヴァレンスに譲る」との置手紙まで発見され、城内はパニックになっていた。


「急げ、レンブラントは我が止める」


そう口にしたヴォルフガングは地上に降り、結界を突破しようとするレンブラントを押さえ込む。


「ぐぅうっっ、邪魔をするなッ、ヴォルフガング!」

「貴様、酒を飲んでおるな」


距離が縮まり、漂う独特の香りにレンブラントが酒を飲んでいることを把握したヴォルフガングは、厄介なことになったと、グッと力を込めて動きを制止する。



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