表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/84

第10話 蒼髪の美しい人の正体

■■■

「えっと、ここって昨日の場所……、じゃないわよね、間違いなく」


テントから外に出たら、真っ白な花の咲く草原が広がり、底まで見える透明で綺麗すぎる湖が目の前にあって、背後には暗雲立ち込める山々が聳え立っていた。

昨日からあるものは、このテントだけ。


「……どこ?」


見回す限り、全然全く知らない土地で、しかも昨夜までいたはずのヴォルフガングまでいなくなっていて、私は嫌な汗をかきながら呆然と立ち尽くす。


「みぃ~いつけたぁ」


背後から少し甘い声がして振り返れば、透き通るような蒼い長い髪の人が、風のごとく猛ダッシュしてきた。


「キヤァァァァァァッ!」


変な人が突然抱きついてきて、私は思いっきり悲鳴をあげてしまった。

そうすれば、見慣れた顔が洞窟から出てきて、こちらも俊足で走ってくると、蒼髪の人の首根っこを捕まえて、軽々と湖に放り投げた。



バッシャンッ



水しぶきがあがり、蒼髪の人は湖に沈んでいく。


「大丈夫か、アリア」

「お、父さん?」

「まったく、油断も隙もないな」


そう言いながら私を抱きしめてくれたけど、湖に投げられた人は大丈夫なのかしらと、不安しかない。


「お父さんっ、死んじゃうわ」


盛大な水しぶきをあげて湖に沈んだ人が死んじゃうと、慌ててヴォルフガングを引き離そうとしたんだけど、


「酷いじゃない、ヴォルフちゃん」


湖の方角から声が聞こえ、自力で這い上がってこれたのかと、ちょっとだけ安心したけど、ヴォルフガングは私を隠すように前に立ちはだかる。


「……ぇ、?」


私を守るように前方の立つヴォルフガングの向こう側には、信じられない光景が。ついさっき投げ飛ばされたはずの蒼髪の人が、濡れた髪を掻きあげながら、あり得ない場所にいて、私は口をパクパクと動かしながら驚きで声が詰まる。

だって、水の上を歩いていたのよ!


「我が娘に触れるな」

「いいじゃない、減るものじゃないし」

「貴様に触れられたら、減る」


ヴォルフガングは、確実に何かが減ると言い切った。


「減らないわよ!」


人をばい菌みたいにと、ブツブツと文句を言いながら湖の上を歩く蒼髪の人は、陸に上がると、パチンと指を鳴らした。

そうすれば、濡れた髪も服も一瞬で乾く。一体どうなってるの? それにこの人は誰なの? 

ここはどこ? と、聞きたいことが大渋滞。


「挨拶くらいさせてよ」


ヴォルフガングの目の前まできた蒼髪の人は、少しむくれながらも私に挨拶がしたいと申し出る。


「触るなよ」


そう忠告して、ヴォルフガングは横に避けてくれた。


「もう、過保護なんだから」


触るくらいいいじゃないとさらに文句を呟きながらも、蒼髪の人は右手を胸に宛がい、綺麗な所作でゆっくりと礼をする。


「申し遅れました。私は蒼き竜のルーフェスと申します」


(蒼き竜って、この人もドラゴンなの?!)


ぽかんと開いた口が塞がらない。ヴォルフガングはイケメンだけど、ルーフェスは綺麗だと思った。たぶん、切れ長のサファイアの瞳と、麗しい長い髪、そして、細く長い指がそう見せるのだろうと思う。


「美しくて見惚れちゃった?」


じっと見つめていたら、ルーフェスがそんなことを尋ねてきた。透き通る髪も顔立ちも整っていて、美しいかと聞かれれば、そうだと答えられる容姿。

だけど、ヴォルフガングが私の腕を引き、とんでもない事実を教えてくれた。


「ルーフェスは男だ。勘違いするな」


(は? 男? この美しさで?)


完全に負けたわ。女として男に負けるなんて、私はガックリと肩を落として、自分の容姿に全然自信が持てなくなる。

そういえば、アシュレイも美形だったわね。なんて、思い出さなくてもいい事まで思いだす。


「それにしても本当、そっくりね」


まじまじと覗き込んできたルーフェスは、母であるマリアに顔が似ていると言う。


「当たり前だ」

「お父さんに似なくて良かったわね」

「どういう意味だ、ルーフェス」


にやにやとしながら、ルーフェスはヴォルフガングを挑発するように言えば、ムキになったヴォルフガングが詰め寄る。


「可愛いの要素なんて欠片もない、ヴォルフちゃんに似たら大変でしょう」


特に目元なんて可哀想よ、と、涙を拭く真似までする。


(た、確かに、お父さんみたいな鋭い目つきはちょっと遠慮したいわね)


「踏み潰すぞ」


最愛の娘が欠片も自分に似てないと言われ、ヴォルフガングはルーフェスを鋭い眼光で睨みつけるが、全然気にせずにルーフェスはなぜかにこやかに笑みまで浮かべる。


「このやり取り、久しぶりだわぁ~」

「相変わらず、気色の悪い趣味だ」

「そうかしら? もう何十年も眠っていたから、嬉しくない?」


ルーフェスは、ずっと眠っていて久しぶりに目を覚ましたら、ヴォルフガングがすぐにここを出て行ってしまったのよ、と、寂しそうに声を落とす。

久々に会話したかったのに、聖域に置いて行かれたと拗ねる。


「眠っていたって? ドラゴンってそんなに寝るの?!」


存在自体が架空だと思っていたから、生体が不明で、私は眠っていたと言う時間に驚く。もし本当にそんなに長く眠ってしまうなら、ヴォルフガングと顔を合わせられるのは、今だけになると、急に寂しくなる。

次に目覚めるときには、きっと私は寿命を迎えているだろうと。


「お寝坊さんだと、何百年も寝てるけど、起こせば起きるわよ」

「何百年?!」

「ルーフェス、お前は追加で100年ほど寝ていろ」


起きるのが早いと、ヴォルフガングはルーフェスに嫌味を言いつつ腕組をする。


「酷いわ、せっかくヴォルフちゃんの可愛い娘を口説くために起きたのにぃ」

「娘を口説くなッ」

「下界にこんな美しくて強い男はいないと思うけど」


サラっと髪を掻き、ルーフェスは私を嫁にしたいと冗談なのか、本気なのか分からない話をする。当然ヴォルフガングの髪がパチパチと火花を纏う。


「俺様を倒すと言うのだな」


メラメラと燃える髪とオーラが凄まじい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ