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第5話 婚約破棄された王太子と、DIYのできない二人

アリアがすぐに嘘をつくことは、自分がよく知っていると、さらに頭に血が上る。

とりあえず、第二師団長ローレンおよび第一師団長ティム=メイナードが、行方を追ってくれてはいるが、手がかりはないに等しい。


(ヴォルフガング殿がいながら、なぜ結婚を破棄された?)


自分で言うのもなんだが、ヴォルフガングはこの結婚に賛成していたし、俺ならアリアを任せられると言ってくれた。それなのに、結婚破棄を簡単に許したと言うのか?

腑に落ちない、腑に落ちない。そもそも本人不在時に勝手に出て行くなんて、納得などできるはずもない。


(やはり、抱いておけば良かったのか……)


そんな下衆な事まで頭を過るほど、アシュレイは苛立ちを隠せなくなっていた。


「申し訳ありませんッ」


そんな苛立ちの中、突如背後から女性の声がして、アシュレイは何者かと振り向く。そこには見たこともない可憐な女性が思いっきり頭を下げていた。


「君は……?」

「アシュレイ、紹介が遅れたが、我が国の正当聖女のセリーナ=カーディンだ」

「――は?」


怒り心頭で謁見の間に乗り込んできた迫力が凄まじくて、うっかり紹介が遅れてしまったと王が口にすれば、アシュレイはようやくアリアが出て行った理由を知ることになった。

ついでにヴォルフガングが反対しなかった理由も分かってしまった。


(本物の聖女が現れたから、身を引いたのか……)


馬鹿らしい!

アシュレイは本物も偽物もない、アリアがアリアであるからこそ愛したのだと、ぐっと拳に力が入る。


「アリアさんが出て行ってしまったのは、わたくしのせいです!」

「そうだろうな」


やけに冷静に嫌味が出てきた。


「本当に申し訳ありません」


まさかアシュレイ王太子殿下がこんなにお怒りになるなんて思わなくてと、セリーナは心から謝罪する。

昔、会話したときの面影がまるでなくなり、セリーナの方が焦ってしまう。アリアさんは政略結婚みたいなものだと言っていたけど、どうみても違うと察してしまい、「アリアさぁ~ん」と心で叫んでいた。


「アシュレイ、セリーナさんは聖女なのですよ」


ヴォルフガングも認めた正真正銘のアラステア国の聖女なのだと、クレアに言われても、アシュレイの腹の虫は全くもって治まらない。

だからこそ、つい冷たく接してしまう。


「俺にセリーナと結婚しろと強要するのですか?」

「それは……」

「母上がそうおっしゃるなら、従いましょう。ただし、俺は彼女を愛することはない」


あまりにも腹が立って、はっきりと言葉にしてしまった。

それを聞いたセリーナは、顔を強張らせて硬直する。やはりアシュレイ王太子殿下は、アリアのことを愛していたのだと、分かってしまったから。


「……わたくしは」

「アリアを探す」


佇むセリーナの横を通り過ぎるアシュレイは、セリーナを見ることなく、そう言葉を発して謁見の間を出て行った。

普段なら女性に優しくできたかもしれないが、アリアが消えた。それだけがどうしても許せなかった。






■■■

追われるのが嫌で、私はアラステア国より頂いた土地を売り、さらに遠くへと足を伸ばした。

誰にも見つけてほしくなくて……


「空気もいいし、湖が近いのもいいわ」


と、最高のロケーションの土地を購入した私は、後ろを振り返らずに、壮大な景色を満喫する。

場所は文句なしの山奥、空気も綺麗、目の前には澄んだ湖、そして青い空が広がっていた。


「確かに静かで良い場所だ」

「そうでしょう! 湖で水浴びもできるわ」

「だが、アレに住むのか?」


ヴォルフガングは、チラリと視線を動かして私に問う。

そう、問題は家。

このあたりは昔、木こりが仕事をしていた場所だといわれ、仮住まいをしていた家が2、3軒並んでいるのだが、木材で作られた家は、長い年月放置されており、とても住める状態ではなかったのだ。


「だ、大丈夫よ。時間はたっぷりあるんだから、少しずつ改修していけばいいのよ」


隠居生活を望んだのだから、目立たないように、ひっそり暮らしたい。それに、二人暮らしならなんとかなるでしょうと、「任せて」と胸を張ったけど、ヴォルフガングからは冷たい視線が。


「大工の知識はないぞ」

「は、はは……。私もないけど、なんとかなるわよ」

「我が娘のためだ、俺様も頑張るしかあるまい」


ここで二人で暮らす。そう決めたからには、ヴォルフガングも協力すると言ってくれた。

魔物最強のドラゴンと、魔力最強の親子なら、きっとなんでもできるわと、私はひとまずテントを張る。

寝るところは確保しないと、ね。


「俺様は外で寝る」


苦労してテントを立てたら、ヴォルフガングに拒否された。

何か遠慮してるのかと思って、


「親子なんだから一緒に寝ても大丈夫よ」


私は全然気にしないと、口にすれば、真面目な顔で辺りを見回していた。


「結界により、魔物が侵入してくることはないが、野生生物が襲ってこないことはない」

「あ、忘れてた……」

「熊や狼、野犬などはいる。山奥はそういった危険があるのだぞ」


隠居生活はいいが、人里離れた場所には、そういった危険があるとヴォルフガングに言われ、私は少し考えが甘かったことを知る。

いくら魔力が高くても、寝てるときに襲われたら死ぬわね、確実に。と、寒気までする。

だから、ヴォルフガングはテントの外で寝起きをすると言ってくれた。つまり、見張りをしてくれるということ。


「でもそれじゃあ、お父さんが寝れないじゃない」


毎晩見張りなんかしてたら、ゆっくり休めないと言えば、ヴォルフガングはニヤリと口角を上げて、「俺様を誰と思っておる」と、豪快に笑われた。

そして、夜を迎えた頃、あの自信の意味が分かることに。


「……信じられない」



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