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第21話 金茶のドラゴン出現

ヴォルフガングから、先に行って食い止めろと言われたルーフェスだったが、物凄い剣幕でそれを拒否する。それを見たヴォルフガングは、一瞬睨みつけてはみたが、すぐにため息がでた。ルーフェスには荷が重すぎると思い直したからだ。


「すぐ追いつく、足止めでよい」


解決しろとは言わず、時間稼ぎでいいと言い直した。それを聞いてもルーフェスの表情は晴れない、むしろ、一人は嫌とさえ口にした。


「手が付けられないのは、知ってるでしょう」

「ああ、経験済みだな」

「ヴォルフちゃんだって手を焼くのに、私が何とか出来るとでも思っているの?」


絶対一人は嫌だとむくれたルーフェスに、ヴォルフガングは仕方ないと、大きく体を捻る。

そ、し、て、



バコ~~ンッッ!!



「ほんと、すぐ来なさいよぉぉ~!」


ルーフェスの声と巨体が空の彼方に飛んでいった。太くて長い尾でルーフェスをかっ飛ばしたのだ。

私とアシュレイは何がどうなったのかと、空に消えるルーフェスを目で追ったのだけど、それとほぼ同時にヴォルフガングも逆方向へと飛び去っていた。


「え、……っと、これってどういうことなのかしら?」

「俺たちは置いて行かれたのか?」


ドラゴン二匹が姿を消し、取り残された私たちは互いに顔を見合わせて、


「アラステアはどうなっているのよっ!」

「滅ぶとはどういうことなんだッ!」


と、届かなくなった叫びを同時に空に叫んでいた。

騒がしかった空間は虚しく静まり返ったが、それもすぐに破られ、ヴォルフガングが戻ってきた。


「アシュ、力を貸せ」

「俺に出来ることなら何でもする」

「ならば、アリアをこの女性に仕立てろ」


長い爪に挟んできた一枚の絵をアシュレイの頭上に落としたヴォルフガングは、意味不明な指示を出す。ヒラヒラと舞い落ちた絵は、ブロンドヘアーの素敵な女性の絵画だった。

どことなくアリアに似ており、アシュレイはつい見比べてしまう。


「この方は?」

「アリアの母、マリア=クローディアだ」


ヴォルフガングから名を言われ、私も絵を覗き込む。


「これが私のお母さん……」

「今は懐かしんでいる場合ではない、すぐに街へ運ぶ。姿、形を同一にして、我の元に娘を連れてまいれ」


同一髪形、同一ドレスを着せて連れてこいとの命を受け、アシュレイは眉を寄せる。この絵に描かれているドレスと同じものなどすぐに見つかるのかと、かなりの難題を押しつけられたことを知る。


「準備できねば、アラステアが滅ぶことになるやもしれぬぞ」


声の低さから、これは脅しではないとアシュレイは、「承知した」と、ヴォルフガングに返事を返す。


「二人ともよいか、何が起こっておっても、マリアになりきることを優先せよ」

「私がお母さんに?」

「それがアラステアを救う唯一の手段と心得よ。よいな」


そういうと、ヴォルフガングは背に乗るようにいい、私とアシュレイは覚悟を決めて鬣を掴む。


「行くぞ」


バサァと広げられた翼が上下に羽ばたけば、ヴォルフガングは空へと舞い上がった。






ドラゴンの姿のままでは街に置くことは難しいと、城下町の外で降ろしてくれることになったのだけど、アラステアの街は混乱が生じており、郊外へ逃げる人々で溢れかえっていた。

街の入り口では師団長や兵、警備兵、王様もが街の人たちの避難を誘導している。


「これは、一体……」


まるで街を捨てるように逃げる人々に、アシュレイが呆然と逃げ行く人々を見下ろす。


「アシュレイ王太子様、あれを」

「なんだアレは?!」


アラステア城の裏側に巨大な化け物の姿が見えたが、近づけばその正体に恐怖が起こる。


「まさか、ドラゴンなの?!」


城よりも巨大なその姿はドラゴンで間違いなく、金茶のドラゴンは結界に何度も体当たりを試みており、それをルーフェスが必死に食い止めようとしていた。

突如二体ものドラゴンが現れ、街が攻撃された。だから皆が逃げているのだと知ることは出来たが、金茶のドラゴンは一体どこから来たのか、なぜアラステアを攻撃しているのか? 状況が全然掴めないまま、私とアシュレイは郊外に降ろされる。


「あのドラゴンは何者なの?!」

「ヴォルフガング殿、どういうことなんだ」


地に降りた私とアシュレイが叫ぶが、ヴォルフガングはすぐに翼を広げると、


「急げ。奴は我が食い止める」


それだけ言い残して飛び去ってしまった。

結界が破壊されれば、街どころか、アラステア全土が壊滅してしまうと、アシュレイは私を抱き上げると突然走り出す。


(ふえっ、なんで抱き上げたの?!)



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