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第14話 王太子殿下捨ててきます

「ええっ? 何も無いの」

「聖女だったので、婚約しただけです」


でも偽者と分かったので、破棄したまでだと言えば、ルーフェスはどこかつまらなそうにアシュレイを見る。


「ふーん、そうなの」


納得していないような返事を返しながらも、ルーフェスはじっとアシュレイを見つめる。


(愛する人を追いかけて、危険な領域まで来たのかと思ったんだけど……)


「残念だわ」


心の声を少しだけ漏らしたルーフェスは、そっと眉間にシワを寄せ、死ぬかもしれないのに、そこまでしてここまでたどり着いた? しかもそれが『愛』じゃないなんて、どういうことなの?

と、アシュレイの意図がまったく分からないと、細く目を光らせた。


「ルーフェスさん、私も一緒に行きますから、アシュレイ王太子殿下を帰しましょう」


聖域の境界線まで行って、そこで治癒魔法を施せば、アシュレイは無事に人間界へ戻れると提案する。

今の状態のまま放置したら、本当に死んでしまうかもしれないと、せめて境界から外に出す前にと言えば、ルーフェスに優しく抱きしめられた。


「ああ、もうっ、なんて優しいのぉ」

「ちょっとルーフェスさん!」

「娘に触るなっ!」


抱きついてきたルーフェスを引き離そうとするヴォルフガングだったが、ルーフェスも離れない。


「捨ててこいなんて、酷いことをいう父親とは大違いだわ」

「災いの種を排除しろと言ったまでだ」

「ヴォルフちゃんに会いに来たのかもしれないのに、冷たいのよ!」


それに比べて、アリアは優しいと頬ずりまで。


(悪い人じゃないんだけど、スキンシップが少し、ね)


過度のスキンシップをとられ、私はちょっとだけ顔を引きつらせたまま、ルーフェスをそっと引き離す。


「早く行きましょう」


怪我が悪化しないうちに早くと急かせば、ルーフェスは渋々立ち上がり、アシュレイを担ぐ。

成人男性を軽々と担ぐあたりは、さすがにドラゴンというべきか、まるで軽い布団みたいに肩に乗せる。


「本当にいいの?」

「いいんです」

「すごいイケメンよ」


捨てちゃっていいの? と、ルーフェスが顔を覗き込んできたけど、これは決定事項であって、覆してはいけないと私は腹を決める。

きっとこれが最後。アシュレイを人間界へ戻したら、二度と会うことはないわと、最後にもう一度だけ顔を覗く。


(吸い込まれそうな瞳が見えないのが残念ね)


頬に付着した土を少しだけ手で払って、私はその綺麗な顔を眺める。出会いは不純だったけど、約束通り好きになる努力は実った。


(私なんかを好きになってくれて、ありがとうございます。私もお慕いしておりました)


そっと心でお礼と告白をして、私は顔をあげる。


「さあ、行きましょう。ルーフェスさん」

「勿体ないわね。ねえ、コレ私がもらってもいい?」

「え、ぇ?」

「だってぇ、私、家事できないのよ」


見て、この綺麗な手と差し出された手は、女性よりも綺麗な白い肌と、整えられた爪。水仕事なんかできないわと、ルーフェスがアシュレイを家政婦扱いしようとして、小さな炎が飛んできた。


「熱ッ、い、じゃない! 火傷したらどう責任取ってくれるのよ!」

「水龍が火傷などするかっ。……ったく、黙って捨ててこいッ」


くだらないことを言っていないで、さっさと行けとヴォルフガングに睨まれ、ルーフェスは「頑固おやじ」とボソリと吐きだして出て行った。


「ふっ、ふふ、……」

「アリア、何が可笑しい?」

「ルーフェスさんとお父さんって、いいコンビだと思っただけよ」

「なっ……」

「それじゃぁ、行ってきまぁ~す」


何か言い返される前に、私はルーフェスの後を追いかける。ドラゴンって怖いだけかと思ったけど、人の姿をしていれば人間と変わらないし、楽しそうと、ここでの暮らしも悪くないかな? と、私はドラゴンと一緒に生活できそうと、笑みが漏れた。






どのくらい歩いたか分からないし、どこら辺を歩いているかも分からないまま、ただひたすらにルーフェスの後ろを歩くけど、景色が変わっている気がしない。


「ルーフェスさん、どこまで歩けばいいの?」

「そうね、あと30キロくらいかしら?」


顎に指を添えて、あと少しよと笑ってくれたけど、


「30キロ?!」


途方もない距離に思わず大声が。


「アリアちゃんに合わせて歩いてるけど、疲れた?」


振り返ったルーフェスは、私に合わせて歩いていてくれたみたいで、少し時間がかかっているのよ。と、優しく言ってくれた。


「ええっと、ルーフェスさんの足ならどのくらいなんです?」

「10分くらいかしら?」

「10分?!」


嘘、それ本気で言ってる? と、私はまたまた大声を出してしまった。どう考えても1時間以上は歩いてるわよねって。

しかもルーフェスさんはアシュレイを担いだまま、涼しい顔で歩いていた。



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